第4部では、設備資金の中でも中小企業にも身近である生産型設備資金、販売力拡充設備資金について解説してもらいました。
しかし、設備資金の分類はこのほかにもあり、経営合理化を進めるための合理化投資資金、設備の更新を行うための設備更新投資資金があります。
これらの設備資金も重要です。
安定を欠くことが多い中小企業においては、経営の合理化によって効率を上げることが求められますし、設備の更新はどの会社にとっても必要なことだからです。
本稿で、これらについても銀行員目線の考え方を学んでいきましょう。
合理化投資資金
―――次に合理化投資資金ですが、これは経営合理化のための投資資金でしょうか。
元銀行員:そうです。
―――合理化と言っても色々あると思いますが。
―――それだと、生産型設備との区別はどうなりますか?
元銀行員:生産型設備では、例えば機械を導入して生産力を上げるわけですが、これも生産の能率を上げていると言えます。
すると、合理化投資とごっちゃになりますよね。
だから、特に合理化投資と表現するときには、合理化によってコスト削減を目指すための投資だと考えるのが良いでしょう。
分かりやすいのが省エネ投資です。
コストを削減すれば、経費が小さくなって利益が増えますね。
本業で売上を伸ばして利益を増やすための投資ではなくて、コスト削減によって利益を増やすというのが、合理化投資の分かりやすい特徴です。
―――そう考えると、生産型や販売力拡充の投資とは明らかに違いますね。この違いによって、銀行員の見方はどう変わりますか?
元銀行員:まず、さっきも言った通り、合理化投資はコスト削減で利益増加を図ります。これが目的です。
生産型投資や販売力拡充投資は、生産高や販売高を増やして、売上と利益を伸ばしていきますね。
このように目的が大きく違います。
売上を伸ばして利益を得ることが目的なら、そうやって得られた利益から返済してもらうことになります。
しかし、合理化投資ではコスト削減によって利益を得ますから、売上増加による利益は一切考えず、コスト削減による利益を返済原資と考えます。
これまで100万円の売上に対して80万円のコストがかかっていたなら、利益は20万円ですね。
合理化投資の結果、コストを10万円削減したとすれば、利益は増えて30万円になります。
この30万円で返済できるかどうかという判断になります。
これは、他の設備投資とは大きく見方が違うところですね。
―――ずいぶん違うと思います。逆に、似ているところはありますか?
元銀行員:返済方式は似ています。合理化投資資金も長期分割返済になります。
合理化投資では、合理化のために設備投資をすることになりますから、返済期間は設備の耐用年数に準ずる形です。
コスト削減効果でもって、設備の耐用年数を期限に返済していくわけですから、ここが課題になることが多いですね。
―――どのような課題になるのでしょうか。
元銀行員:そもそも、合理化投資を行う会社というのは、経営がうまくいっていないことが多いんですよ。
現状の設備で文句なしに儲かって、業績も順調だというなら、すぐに合理化しようとは思いませんよね。
儲かって儲かって仕方なくて、お金も潤沢だというなら、お金のあるうちに敢えて合理化に踏み切ることもあるでしょうが、そういう会社は少ないですから、普通は合理化投資を考えません。
合理化投資を考えるのは、合理化しないとどうしようもない会社ということが多いんですよ。
売上が順調じゃないからコストをどうにか削減して利益を確保したいとか、売上は順調でもコスト負担が重くて利益を圧迫しているとか。
そういう会社が、経営改善のために早急にコスト削減をしなければいけない、というような流れで合理化投資に至ることが多いわけです。
すると、もともと経営が順調ではない会社が合理化投資資金を貸してくれと言ってくることになります。
そんな会社だけに、コストの削減余地が大きいこともあって、計画がしっかりしていれば融資できることもあります。
しかし、銀行員は慎重になりますね。
だって、会社の状態が良くないんですから、合理化で削減できた部分で返済できなかったとすれば、そこ以外から回収することが困難という可能性が高いんです。
でも銀行には返済する必要がありますから、もともと乏しかった手元資金や利益から返済に回すことになりますね。
すると、悪かった業績がもっと悪くなって、もうどうにもならないところまで行ってしまうこともあります。
こんな危険があるのが合理化投資資金です。
問題を抱えた会社への融資というのが前提になるわけです。
社長もよく知ってると思いますけど、銀行は赤字の会社には貸しませんよね。返済に回す利益がないからです。
債務超過の会社にも貸しませんし、信用になにか問題がある会社にも貸しませんね。
とにかく貸し倒れを嫌うから、問題のある会社には貸さないというのが基本的な考え方です。
ですから、合理化投資資金を貸してほしいと言われた時、そもそも貸したくないというのがスタートラインになることが多いんですね。
危ないと思えば貸しませんし、そう判断したほうがいいと思えることが多いです。
それでも融資すると判断するとなると、失敗したときのリスクは大きいです。
業績も財務内容も素晴らしくいい会社なら、誰が審査しても融資してもいいと考える案件ですから、万が一貸し倒れてもそれほど責任は重くありません。
しかし、合理化投資資金は最初から問題が分かっていて、審査する人によっては融資を危ぶむことも多い案件ですから、貸し倒れになれば銀行員の責任は重いですよね。
合理化投資資金を考える時、銀行員はここに神経質になりますし、判断が難しいところだと思いますね。
―――その難しい判断をするにあたって、やはり重要なのは投資計画でしょうか。
元銀行員:もちろんそうです。投資資金の案件は全て、投資計画が判断のよりどころになります。
経営改善に迫られての合理化投資を計画しているなら、経営悪化の根本的な問題を解決する必要があるわけで、合理化投資がその方法として最適かどうかを考えます。
投資計画によって、合理化投資が最適だというところを見せてもらわなければいけません。
合理化投資が経営改善の最適な方法であったとして、投資のやり方がどうであるか、計画から読み取るのもポイントになります。
経営状態が悪い会社が取り組むんですから、いくら合理化投資で打開を図るといっても、投資規模が大きすぎるのは問題ですよね。
私が上司から教えられたのは、病人の治療のように考えろということでした。
体力のない病人にいきなり強力な施術をすると悪影響になることもありますから、体力を回復するために比較的ナチュラルな施術をやって、徐々に回復させていきますよね。
それと同じで、合理化投資の効果が見込めるにしても、いきなり大きく投資して立て直しを図るのはよくありませんし、銀行のリスクも高くなるばっかりです。
できるだけ小さい合理化投資をやって、最大の効果が期待できることが大切です。
―――投資計画を作成するときも、その点を押さえると良い計画になりそうですね。
元銀行:そうですね。
会社の投資計画で駄目なのは、「これくらい投資すれば計画はこうなって、立て直しができそうです」というように、過大な投資を検討しているパターンです。
そうではなくて、「これくらいの小さい投資でこれくらい大きな効果を計画しています。費用対効果の大きくなるようにやっていきます」という計画が好ましいですね。
ほかによくある駄目なパターンが、全体的な合理化につながらない計画です。
狭い部分に対して合理化投資を計画していて、確かにその範囲ではコスト削減もできるんですが、全体で見れば非効率になっているようなパターンですね。
生産工程の場合なんか、特にそうですよ。
一部の工程を合理化して、コストも削減できたところで、他の工程と能力差ができてしまいますよね。
他の工程も含めて全体的に合理化しないと、一部分だけ合理化しても意味がないですし、投資するだけ無駄です。
同じように、人員削減の影響も計画にしっかり織り込んでほしいですね。
例えば機械を導入して、人の手でやっていたことを機械に任せて、いらなくなった人員は解雇したり、勤務時間を減らしたりしてコスト削減につなげるという合理化がありますね。
人件費はコストのなかでも負担が大きいですから、このような合理化は短期間で得られる効果も大きいです。
しかし、人員削減によってコストダウンになったとしても、それが経営にとって長期的にマイナスになることもあります。
人員削減といえばコスト削減効果があってよさそうに聞こえますけど、人材の流出とか、退職金の発生とか、組合との折衝とか、悪い方にも言い換えることができますね。
ほかにも、人員を削減することで、ある部分ではコスト削減につながったとしても、またある部分では人手不足になることもありえます。
コスト削減だけを考えて人員を削減したら、その後の事業計画が崩れたというようなこともありますから、人員削減は慎重にやるべきです。

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―――投資計画から、小さな投資で大きな効果を得るというところは理解できそうですが、人員削減の結果どうなるかということは、どのように見極めていくのですか?
元銀行員:合理化投資をしたことで、コストがこれくらい削減されて、合理化投資資金の返済も問題ありませんという計画が大前提です。
その中で、小さな投資で大きな効果を図る計画かどうかも分かります。
それと同時に、人員削減も計画にしっかり織り込んでいるかどうかを見ていくわけですね。
会社の労働生産性は、労働によって得られる成果を、労働量で割ることで算出します。
(労働生産性=労働の成果÷労働量)
投資計画がしっかりしたものであれば、この観点も含まれているはずです。合理化投資によって人員を削減すれば、労働量は減ることになります。
その影響を合理化投資で補うからこそ、労働によって得られる成果は高まります。
分母は大きくなって分子は小さくなる、つまり労働生産性が向上するんです。
投資計画を見て、労働生産性を考えていないなら、良い計画とは言えませんね。
「合理化投資した結果、人員を削減することで、これくらいのコスト削減を見込んでいます。しかし労働生産性はアップしていますから、人員削減のデメリットもカバーできます」というのが良い計画です。
その計画なら、合理化投資によって人員を削減しても問題にはなりません。銀行員はここまで考えていることを知っておくといいと思います。
といっても、経営改善のために人員を削減しようとしている会社で、ここまで考えていないとすれば、そんな計画はザルですから、融資は受けられませんし、融資を受けたところで失敗するでしょう。
リストラに失敗する会社と成功する会社でも、こういう細かさがあるかどうかがかなり影響してると思いますね。
―――無計画に人員削減は却って経営が悪化させますからね。銀行員もそこをきちんと見ているんですね。
以上のことを踏まえて、具体的にどれくらいの効果が見込めれば好ましいというような基準はありますか?
元銀行員:これは単純に、投資コストに見合うだけのコスト削減効果が見込めるなら好ましいと、という考え方になるでしょうね。
合理化投資で得られる効果といえば、人員削減によって人件費が低くなる、工程が合理化されて製造コストが低くなるというのが代表的な効果ですよね。
これに対して、合理化投資をすることで減価償却、借入金利、固定資産税などの税金、人員削減による退職金などの投資コストが発生します。
この二つを比較した時、耐用年数の期間中に得られる投資効果の合計が、同じ期間の投資コストよりも大きければ、投資効果はあると考えて良いでしょう。
―――投資コストを上回る投資効果があると同時に、問題なく返済できるだけの投資効果も必要ですね?
元銀行員:それは当然です。返済については、合理化投資後の税引き後利益と減価償却費が財源となりますから、それが年間の返済額よりも大きいことが絶対です。
銀行員が気を付けるのは、ここで言う返済のための財源を考える時、絶対に売上増加は見込まないということです。
売上増加を見込む投資は生産型設備投資になりますよね。そうではなくて、あくまでも合理化設備投資ですから、売上はそのままにコストが削減されて、利益も増えることがポイントです。
ですから、返済原資を考える時には、合理化投資前に確保できていた利益に、コスト削減効果を加えたものと返済原資と考えます。
他には、銀行員は金融庁の方針にも気を配りますね。金融庁の方針では、経営再建を図る会社にできるだけ寛大な措置を取ることを、銀行に求めています。
ですから、経営状態が良くない会社でも、融資することで中長期的に経費削減効果が見込めたり、新たな収益機会が得られたりして、それによって業務や財務が改善されて返済能力が出てくるなら、積極的に融資しなさいという方針があるんです。
これは、リスケ中の会社に対してもそうするように努力しなさい、ってハッキリ書かれてますからね。
合理化投資資金の融資を申し込まれて、その会社があまり良く無い状況だったとしても、投資計画がしっかりしていれば融資する理由は、こういうところにもあります。
―――金融庁の方針も影響していることを考えると、計画次第で融資の引き出しは充分に可能と言えそうですね。
元銀行員:これまで話した通り、会社の状況があまり良くない状態で合理化投資を考えるわけですから、銀行としては慎重になるべきですし、難しい案件だとは思います。
しかし、金融庁の方針もありますし、計画さえしっかりしていて、銀行員が納得できるなら融資は可能になりますね。基本的にハードルは高いものの、融資できないわけではないという感じです。
―――融資の確実性を高めるために、投資計画以外で有効なものはありますか?
元銀行員:投資計画の確実性が一番で、計画に問題があるのに、その他をきっかけに判断が覆るということはありませんよ。
しいて言うならば、投資計画の確実性を裏付ける意味でも、融資希望額の根拠はあった方がいいでしょうね。
これは、他の設備投資と同じですね。見積書や工事請負契約書の写しで証明するのが良いでしょう。
自己資金があるなら、自己資金の投入額を増やすことで融資希望額を低くすれば、融資へのハードルが下がる可能性もありますね。
あとは、販売力拡充設備投資と同じように、合理化に長期の工事が必要で、工事代金が分割払いになるような場合には、融資実行も分割になります。
この理由については、既にお話しした通りです(第4部の販売力拡充設備投資のくだりにて)。
担保も必要です。長期融資になりますし、合理化の効果も確定したわけではなく、不確定要素が多いですからね。それに、そもそもの経営状態があまり良くないのですから、担保は原則必要です。
―――経営の立て直しを進めるにあたって、合理化投資を考える会社は多いと思うのですが、状態が良くないだけに融資交渉に消極的になることもあると思います。そんな会社でも、融資を受けられる可能性があるとわかってよかったです。
しっかり投資計画を立ててください。それによって返済ができて、経営も健全なものになっていけば融資は出ますし、銀行は長く付き合っていきたいと考えるものですしね。
悪い経営状況を断ち切るためと考えて、投資計画を練ってみるといいと思います。

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設備更新投資資金
―――いよいよ最後となりますが、設備更新投資資金についてお願いします。
元銀行員:これは名前の通り、設備を更新するための資金ですね。設備は老朽化するものですから、店舗が老朽化して集客力が落ちたり、機械が老朽化して生産性が落ちたりすることがありますよね。
そんなときに必要となる資金です。
―――他の設備資金との違いはどこですか?
元銀行員:これも顕著な違いがありますね。
生産型設備投資は生産性を高めるため、販売力拡充設備投資は販売力を高めるため、合理化投資は合理化のため、そして設備更新投資はあくまで古いものを新しくすることで、本来持っていた能力を回復させるためのものです。
もちろん、せっかく設備を更新するのですから、それに伴って能力が増強されることもあります。
2010年に導入した機械が老朽化したとき、更新によって能力を回復させるといっても、2010年のものを再度購入するのではなくて、2018年の最新設備を導入したほうがいいこともありますよね。
このように、技術革新のタイミングで設備を更新すれば、結果的に能力が高まることもあります。
しかし、本来は能力を増強することが目的ではありませんから、他の設備投資とは区別して考えるんです。
それによって得られる付加価値は別として、本来の目的がどこにあるかによって資金使途を考えるわけです。
しかし、本来は能力増強を目的としていなかったとしても、結果的に能力増強につながるならば、そうなるに越したことはありませんよね。
ですから、更新のタイミングを見計らうことは重要だと思いますよ。
「更新すべきタイミングになったからすぐに更新する」というのではなくて、「更新すべきタイミングになったけど、今は市況の変化が激しいから焦って更新すべきではない」などと考えて、リースを利用して更新を先延ばしにする、という考え方もできるわけです。
そのほうが資金繰り的にも好ましいならそうすべきですよね。
ですから、設備更新投資については、「能力増強は本来の目的ではない、しかし結果的に能力増強につなげたほうがいい、そのためにタイミングを見計らうことが大切」というのが大きな特徴だと言えますね。
投資計画にも反映してほしいところです。
―――しかし、そのようなタイミングの判断は難しそうですね。
元銀行員:難しいでしょうね。融資を受けて設備を更新したら、その直後に競合他社が新商品を売り出して、更新した設備が思うように稼働しない、というようなことも実際にありますからね。
しかし、ずっと先延ばしにできるものでもありません。
事業に必要な設備を更新するのですから、必要不可欠な投資だと言えます。
生産力を高めたいから新しい機械を買う、販売力を高めたいから新規店舗を出すというなら、事業の維持に必要不可欠というものではありませんよね。
しかし、設備更新は必要不可欠なんです。
他の設備投資を検討するとき、銀行員は「その投資は本当に必要か?」という視点で考えると言いましたよね。
でも、設備更新投資は間違いなく必要です。ですから、「本当に必要かどうか」ではなくて、「必要だろうけれども、本当に今がそのタイミングか」という考え方をします。
しかし、これがまた難しいんです。難しいことを前提として、100点のタイミングを目指すのではなく、少なくとも及第点のタイミングを目指すことが大切です。
どういうことかというと、タイミングの判断で銀行員が考えるのは、最適なタイミングではないんです。
最適なタイミングはどこかを見定めるのは、会社も銀行員も難しいんですから、「少なくとも間違ったタイミングではないか」と考えるわけです。これがとっかかりになりますね。
―――どのような計画ならば、間違ったタイミングと言えるでしょうか。
元銀行員:間違ったタイミングは、言い換えるとおかしなタイミングでの更新とも言えますね。
ですから、おかしいところがないかを真っ先に見ます。
例えば、既存設備の状況を見た時、まだ法定耐用年数を消化しないうちから更新しようとしているならば、不自然なタイミングと言えますね。
もちろん、不自然ではあるけれども、会社としては更新すべきなのかもしれません。
まだ耐用年数には達していないものの、目覚ましく技術革新が起こったことで、その設備では競争できないということがあり得ますね。
あとは、耐用年数に達していないけれども故障が多くて困っているということもあるかもしれません。
故障が多くて使い物にならないというなら、法定耐用年数からみて短いサイクルでも、更新せざるを得ないかもしれません。
しかし、技術革新に対応するための更新ならば、少し立ち停まって考えるべきでしょう。
新型機械の導入を考えているとしても、技術革新が早い業界ならば、今投資すべきではないのかもしれません。
更なる最新鋭機械の開発がかなり進んでいるというようなニュースがあるなど、ある程度予測ができる状況ならば、更新投資を先送りにしてリースを考えたほうがいいでしょう。
リースをした方がいい状況であるならば、多額の借入をして設備を更新するよりも有利になることも多いです。
融資を受ける際には融資手数料がかかりますし、保証協会を使うなら保証料も必要となります。
融資額が大きければ初期負担もバカになりませんから、それよりもリースの方が有利なこともあります。
このように検証を進めていくわけですが、これは結局のところ、「今のタイミングで設備更新をすると、投資効果はこのようになる、だからタイミングはどうだ」と考えていくとも言えます。
―――おかしいタイミングだと思うならば、おっしゃるように考えを進めていくこともできそうですが、特におかしいタイミングでなければどのように考えるのでしょうか。
元銀行員:それは複雑ですから、銀行員に正確な判断を任せることも難しいですよね。
ですから、タイミングの判断については、実はいくつかのパターンがあって、それに当てはめて考えていくんです。
設備を更新しても特におかしくないタイミングはいくつか考えられますが、まず耐用年数に満たないタイミングでも、その設備を導入するための借入金をすでに完済しているなら更新を考えても自然ですよね。
この場合、前倒しで更新する分だけ固定資産除却損が発生するデメリットはありますが、キャッシュフローへの影響は金利負担分くらいで済みます。
ですから、金利をカバーできるなら投資効果には問題なし、タイミングも問題なしと言えるでしょう。
次に、耐用年数を迎えて更新する場合で、借入金も同時に返済が終わる場合ですが、これも至極まともなタイミングです。
しかしこの場合、金利負担だけではなくて減価償却、租税公課といった負担が発生します。
既存のキャッシュフローでこの負担を吸収できるなら、投資効果もタイミング的にも問題なしです。
一番気を付けたいのが、法定耐用年数を過ぎて更新しようとしていて、借入金が残っている時です。
耐用年数を過ぎていますから、更新のタイミングとしては普通なんですが、借入金が残っているのが問題です。
この状態で融資を受けて更新すれば、金利負担、租税公課、減価償却といった負担の他に、既存の借入金の返済もプラスされることになりますね。
これを吸収できるほどの投資効果があればいいんですが、そもそも以前の借入金も耐用年数に応じて返済期間を決めていたはずで、それを順調に返済できていないのですから、既存のキャッシュフローに問題ありということですよね。
となると、設備を更新しても、却って資金繰りを圧迫して返済が厳しくなる可能性も高いんです。この場合は、融資は難しいでしょう。
銀行員は、こんな風にパターンで考えているんですよ。
もちろん、社長からは現状や見通しについてしっかり説明してもらいます。その説明も踏まえて、更新のタイミングにおかしなところがない、投資効果も見込めそうだというなら、投資計画や返済計画の検証に進んでよいでしょう。
―――投資計画については、どこがポイントとなりますか?
元銀行員:投資計画の考え方は、これまでの解説と基本的には似たようなものです。
社長からの説明も含めて、投資計画が十分に考えた上で作られており、利益が得られて、返済にも問題がないことを信じられる計画になっていることが大切です。
細かいことを言うなら、設備更新をする時、更新完了までに時間がかかることがあります。
老朽化した店舗の更新なら、そのための工事に時間がかかります。そうなると、売上は一時的に低下しますよね。
それについてもしっかり計画に盛り込んでいるか、資金繰りに見落としはないかといったことも要チェックです。
他には、設備更新によって新型の機械を取り入れたりすると、生産能力が高まって売上が増えることがありますね。
どちらかというと売上が増えるのではなくて、合理化につながってコストが削減されるということが多いんですけど、売上増加につながることもあります。
実際にそうであったとしても、投資計画にはそれをできるだけ盛り込まないのが普通ですね。盛
り込んだ方がより正確になるんじゃないかと思うかもしれませんけど、更新投資の本来の目的に即して、投資効果を計画に織り込まないようにします。
もちろん、更新によって設備がグレードアップすれば、売上が増えるのは事実ですし、売上が増えれば増加運転資金も必要になるのですから、無視できない要素です。
しかし、更新投資と混同して考えるのではなく、あくまでも別々に考えます。更新投資は更新投資として投資計画を検討して、売上増加による資金需要や合理化効果の影響はそれとして検討するということです。
―――返済計画はどのように見ていきますか?
元銀行員:投資効果とタイミングに問題がなくて、投資計画も良くできているというなら、返済計画にも問題ないことが多いでしょう。
設備更新投資だけの見方があるとすれば、これも繰り返しになりますが、本来は能力増強を見込まないということです。
実際にその効果があったとしても、収益効果を把握するのは困難ですから。
設備更新投資をしたときの収益効果は見込まずに、更新によって既存の水準で利益が得られた場合に、それによって返済ができるかが重要です。
気を付けたいのは、固定費の増加分を利益から差し引いたうえで、返済ができるかどうかを考えることです。
もちろん、他の設備投資でも固定費負担は増えますよ。
でも、生産型設備投資や販売力拡充設備投資では、売上と利益のアップが目的ですから、固定費の増加分は
それほど問題にならないんです。
しかし、設備更新投資は売上のアップを見込まないのですから、当然固定費負担のインパクトは大きくなりますよね。
ですから、返済力を見積もる際には、固定費増加分もきちんと考慮する必要があるわけです。
―――他には、調達額は見積書などで裏付けを取る、分割払いの設備更新ならば融資実行も分割で行う、あとは原則的に担保を取るといった感じでしょうか。
その通りです。そこは他の設備資金と同じですね。

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資金使途のまとめ
―――資金使途について、かなり詳しく教えていただき、ありがとうございました。最後に、資金使途全般について、銀行員目線で要点をまとめてみたいと思います。
まず融資案件を考える時、資金使途はその第一歩と言えますね?
元銀行員:そうです。なぜお金が必要なのかを正確に知ることが第一歩でしょう。
―――なぜそれほど重要なのかというと、資金使途によって融資の全体像が分かるから、といったことでしょうか。
元銀行員:そうですね。お金の使い道が分かれば、どうやって返済していくのかも分かりますし、返済期間や返済条件も自然と決まります。
―――実際の判断では、計画ありきですね。
元銀行員:運転資金にしろ、設備資金にしろ計画が大切です。
しっかり計画を立てていてもうまくいかないことがあるのに、計画がずさんでうまくいくことはないんです。
できるだけ正確な根拠によって計画を立てていくことが大切です。
―――資金使途の中でも、運転資金が特に重要とのことでした。
元銀行員:銀行員の教育でも、運転資金を基本に学んでいきますからね。取り組みやすくて、奥も深いです。
運転資金で融資の勉強を始めて、運転資金を全部理解できれば融資の勉強は一先ず修了という感じです。
設備資金についても詳しく話しましたが、銀行員目線を学ぶなら、運転資金をよく勉強するのが良いと思います。
それから設備資金を学ぶと、スーッと頭に入ってくると思います。

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まとめ
第5部では、合理化と設備更新のための投資資金について、銀行員目線を学んできました。
合理化投資ではコスト削減が目的であり、設備更新投資では設備更新によって従来の能力への回復が目的となります。
合理化や設備更新によって、実際に売上などの増加につながったとしても、それを考慮せずに純粋な目的から計画を立てることが大切です。
これは、銀行員目線で考えてこそ見えてくるところだと思います。
今回で、資金使途についての元銀行員へのインタビューは終わりとなります。また機会があれば、資金使途以外にもインタビューをして、お伝えしていきたいと思います。
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