企業が資金調達をするとき、皆さんはどのような方法で行うでしょうか。
誰もが真っ先に考え着く資金調達法といえば、何といっても銀行から融資をうけることです。低金利で融資を受けることができれば、無理なく資金繰りが可能でしょう。
しかし、資金調達方法は銀行融資だけではありません。
ほかにもいろいろな資金調達法があり、中には経営改善にも役立つ資金調達法もあるのです。
資金調達方法にはいろいろある
企業が経営を続けていくためには、運転資金が途切れることなく供給されなければなりません。
そのためには、企業は無理のない事業計画を立てて売上げを伸ばしつつ、資金がショートしないように運営していく必要があります。
しかし、事業に不測の事態はつき物です。
- 災害によって営業できなくなる
- 商品に重大な欠陥が見つかって販売できなくなる
- 売掛先企業が倒産して売掛債権が回収できなくなる
などによって、資金繰りが厳しくなることがあるのです。
そのような時にも経営を続けていくためには、企業はどこからか資金を調達しなければなりません。
その方法として考えられるのは「融資を受けて資金を調達するか・保有する資産を売却して資金を調達するか」といったところでしょう。
もちろん、それ以外にも資金調達の方法はあるのですが、一般的に認識されている方法やお勧めできる方法としては、融資か資産の売却なのです。
例えば、以下のような方法があります。
- 公的融資を受ける
- 銀行融資を受ける
- ノンバンクから借りる
- 少人数私募債を発行する
- 売掛債権を証券化する
- 売掛債権を担保に融資を受ける
- 約束手形を手形割引する
- 売掛債権を売却する並び項目
本稿では、これらの方法を解説していきます。
どの方法を利用すべきであるかということは、企業のおかれている状況によって異なります。皆さんの企業にはどの方法が適しているのか、考えながら読んでいただきたいと思います。
ファクタリングについての記事はこちら
公的融資を受ける
融資を受けることを考える経営者は多いと思いますが、一口に融資といっても融資を受ける機関は様々です。
最も安全性が高く、良い条件での融資が期待できるのは、政府系の金融機関から公的融資を受けることです。
このような融資は、日本国内の商業を活性化するために行われているものです。融資を受けた企業が返済による圧迫を受けて経営が厳しくなることがないような設計が成されています。
住宅金融公庫などは多くの人が知っているところでしょう。国が運営している銀行のようなものであり、資金調達の際に多くの人が利用できるものです。
具体的に言うならば、政府系金融機関とは政府が一部または全額を出資している金融機関です。そのため、政策に沿った融資が行われています。
財政投融資で原資を調達するか、国の一般会計から補助金を受けることによって成り立っているため、民間の金融機関と比較して低い金利で融資が行われています。
本来これらの政府系金融機関は、民間で取り扱うものが難しい分野を扱うことを目的として立ち上げられたものでした。
起業の際や中小企業が融資を受けるにあたっては、国民生活金融公庫・中小企業金融公庫・日本政策金融公庫からの融資が利用しやすいものといえます。
そこで、これらの機関について解説しておきます。
国民生活金融公庫
民間の金融機関からの融資が難しい国民を対象として融資を行うものであり、国民経済や国民生活の向上を目的としています。
主に、以下のような融資を行っています。
- 普通貸付
- 生活衛生資金貸付
- 恩給担保貸付
- 記名国債担保貸付
- 教育資金貸貸付
このうち、事業者が融資を受ける際に利用する制度は普通貸付における経営改善貸付や、生活衛生資金貸付における振興事業貸付となります。
これによって、事業資金の融資を受けることができます。
中小企業金融公庫
全額政府出資によって生まれた金融機関であり、事業向け融資に特化しています。
国民生活金融公庫とは異なり、それなりの規模がある中小企業が「数千万円~数億円の融資を希望する場合」に利用することになります。
国民生活金融公庫が融資限度額4800万円であるのに対し、中小企業金融公庫はその10倍にあたる4億8000万円となっていることからも、両者の使い分けがわかると思います。
しかし、中小企業金融公庫を利用している会社はそれほど多くはありません。
国民生活金融公庫は多くの会社が利用していますが、中小企業金融公庫は検討に挙がらないケースも多いようです。
それほど敷居が高い金融機関でもありませんから、検討してみても良いでしょう。普段から取引のある銀行に相談して、代理貸付を受けることも可能です。
商工組合中央金庫
歴史は昭和11年と古く、政府と中小企業の組合が共同出資して作られました。
商工組合中央金庫の融資の対象は、「商工組合中央金庫に出資している中小企業等協同組合・協業組合・商工組合・同連合会などの中小企業団体とその構成員」とされています。
そのため、この条件から外れる会社は融資を受けることはできません。
銀行融資を受ける
公的融資の次に考えられるのは、銀行融資です。
銀行は預金者を募ってお金を預かり、その預金を第三者に貸し出すことで、金利収入を得ています。得られた金利の一部が預金者に還元されていることは、誰もが知っているところです。
後述のとおり「ノンバンクでは預金者を募るわけではないため資金量も少なく、高い金利での貸し出しを行っています」が、銀行ではこれと比較して金利が低くなっています。
ただし、銀行融資にもデメリットがあります。それは、審査が厳しいということです。
銀行は、預金者から預かったお金を運用しているのですから、貸し倒れを激しく嫌い、融資に慎重になるのは当然のことです。
十分な担保がない相手、保証人をつけられない相手、信用力に乏しい相手に対しては簡単に融資を行うことはないのです。
したがって、事業資金の融資を受ける企業は、事業成績や財務状況が安定していることのほか、事業計画をきちんと練っておく必要があります。
融資のタイプ
銀行融資には二通りあります。それは、信用保証協会の保証付きでの融資とプロパー融資です。
信用保証協会の保証付き融資では、信用保証協会という機関が保証人となったうえで、銀行から融資を受けるものです。信用保証協会は公的機関であることから、これが保証人になることで銀行は安心して融資ができるというわけです。
ただし、信用保証協会を利用して融資を受ける場合には、信用保証協会に対して保証料を支払わなければなりません。
一方、プロパー融資とは、信用保証協会をはさまずに融資を受けることです。当然ながら保証料は発生しませんが、銀行からの信頼を得なければ借りることはできず、そのために担保や保証人を求められるのが一般的です。
担保にできるものにはいろいろあり、後述の売掛債権も担保となり得るものですが、より一般的なものとして建物や土地といった不動産が代表的なものとして挙げられます。
不動産は価値が変動するものですから、担保としての評価額は目減りするのが普通です。このほか、預金を担保にすることもできます。この場合には価値の変動がないため、額面金額がそのまま担保の評価額となります。
この他、有価証券や動産も担保として提供が可能です。
というと、人身売買のようで聞こえはわるいのですが、
万が一返済ができなくなった場合に保証人から取り立てることによって、銀行が損失をカバーするものですから、やはり担保のようなものでしょう。
融資金額が少額ならば問題ないこともありますが、事業資金の融資ともなれば多額のお金が動くことですから、保証人がつくのは普通のことです。
中小企業は、一般的に担保として差し出せる資産をあまり持っていないものです。そして保証人が得られないことも多いでしょう。そのことから、審査に通らないこともよくあり、銀行から資金調達ができないケースは多いものです。
そのようなとき、審査の緩いノンバンクからの借入を検討する経営者も多いのですが、これはどのようなものなのでしょうか。
ノンバンクから借りる
ノンバンクからの借入とは、たとえば商工ローンやビジネスローンなどの事業者ローンがこれにあたります。ノンバンクは融資のための審査が緩いため、これによって資金を調達する中小企業や個人事業主は少なくありません。
ノンバンクはデメリットが大きいため、他に資金調達手段があるならば、利用しない方が賢明です。
といっても、危険な取引先というわけではありません。
皆さんが利用しているクレジットカードの発行元である信販会社や、銀行系カードローン会社もノンバンクに分類されるもので、案外皆さんの身近にあるものなのです。
簡単に捉えるためには、なぜ「ノンバンク」という名称なのかを考えればよいでしょう。
信販会社や消費者金融などは預金業務を行っていませんから、ノンバンクに分類されます。では、ノンバンクの種類を見ていきましょう。
信販会社
信販会社とは、クレジットカードの発行を行う金融機関であり、オリエントコーポレーション・クレディセゾンなどがよく知られています。
信販会社も事業者ローンを提供している会社がたくさんあります。
消費者金融
消費者金融といえば、アイフル・プロミス・アコム・レイクなどが有名です。消費者金融には銀行系と非銀行系があり、最近は銀行の系列化が進んでいます。
アイフルが非銀行系として有名ですが、それ以外の大手消費者金融の多くは銀行系となっています。
消費者金融はイメージからもわかることですが、一般的に「消費者金融」というときには、個人に対して無担保・保証人なしで少額融資を行っている業者を指します。
しかし、消費者金融でも商品の一つとして事業者ローンも提供しているのが普通です。
専業のビジネスローン会社
多くのノンバンク系の業者は目的別にローンを取り扱っていますが、このような業者ではビジネスローンだけを取り扱っています。
といってもビジネスローンもさまざまであり、個人事業主を対象とした少額のビジネスローンや、設備投資などのための大口のビジネスローンまで、いろいろなものがあります。
ノンバンクの金融業者から融資を受けるメリットは、柔軟に融資してくれることです。
たとえば、前期決算分が赤字であったり、税金の滞納があったとしても、事業計画や返済計画によっては融資を受けられる可能性があるのです。
ただし、それは業者側からしてみれば貸し倒れリスクが大きくなることでもあります。ですから高金利での融資となり、これがデメリットであるといえます。
公的融資の金利は1.0~2.0%程度であり、銀行融資の金利は1.0~3.5%程度ですから、それと比較すると極めて高い金利を条件として融資を受けることになります。
返済の負担が大きくなるため、資金繰りがさらに厳しくなったり、なかなか改善しなくなる可能性が高いのです。なるべく利用しない方が良いといえます。
また、ノンバンクからの商工ローンは、多くの場合「融資限度額が1000万円まで」となっているため、それ以上の融資を希望する会社は利用することができません。
少人数私募債を発行する
少人数私募債とは社債の一種であり、特に中小企業が利用しやすい社債です。
社債というと、時に新聞が「A社が○億円の社債を発行」などと報道するため、大企業や有名企業が取り扱うイメージがあるのですが、少人数私募債は中小企業でも取り扱いやすい設計になっています。
その名の通り少人数に対して発行される社債であり、親族・友人・従業員・取引先など、自社の縁故者を対象として発行されます。
少人数私募債の条件
少人数私募債は縁故者に発行するため銀行などから審査を受ける必要もなく、社債を引き受けてくれる人を見つければ発行が可能です。
そのため、財務体質が良好ではないために公的融資や銀行融資を受けられない企業にとっては、有効な資金調達手段となります。少人数私募債を発行するための条件は、以下の三つです。
- 社債引受人の勧誘が50名未満であること
- 発行する社債が第三者に譲渡される恐れが少ないこと
- 発行総額が最低券面額の50倍未満であること
もし50名以上に対して募集を行うと、証券取引上で公募の扱いとなり財務局に届出義務が生じます。また、あくまでも勧誘が50名未満となっていることに注意しなければなりません。
49人に勧誘を行い49人に引き受けてもらうのは大丈夫なのですが、50人に勧誘を行い49人に引き受けてもらうのはダメなのです。50人以上に対して勧誘すれば公募になります。
次に二番目に関してですが、発行時に社債を引き受けた人が、発行後に社債の一部を第三者に売却することで、債権者が50人以上になってしまってはいけないからです。
あくまでも引受人を50名未満に保つために、社債の募集要項において、一括譲渡以外の譲渡を認めないなどの記載をして対応する必要があります。
社債の発行総額は、最低券面額の整数倍までと決まっているため、49.9倍などの倍数は認められません。たとえば、最低券面額を100万円とした場合、発行総額は4900万円までとなります。
少人数私募債のメリット
少人数私募債のメリットは四つあります。
メリットその1:担保が必要ない
少人数私募債は無担保で発行することが可能です。少人数私募債で重要となるのは、何といっても縁故者との信頼関係です。
少人数私募債の引受人は会社に近い存在の人々であり、普段からよく理解しているからこそ引受人になってくれます。
公募の場合には抵当権をつけるのが一般的ですが、これは信頼関係のない投資家を募集するからこそ必要になることです。公的融資や銀行融資には担保が必要であることが多いため、これは大きなメリットです。
メリットその2:償還期間や利率を自由に決められる
少人数私募債の発行には金融機関などはからまないため、償還期間や利率は自社で決めることができます。引受人との信頼関係が強ければ、長い償還期間と低い利率で発行することもできるでしょう。
しかし、引受人にとって全く魅力がない条件では引き受けてくれない可能性もあります。そのため、銀行の預金利率より高めに設定するのが一般的です。
つまり、銀行に預金していてもお金がほとんど増えて行かない時代ですから、それよりは自社にお金を貸したほうが良いと考えてもらうわけです。
メリットその3:銀行などが設定する資格要件を満たさなくてもよい
銀行・証券会社・保険会社・公的金融機関などに社債を発行する銀行保証付私募債を利用した場合、引受審査が行われます。
そのため、保証を受けるためには純資産や自己資本比率といった資格要件を、満たす必要があります。
これに対して、少人数私募債における要件といえば株式会社であることだけであり、引受人さえ得られれば、企業が困難な状況に置かれていたとしても発行することができます。
メリットその4:社債におけるその他のメリット
たとえば、増資とは異なり債権者には議決権がないことです。社債は満期で一括償還するため、期間中の資金繰りが圧迫されないメリットがあります。
また、利息も年に1~2回支払えばよいため、これも調達資金を活用しやすくしています。
少人数私募債のデメリット
ここまで読めばわかると思いますが、少人数私募債は中小企業にとって非常にありがたい制度です。
しかし、デメリットもあります。
まず、償還日に一括返済するというのは、発行額によってはかなり大きな金額を一括で返済しなければならないため、資金管理をきちんとしておかなければ債務不履行を起こしてしまいます。
そうなれば、信頼関係のある縁故者たちに多大な損害を与えることになるかもしれません。
公募債ならば、発行相手はプロの投資家です。
投資家相手でも不履行を起こせば会社の信頼は失墜してしまいますが、少なくともプロの投資家は生き馬の目を抜く投資の世界で生きている人々です。
しかし、私募債の発行相手は自社の縁故者であり、さらに専門的な投資判断などできない人々です。
信頼関係だけで資金を提供してくれており、事業計画などはそれほど気にしていないか、説明されても表面的な計画内容だけをうのみにして引き受けることが多いのです。
返済できなくなってしまえば大きな損害を与えるばかりではなく、だまされたと考える人もいるでしょうから、ひどく責められることになるでしょう。
会社の経営が危機的状況でも、信頼関係さえあれば少人数私募債によって資金調達が可能となることもあるでしょう。
そのようなとき、状況の建て直しが見込めないにも関わらず、当面のつなぎ資金として少人数私募債を募集するようなことは控えるべきです。
無担保ですから、不履行を起こしても差し押さえられることはありません。しかし信頼関係のある縁故者から恨みを買うことになるため、安易な利用は避けるようにしましょう。
売掛債権を流動化する
ここからは、企業の所有する流動資産である売掛債権を利用して、資金調達を行う方法を紹介していきます。
企業が取引先に商品を販売したとき、現金によって決済されることはあまりありません。多くの場合は後日に支払いをすることになり、売掛債権が生じます。
売掛債権の支払サイトは取引内容によって異なりますが、おおむね3~6ヶ月となっています。
この売掛債権が発生するにあたり、販売企業ではすでにいろいろな支払いが生じています。
- 商品の仕入れ費用原材料の仕入れ費用
- 製造コスト
- 在庫管理コスト
- 人件費など
それでいて、実際に現金として入ってくるのは数ヶ月先のことになるため、その期間内に資金繰りに行き詰ってしまうことがあります。
そのため、売掛債権はできるだけ早めに現金化できれば、それに越したことはありません。
しかし、取引先としては支払期日が早くなることは資金繰りを圧迫することであるため、取引先と交渉したところで支払期日を前倒しにすることはなかなかできないものです。
そこで、さまざまな機関や会社を利用して、支払期日よりも早く資金調達を行うことになります。
売掛債権証券化とは
まず解説するのは、売掛債権証券化です。
これは、決済期日に支払われる代金を裏付けとして、売掛債権を証券化することによって資金調達を行うものです。
具体的には、SPVという事業体に売掛債権を譲渡して資金を受け取ります。
自社で売掛債権証券化を行った場合、売掛先が倒産したり自社が倒産した場合には厄介なことになります。
売掛先が倒産すると、企業は投資家に販売した売掛債権を買い戻さなければなりません。
また、自社が倒産した場合には、販売した売掛債権も債権回収の対象となって差し押さえられてしまうため、投資家に対して証券の支払いができなくなってしまいます。
売掛債権証券化を利用すれば、資金調達に売掛債権を活用することができます。
それだけではなく、貸借対照表から売掛債権の額を減らすことができますから、資産のオフバランス化にも役立ちます。
必要な運転資金だけを売掛債権証券化によって調達するのもよいでしょう。
より大きな額を証券化することによって設備投資に充てる、有利子負債を返済するなどによって、会社の経営体質を改善することもできます。
売掛債権証券化のメリット
売掛債権証券化のメリットをまとめると、以下の通りです。
- 資金調達方法の多様化
- オフバランス化
これらは、すでに解説した通りです。
売掛債権証券化を利用すれば、資産の圧縮につながります。
調達した資金を元に有利子負債を返済したり、買掛金を決済したりすれば、資産圧縮を図れます。
売掛債権のリスク移転
売掛先が倒産したり一部しか支払えないといった場合には、資金繰りは一層厳しくなります。
回収のためには、時間をかけて自社で法的手続きをして差し押さえを行う必要がありますが、それでも100%の回収はほぼ不可能です。
しかし、売掛債権証券化によってSPVに譲渡していればそのような心配もなくなります。
売掛債権の譲渡が容易になる
売掛債権を証券化して投資家に販売することで、投資対象となった売掛債権の流動性は高くなります。
証券化の過程においてSPVはリスクコントロールを行うため、投資家のさまざまな需要にこたえることも流動性を高めることにつながります。
まだ日本の商習慣になじんでおらず、売掛債権証券化を活用している企業は少ないのです。
売掛債権証券化を知り、必要に応じて利用していくことができれば、他企業よりも資金繰りにおいて強みを持つことになります。
売掛債権流動化の方法の一つとして、ぜひ検討してみてください。
売掛債権担保融資とは
次に、売掛債権を担保にして銀行から融資を受ける売掛債権担保融資を解説します。
売掛債権担保融資は、売掛債権の持つ信用力を担保として金融機関から借り入れを行うものです。
売掛債権を担保にして融資を行うということは古くから存在していたのですが、2001年に信用保証協会が売掛債権担保融資保証制度を創設したことで、利用の可能性が広がりました。
現在、売掛債権担保融資というときには、「売掛債権担保融資保証制度を利用することで、売掛債権を担保として金融機関から融資を受けること」を意味するものとなります。
銀行融資のくだりでも説明したとおり、信用保証協会は実績と信頼度に優れた機関です。信用保証協会の保証があることで、銀行は安心して売掛債権を担保として取ることができます。
万が一返済が不可能になった場合には、借入残高の90%を信用保証協会が弁済し、信用保証協会と金融機関は担保としていた売掛債権から回収を行います。
売掛債権担保融資のスキームには、個別保証方式と根保証方式の二つがあります。
個別保証方式では、借入の都度に信用保証協会の保証手続きを経て融資を受けるものです。
借入の際には売掛債権の信用力に応じて担保価値が決められ、担保価値を上限として融資額が決定されます。
根保証方式は、あらかじめ信用保証協会から一定の信用保証限度額について保証を得ます。そのうえで、一年間にわたって借入限度額の範囲内で融資を受けることができるというものです。
この方式では将来的に発生する売掛債権も担保にすることができます。
企業が銀行からの融資を希望するにあたり、建物や土地といった物的担保を提供できないこともあると思います。
そのような場合には、売掛債権を担保として提供すれば、融資を受けられる可能性があります。
不動産がないからと言って無担保で商工ローンから借り入れをするのではなく、売掛債権を担保として融資が受けられないかを検討してみたほうが賢明です。
約束手形を手形割引する
次に紹介するのは、手形割引です。
手形取引は減少傾向にありますが、日本の商習慣には根強く残っているものです。
商品を販売したとき、取引先では支払期日を設定して約束手形を振り出すことがあります。
この約束手形は、振出人と受取人の二者間で行われるものであり、振出人は手形に記載されている支払期日に額面金額を支払う義務を負います。
しかし、支払サイトが長かったり、手形の額面金額が大きかった場合には、支払期日を待たずに資金繰りが厳しくなることもあります。
約束手形も売掛債権の一種ですから、手形割引も売掛債権流動化の一種と考えることができます。
手形割引はよく知られた方法であり、利用したことがある経営者も多いかもしれません。
では、手形割引とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。
簡単にいえば、手形に記載されている支払期日前に現金化することです。
本来ならば、約束手形というものは、支払期日が来てから手形交換によって額面金額の現金と交換するものなのです。しかし手形割引を利用すれば支払期日を待つ必要がなくなります。
手形割引を行ったとき、額面金額をそのまま受け取れるわけではなく、現金化する日から支払期日までの金利相当分を差し引いた金額を受け取ることになります。
このとき引かれる金額を「割引料」と言い、額面金額に対して差し引かれる割引料の割合を「割引率」と言います。
割引率分は目減りすることになりますが、すぐに資金調達の必要があるときには重宝されています。
手形割引の際には銀行などの金融機関や手形割引業者に依頼することになります。
手形割引による資金調達は、法律的に手形の売買と考えられています。
売買は売る側と買う側の合意に基づくものですから、企業側が手形割引を依頼したとしても、銀行や手形割引業者が拒否した場合には現金化はできません。
銀行も手形割引業者も、ビジネスとして手形割引を行っています。
手形の振出人の信用力や、手形割引の依頼人の信用力を調査した上で、手形割引の可否や割引率を決定します。
手形割引と審査
すでに述べたとおり、手形割引は銀行もしくは手形割引業者に依頼します。
この両者の違いは、融資における銀行とノンバンクの違いと同じようなもので、銀行は低い割引率で手形割引をしてくれるものの審査が厳しく、手形割引業者は割引率が高いものの審査が柔軟です。
審査には1週間以上を要し、手続きにあたっての提出資料も多くなります。
審査に通るであろうと考えられ、それほど緊急性がないならば、銀行に依頼して低い割引率で利用するのが良いでしょう。
- 優良手形であるかどうかわからない
- 優良手形とはいえない場合
- 緊急に資金調達しなければならない場合
このような場合であれば、多少割引率が高くなっても手形割引業者に依頼したほうが良いでしょう。
銀行と手形割引業者は、手形割引に対する考え方に大きな違いがあります。
それは、銀行は手形割引を融資と捉えているのに対し、手形割引業者はあくまでも手形の売買と捉えているということです。
そのため、銀行の審査では振出人に対してではなく、手形割引の依頼人に対して審査が行われることになります。
だからこそ、依頼人は担保を求められますし、決算書や納税証明書などの資料も求められることになるのです。
したがって、持ち込む手形が非常に良い手形でも、依頼する企業が問題ありと判断された場合には、手形割引はできません。
振出人から回収できればそれでよいため、依頼者に担保を求めたり、事業成績や財務状況を見るための資料提出も求めません。
したがって、手形割引を依頼する企業が不健全な事業成績や財務状況であったとしても、手形に問題がなければ手形割引をすることができます。
手形割引のデメリット
本来ならば流動性が低い約束手形を利用して資金調達ができるということは、非常に大きなメリットであるといえます。
しかし、手形割引には大きなデメリットもあります。
それは、手形割引を利用したのち、振出人企業が倒産や経営困難によって支払いができなかった場合には、手形割引の依頼企業が弁済しなければならないということです。
そもそも、手形割引は裏書譲渡の一種です。手形を割引する場合には、必要となる要件を手形の裏面に記載したうえで、銀行や手形割引業者に裏書譲渡を行って資金調達を行います。
この裏書譲渡というものは、手形が不渡りになったり、不渡りになる可能性が高いと判断される場合には、譲渡人(手形割引の依頼人)に請求できる権利が認められています。
そのため、不良な手形は最初から手形割引をしないとか、分割払いに応じてくれる手形割引業者を利用するなどの対策をしておきましょう。
不渡りの際に差し押さえなどの最悪の事態が避けられるようにしておかなければなりません。
売掛債権を流動化するためにはいろいろな方法がありますが、回収リスクの移転が全くなされてないという点において、手形割引はデメリットが大きい資金調達法であるともいえるでしょう。
売掛債権を売却する
最後に、売掛債権を売却するファクタリングを紹介しておきましょう。
ファクタリングは、当サイトでも一押しの資金調達法であり、ここまでに紹介してきたいろいろな資金調達法に勝るものです。
簡単にいうならば、ファクタリングはファクタリング会社に売掛債権を売却することによって、現金を受け取ることです。
売掛債権とは、数ヶ月先に商品代金を受け取る権利のことです。手元に入ってくるまでに時間がかかるため、その間に資金繰りが困難になることもあり得ます。
そのようなとき、公的融資、銀行融資、商工ローン、社債の発行、売掛債権証券化、売掛債権担保融資、手形割引などのいろいろな方法で資金調達をすることが考えられます。
しかし、公的融資や銀行融資は低金利で借りられるというメリットがあるものの、長く厳しい審査は避けられません。
少人数私募債はリスクが低い資金調達法ですが、償還期限が来ると一括で返済しなければならないことが負担になります。
売掛債権証券化や売掛債権担保融資は優れた方法ですが、手続きが煩雑です。
手形割引は利用しやすいものの、振出人から回収できなかった場合には弁済しなければなりませんし、そもそも手形取引自体が減少傾向にあります。
ファクタリングの際にも手続きは行いますが、比較的簡素な手続きです。
また、ファクタリングは一般的に償還請求権(回収不能になった場合に弁済を受ける権利)無しで行われるため、売掛先の企業が支払えなくなった場合にも、なんら被害を受けることはありません。
売掛債権を容易に資金化できること、売掛債権に伴うリスクを完全に移転できることがファクタリングの強みなのです。
この他、ファクタリング会社と長期契約を結ぶと、売掛債権が発生すればその都度現金化できる体制を整えることもできます。そのため、運転資金の回転がスムーズに進むようになります。
もちろん、ファクタリングを利用する場合には、ファクタリング会社に対して買取料を支払う必要があるため、本来の額面金額から目減りすることになります。
買取料は、売掛債権の安全性や額面金額、支払いまでの期間などを総合的に判断した上で決定されます。
買い取りの可否や買取料を決定するにあたって、ファクタリング会社は売掛先の信用調査を行います。
ファクタリング会社と長期契約を交わし、将来的に新規の取引先から売掛債権が発生した場合を考えてみましょう。
ファクタリングをする契約であれば、メリットは一層大きくなります。
依頼企業は、ファクタリング会社というプロの調査報告をもとに新規取引先の選定や、与信限度額の決定を行うことができます。
ファクタリング会社の中にはコンサルタント業務を行っている会社もあります。
そのような会社と契約するならば、新規取引先の選定や与信限度額の決定にあたっても、アドバイスを受けることができます。
ちなみに、普通「ファクタリング」というときには、売掛債権買取業務を行う「買取ファクタリング」を指しますが、中には「信用保証ファクタリング」というものもあります。
これは、売掛債権を買取るのではありません。万が一売掛先が支払い不能となった場合に、あらかじめ決めておいた保証限度額の範囲内で保証を受けられるようにするものです。
特に、信用度において不明点が多い新規取引先との取引では、売掛債権の回収リスクは大きくなりがちなのです。
信用保証ファクタリングを利用するならば、貸し倒れを恐れずに積極的に営業をかけることが可能となります。
この他、ファクタリング会社によっても異なりますが、売掛債権に関する様々な業務を代行してくれることもあります。
たとえば、売掛債権買取やそれにあたっての信用調査だけではなく
- 売掛債権の回収
- 信用保証
- 売掛帳簿の作成
- 記帳事務
- 売掛債権の期日管理
なども代行してくれるのです。
これによって、企業は様々な業務をアウトソーシングすることで、経営資源を本業に集中させられるというメリットが得られます。
まとめ
以上のように、資金調達のためには実に様々な方法があります。
資金調達といえば融資だけしか考えない経営者もいるものですが、実際には様々な方法があり、中には手元の資産を活用する資金調達法もあります。
特に、売掛債権を活用することによって、資金調達だけではなく経営改善効果も得られるのですから、ぜひ検討してみるべきだと思います。
自社のおかれている状況には、どの資金調達法が最も適しているのかを考え、最良の資金調達してください。
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