元銀行員が語る「資金使途」第2部:運転資金について

第1部では、元銀行員への取材から、銀行員目線で「なぜ資金使途が重視されるのか」を見ていきました。

インタビューを進める中で、複数に区別されるそれぞれ資金使途について、銀行員はどのように考えているのかを聞くことができました。

第2部では、細かく分類した資金使途のうち、特に運転資金について銀行員がどう見ているのかについて聞いていきます。

元銀行員が語る「資金使途」第1部:資金使途の重要性について
資金使途とは、資金の使い道のことであり、銀行が融資を判断する際に重視するものだとされています。 そのため、当サイトでもしばしば取り上げてきたのですが、当サイトで取り上げる際には会社目線での解説になることが多かったように思います。 ...

運転資金は銀行員の基本

―――資金使途の中でも、最も重要なのは運転資金ですか?

元銀行員:そうです。私が初めて融資案件を扱ったのも運転資金なのですが、これは私に限ったことではなくて、運転資金から取り組ませることが多いようです。

上司から、前回の経常運転資金の稟議を渡されて、「これを参考にして取り組みなさい」といった感じです。

経験を積ませる意味もありますから、問題のなさそうな会社の運転資金について取り組ませることが多いですね。

若手銀行員に稟議書を作成させるなら、そういったケースが普通です。

―――しかし、(第1部終盤で聞いたように)運転資金に一番力を入れて教えられるんですよね。それは、運転資金の判断が難しいということではないんですか?

元銀行員:ある意味でそうだと言えます。運転資金と言っても色々ありますから。

会社の業績が伸びている時は、新たな取引先への販売とか、取引単位が増えた取引先への販売とかのために、仕入れ代金が多く必要になりますよね。

そんなときには、増加運転資金が発生します。

逆に、業績が落ち込んでいる時は、減産資金や在庫調整資金といった運転資金も発生します。

赤字の時に、不足分を補填する際には赤字補填資金という呼び方をしますが、これも運転資金として取り扱うことがあります。

運転資金といっても、性質ごとに色々な分け方をするんですね。

ごくありきたりな運転資金なら、入門編として取り扱うのも簡単ですけど、運転資金全般にわたって深いところまで理解していこうとすると、難しいし時間もかかります。

これと比べて、設備資金は簡単ですね。

売買契約書や工事請負契約書を見れば、設備導入のためのお金ということが単純に把握できます。

しかし運転資金は、性質によって色々と解釈が異なることもありますし、会社側の申込内容に嘘が含まれることもあります。

複雑な案件では、取引先の実態まで含めて把握しなければ、本当に理解できないこともあります。だから、一方では簡単で、他方では難しいのが運転資金だと言えます。

 

―――銀行員は、運転資金のタイプごとに見方が違うとのことですが、この点についてもう少し詳しく教えてください。

運転資金を細かく分けると、色々な分け方があると思います。

その人の立場や考え方次第で、運転資金と考えるものもあれば、考えないものもあるでしょう。

しかし、運転資金の定義から考えると、経常運転資金、増加運転資金、減産資金の三つは、まず運転資金と考えるのが普通でしょう。

―――運転資金の定義とは、何でしょうか。

元銀行員:運転資金というと、会社の運転のため、つまり会社を回すために必要なお金という風に考えられることが多いですよね。

大きくはそれで間違いないと思いますが、厳密に言えば支払いと入金のズレを補うための資金のことです。

原材料や商品を仕入れてから支払うまでの期間と、仕入れたものを在庫として保管して、やがて販売して、売上代金を受け取るまでの期間を比較すると、代金の回収よりも支払いの方が早くなるのが普通ですよね。

すると、まだお金が入っていない状態で支払うことになりますから、お金は足りなくなりがちです。

それを補うのが、運転資金です。

このように考えると、経常運転資金は会社が普通に営業していくときに、支払いと入金のラグに対応するための運転資金、増加運転資金は売上が増加して販売を拡大するときに必要となる運転資金となります。

気を付けたいのが、増加運転資金は増加分を指すということです。

業績が拡大した時に必要となる運転資金全体を指すのではなく、経常運転資金プラスで必要となる部分が増加運転資金になります。

減産資金は、業績が落ち込んだときに生産量を減らしたり、仕入れを減らしたり、在庫が増えたりしたことによって必要となる運転資金のことです。

単純に考えて、売上が下がれば、売上代金で支払えていたはずのものが支払えなくなるわけですから、それを補うための運転資金が必要となるわけです。

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経常運転資金についての考え方

―――このなかでも、経常運転資金が最も一般的な運転資金だと思います。この融資を申し込まれた時、申し込まれた融資希望額が適切かどうかについて、どのように判断しますか?

元銀行員:さっきも言った通り、経常運転資金は、会社が普通に活動していくために必要となる運転資金のことです。

だから、ほとんどの会社が経常運転資金の融資を受けています。

経常運転資金を計算するとき、あたりまえに計算するのが普通です。

貸借対照表で経常運転資金に相当する項目を集めて計算すると、経常運転資金としての必要額は分かります。

経常運転資金は、売掛債権と棚卸資産の合計額から、買掛債務を差し引いて計算します(経常運転資金=売掛債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買掛債務(買掛金+支払手形))。

ですから、貸借対照表から売掛金、受取手形、棚卸資産、支払手形、買掛金の項目を引っ張り出してきて、差額を計算すれば経常運転資金が分かります。

会社がまともな融資額を希望してきているかどうかもわかりますね。

―――前払費用とか、未収入金、あるいは未払費用とか前受金など、運転資金に影響を与えそうな項目は他にもあると思うのですが・・・。

元銀行員:もちろん、流動資産と流動負債を細かく見ればそういった項目もありますし、これも運転資金に影響します。

しかし、普通なら流動資産は売掛債権と棚卸資産がほとんど、流動負債なら買掛債権がほとんどで、その他の項目は少額になっているものですよね。

だから、経常運転資金を考える時にも、考慮しないのが普通なんです。考慮しなくても影響は小さいですから。

―――経常運転資金を考える時は、この差額の計算の他に意識していることはありますか?

元銀行員:もちろんです。銀行員は、必要な運転資金を、仕入販売計画と取引条件から考える視点も必要になります。

取引条件とは、掛け取引の条件のことで、例えば、「商品の受け渡し後、25日締めで翌月15日払い」といった条件のことです。

この条件なら、最短の場合は締め日の25日に納入して翌月15日払いですから、回収に必要となる期間は20日です。

最長の場合は、26日に納入して翌々月15日払いですから、回収までの期間は50日です。ここから平均的な売掛金回収期間を算出すると、(20+50)÷2で35日間です。

つまり、取引条件から売掛金回収の状況が分かります。

仕入れの際の支払い条件と照らし合わせると、支払い回収のズレが分かりますから、どのくらいの運転資金が必要になるかということも分かりますね。

もし、取引条件から経常運転資金を考えてみた時、必要と思われる額と希望融資額が大きく違うならば、なぜ違いが生じているのかについて調べる必要があります。

資金繰りを考えるために、社長が経常運転資金を知りたいと思うならば、取引条件よりも売掛債権、棚卸資産、買掛債務から計算するのが良いでしょう。

それで大きく間違うことはないですし、簡単ですから。

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増加運転資金は危険が多い?

―――次に、増加運転資金の見方について教えてください。

元銀行員:増加運転資金は、売上が増加したことで発生するのが普通です。

売上が増加するということは、販売量も増加しているのですから、原材料や商品を仕入れる量も増えますし、それに伴って在庫管理その他の経費も増えますよね。

そこで、増えた分の運転資金を融資で補う必要があるんです。

しかし、銀行員はこのような単純な見方だけをするのではありません。

売上が増加しないのに、増加運転資金が発生することがあるんですよ。だから、銀行員は増加運転資金を審査するとき、経常運転資金よりもずっと注意深く見ますよ。

―――売上が増加していないのに、必要な運転資金が増えるのはどのような場合ですか?

元銀行員:運転資金の基本的な考え方としてお話しした通り、運転資金は支払いと入金のラグを補うためのものです。

まともに経営されている時には、運転資金は大体一定していて、それを経常運転資金と考えます。

もし、その額が一定せずに大きくなれば、増加運転資金が必要となります。

これは売上の増加だけが原因じゃなくて、色々な理由で仕入れと入金のラグが大きくなることがあるんですよ。

例えば、会社が取引先より立場が弱かったらどうですか。「支払い条件を緩和しないと、取引をやめる」なんて言われて、売掛金の回収条件が悪くなることもありますよね。

そうなれば、支払いと入金のラグは大きくなるわけで、増加運転資金が必要になります。

ほかには、仕入先と販売先の取引シェアが変わった場合にも、運転資金が増えたり減ったりすることがあります。

取引条件が悪化して増加運転資金が発生しているなら、売掛債権や棚卸資産の回転期間が伸びたり、買掛債務の回転期間が短くなったりします。

つまり、資金繰りが厳しくなって増加運転資金が必要になるんです。

―――そのことを踏まえて、増加運転資金を見る時、どんなことに気を付けますか?

元銀行員:運転資金の増減には色々なパターンがありますが、どんな形にせよ、銀行員は騙されないように気を付ける必要があります。

社長からすれば、「売上がぐんぐん伸びているんだから、回収できる利益も増えていく、だから銀行は簡単に融資してくれるだろう」と考えるかもしれません。

銀行としても、取引先企業が儲けてくれれば、将来的にもっと大きな取引ができるようになるかもしれませんから、たしかに喜ばしいことです。

しかし、売上がぐんぐん伸びるということは、売掛金も棚卸資産も増えますし、受取手形の割合も増えるかもしれません。

増加した売掛債権の中には、回収できない売掛金があるかもしれませんし、不渡りになる手形もあるかもしれませんよね。

増加した棚卸資産も、それが全部売れなければ不良在庫になるわけです。

悪質な会社になると、架空の売掛債権や棚卸資産を計上して、売上が伸びているように見せかけて増加運転資金を引き出して、他の目的で使うこともあります。

経験の浅い銀行員や、深い見方をしない銀行員なら、騙されてしまうこともあります。

「融資実績は欲しい、元気のいい会社に貸したい、ならば売上の伸びているこの会社に貸そう」という考えで、騙されてしまうんですね。

そのようなことがないために、複数の観点から検討していく必要があります。

―――どのような視点で検討していくのですか?

元銀行員:その増加運転資金が信頼できるものであるかどうかを判断するためには、「一つの視点から見てオッケー、だから融資しよう」というのではなくて、複数の点から検討して、複数の理由から間違いないと結論づける必要があります

例えば、売上計画と利益計画を検討するとき、売上の実績と今後の見込みをヒアリングするのが基本です。

これによって、会社がどのような状況にあって、どのような売上増加を見込んでいるかを知ることができます。

次に、増加運転資金を計算した根拠を検証します。

増加運転資金はなぜ必要になったのか、その根拠はどこにあるのかを検証し、根拠と必要額が一致しているかどうかを考えます。

このほか、増加運転資金はどの程度の期間にわたって発生するか、という見方もします。

長期間にわたって売上が拡大し続けるのか、売上の拡大はそろそろ終わって安定期に入るのか、一時的な売上拡大かといった見方です。

資金繰りの状況から分析するのも一つの方法です。

売上が増えて増加運転資金が必要になっているならば、そのような変化が資金繰りにどのような影響を与えて、資金調達状況がどのように変化しているかを見ていきます。

最後に、割引(割引手形)と単名(手形貸付や特定当貸)の割合についても注意します。

この割合がおかしくなっていると、資金使途が不明瞭なまま貸し付けることになりかねません。

このくらい複数の観点から検討していけば、おかしなものに騙されることはなくなりますよ。

 

―――経常運転資金に比べると、随分手間がかかるんですね。

元銀行員:細かいことを言えば、まだありますよ。

デキる銀行員は、増加運転資金の融資を申し込まれてから、その資金使途について慌てて判断していくようなことはありません。

日頃の渉外活動を通して、なんとなく準備はできているものなんです。

例えば、融資している会社が平均的に、どのような取引条件で取引しているのか。上位取引先とは個別にどのような取引をしているのかということを掴んでおきます。

特に、取引シェアの大きい取引先との条件を確認しておくと、資金需要の変動も分かりやすいわけですから、効率よく把握しておくためのポイントとされます。

普段からこの情報を掴んでおけば、取引条件の変化によって増加運転資金が発生した時、会社がどの程度の影響を受けているのかも分かりやすく、判断が的確になります。

また、決算期などには社長と面談する機会があるものですが、面談の機会を利用して、事業の見通しを聞いておきます。

そうすれば、売上や仕入れの計画も分かりますから、増加運転資金の発生を見通すこともできます。

せっかく面会の機会があるのに、雑談するだけの社長は、もったいないですよ。

事業の見通しを伝えておけば、銀行員にも増加運転資金について心構えができて、スムーズに融資が出やすくなるんですから。

ほかには、普段から資金繰りの状況も把握しておきますね。

そうすることで、資金繰りの良し悪しが事前にわかっておけば、単に資金繰りがうまくいってない会社から増加運転資金を申し込まれた場合など、騙されることがなくなります。

銀行員の業務もどんどん忙しくなってきていますし、会社の情報を細かく把握しておくことは難しいでしょう。

それでも、このような意識を持っている銀行員は実際にいますし、銀行員の実務マニュアルなどにもしっかり書かれていますから、銀行の方針として求められていることは間違いないでしょう。

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減産資金は銀行員の腕の見せ所

―――増加運転資金のお話を聞いたところ、減産資金はもっと気を付ける必要がありそうですね。

元銀行員:増加運転資金は、しっかりと見定めて融資するならば、問題ないことも多いです。売上が伸びているなら、それはそれで好ましいことでもあります。

しかし、減産資金となると、かなり厳しい見方をせざるを得ません。

減産資金は、会社の売上が伸び悩んだときに生産や仕入れを減らして、在庫調整を行う時に発生する運転資金でしょう。

売上が伸びちゃって、儲かっちゃって儲かっちゃって、何かとお金がかかるんですよ」っていうなら、おかしなところがないかチェックするにせよ、わかりやすい資金需要ですし、悪くない理由でもあります。

しかし、「売上が落ちちゃって、儲からなくて困ってます。運転資金も追加で必要です」ってなると、そもそもの発生理由が危なっかしいでしょう?危なっかしい会社だけにしっかりチェックしないと、銀行のリスクはかなり高くなります。

―――中小企業は、市況や取引先、同業他社の動向なんかによって、業績に影響を受けやすいと思います。減産資金の融資を申し込まれることも多いと思います。

元銀行員:景気にもよりますが、中小企業はどこも財務的に安定しない傾向にありますから、景気が悪化すれば簡単に売上は落ちます。

売上が落ちれば、仕入れを調整する必要も出てきます。

不景気になって、ある会社の売上が落ちて仕入れが減って、仕入先の会社も売上が減るから仕入れを調整して・・・という連鎖が起きて、いろんな会社で減産資金の需要が発生するんですね。

逆に、好景気の時は売上が伸びますから、減産資金よりも増加運転資金の方が発生しやすくなりますよ。

 

―――減産資金は銀行にもリスクが高いとのことですが、融資の可否はどう判断するのですか?

元銀行員:融資の可否は、減産資金の発生原因を調べて、それが解消されればきちんと返済されるのかによって判断していきます。

売上が下がっている会社では、固定費を支払うためのキャッシュが不足するとか、売れ残りによって在庫が増えて資金繰りが厳しいということになりますよね。

この場合、経常運転資金が適正水準に戻るまで、一時的に減産資金が必要となります。

仕入れや生産を減らして、在庫を調整して、経常運転資金が適正水準に戻れば、返済は可能になりますね。

だから、資金需要は短期的と言えますよね。つまり減産資金というのは、その発生原因が解消されれば、問題なく返済されるべきものなんですよ。

だから銀行員は、「減産資金の発生原因は理解した、解消されれば返済できるだろう」という確信が欲しいんです。

―――減産や在庫調整がしっかりできて、回収にも問題なさそうだという確信は、どうやって得るものですか?

元銀行員:それは、申し込まれた時の聞き取り、在庫調整が完了するまでの売上や仕入れの計画、売掛債権や買掛債務の回転期間、平均原価率などからの判断でしょうね。

具体的には、減産や在庫調整を進めるにあたって、お金がどのように動いていくかに注目します。

その上で資金繰りを考えるんです。

もし、申し込まれた内容に異常がなければ、在庫調整が完了したら問題なく返済されるはずです。

そのことを、実際に資金繰り計画を作成してみて検討していきます。

これは、ちょっと具体的にお話ししたほうが分かりやすいでしょうね。

(ここで、紙に書きながら具体的に説明してもらいました。文章だと詳細なことは分かりにくいかもしれませんが、銀行員の見方の参考になると思います)


例えば、今月(4月と仮定)の時点で月商2億円の会社があったとします。

売上は100%手形で回収で、手形サイトは2ヶ月とします。

買掛債務は2ヶ月の支払いサイトで、支払期日までに100%を現金で支払います。

足りない運転資金は手形割引で調達して、それでも足りなければ手形貸し付けで調達という形としましょう。

この会社が、何らかの理由で売上が大きく低下して、来月(5月)から月商1億円に落ち込むことが予測されました。

5月分の仕入れは発注していますから、6月から仕入れの調整をしていきます。

6月から仕入れを調節し、その内容に基づいて7月から在庫調整をしていきます。


このように、売上が落ち込んだことを受けて、仕入れを調整し、在庫の調整へと進んでいくわけです。

もちろん、売上が減れば売掛債権も減りますから、手形割引に回せる手形も減って、運転資金が足りなくなります。

そこで、減産資金の融資を受けることになります。

減産資金の供給を受け、仕入高と在庫の調整を進めていきます。

仕入高が減れば、買掛債務も減ります。在庫も適正水準に近づきますね。

上記のような予測によって計画表を作ると、売上や仕入れがどのように変化して、売掛債権や在庫や買掛債務はどのように変化していくかが明らかになるでしょう。

5月の仕入れは月商に合わずに在庫は過剰になりますが、仕入れを減らして在庫を販売に回して在庫調整を進め、9月には調整が完了するといった風にです。

9月に在庫調整が完了したならば、それ以降は適正な在庫を保って仕入れて行くことができ、仕入高も安定します。

仕入高が安定すれば、仕入れに伴う支払いと、販売に伴う売上回収のズレも一定に落ち着きます。

その状況における経営で必要となる運転資金、つまり適正な経常運転資金の水準に落ち着くことが分かります。

その水準に落ち着けば、売上低下に伴う減産資金の必要はなくなりますから、減産資金を返済する余裕も生まれます。

このように、減産と在庫調整を進める様子を、数値を用いて作った計画表で見ていくんです。

すると、適正な経常運転水準に落ち着くまでの流れが分かりますし、その後の返済の様子も予測できます。

 

―――つまり、資金繰りまで詳細に確認してみて、短期間で解消されそうにないといった場合に、注意が必要だと考えるのですね?

元銀行員:そうです。具体的に注意すべき例を挙げるなら、デッドストックと、赤字資金です。

上記のように、計画表をしっかりと作って、理論的に、具体的に説明できないならば、それは減産資金ではなくてデッドストックや赤字資金などの可能性が高いといえます。

デッドストックに融資は下りにくい


―――デッドストックや赤字資金は、減産資金と比べてどこが危険なのですか?

元銀行員:デッドストックからお話ししますね。

デッドストックは、不良在庫や売れ残り品のことです。滞貨資金と呼ばれることもあります。

売れ残りを抱えているとなれば、あまりイメージのいいものではありません。イメージだけのことではなくて、実際に良くないことです。

だから、隠そうとする社長も多いんです。デッドストックでお金が足りないのに、減産資金として融資を希望するわけです。嘘がつかれやすいですから、まずそこが厄介です。

次に、売上が落ちるということは、商品が売れなくなるんですから、当然在庫に売れ残り品の割合が増えますよね。

モノによっては、売れ残っているうちに流行が過ぎたり、劣化したりして不良在庫になることもあります。そうやって在庫が適正水準を超えるんですよ。

不良在庫にならないにしても、売れ残っている商品が後すぐに売れていくかといえば、なかなか売れませんよね。だって、売れない理由があって売れ残ってるんですから(笑)

だから、長期間をかけて売っていくか、採算割れ覚悟で売り払うか、思い切って処分するかといった判断をしていくことになるわけです。

在庫が適正水準を超えると、会社は資金が不足します。在庫が増えればそれに伴う経費も増えますから。

しかもなかなか売上につながらないんですから、資金負担ばかり増えて、それが原因で赤字になるかもしれません。

減産資金は、売上が落ち込んで、仕入れと在庫の調整をするときに必要なお金です。

デッドストックもこれに似ているようにも見えるでしょう?でも、減産資金とデッドストックには決定的に違うところがあるんです。

デッドストックがある会社って、何が問題だと思いますか?

それは、売れ残った商品が簡単に資金化できないことです。

つまり融資しても、デッドストックが返済の裏付けにはならないんです。

減産資金のポイントは、在庫調整の後にきちんと返済できるかどうかですが、デッドストックの場合は短期間での回収が期待できないことが大きな問題です。

 

―――売上の低下によって在庫が適正水準を超える時、それが返済につながる在庫なら減産資金と考えられますし、売れ残りや不良在庫で返済につながらないならばデッドストックということですね。これを正確に判断するために、銀行員はどのように考えるのですか?

元銀行員:銀行員はこう見るべきというマニュアル的な見方がありますよ。簡単に説明すると、

商品そのものの品質や機能に欠陥がないかを考えて、根本的な問題があるならば販売も困難だから、解決に長期間を要するかもしれない。
それを処分することで赤字につながるかもしれない。
だから融資には慎重になって、赤字覚悟でデッドストックを処分しても会社がやっていけるのか、事業からの利益で返済していけるのか、返済できるなら長期分割返済で融資を検討しよう

という感じで見ていくとされています。

でも、やっぱり慎重に融資を検討していくんですから、返済の見込みが怪しければ融資しませんし、融資するときも担保を取るのが原則です。

経営が芳しくない会社への融資ですし、あまり長く貸し付けるとリスクが高まりますから、返済期間も5年以内に設定します。

市況の変化、つまり需要が少なくなったことが原因だとすれば、需要が回復するかどうかを考えます。

半年~1年くらいで需要が回復するならば、需要回復後にデッドストックを売っていけばいいのですから、融資は可能と考えます。この場合、減産資金と同じような見方をしますね。

もし、需要が回復するかどうかわからないなら、回収は長期化するかもしれませんし、デッドストックを裏付けに回収を見込むことはできません。

赤字になる可能性も高いですから、融資には慎重になります。

それを踏まえて支援するにしても、担保を取得したうえで、5年以内に返済する計画を立てるのが原則です。

このほか、値崩れによって販売を抑えたことで、デッドストックが発生することもありますね。

この時は、採算割れ覚悟で値引き販売することもあります。

これによって赤字になったり、売上に大きく響く可能性が高いですから、これも担保を取った上で5年以内に返済とするのが普通です。

 

―――誤解を恐れずに言いますが、銀行員にその判断はできるのでしょうか?

元銀行員:正直なところ、難しいと思います。銀行員は商売のプロでありませんから。

銀行員が商品の品質とか、需要を正しく判断することは難しいですし、それを求めすぎるのも酷だと思います。

その業界のプロである社長からして、そこが正しく判断できなかったからデッドストックを抱えているんですからね。

せいぜい、社長からのヒアリングを参考に考えていくくらいしかできないでしょう。

売上の低下によって減産資金を求められたとき、なぜ売上が低下してるのか、過剰になっている在庫の販売は順調にできるのか、その根拠はどこにあって、詳細な計画はどうなっているのか。

社長から聞いた感じと、計画の実現性などから判断していきます。

銀行員の経験によって判断が変わることも十分にあり得ますし、とりあえず融資を見送るという判断になっても仕方ないかもしれません。

―――実際にデッドストックが発生していて、融資を見送られた会社は、どのように資金繰りをしていくべきと思いますか?

元銀行員:デッドストックの解消には、基本的に時間がかかります。

それが後々売れるのか、もう売れないのかを判断するのにも時間がかかりますから、すぐに全部処分するというわけにもいきませんしね。

基本的には、増資とか、親会社からの援助とか、少人数私募債の発行とか、融資以外の資金調達に頼ることになると思います。

十分な担保を取得できれば融資可能かもしれませんが、そのような会社は少ないでしょう。

あまり考えられませんが、何らかの理由によって支援を強行するとなれば、再建計画書を提出してもらい、確実な実行を約束させ、その会社をしっかりと管理していくことで融資が出ることもあります。

デッドストックを抱えていて融資が受けられない、しかし融資以外の資金調達もできないという会社は、実現性のある計画書を作って交渉するほかありませんが、認められない可能性も十分にあると考えるべきです。

これは、赤字資金でも同じことです。

赤字資金も融資が出ない

―――なかなか厳しいようですね。赤字資金についても厳しい見方をされると思うのですが、こちらはデッドストックとどう違いますか?

元銀行員:まず、赤字資金もデッドストックと同じように、嘘をつかれやすい点が問題と言えます。

赤字になっている姿を見せると、銀行は警戒するものですから、そうなると資金調達に支障が出るかもしれないと考えて隠そうとするんですね。

赤字を隠した決算書を作って、減産資金として融資を申し込むわけです。でも、赤字資金と減産資金では大違いですよね。

減産資金の場合、売上低下に対して生産量や在庫を変化させることで対応し、短期のうちに返済するものですが、赤字資金は違います。

赤字資金は、売上が落ちたから減産や在庫調整のために資金が必要になったというのではなくて、単に赤字を補うための資金なんです。

つまり、「減産や在庫調整のために資金が必要です」といいながら、赤字資金を引っ張ろうとするのですが、これはいわば在庫で粉飾しているようなものですよね。

中小企業の粉飾は、8割方在庫で粉飾してるって言われるんですけど、そのことが良くわかりますよね。

当然、赤字資金には返済の裏付けがありませんよね。だから、短期での返済も見込めません。

計画によれば在庫調整が完了して返済もできるはずなのに、なぜか返済が進まない、これはおかしいぞとなって、そこで初めて会社の実態を知るということもあります。

慢性的に赤字に陥っている会社は、まともには融資を受けられませんから、減産資金などの名目で融資を受けようとすることが多いです。

デッドストックは、過剰在庫によって資金負担が増えたために融資を必要としますから、在庫さえどうにかなるならば融資もできますし、そこまで深刻ではないことも多いです。

しかし赤字資金の場合、在庫がどうであるかにかかわらず赤字の状態ですから、デッドストックよりずっと危険ですよね。

―――その危険を避けるために、具体的にはどのように審査するのですか?

元銀行員:第一に決算内容の分析でしょう。

決算書では黒字だけれども、実質的に考えて赤字なんじゃないか、もし赤字なら赤字額はどれくらいか」と把握していきます。ある意味、赤字資金かどうかを探っていくことって、粉飾を見つけていくようなものですね。

いくつか例を言うと、翌期の売上を繰上げ計上している、架空の売上を計上している、貸し倒れた売掛債権や架空の売掛債権を計上している、棚卸資産を水増ししている、買掛債務を少なく計上しているといったケースが多いです。

これも、銀行員の経験に左右されることが多いですね。

経験豊富な銀行員なら、業種的に売上の動きがおかしいとか、売掛債権・買掛債務・棚卸資産などの回転期間がおかしくなっているとか、決算書に連続性がないとか、色々な観点からピンときますね。

「粉飾だ、これは減産資金じゃないぞ、赤字資金だ」とピンとくれば、融資はしません。

だって、嘘ついてるんですから。誰だって、嘘つきにお金は貸したくないでしょう。

 

―――嘘をつかずに赤字資金を求めてきた場合にはどうですか?

元銀行員:基本的には融資しないでしょう。赤字資金がなぜ発生するかを考えてみると、それが良くわかりますよ。

赤字資金がなぜ発生しているかと言えば、市況が悪化して売上が減って赤字になった、取り扱う商品やサービスが売れなくなって赤字になった、取引先が倒産して売上を回収できなくて赤字になったというのが代表的な例でしょう。

つまり、事業そのものによる収益力が下がっている状態ですから、当然キャッシュフローも生まれにくいです。返済も順調にいかないかもしれません。

正直に赤字を報告してくれて、赤字の原因も特定していて、対策がしっかりできているならば、融資は出るかもしれませんね。

赤字を解消できると銀行員も納得する方針や計画があって、返済実績も積んでいて、経営者が真面目で信頼に値する人で、経営を立て直す意思も堅いというような感じです。

この場合、メイン銀行であれば支援の方向で動きやすいですし、メイン銀行ではなかったとしても、他の銀行に支援の動きがあるような場合も、問題なく動けますね。

よくある例が、天災などの一過性の原因で売上が下がって、赤字になったものの、会社の稼ぐ力自体は悪化していなくて、いずれ業績が回復して返済もできるだろうという場合なんかがそうでしょう。

もちろん、赤字資金を融資して支援するときは、銀行もリスクを負うことになります。

ですから、実現性の高い再建計画書と実行の約束は必要です。担保も取るでしょうし、5年以内の分割返済などに設定されるのが普通です。

 

―――減産資金について単純にお聞きするつもりが、デッドストックや赤字資金についての見方についても大変参考になりました。銀行員目線での運転資金について、他に知っておくべきことはありますか?

元銀行員:いえ、経営に関わる人は、経常運転資金、増加運転資金、減産資金を銀行がどう見ているかを知れば、ほぼカバーできるでしょう。

経営の現場では、季節資金やつなぎ資金といったものも、運転資金に含めて考えることが多いようですが、銀行員目線では、季節によって一時的に発生したり、増資や社債発行までの間の一時的なつなぎとして発生するようなものは、「一時資金」として区別します。

運転資金とは分けて考えます。

(一時資金の解説は第3部にて)

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まとめ

運転資金が、経常運転資金や増加運転資金、減産資金などに分類されることは、筆者も当サイトで解説したことがありました。

しかし、銀行員がそれらをどのように見ているかについて、新たな知見も多かったように思います。

特に、増加運転資金や減産資金について、銀行員がどのように警戒して融資に取り組んでいくかについては、詳しい解説が得られたと思います。

銀行員の間では、「融資は運転資金に始まり運転資金に終わる」とも言うそうです。

銀行員がそれくらい重視していること知り、なおかつその見方を理解すれば、会社の資金使途を考えるうえでも参考になることでしょう。

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