歴史上、初めて債権者に対してリスケジュールを申し込み、それによって財政再建を成功させたケースは江戸時代末期に見られます。
その内容を見てみると、リスケの効果の大きさを実感することができます。
しかし、それでも経営改善計画通りに事が運ばず、リスケ期間後に返済を再開できない場合もあります。
この時、会社はどのように対処していけばよいのでしょうか。
日本初のリスケは?
経営が行き詰まり、銀行への返済の負担が重石となっている場合には、銀行にリスケジュールを依頼して立て直しを図るのがセオリーです。
銀行への返済を1年間ほどストップさせ、金利のみの支払いとし、その間に経営立て直しを図るのです。
負債を一時的に棚上げし、その間に会社の財務体質を正常なものに立て直します。
きちんと利益を出せる状態へともっていき、その利益で返済を再開するという方法です。
この方法は、再建策のひとつのパターンとして定着しています。
この方法を日本で初めて実施したのは、幕末の備中松山藩の学者である山田方谷という偉人です。

当時、松山藩の石高は表面では5万石ですが、実際の石高は2万石弱に過ぎず、藩士への給料を支払った手残りを現金化すると1万9000両になります。
これが、松山藩の毎年の収入でした。
しかし、江戸幕府は大名が財力を高めて幕府に歯向かう力を持つことを警戒し、大名に対して幕府領内の工事を強制したり、参勤交代をさせたりしていたため、大名たちは莫大な費用を支払う必要がありました。
松山藩でも、江戸藩邸の維持管理費に1万4000両、その他の必要な費用に4000両と、毎年のように計1万8000両が必要であり、その他の雑費をあわせると、毎年の収入は全て消しとんでしまう状態でした。
つまり、元金はもとより利子分の支払いもできず、毎年9000両の利子が加算されていき、どうにも手の下しようがない状況となっていたのです。

大阪に出向いた山田方谷は、銀主(金貸し)たちを一同に呼び集め、藩の状況を詳しく説明し、元金返済が今の状況ではとても不可能であることを伝えました。
銀主一人ひとりに対して作成した返済計画も手渡し、その上で負債の一時棚上げを要請しました。
現代でもリスケを希望する会社が、全ての銀行に対して一斉にリスケの依頼を出しますが、山田方谷もそれをやったわけです。
今のままでは元金を絶対に返済できない状況であることを打ち明けられ、大阪商人たちはびっくりしたわけですが、返済計画が実現性の高いものであると商人から見ても感じられたため、大阪商人たちはリスケを受け入れることとしました。
現代でも、銀行を納得させられる再建計画を、数字を用いて納得させることでリスケを勝ち取りますが、昔も今もその点で変わりません。
その後、山田方谷のこれと思うタイミングで米を売り払って利益を上げること、徹底的なリストラと倹約令、鉄産業の振興、藩の特産品の奨励などによって、10万両の借財がわずか8年で10万両の蓄財に変わったと言われます。
同じく財政再建でよく知られる上杉鷹山の場合、1767年に家督を継いでからというもの、20万両の負債をかかえた藩の改革に邁進したものの、本人の存命中には財政改革は成就せず、完済の上5000両の準備金が蓄えられたのは1867年のことでした。
実に約100年を要していることを考えると、山田方谷が財政再建の最初にリスケ要請に踏み切ったことの効果を実感せずにはいられません。
史上もっとも偉大な財政再建は、リスケによって始まったのです。

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リスケ契約後の経営再建の進め方
上記のように、一時的に元金返済を棚上げするリスケは、経営再建の特効薬になり得るものです。
しかし、リスケ契約後にどのように経営改善を進めていくかを知らなければ、せっかくリスケを認められても経営再建に失敗する可能性もあります。
日繰り表と月繰り表の作成
経営再建を進めるうえで必ず必要となるのが、お金の流れを細かく把握することです。
山田方谷の財政再建においても、藩のお金がどのように流れているかを詳細に把握したうえで再建が進められていきました。
現代の会社の経営再建においても、これは絶対に必要なことです。

日繰り表を作れば、毎日のお金の動きを細かく確認しながら、2~3ヶ月先のキャッシュの状況まで予想することができます。
小さなお金の流れを見れば、日々の無駄も明らかになっていき、経費削減にも役立ちます。
山田方谷も厳しい倹約令を出し、無駄のあるところはどんどん省いていきましたが、これもお金の流れを正確につかんでいなければできなかったことです。
銀行とリスケ交渉をしていく上で、既に日繰り表は作っていると思います。
それがなければ経営改善計画や返済計画も立てられないからです。

そうすることで、その場しのぎの資金繰りをしてしまうことがなくなり、資金繰りは確実に良くなっていくはずです。
日繰り表がきちんとつけられれば、月繰り表もつけられるはずです。
月繰り表を作成し、リスケ交渉で用いた月次資金繰り予定表の数値と乖離がないかを調べ、マイナスの乖離があればそれを埋めるように軌道修正をしていくことができます。
予算管理を徹底する
リスケ交渉で用いた予想損益計算書は銀行用の資料ですが、これを自社用に作り直し、予算管理を始めます。
説明のための大雑把な予想損益計算を改めて整理し、自社で使えるものとします。
すなわち、資料として作った予想損益計算を、月ごとの実際の月次損益計算書に落とし込み毎月の利益を確実に把握していくのです。

税理士の力を借りることで、月次試算表を作成してもらい、分析をもとにしたアドバイスなどを受けることができれば、経営再建はよりスムーズに進められるはずです。
経営再建の骨子は、この二つにあります。
銀行に説明した経営改善計画をもとに、リストラすべきところはリストラし、利益が出やすい体質を作っていきます。
また、毎日や毎月のお金の流れ、損益の状況を掴み、会社の財務を的確にコントロールしていくことによって、再び返済をできるようになる体質を作っていくのです。
山田方谷の場合との違いと言えば、山田方谷のようにどしどし新規事業に投資することは難しいということです。
当時の藩の威光というものは強く、金貸しに対して交渉次第では十年期や五十年期といった超長期でのリスケが可能であったため、利益が出ればそれを新規事業に投資して財政再建を図ることができました。
しかし、現代の会社のリスケでは1年ほどで再建しなければならないため、新規事業の開拓は難しいのです。
財務体質の改善と既存事業の効率化から、ともかく利益を確保していくことがリスケの目的となっています。
そのため、お金の流れと損益の把握によって、無駄を省いて利益を確保していくことが最優先となります。
したがって、実際の経営再建にあたっても、この二点はどの業種のどの会社においても共通する要素だと言えましょう。

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もし経営改善に失敗したら?
ここまで見てきた通り、リスケの効果は高く、基本的な経営改善を着実に進めていくことによって再建を図ります。
しかし、1年間のリスケ期間は短く、中には経営改善に失敗してしまう会社もあります。
経営改善に失敗するということは、銀行と約束した経営改善計画を実現できなかったということです。
背信行為にも見えるのですが、経営改善の内容によっても銀行の見解は異なってきます。
まず、経営改善に失敗したと言っても、失敗にも色々あります。
それは、
- 経営改善策はうまくいったが、まだ返済を再開する余裕はない
- リストラは予定通りに行なわれたが、売上と利益が計画通りに改善していない
- リストラさえうまく行われず、売上と利益も計画を大幅に下回った
という三つのパターンです。
3は論外です。
リストラさえ進まなかったということは、組織的な問題が大きいため、組織再編などの抜本的な対策が求められます。
しかし、銀行の協力はもう得られないかもしれません。
しかし、1と2はよくあるケースです。
この場合は、まだまだ経営改善を続けられる可能性があります。

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経営改善策はうまくいったが、まだ返済を再開する余裕はない場合
これは、経営改善に取り組み、リストラも実行し、売上や利益も計画通りに進んだものの、まだ返済を再開する余裕はないというケースです。
しかし、ここでのポイントは、経営改善計画がしっかりと実行されたという点です。
経営改善計画を実行し、経営状況は実際に改善しているため、銀行にはそのことをしっかりと主張することが大切です。
しかしながら、リスケ交渉の際の経営改善計画書の予想損益が実現されても、1年ですぐに元金返済をできる状況までには回復していません。
そこで、キャッシュフローの70~80%程度を返済に充てるように申し出るようにします。
経営改善計画の予想損益を実現し、キャッシュフローの70~80%の返済を始めるならば、おそらく10~15年で完済できる計算になることと思います(そうならない予想損益ならば、そもそもリスケが認められない可能性が高いため)。
ならば、銀行もそれを受け入れてくれることでしょう。
この時、複数の銀行に対してリスケを依頼しているならば、各銀行の融資残高に応じて、返済額を決めていくことが重要です。

- A銀行から5000万円
- B銀行から3000万円
- C銀行から2000万円
の計1億円借りていたとすれば、融資残高の割合はA銀行:B銀行:C銀行=5:3:2となります。
そのため、A銀行には50万円、B銀行には30万円、C銀行には20万円といった形で決定していきます。
このような返済方法をプロラタ返済ともいいますが、銀行に対してプロラタ返済を行なうことを説明すれば、各銀行から納得を得られることと思います。
リストラは予定通りに行なわれたが、売上と利益が計画通りに改善していない場合
これは、経営改善策を実行し、銀行と約束した通りのリストラも実行したものの、売上と利益は経営改善計画通りにはいかなかったというケースです。
この場合の経営者に対する評価は、金融庁の金融検査マニュアルによると、以下のように評価されることが決められています。
中小・零細企業等の場合、必ずしも精緻な経営改善計画等を作成できないことから、景気動向等により、経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割に満たない)場合がある。
その際における債務者区分の検証においては、経営改善計画等の進捗状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析するとともに、今後の経営改善の見通し等を検討することが必要である。
ここにある通り、売上や利益が事業計画の8割を下回った場合でも、計画を下回った要因や今後の経営改善の見通しなどによっては、不良債権扱いしなくてもよいということが分かります。

したがって、リストラをきちんと実行したうえで、経営改善計画通りの売上と利益を達成できなかった場合にも、必要以上に銀行に萎縮する必要もありません。
この場合、経営改善計画通りに行かなかった要因を分析し、今後の見通しを伝え、リスケの延長を申し出れば良いのです。
すなわち、
売上利益はこのようになっており、経営改善計画は一部未達成となりました。
しかし、リストラは着実に実行され、その効果も出ています。
売上利益は未達成ながらも、計画の○%に達しており、キャッシュフローもプラスの状態です。しかしながら、現在のキャッシュフローで元金返済を再開すると、不測の事態に対処できず、再び経営危機に陥る可能性があります。
ついては、リスケジュールを1年間延長していただけるよう、お願い致します。
銀行も、計画達成とはならなかったものの、経営達成のための努力は認めていますから、延長での1年間に可能性を感じ、安易に延長を断ることはないでしょう。
改めて経営計画を練り直して銀行に提出すれば、受け入れてもらえる可能性は高いと言えます。

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まとめ
歴史的に見ても、リスケによる経営改善の効果は高いものがあります。
むしろ、銀行への返済も難しくなったような会社においては、リスケなくして経営再建はありえないと言っても良いでしょう。
また、リスケに失敗した場合にも、きちんと取り組んで経営改善計画の実現を目指していたならば、それなりの効果が出ているものです。
そして、銀行はその効果を認めてくれます。
したがって、キャッシュフローの一部を返済に充てていくことや、返済をさらに猶予してもらうリスケ延長が認められる可能性は高いです。
リスケは、経営を立て直す効果が高く、経営再建が成就する可能性もありますし、仮に失敗してしまった場合にもそれなりに経営改善が進むという効果があります。
経営難に陥っている会社は、ぜひリスケを検討してみてください。