銀行から融資を受ける時、多くの中小企業では、保証人や担保による信用補完を求められます。
特に、不動産を担保とすることで、融資を受けやすくなるケースは多いものです。
保証人を付けたとしても、保証人から確実な回収は難しいこともありますが、不動産ならば、少なくともその価値分の回収は可能だからです。
したがって、融資交渉にあたって、不動産は強力なカードとなることが少なくありません。
しかし、融資交渉に不動産を活かすためには、その不動産の価値を把握し、適切に使う必要があります。
そこで本稿では、銀行員目線での不動産の評価方法について解説していきます。
融資に不動産が役立つわけ
会社が銀行に融資を依頼した時、銀行は会社が融資に適した会社であるかを審査します。
銀行は、融資した会社が利息を乗せて返済することによって、利益を得ています。
つまり銀行にとって、融資とは利益を得るための活動であり、その前提にはきちんと返済されることがあるのです。
「融資に適した会社」とは「きちんと返済してくれる会社」であるとも言えます。
このため、会社が銀行に融資を依頼した時には、色々な角度から会社の返済力を審査していくことになります。
決算書には業績と財務内容が記載されていることから、これによって会社の健全性や収益力を知ることができます。
損益計算書には利益が記載されていますが、事業の中で得られる利益を返済原資とみなすのが普通ですから、特に重要な資料であると言えるでしょう。
しかし、決算書には大きな問題があります。
それは、決算書は基本的に真実をそのまま反映していないということです。
粉飾とは言わないまでも、多くの会社では決算書の数字をいじっているもので、決算書に記載されている資産内容にそのままの価値を期待できるとは限りませんし、利益にも何らかの化粧がされているかもしれません。
提出資料の中でも特に参考にされる資料なのですが、それはあくまでも決算書以外に業績や財務内容を知るための資料が乏しいからにすぎません。
しかし、そんな決算書のなかでも、銀行員がかなり有力な情報とみなすものがあります。
それは、不動産情報です。
決算書の情報は色々に化粧されている可能性が高いのですが、不動産情報だけは化粧のしようがありません。
不動産は確かに存在しているものですし、その価値を正しく評価することも可能です。
このことから、銀行員が会社の財務分析をする際には、不動産情報が良い手がかりとなります。
不動産を持っていることで融資を引き出しやすくなるのは、単に不動産の担保価値によって銀行が保全を図れるからというだけではありません。
不動産があることで財務分析の確実性が増し、銀行員が自信をもって融資実行に臨めるからでもあるのです。
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不動産担保と契約条件
会社は、いつでも同じように経営を続けていけるわけではなく、良い時もあれば悪い時もあります。
特に中小企業は、環境の変化を受けやすく、不測の事態に陥ることも少なくありません。
銀行は、会社に対して融資をすることで利益を得ていますが、融資のための原資は預金者が預けたお金です。
銀行が利益を確実に得ること、得た利益を株主に分配することからも、融資の回収は重要なのですが、預金者を守る意味からも貸し倒れを起こすわけにはいきません。
このため、銀行は不測の事態に備える必要があります。
よほど経営が好調で、業績にも財務にも将来性にも全く問題がないという会社ならば、その信用だけで融資することもできます。
しかし、そのような会社はごく一部であり、多くの会社は信用だけで融資を受けることはできません。
そこで、信用を補うために、保証人や保証機関、担保などをつけて融資を受ける必要があります。
信用補完には、人的保証と物上保証があります。
保証人や保証機関による信用補完を人的保証、不動産や株式、売掛債権などを担保とした信用補完を、物上保証と言います。
名前や性質は違いますが、どちらも同じように信用を補完するための保証であることは同じです。
人的保証でも、物上保証でも、保証契約を結ぶ必要があります。
契約の形をいくつかに区別できますが、大別するならば、
- 特定の債権を保証するための契約
- その銀行における全ての取引を保証するための契約
に分けることができます。
不動産による物上保証では、抵当権を設定する契約と、根抵当権を設定する契約のいずれかになります。
抵当権とは、特定の債権を担保するものであり、きちんと返済することでその債権が消滅すれば、抵当権も消滅します。
一方、根抵当権は、不特定の債権について一定金額を限度として担保するものです。
例えば、不動産に根抵当権を設定して、1億円を上限とした融資をうけたとします。
このとき、その範囲内で発生した全ての債権を完済しなければ、抵当権を外すことはできません。
2つの不動産にそれぞれ5000万円の抵当権を設定して1億円の融資を受ければ、5000万円を返済した時点でどちらかの抵当権を外すことができます。
しかし、同じ2つの不動産に根抵当権を設定して1億円の融資枠を確保したならば、1億円を全て返済して2件同時に根抵当権を外すほかありません。
しかし、経営者が未熟な知識によって融資交渉の臨んだ時、銀行員は不動産担保に伴う契約上の細かな違いもしっかりと理解したうえで交渉し、銀行に都合の良い契約を望みます。
経営者は、このような違いをしっかり理解しておかないと、不動産を担保にする時、自社の資金繰りにより好ましい担保設定ができない可能性があります。
不動産は嘘をつかない
このように、不動産を所有している会社では、不動産を融資交渉のカードとすることができます。
せっかく融資交渉に使えるのですから、適切に活用し、資金繰りに活かしていくのが賢明です。
なぜ不動産が交渉のカードになるかと言えば、不動産は嘘をつかないからです。
決算書は基本的に化粧されていますし、経営者の発言にも嘘があるかもしれませんが、不動産ならば所在地に行けば現物の確認が可能であるため、嘘がありません。
また、不動産の権利関係にしても、登記事項証明書をみればすべて間違いなく把握することができます。
では、具体的に銀行員はどのように不動産の価値を判断し、また担保取得に臨むのでしょうか。
それを知ることで、経営者も担保としての不動産を正しく捉えることができます。
まずは登記を理解する
不動産登記とは、対象となる不動産の実態や権利関係を登記簿に記載し、公示する制度のことです。
不動産の所有者としては、法務局が管理する登記簿に不動産登記を行うことによって、不動産の物理的な状況(所在地や面積、構造など)と権利関係(所有者の住所や氏名、抵当権など)に間違いがないことを証明することができます。
また、不動産登記によって、不動産の物理的状況や権利関係について証明できれば、不動産取引を安全に、円滑に行うのにも役立ちます。
不動産登記は、法務局によって管理の方法が異なり、バインダー式の帳簿で管理する場合と、コンピューターで管理する場合があります。
不動産登記の証明書には、全部事項証明書と現在事項証明書の2種類があります。
この両者には、以下のような違いがあります。
- 全部事項証明書・・・閉鎖登記記録を除いた、登記記録に記載されている全ての事項について証明するもの。
- 現在事項証明書・・・登記記録に記載されている事項のうち、現在効力があるものについて証明するもの。
なお、登記記録として記載されている事項のうち、変更された項目については除外されます。
例えば、住所や所有者名などが変更された時には、約3年をもって登記記録から除外されます。
すでに閉鎖されてしまった登記記録を確認するためには、登記事項証明書によって確認します。
ここには、かつて全部事項証明書に記録されていた内容のうち、効力を失ったものがまとめられています。
閉鎖事項証明書は、一般的にはそれほど利用されることはないものです。
しかし、不動産に怪しい点があると感じている場合、例えば所有権が度々移転しているとか、抵当権の設定が頻繁に変わっている不動産の場合には、閉鎖事項証明書を参考にすることがあります。
もっとも、閉鎖事項証明書は銀行員が必要に応じて参考にするものであり、不動産担保による融資を検討している人は気にかける必要はあまりないでしょう。
全部事項証明書のチェックポイント
銀行員が不動産を評価するとき、特に重視するのが全部事項証明書です。
全部事項証明書は、表題部、甲区、乙区、その他に分けて記載がなされています。
それぞれの項目について、銀行員がどのように見ているかを知っておくと、不動産担保についての価値を把握する助けとなり、融資交渉のカードとしてより適切に活用できるようになります。
表題部
表題部は、不動産の現況について記載されている部分です。
不動産の所在地や地番、利用状況、面積、構造などが記載されています。
銀行員は、表題部を以下のように見ていきます。
- 銀行が把握している不動産は、登記されている不動産と同一のものか。
土地の場合には、合筆や文筆によって変化していないか。 - 地目や種類に、担保不適格な要素はないか。
具体的には、地目ならば公園や保安林となっているもの、種類ならば寺社となっているものなど、社会公共性に密接に関係する要素があれば、処分すれば公共性に損なうこととなるため、担保にふさわしくない。 - 不動産の保存登記の年月日を見て、築何年の物件であるかを把握する。
築年数は価値評価に大きく影響する要素となる。 - 担保提供物件以外に未登記の物件はないか。
実地調査で確認し、それで不十分ならば固定資産税評価証明書と登記事項証明書を照らし合わせて調べる。
甲区
所有者は誰であるか、過去の所有者はどうなっているか、所有権への制限はあるかといった項目が記載されています。
甲区について、銀行員は主に以下のようなチェックを行います。
- 現在の所有者は、担保提供者と一致しているか。
現在に至るまでの所有者の変更について、売買や相続などの経緯もチェックする。 - 対象不動産の移転状況をチェックする。
移転の経路が不自然であったり、移転頻度が高い場合には何らかの虚偽表示や詐害行為が含まれる可能性があるとして、要注意とみなされる。 - 所有権を制限する登記がないか。例えば、停止条件付所有権移転仮登記などが代表的なものである。
所有権に制限があれば、担保として押さえても銀行の権利が保全されない可能性があるため、担保としては不適格となる。
この場合、銀行は担保取得をしないのが普通である。
乙区
乙区には、所有権以外の権利について記載されています。
- 先順位抵当権の設定がなされているか。
もし設定されているならば、設定額はいくらであり、担保余力はどれくらいになるか。 - その他の権利、例えば地上権、地役権、貸借権などをチェックする。
権利関係が多いほど不動産の価値は目減りする。
また、権利関係が複雑になるほど処分が難しくなるため、担保としてはふさわしくなくなる。
その他
その不動産について、土地部分と建物部分をまとめて抵当権を設定したり、複数の土地をまとめて担保にしたりすることがありますが、その場合には抵当権を設定した不動産をリスト化した目録を作ります。
この部分について、銀行員は以下のようにチェックします。
- 担保取得した場合、担保となる範囲を的確に把握する。
他行が共同担保として取得している物件ならば、自行も共同担保で取得する。
全部事項証明書によって得られる情報
銀行員は、全部事項証明書に対して以上のようなチェックをします。
その結果、銀行は以下のような視点から情報を把握します。
不動産の存在と内容に関する情報
不動産の存在を全部事項証明書によって確実に把握できるほか、共同担保目録を参考にすることで、資産の全貌を掴むことができます。
例えば、会社の借入を行う際に、経営者個人の資産が担保になっていることがありますが、そのような資産についても把握することができるのです。
担保設定に関する情報
抵当権設定に関する情報を知れば、その会社が他の銀行とどのような取引をしているのかを予測することができます。
抵当権の設定状況から、
- どこの銀行からどれくらい借りているか
- その取引はいつ頃から始まったものであるか
- どのように取引銀行を変えてきたか
といったことを予測することができます。
例えば、かなりの借入があるにもかかわらず全く抵当権がないならば、信用だけで融資を受けているということであり、信用状況がかなり良いことが窺えます。
逆に、多くの抵当権が設定されている会社については、業績が苦しいために信用状況が芳しくなく、それでも資金が必要であり、抵当権を設定して借入を行なっている可能性があります。
このほか、不動産の評価額に比べて抵当権の設定額が低ければ、まだ担保余力があることが分かります。
これは、資金調達余力があるということでもありますから、融資判断の参考になります。
なお、抵当権について調べた時、仕入先などが抵当権を設定している場合があります。
対等な関係にある会社同士で、抵当権が発生することはほとんどありません。
特に注意すべきは、仕入先に対する買掛金の支払いが滞り、抵当権が設定されるような場合です。
銀行員もこの点には注意しており、設定されたのが最近であるような場合には重要な情報と捉えます。
もし、代物弁済予約、所有権移転仮登記、賃借権設定などが行われているならば、場合によっては不動産を担保として高金利での借入がなされていることもあります。
これは、そのような借り方しかできない状況にあったと考えることができ、会社が危険な状況にあるのかもしれません。
このような見方があることも、知っておくと良いでしょう。
登記事項の変更に関する情報
登記内容を確認したとき、何らかの変更がなされているならば、それは必ず注目されています。
例えば、不動産の抵当権について、個人や法人から新たに抵当権が設定されていることが分かれば、金融機関以外の個人や法人から、高金利での借入をしている可能性が考えられます。
これにより、会社の資金繰りが悪くなっていると予測できます。
特に、仮差押えの情報が確認できた場合には、差押えが実際に開始されているということですから、会社は倒産目前と予測することができます。
不動産登記に対するこれらの調査は、新規取引先と既存取引先とで目的が異なります。
新規に取引する会社の場合、まだその会社について情報が少なく、融資判断が難しくなるのが普通です。
そこで、嘘をつけない資産である不動産を調査することで、その会社の資産の概略をつかむ手がかりとするのです。
既存の取引先に対しては、定期的に主要な物件の全部事項証明書を調べることで登記事項の変化を把握します。
特に、その会社の状況に変化を感じた場合には、逐一登記記録を調べ、会社の状況を把握するのに役立てます。
担保にふさわしい不動産の条件
ここまで読んできて分かった人も多いと思いますが、不動産の価値を決める様々な要素の中でも特に重要視されるのが、次の三点です
- 権利関係
- 法律上の問題
- 物件の実態
したがって、不動産をカードとして融資交渉をする経営者は、カードとする不動産の価値を正しく把握するためにも、この三点を意識するのがポイントとなります。
この三点で問題がない物件は、優れた担保と言える場合が多いです。
権利が完全であれば、権利関係の問題が生じることはなく、処分もスムーズに進みます。
また、法律上の問題もなく、物件の実態にも問題がない物件ならば、価値が大きく変動する可能性が低く、処分の際には買い手を見つけることも容易なことが多いです。
これにより、期待した価値で短期間のうちに換金できることが予測できれば、これも担保として好ましいと言えます。
例えば、その土地に家を建てられないとか、公共性が高くて処分しにくいとかの法律的な問題があれば、処分によって回収を図ることが困難になるため、担保には向いていません。
また、実態の調査が困難な物件、例えば遠隔地の物件なども担保には適していません。
銀行員が実地調査を実施することが難しく、管理も難しいからです。
遠隔地の土地を担保としていたところ、その土地が不法占拠されてしまったり、知らないうちに建物が建てられたりしてしまうこともあるため、担保には向いていないのです。
以上の三点について、もう少し具体的に把握しておきましょう。
権利関係(所有権)
まず、その不動産の所有権が明確でなければ、担保として取得することは不可能です。
所有権の形にはいくつかありますが、判断の基準は民法上の解釈に依ります。
- 特定の土地に建物が建てられていても、土地と建物は別の不動産として扱う。
土地を買い取ったからと言って、建物の所有権まで得られるわけではない。
また、土地に抵当権を設定しても、建物に対する抵当権まで得られるわけではない。 - 所有権を取得しても、登記をしていなければ所有権を主張することはできない。
その上で、所有権の形態は単独所有、共同所有、区分所有の三種類に分けられます。
それぞれの形態について、銀行員は以下のように見ていきます。
単独所有
単独所有は、一つの不動産を一人で所有するものです。
単独所有の場合には権利関係も簡単で、銀行員にとっては好ましい形態と言えます。
共同所有
共同所有は、一つの不動産を複数人で所有するものです。
共同所有者は、その物件に対して持分権(その物件に対して持っている権利)を持っており、その共有物件の全体にわたって、持分権に応じた使用が可能となります。
また、持分権は共有者の裁量で処分することができ、処分すれば共有関係から離れることができます。
共同所有では、上記のような基本的な形態の他に含有と総有の形態があり、この場合には銀行は担保として認めにくくなります。
含有とは、共同所有者が持分権を持つ一方、処分に制約がされており、財産の分割請求ができない形態であり、担保としては不適格です。
総有は、共同所有でありながら各共有者に持分権を認めない形態であり、これも担保として不適格です。
このような特殊な共同所有関係にあるならば、融資交渉のカードとして使えない可能性があるので、注意が必要です。
区分所有
区分所有は、一棟の物件に複数存在している店舗、事務所、住戸などを、二人以上の所有者で区分して所有するものです。
区分所有では当期の際に敷地利用権を一緒に登記します。
このため、区分所有している物件を処分するとき、物件として専有している部分と、それに応じる敷地利用権は一緒に処分することとなります。
しかし、区分所有者が一棟物件全体を共同で管理していくことなどから、単独所有よりも利害関係が複雑であったり、管理が容易ではなくなることもあるため、やや評価は落ちると言えます。
権利関係(借地権)
権利関係については、所有権の他にも借地権について知っておくべきでしょう。
現在の借地借家法では、定期借地権と呼ばれる権利が設けられています。
あらかじめ設定された期間が終了した時には、土地の貸借関係が自動更新されることなく消滅し、貸主に返還される仕組みになっています。
定期借地権には、3種類の形態があります。
- 一般定期借地権・・・一般人のマイホームや別荘に対する借地権で、期間は50年以上に設定される。借主は期間終了後、更地に貸主に土地を返却する
- 建物譲渡特約付借地権・・・一般人のマイホームや別荘に対する借地権で、期間は30年以上に設定される。期間終了後、貸主は借主の建物を時価で買い取って契約を終了する
- 事業用借地権・・・しばしば事業地を変更する事業者に対する借地権で、期間は10年以上20年未満に設定される。期間終了後、借主は更地にして貸主に返却する
というのも、借地権付きの不動産は譲渡や担保設定が可能であるものの、期間の経過によって価値が下がる性質があるからです。
価値の変動が起きることから評価は難しく、担保として不適格とみなすことが多いです。
法律上の問題
法律上の問題も、不動産の価値を大きく左右します。
色々な法律によって規制が設けられています。
特に日本は狭い国土に多くの人口を有することから、国土をよりよく活用していくためにも、不動産の利用には色々な制限が課せられています。
したがって、銀行員が不動産価値を評価するときには、かならず法律上の問題も考慮します。
特に考慮されるのが、都市計画法、農地法、建築基準法の三つです。
このほかにも細かい規制はあり、不動産業者や不動産鑑定士ならば細かい規制も考慮し、精確な評価をするでしょう。
しかし、銀行員が融資の判断をする際には、融資判断の材料としておよその価値を判断することから、以上の三つの法律を中心に考えていきます。
都市計画法
都市計画法とは、都市が健全に、秩序を以て、バランスよく発展していくための法律です。
都市計画法では、対象となる都市計画区域について、優先的に市街化を図る市街化区域、市街化を抑制すべき市街化調整区域、都市計画の対象外である非線引き区域などに区分けしています。
市街化区域であれば担保価値は認められやすいのに対し、市街化調整区域は新たに建築や増築が難しいため、価値はかなり低く見積もられることになります。
非線引き区域については、都市計画による規制を受けにくく、用途地域の規制や開発許可の基準も緩いです。
しかし、開発対象となっていないような土地ですから、ライフラインが整備されていない場合も多く、また今後どのような発展をしていくか分からないために活用が見出しにくいのです。
このほか、都市計画法で重要なのが用途地域、建蔽率、容積率でしょう。
特に用途地域は重要で、住居、商業、工業、その他の12種類の用途地域に分けられており、都市計画によって用途が制限されます。
そして、それぞれの用途地域に応じて掛け目が設定されており、
- 商業地域ならば少々プラスの評価
- 住居地域ならば評価に影響なし
- 中高層住居専用地域ならば少々マイナスの評価
- 低層住居専用地域はやや大きめのマイナス
- 工業地域ならば大きなマイナス
- 工業専用地域は担保価値なし
- といった評価を行います。
また、建蔽率(敷地面積に対する建築面積の割合)や容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)も都市計画法の影響を受けますが、これが基準を満たしていない物件は違法建築物とみなされ、担保として不適格とみなされます。
農地法
農地法は、農家の地位の安定と食料生産の向上を目的とする法律です。
日本は食料自給率が低いことが問題とされているため、農地を守る必要があることから、農地法が制定されています。
農地法によって、不動産には以下のような制限がなされます。
- 農地を農地として売買あるいは貸し借りする場合に限って、所有権の移転や貸借権の設定が可能
- 自己所有の農地を、所有者自らが農地以外のものに転用する場合に限って、農地の転用が可能
- 所有権の移転に伴って農地を転用する場合に限って、農地の転用と所有権の移転が可能
- 所有権の移転や農地の転用の際には、農業委員会の許可が必要
つまり、農地法の規制によって、農家でなければ農地を取得することはできないことが分かります。
これにより、銀行が農地を担保とした場合、返済困難となって差し押さえようとしても、農家でない銀行に農地の所有は認められないため、担保権の実行が不可能です。
もし、農地の転用を農業委員会に認めてもらえたならば、その農地に担保価値も出てくるでしょうが、担保にしたいというだけの理由で転用を認められることはほとんどありません。
農業に関連する会社の中には、所有する不動産の中に農地が含まれる会社も多いと思います。そのような会社の融資交渉では、農地を担保とした融資を希望するかもしれませんが、基本的に不可能だと考えておきましょう。
建築基準法
建築基準法は、建築物の構造や設備や用途などについて定めることで、その建築物を利用する人の安全や健康、財産などの保護を目的とする法律です。
建築基準法の規制によって、構造や防火上、衛生上の問題があるとされるならば、その不動産は担保として不適格とみなされる可能性が高いです。
建築基準法では色々な規制がなされていますが、例外などもあって分かりにくいものです。
銀行の見方では、防火上の必要から消防車が問題なく通れるように、道幅4m以上の道路に接していなければならないという規制が重視されるようです。
ただし、2項道路(建築基準法第42条第2項によって例外的に認められる道路)の場合は例外です。
2項道路では、建築基準法が制定された時、あるいはその地域が都市計画区域に指定された時に道幅が4m未満であったもので、なおかつ特定行政庁が指定する道路です。
2項道路では、道幅が4m未満であったとしても、道幅4mの道路となるようにセットバックして建築することで、建築基準法の問題をクリアすることができます。
このほか、隣接する道路が公道か私道かによっても権利関係に問題が出てくることもあり、銀行員の見るべきところとなっています。
建築基準法は、細かい部分まで考慮することは難しいので、銀行の見方と同じように、隣接する道路を中心に考えていくのが良いでしょう。
物件の実態
最後に、物件の実態について見ていきますが、この時銀行員は現地調査をします。
不動産登記で権利内容を調べても何ら問題なく、法律上の問題も見られず、担保として適格に思われたとしても、現地調査をすれば傾斜地や崖地だったということもあり得ます。
だからこそ、現地調査によって問題の有無を確認し、さらに立地に魅力がある不動産であるかどうかを調査します。
この時に見られるのは、その不動産が実在しているかどうかといったことはもちろんのこと、以下のような点について見ていきます。
- 土地の地勢
(平坦地・高台地・傾斜地・崖地など。平坦地は担保価値が高く、傾斜地や崖地は担保価値が低い傾向がある) - 形状
(正方形や長方形は活用しやすい土地であり、担保価値も高い。不整形は、形にもよるが活用しにくく、担保価値も下がりやすい) - 道路との関係
(建築基準法の問題がないか。問題があれば減価の対象となるか、担保設定は不可能となる) - 周辺環境
(鉄道、汚水処理場、墓地などの忌避施設の有無。忌避施設周辺の不動産は人気が低く、担保価値も下がりやすい) - 交通の利便性
(交通の利便性がよい不動産は、担保価値が高くなりやすい。駅の近くは良い評価をされることが多く、駅の規模が大きいほど好ましい。このほか、商店街などとの距離も、交通の利便性として考慮される) - 土地としての需要
(需要の高いエリアの不動産は、担保価値が高くなりやすい。現時点では需要が高くない場合にも、今後開発が予定されている地域ならば担保価値が高くなりやすい)
このような銀行員に見方を知っておくと、自社の所有する不動産の価値はどのようにみられるかを知るための参考になります。
評価方法
以上の全てのことを含めて、具体的な評価の方法に迫っていきましょう。
不動産を評価する際には、収益物件でないものについては取引事例比較法、収益物件については収益還元法という方法が用いられるのが普通です。
収益物件以外
住居など収益物件以外を担保とする場合には、類似する不動産がどのように取引されてきたかを参考とします。
現在の市場環境や物件の所在地域特有の要素なども踏まえて、不動産価値を判断します。
これを、取引事例比較法と言います。
しかし、これは不動産鑑定理論における考え方で、不動産鑑定の専門家ではない銀行員は、もう少し簡単な見方をします。
国土交通省によって公表されている基準地価や公示地価を基本として、その不動産の権利関係や法律の問題、実態などを踏まえて常識的に判断していきます。
それほど専門的な見方をするわけではありませんから、経営者も銀行員と同じ目線で考えることができます。
収益物件
賃貸物件などの収益を生んでいる物件では、その不動産の収益性を基準として評価します。
その不動産の将来的な価値を、現在価値に割り引いて評価します。
より具体的には、収益還元法は永久還元法と有期還元法の二種類の方法があり、銀行員は簡単な永久還元法を使うことが多いとされます。
ネットインカムとは、純営業収益のことであり、年間の賃貸収入から経費を差し引いたものです。
ローンで購入した収益物件もあるでしょうが、ネットインカムでは支払金利などは考慮しません。
期待利回りは、その時々における金利水準によっても変化するものですが、期待利回りを10%と仮定するならば、不動産の評価はネットインカムの10倍ということになります。
もちろん、これまで見てきた通り、不動産の評価は多くの要素に左右されます。
したがって、単純に取引事例比較法や収益還元法によって担保価値が決まるのではありません。
あらゆる要素から、担保として適格か不適格かを判断し、適格だとしても減価の対象となるものは減価したうえで、担保価値は決められていきます。
不動産を担保に融資を引き出す際には、不動産の価値を左右する要素について総合的に考えていくべきなのです。
まとめ
不動産を評価するにあたり、銀行員がどのような見方をしているのかが分かったと思います。
非常に細かく見られているように感じる人もいるかもしれませんが、不動産は確実性の高い資産であり、銀行の融資判断にも役立つことから、ある程度正確に把握しておく必要があるのです。
銀行員の見方を知っておくと、経営者もある程度的を射た見方で不動産を考えられると思います。
「不動産を担保としたのに、なぜか融資希望額に届かなかった」ということはなくなりますし、
「自社の不動産には5000万円の価値が見込めるから、次回の資金調達ではこれを担保にしよう」
などと考えることもでき、不動産を資金繰りに活用しやすくなるのです。
ぜひ、自社の不動産を活かすためにも、銀行員目線で不動産を評価できるようになりましょう。
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