銀行が融資を審査する際、融資担当者が稟議書を作っていることについては、多くの人が知っていると思います。
しかし、稟議書が審査に非常に大きな影響を与えるものでありながら、それを知らずに軽視する人も少なくありません。
また、稟議書は銀行内でのみ回覧される資料であり、自社に対してどのような記載がなされているのか、融資を受ける会社でも知ることはできません。
しかし、稟議書の記載内容を知れば、効果的な融資対策が分かります。
本稿では、稟議書に書かれている内容について、詳しく説明していきます。
稟議書が融資を左右する
会社が融資を申し込むと、銀行は融資を審査します。融資担当者が提出資料を分析し、経営者との面談を行い、必要ならば会社を訪問するなどして情報を集めます。
その情報から、融資判断をどうするべきかを考え、所感をまとめた文書を上司へ提出します。
この文書を「稟議書」といいます。
融資担当者が作った稟議書は支店内で回覧され、徐々に上層部へと流れていきます。
最終的には支店長決裁に至りますが、案件によっては(融資額が大きい場合など)本部決裁に至ることもあります。
稟議書が支店内で回覧されるとき、その稟議書に疑問があれば、回覧者は融資担当者に確認が行います。この時、融資担当者では疑問を解消できないことも多く、その場合には会社に追加資料の提出を求めます。
このため、回覧がスムーズにいかない審査では、会社による追加資料の準備と提出、融資担当者の資料分析による時間のロスも多く、資金調達に時間を要することとなります。
また、融資担当者が融資に否定的な稟議書を作ったならば、基本的には融資拒否の流れで稟議が進んでいきます。回覧する人々が稟議書の内容を覆して融資に踏み切るということは多くありません。
ましてや、稟議制度で重要な判断を下す上層部の人々、ことに支店長は非常に多忙であり、取引している全ての会社について把握する余裕など到底ありません。
このため、融資稟議のほとんどにおいて、支店長以下上層部の人々は、よく知らない会社について融資の可否を判断していくこととなります。
よく知らない会社について判断するために、自ら詳しく情報を分析することもありませんから、判断の大部分を稟議書に頼ることになります。
支店と特別なつながりがない会社では、稟議書だけで融資を判断されていると言っても過言ではないのです。
以上のように、融資担当者が作る稟議書は、融資の可否や審査期間に大きな影響を与えるものです。
稟議書はどのように作られ、何を根拠に融資の可否を判断しているのかを知ることで、稟議書の内容にいくらかでも働きかけることができれば、融資対策に役立つことと思います。
稟議書には、会社の基本情報が記載されるのはもちろんのこととして、融資担当者は以下の項目について、自身の所感と共に記載していくこととなります。
- 業績(融資に値する業績であるかどうか)
- 資金使途(借入の目的は何か)
- 融資条件(どのような条件で融資すべきか)
- 保全策(保全策はどうするか)
- 他行の動向(他の金融機関の動きはどうか)
- 資金調達余力(担保や保証などの余力はどうか)
- 取引振りと狙い(融資以外の取引はどうなっているか、融資を出すことで何が期待できるか)
稟議書は、このような構成で作られているものよ!
その内容が具体的にどう記載されているのかを見ていくと、融資担当者が会社をどのように評価し、融資判断をしているのかが見えてきます。
会社の業績についての記載
会社の業績は、融資判断の中核をなすものだと言えます。
融資の返済は利益の中から行うことが原則と考えられるため、業績が良好な会社は利益からの返済も十分に可能と判断され、業績が悪い会社は利益からの返済が疑われます。
このため、融資担当者は会社の実態把握の一環として、決算書を数期分比較し、売上高や売上総利益率、経常収支などの推移を観察し、融資に値する業績であるかどうかを検討していきます。
また、業績を観察する中で危険と思われる兆候があれば、それも判断材料になりますから、稟議書に記載していくこととなります。
稟議書の記載例
業績について、稟議書には実際にどのような記載がされているのか見てみましょう。
業績がいい会社の記載例
1998年設立の電気工事業者。業歴は20年となり、上場企業を含む大手と主体として取引しており、受注基盤は安定。前期の売上は700百万円、経常利益は8百万円となり、前々期比較で増収増益。現在の業績は、決算期以降6ヶ月経過の試算表にて売上400百万円、経常利益5百万円と順調に推移。
ここ数年、工期の長い大型案件の受注が徐々に増加。資金の立替期間が長期化し、資金繰りを圧迫。資金繰り維持のために借入金も増加しており、返済負担による資金繰り圧迫も増加傾向にある。
業績が普通の会社の記載例
2013年設立の人材派遣業者。昨今の人手不足から需要は増加しているが、従業員不足から業績が伸び悩む。前期の売上は500百万円、経常利益は5百万円で前々期から横ばい。
需要増加に対応するために従業員の雇用を強化。このため人件費負担が資金繰りを圧迫しており、借入金も増加している状態。
業績が悪い会社の記載例
2005年設立の広告制作業者。業歴10年を超え、受注ルートは確立。しかしながら、近年、ピーク時には受注シェア3割を超えていた大手先からの受注が減少傾向にあり、前期売上は200百万円、経常利益は▲15百万円となり2期連続赤字。足元の業績も改善は見られず。決算期以降5ヶ月の試算表では売上80百万円、経常利益▲4百万円と低迷中。
2期連続赤字決算となり、赤字分の補填は手元資金の取り崩しによって対応。手元資金は潤沢であるものの、業績改善の見通しは立たず、今後も財務状況の悪化が懸念される。
問題点は積極的に説明しよう
稟議書では、業績に関して上記のように簡潔に記載されています。これにより、会社の業績の動向と問題点が、稟議にあたる人に理解しやすくなっています。
上記の例で、業績良好の会社でも、何らかのマイナス面に触れられていることが分かります。
業績も財務内容も良く、受注状況にも問題なく、決算書は非常に良いものが出来上がったという場合でも、稟議書では必ずマイナス面を盛り込むのが普通です。
経営状態が非常によく、決算書も良くできているという会社でも、何一つ問題がない完全無欠の会社はないものです。
決算書についても、銀行員目線で見ていくと、どこかに問題点が見つかるため、その点について稟議書では触れていくことになります。
もちろん、銀行は融資することによって利息収入を得ていますし、融資担当者としても融資実績が成績に反映されますから、悪い点にはあまり触れずに稟議書を作る人もいるようです。
しかし、問題点も積極的に把握し、融資の判断に役立てて行くのが融資稟議というものであり、融資担当者に求められる姿勢でもあります。
したがって、それなりに良い経営ができている実感があり、なおかつ決算書の出来栄えが良かったとしても、何らかの問題点が取り上げられる可能性は充分にあります。
経営者は、そのことを前提として、融資対策を図る必要があるのだ!
例えば、数期分の決算書を比較すると、業績は順調であるものの、何らかの影響で資金繰りが圧迫されていたとします。その場合、融資担当者はその点を必ず稟議書に取り上げます。
もちろん、業績が悪くて問題点の大きい会社の場合、ネガティブな稟議書が出来上がる可能性が高いです。問題点が大きいことから、苦しい説明をするとマイナスになりそうだと思う経営者もいると思います。
しかし、そのままでは融資は拒否される可能性が高いため、業績回復のための取り組みや計画について、具体的な資料と共に説明することで、少しでも稟議書の内容がポジティブになるように取り組むべきでしょう。
資金使途についての記載
融資を検討するにあたって、資金使途も重視される項目です。
一般的に資金使途と言えば、仕入れ代金に使ったり、買掛金の決済に使ったり、設備投資に使ったりと、融資を受けた資金の使い道を指すものです。
これ以上の見方をしている経営者は少ないと思います。しかし、融資担当者が資金使途を検討するときには、単なる使い道だけではなく、より深い見方をします。
すなわち、資金の使い道を知り、さらに「なぜその資金使途での融資が必要なのか。それによってどのような効果を期待しているのか」を検討していきます。
「なぜ」という観点で見ていくと、資金繰りの実態が見えてくることが多々あります。業績や資金繰りにどのような影響を期待して融資を受けようとしているのかを知れば、
- 業績が好調で、増加運転資金が発生している。融資によって運転資金を賄い、売上アップを期待している
- 業績が低迷していて、赤字補填資金が必要となっている。融資によって赤字分を補填し、資金ショートを防ごうとしている
- 業績はまずまずだが、不良在庫が発生している。不良在庫処分によって資金繰りが圧迫されるため、資金繰り安定のために融資を希望している
などの資金繰り実態が見えてくることが多々あるのです。
さらに、資金使途は、融資した資金がきちんと活用されるかどうかを知るためにも重要だ!
設備投資などでは、導入する設備の見積書などを提出してもらうことで、資金使途を明確に把握することができます。
しかし、運転資金という名目であれば、運転資金を装いながら赤字補填資金に回されることなどもあります。
銀行は、融資した資金がきちんと活用され、利益に結び付き、返済原資になることを期待しています。しかし、他の目的へ流用されればその期待はできなくなります。
したがって、流用の危険性を量るためにも、資金使途を正確に把握することは、融資担当者の大切な仕事と言えます。
稟議書の記載例
資金使途を稟議書に記載するとき、以下のように記載されているのが普通です。
増加運転資金の場合
増加運転資金。需要増加により売上も増加し、運転資金が不足していることから、今回の借入れ申し出となった。
経常運転資金の場合1
経常運転資金。売上は横ばいだが、過去に借り入れた運転資金の返済が進んでおり、今回改めて運転資金の申し出となった。
現在の借入総額50百万円に対し、所要運転資金は70百万円であり、申し出には一定の事由が認められる。
経常運転資金の場合2
経常運転資金。直近の売上は前期並みで推移しているものの、借入金の返済は年間約40百万円あり、資金繰りを圧迫しているため、資金繰り安定のための借入れ申し出となった。
本件により、向こう1年間の資金繰り安定を図るもの。
設備資金の場合
設備資金。当社の福岡工場の移転に伴い、製造設備増設のために設備投資を計画しているもの。近年、大型の受注が増加傾向にあり、現在の製造能力では対応できていないため、工場移転を機に製造設備増設を実施し、受注に対応するもの。
賞与資金の場合
賞与資金。冬季の賞与資金として10百万円の借入れ申し出。例年、当行から賞与資金を調達しており、今回も例年と同水準での申し出となっている。
銀行が納得する資金使途を考えよう
融資稟議において、資金使途はかなり重視されます。ここで疑問を抱かれることになると、融資を受けることが困難になります。
設備資金などは、銀行への説明もしやすく、資金需要の根拠と投資計画の妥当性さえあれば、資金使途が問題になることは少ないです。
問題となるのは運転資金です。
運転資金として融資を申し込み、資金使途を理解してもらうためには、資金繰り表などを提出するのが最も一般的な方法です。
その資金繰り表によって、運転資金としての需要が発生していることが明確に分かれば、納得してもらうことができるでしょう。
しかし、銀行員の融資実務から考えると、提出資料から運転資金であることを特定できるケースはそれほどありません。
運転資金を装って赤字補填資金や減産資金を引き出そうとする会社も多いのです。
また、運転資金と分かれば融資が出せるというものでもありません。
運転資金が必要となる原因を見てみると、売掛債権の滞留、過剰在庫の発生、仕入れ条件の悪化などが原因になっていることもよくあります。
このため、運転資金として稟議する場合、融資担当者は頭を悩ませることが多いです。
この公式に収まる資金需要ならば、プラスの要素として稟議書に記載されます。
必要以上に融資してしまうと、余剰分が他の目的に流用される可能性があります。
また、運転資金という名目で必要以上の融資を受け、それを赤字補填などに回そうとしているのかもしれません。
運転資金としての資金需要を見る時、融資担当者はこのような見方をしています。
したがって、融資をスムーズに受けるためには、自社が上記の公式に当てはまっているかどうかを確認してみるのが良いでしょう。
もし、公式に当てはまらない融資を希望しているとすれば、本当は運転資金としてではなく、別の目的があるはずです。
資金使途を偽って融資を希望しても、銀行員はそれを見抜くものです。それによって信頼を失うことがないように注意してください。
融資条件についての記載
資金使途を検討して記載したのち、融資条件についての記載へと移ります。これは、皆さんもご存知の通り、金利や返済期間、融資形態などについて記載する部分です。
融資条件が資金繰りに与える影響は大きく、金利は低いほどよく、返済期間は長いほどよいというのが正直なところでしょう。
低金利でも貸し付けて取引を続けたい、あるいは返済期間が長くても安全だろうと思われるような、健全な会社であれば好条件での融資も可能ですが、多くの場合は程よい落としどころを見つけて融資条件とするか、リスクが高い会社には銀行側に有利な条件が設定されるものです。
このため、融資担当者が稟議書を作成する際には、銀行にとって好ましい条件になることを前提とし、しかし会社側が希望する条件や返済能力を考慮することも忘れず、最終的な融資条件を決めていくこととなります。
もちろん、融資条件は資金使途によっても変わります。運転資金は、売掛金回収までのつなぎとして使うものですから、短期に設定するのが普通です。
同様の観点から、季節資金や賞与資金、納税資金といったものも短期に設定されます。
ただし、運転資金が短期であるべきというのは、あくまで理論上の考え方に過ぎません。運転資金の内容によっては、長期的な効果を見込むこともありますから、その場合には長期融資となることもよくあります。
一方、設備資金は長期融資が基本よ。
設備投資の効果が売上に現れるには時間がかかること、さらに融資額も大きいことから、短期の返済には無理があるため、長期の設定となるのです。
したがって、融資担当者が稟議書に記載する融資条件は、銀行に有利な条件、会社の希望条件、返済能力と貸し倒れリスク、資金使途などの複数の要素を絡めて考えていくため、案件ごとにかなりの違いが現れます。
稟議書の記載例
実際の稟議書には、以下のように記載されます。
運転資金の手形貸付
手貸、融資期間5ヶ月、利率1.9%。工事代金回収までのつなぎ資金であり、返済原資である工事代金回収期日に合わせて融資期間を5ヶ月とする。
返済原資が明確であるため、前回のつなぎ資金融資から利率は0.1%引き下げた1.9%を適用。
※手貸とは、手形貸付の略称。稟議書では略称が用いられる。銀行に手形を差し入れて融資を受ける方法であり、短期融資に頻繁に利用される。
納税資金の手形貸付
手貸、融資期間6ヶ月、利率2.125%。納税資金のため融資期間6ヶ月とし、利率は前回と同水準を適用して2.125%とする。
運転資金の証書貸付(評価が高い会社の場合)
証貸、融資期間3年、利率1.7%。最近の業績が安定しているため、期間3年の長期運転資金を許容。他の金融機関との競合上、利率は前回より低水準を適用。
※証貸とは、証書貸付の略称。これも稟議書で略称を用いる。証書(金銭消費貸借契約書)を交わして融資を受ける方法であり、長期融資に用いられる。
運転資金の証書貸付(評価が低い会社の場合)
証貸、融資期間2年、利率3.1%。資金繰り支援のための運転資金。当方から融資期間1年での返済を申し入れたところ、返済負担から当社は期間4年を希望。
しかし、当社のタイトな資金繰り状況を勘案し、融資期間は2年、利率は前回より0.6%高い3.1%を適用した。
設備資金の証書貸付
証貸、融資期間10年、利率2.275%。生産設備の購入資金であり、当社側から期間10年での申し出。期間10年ならばキャッシュフローによる返済が可能であること、担保の差し入れがあること、導入設備の耐用年数が10年であることなどをから、融資期間について当社側の申し出を許容。
借換資金の証書貸付
証貸、融資期間8年、利率1.6%。他の金融機関からの借入を当行で肩代わりするもの。
現在の借入金の残存期間が8年であることから、融資期間を同様に設定。当行から肩代わりを提案したため、利率は現在よりも低水準の1.6%を適用。
当座貸越
当貸、融資期間1年の一括返済、利率1.5%。当社の業績は堅調であり、他の金融機関との競合も激しい。他の金融機関も当貸に積極対応していることから、取引の維持拡大の観点から、当行も当貸に対応したいと考える。利率は他行と同程度の水準を適用。
※当貸とは、当座貸越の略称。一定の限度額までならば、自由に融資や返済を認める融資形態であり、自由度の高さから審査は厳しい。
手形割引
商手極度、契約期間1年、利率1.5%。当社は売上の大半を手形で回収しており、手形割引による運転資金ニーズに対応するもの。
※商手とは商業手形割引の略称。手形割引では毎回審査するのが基本だが、頻繁に手形割引を利用する会社に対しては極度額を設定し、その範囲内でいつでも手形割引可能とする場合がある。その場合に、稟議書には商手極度と記載される。
会社側から働きかけよう
ここでの記載は、融資担当者が融資先の資金繰り状況や希望条件を検討した結果、融資条件はこうあるべきと結論付けるものです。
支店内の稟議でもこの条件が認められた場合、会社としてはその条件を受け入れて融資してもらうか、条件を受け入れずに融資を諦めるかを選ぶ必要があります。
このため、できるだけ資金繰りに負担の少ない条件で借りるためには、稟議書作成にあたって、会社の希望する融資期間や利率をできるだけ認めてもらえるように、融資担当者に働きかける必要があります。
まず、融資交渉にあたって、銀行側の求める条件をそのまま受け入れるのは好ましくありません。
上記の例でも、銀行は融資期間1年を求め、会社側は期間4年求めた結果、融資期間2年に落ち着いた例があります。
もし、会社側が何の要求もしなければ、稟議書には融資期間1年と記載されたはずです。そうならないように、会社側の希望もしっかりと伝えることが大切です。
次に、銀行は低リスクの融資先には融資条件を優遇する傾向があります。そのため、業績や資金繰りがよい会社ならば、その点をアピールするのが効果的です。
業績や財務に問題がある会社でも、不動産や預金による保全を提供し、銀行側のリスクを下げることで、よい条件を引き出せる可能性が高まります。
最後に、他の金融機関との競合を利用することも大切です。上記の例のいくつかでも見られる通り、銀行間の競合は融資担当者にとって注目のポイントです。
会社側に有利な条件で融資する理由として、稟議書に競合について記載されることもよくあります。
業績や資金繰りが良い会社に対しては、銀行は良い条件での融資に積極的になります。
しかし、いくら良い条件といっても、一行だけに融資を依頼する場合には、それほどよい条件にはなりません。
しかし、複数の金融機関から融資を受けている会社ならば、銀行は自行の取引シェアを拡大したいと考えるため、競合先の金融機関より良い条件での融資を検討します。
これにより、融資条件が良くなる可能性が高まります。
保全についての記載
融資した資金は、利益を返済原資と考えるのが原則です。しかし、稟議の時点では返済力に問題がなかったとしても、融資期間中に返済が困難になる可能性があります。
また、業績や財務に問題がある会社に対し、回復を見込んで融資を行う際にも、回復に至らず返済が困難になるかもしれません。
このようなリスクに備えるために、銀行は何らかの保全を図る必要があります。
不動産や預金などを担保として保全を図ったり、信用保証協会からの保証をつけることで保全を図ったりするのです。
保全を確保することができれば、融資の安全性は大きく高まるため、融資実行が容易になるほか、融資条件も良くなることが多いです。
実際の融資では、中小企業の多くは担保を差し入れることが困難であるため、保証協会の保証をつけて融資を受けていることがよくあります。
稟議書の記載例
保全の確保について、稟議書には以下のように記載されています。
保全によって融資が出る場合
当社は現在、本社不動産に100百万円の根抵当権を設定しており、担保価格は100百万円。既存の融資と今回の融資を合わせても100百万円の範囲内であることから、保全は充足している。
時価ベースでの保全で融資が出る場合
今回の融資40百万円に対し、社長の自宅に40百万円の根抵当権を設定。
担保価格は30百万円であるが、時価では40百万円が認められる。担保価格では保全不足だが、時価において保全は充足しているため、融資を許容したい。
保全不足でも融資が出る場合
当社では、本社不動産に根抵当権50百万円を設定しており、担保価格も50百万円。
今回の融資により、当社に対する融資総額は80百万円となり、30百万円の保全不足が生じる。しかし、当社の業績は堅調であり、他行も無担保融資に応じていることを勘案し、融資を許容したい。
無担保で融資が出る場合
業績が堅調であること、他行も積極的に対応していることから、全額無担保を許容したい。
保全は利用させられるのではなく利用しよう
上記の例のように、保全が十分に確保されている場合には、銀行は積極的な融資を検討することが多いです。しかし、中小企業への融資では、担保不足や無担保での融資も多いのが実際のところです。
この時、銀行は代表者個人の資産によって保全を確保できるならばその点を稟議書に書いたり、信用保証協会の保証が受けられる場合にも、それを稟議書に盛り込みつつ融資を検討していきます。
また、預金平残(融資を依頼している銀行に開設している口座の残高)がある程度あれば、それが好材料になることもあります。その預金は資金繰り安定に役立つものだからです。
このため、例えば決算書の内容が良くなかったり、借入金の総額が大きかったりする場合、融資は厳しくなるものですが、預金平残が認められるならば融資に積極的になることもあります。
預金残高は変動するものであり、融資の際にたくさんの預金があったとしても、会社が厳しくなればどんどん減っていくかもしれません。
不動産などを担保に取っていれば、価値が急速に減ることは基本的にありませんが、預金は急速に減っていく可能性があるのです。したがって、預金平残が認められるからと言って、物的担保ほど融資にプラスになるとは限りません。
しかし、融資平残が好材料になることは間違いありません。
このため、預金が大きい銀行ほど融資がスムーズになると言えますから、担保がない会社で素早い融資が必要な場合や、融資を受けるのが少し厳しそうだという場合には、預金残高の大きい銀行を優先的にあたってみるのが良いでしょう。
もちろん、いざという時に、預金平残を根拠とした無担保融資を引き出しやすくしておくためにも、資金を分散して預金するよりも、特定の銀行に集中させておくのがポイントです。
このほか、上記の例にもある通り、業績が好調な会社、特に多くの金融機関が積極的に融資に対応してくれる会社であれば、無担保融資を受けられる可能性が高いです。
そのような会社では、担保はいざという時のために取っておき、平常時は無担保融資を引き出すように心がけるのが良いでしょう。
他行の動向についての記載
融資を依頼している会社が複数の金融機関と取引している場合、稟議書には必ずそのことに触れます。なぜならば、以下の三つの理由から、他行の動向が融資判断の重要な材料になるからです。
他行の判断が参考になる
まず、他行の動向は融資判断の参考になります。
他行が積極的に融資している場合、その会社は多くの金融機関から「融資しても問題ない」と判断されていることになります。
融資のプロがそのような判断を頻繁にしていることから、自行でも融資して問題ない可能性が高いという結論を導くことができるのです。
逆に、他行が融資を拒否している場合には、その会社は多くの金融機関から「融資すべきではない」と判断されていることになります。
業績や財務など、何らかの点に問題があるからこそ、拒否という結論に至っていると考えられます。
依頼先の銀行の融資担当者が、決算書その他から大きな問題点を見つけられず、融資に積極的になっていたとしても、他行が融資に消極的になっているのを見ると、判断が変わることがよくあります。
「この会社には、危険な要素が隠れているに違いない」という見方をするようになり、融資が非常に通りにくくなってしまいます。
これは、個人のローンなどでも同じことでしょう。
個人が消費者金融業者に融資を依頼したり、クレジットカードの契約を申し込んだりして、拒否されたならば、申し込んだ履歴が個人信用情報に掲載されることになります。
それ以降に申し込んだ先では、過去に申し込んでいる履歴を知ることになりますから、「この人は過去にも申し込んでいる。しかしウチにも申し込んできた。おそらく前回の申し込みで断られたからだろう。何か問題があって断られたのだろうから、ウチでも断った方が無難だ」という判断になります。
会社に対する銀行の判断も、これに似たものがあります。他の金融機関の動向が、融資に与える影響は非常に大きいのです。
これは、会社が不調な時も同じことが言えます。
経営困難な会社に対しては、多くの金融機関は支援に消極的になります。
しかし、メインバンクが積極的に支援していたり、他の金融機関がなんとか支援しようと動いている場合には、その流れにのって金融機関全体が支援の方向で動いてくれる場合があるのです。
資金繰りの安定性を量れる
また、他行の動向は資金繰りの安定に大きく影響するものです。
多くの金融機関が積極的に支援している会社ならば、資金不足の際にスムーズに資金を調達することができるため、資金繰りが非常に安定します。したがって、積極姿勢の金融機関と多く付き合っているほど、稟議ではプラスに評価されます。
逆に、積極的な融資を受けられていないならば、マイナスの判断材料となります。
なぜならば、取引している金融機関が融資に慎重になった場合、一気に資金繰りが行き詰まる可能性が高いからです。
例えば、3つの金融機関からそれぞれ1000万円の融資を受けて資金繰りを維持している会社があったとします。もし、このうち1行が融資に消極的になった場合、資金繰り維持のためには残りの2行が1500万円ずつ融資する必要が生じます。
もし、その2行がそこまでの負担はできないと考えて、従来の水準でしか融資しなかったり、追加融資を拒否したりすれば、この会社の資金繰りは困難になります。
このように、取引している金融機関が少なく、それほど積極的な支援を受けられていない会社は、融資してくれている数少ない金融機関が融資拒否に踏み切った時、たちまち資金繰りに行き詰まることとなります。
安定性を欠いているとみることができるため、稟議にはマイナスの評価となります。
このように、他行との取引は資金繰りの安定性に大きな影響を与えるため、融資担当者から重視されることとなります。
融資条件の検討にも役立つ
他行の動向が融資条件に大きく影響することもあります。ここまで挙げてきた記載例からも分かりますが、多くの金融機関で競合が起こるためです。
業績や財務内容が良好であり、融資してもきちんと回収できる可能性が高い会社は、銀行にとっては低リスクで利息収入を狙えるため、非常に好ましい取引先と言えます。
また、そのような会社は簡単に倒産することはなく、むしろ成長していく可能性もあります。
取引関係になれば長期間にわたって低リスクの融資を行うことができ、漸次融資量も大きくなっていく可能性があり、長期的に大きな利益が得られるかもしれません。
さらに、取引を深めることによって、従業員の給与振込口座に指定してもらったり、売掛金の入金口座に指定してもらったりすれば、手数料も大きく稼げるかもしれません。
以上のような期待から、好調な会社に対しては自行から融資したい、自行の融資シェアを伸ばしたいと考えて稟議を進めていくこととなります。
しかし、多くの金融機関が同じように考えています。自行から借りてほしい、融資シェアを伸ばしてたいと考え、自行から営業をかけて借りてもらうこともあります。
銀行側から「借りてください」とお願いするわけですから、融資条件は会社側に有利に設定されるのが普通です。
会社側から融資をお願いする場合にも、融資条件が悪ければ、「より条件の良いB行から借りるようにします」などと言われてしまう可能性がありますから、融資条件は他行より良いものを検討します。
条件を優遇しても、融資するだけの価値があると判断して、そのような条件設定を行っているわけです。
この意味でも、融資担当者にとっては、他行の動向が融資条件の設定を考える材料になると言えます。
他行動向はどう探る?
判断の根拠はいくつかありますが、経営者や経理担当者に直接聞いてみるという方法が最も一般的でしょう。
融資先と色々なやり取りをする中で、他の金融機関が会社にどれくらいの頻度で訪問しているか、融資の提案をどの程度受けているのかといったことを確認していきます。
しばしば訪問を受けており、融資を提案されているとすれば、それは有望な融資先と考える根拠になります。
また、必要書類の一つとして銀行取引一覧表を提出してもらいますが、これも参考になります。
この書類には、融資を受けている銀行別に、融資残高、預金残高、担保状況、融資形態などが記載されており、他行動向の把握に役立ちます。
他行との取引を融資対策に活かそう
上記のように、他行の動向は融資稟議に大きく影響するポイントです。
複数の金融機関から融資を受けていれば、多くの支援によって資金繰りが維持されていると考えることができ、プラスの判断材料となります。逆の場合にはマイナスです。
また、取引している銀行が多い場合には、銀行間での競合が起こり、融資条件などの交渉も容易になります。融資期間や利率が良くなったり、無担保でプロパー融資を受けられたりするようになるのです。
稟議書には、他行の動向が必ず記載され、融資判断の根拠のひとつとして利用されます。会社としても、この仕組みを利用しない手はないでしょう。
これを活かすためには、融資にあたって急に工夫するのではなく、日頃からの取り組みが大切です。
その後、返済を続けることで信用を積み重ねていき、保証付融資からプロパー融資へ切り替えたり、融資額を増やしたりすることを図っていきます。
そうすることで、融資稟議の際に「他行も積極的に融資している」と判断されるようになり、融資にプラスに働きます。
また、実際に積極姿勢の銀行が増えてきたならば、資金調達の際には複数の銀行に融資を依頼し、競合させていくのがポイントです。
もちろん、業績や財務に問題がある会社は、積極姿勢で融資する銀行を増やしていくことが困難ですから、その点での努力も忘れてはいけません。
資金調達余力についての記載
資金調達余力とは、その会社があとどれくらいの資金調達が可能であるかを示すものです。資金調達余力があれば、資金調達によって資金繰りを維持していくことができるため、今後も資金繰りは安定していくと考えることができます。
資金繰りさえ回っていくならば、会社が倒産することはありません。どれほど業績不振に陥っても、支払いが続くうちは倒産することはありません。
このため、資金調達余力があり、資金繰りが今後も回っていく会社ならば、倒産による貸し倒れに陥るリスクが低くなるため、融資にプラス判断することができます。
もちろん、返済原資は利益に求めるのが原則ですから、いくら資金調達余力があっても、業績不振の会社に積極的に融資することはありません。
しかし、中小企業の財務基盤は基本的に脆弱であり、外部環境の変化によって業績に大きな影響を受けるものです。
融資の時点では業績が良くても、将来的に状況が変わる可能性は大いにありますし、好調な業績が続いても、資金がショートして黒字倒産に至る可能性もあります。
このため、業績が堅調というだけの理由で融資を判断することは危険だ。
そこで、資金調達余力も判断材料にして、業績が低迷した場合にも返済を維持できるかどうかを見ていくことになります。
資金調達余力を量る三要素
資金調達余力の有無は、今後の資金繰り安定に大きく影響する要素ですから、融資担当者は以下の観点から慎重に検討していくことになります。
その要素とは、
- 担保余力
- 信用保証協会の保証余力
- 経営者個人の資産余力
の三つです。
担保余力
まず、その会社の担保余力から見ていきます。
担保として確保できる(まだ担保権が設定されていない)不動産や有価証券、定期預金などを保有している会社では、それを調達余力とみて融資のプラス材料とすることができます。
担保になる資産を持っていない、あるいはすでに担保として利用している場合には、担保による資金調達余力は見込めません。
無担保融資で調達できるものが資金調達余力となり、判断は厳しくなる可能性が高いです。
信用保証協会の保証余力
信用保証協会は、それぞれの会社に対して一定の保証枠を設けています。基本的には無担保ならば8000万円、有担保ならば2億8000万円を保証上限としています。
この保証枠に余裕があり、なおかつその枠内で保証を受けられる会社では、それを資金調達余力として見ることができます。
保証枠を使い切っている場合や、保証枠が余っていても保証を受けられない場合には、保証付融資を利用することができず、プロパー融資でなければ借りられないため、プロパー融資で調達可能な部分が資金調達余力となります。
保証余力が残っておらず、プロパー融資も受けられない会社であれば、資金調達余力はないと見なされ、融資を受けることはかなり困難になります。
経営者個人の資産余力
担保余力もなく、保証余力もない会社でも、経営者の個人資産があれば、それを資金調達余力と見ることができます。
経営者が個人的に所有している賃貸物件や持ち家があれば、それを担保として融資を引き出し、資金繰りを回していくことができるため、資金調達余力とみなすのです。
同様に、経営者個人が預金や株や債券といった金融資産を多額に保有していれば、それを資金繰りに使うことができるため、それも資金調達余力とみなすことができます。
以上のように、資金調達余力は色々なものによって見込むことができます。
上記の三つのうち、どれか一つにでも十分な余力が見込めるならば、融資のプラス材料となります。
稟議書の記載例
資金調達余力について、稟議書では以下のように記載されています。
会社の不動産から資金調達余力を認める場合
当社は本社不動産を所有しており、推定時価は80百万円。この不動産に担保設定はなく、担保余力は認められる。
信用保証協会の保証枠から資金調達余力を認める場合
当社は他の金融機関にて、マル保(信用保証協会の保証付融資)の利用が30百万円程度あり。当社の業績により、一定の保証余力が期待できる。
経営者個人の不動産から資金調達余力を認める場合
代取(代表取締役)は自宅不動産を所有しており、推定時価は50百万円。住宅ローン負債があるが、ローン残高は20百万円ほどであり、30百万円程度の担保余力が認められる。
資金調達余力が認められない場合
当社および代取ともに不動産は所有しておらず、マル保の利用も40百万円あり。担保余力は認められず、当社の業績を勘案すると保証余力も認められない。
資金調達余力の確保を意識しよう
資金調達余力がある会社は、資金繰りを維持できる可能性が高く、貸し倒れに陥るリスクが低いため、融資には好材料と言えます。
融資担当者も、資金調達余力がある会社の稟議書にはその旨をしっかり記載し、積極的な姿勢の根拠となります。
逆に、資金調達余力がない会社では、資金繰りが困難になる危険性があるため、融資には消極的になる可能性があります。
しかし、資金調達余力がないものの、他行が積極的に融資しているならば、実質的には資金調達余力があることになりますから、そのような場合にはマイナスにはならないこともあります。
会社の取り組みとしては、資金調達余力を残しておき、いざという時には資金調達余力を根拠に融資を引き出せるようにしておくのが良いでしょう。
例えば、できるだけ無担保融資を引き出すことを考えれば、担保余力を確保することができます。できるだけプロパー融資を引き出すならば、保証余力の確保につながります。
経営者個人の資産余力は、確保しようと思ってもなかなか確保できるものではありませんが、資産形成を心がけておくことで、それが資金調達余力になる可能性があります。
もちろん、無担保融資やプロパー融資を引き出すことは簡単ではありません。
しかし、銀行が求めるままに担保を差し出したり、保証協会を利用したりするのではなく、銀行としっかり交渉していくことが大切です。
銀行が交渉に応じるように経営努力を図ることも、もちろん重要です。
資金調達余力は、このような日頃の努力から生まれてくるものと言えます。
取引振りと狙いについての記載
稟議書の最後で盛り込まれるのは、その会社の取引振りと、融資を実行するにあたっての狙いです。
取引振りとは銀行内の用語で、その会社と融資以外にどのような取引をしているかということです。
融資取引以外でも、銀行とは色々な取引をします。
代表的な取引は預金口座の利用で、会社の売掛金の入金口座として利用したり、従業員への給与振込口座に利用したりすることが多いです。また、支払いのための口座として利用することもあると思います。
与信管理に役立つ
なぜ取引振りが重要になるのかというと、それが与信管理に役立つものであり、また銀行の利益にもつながるからです。
会社の預金口座を開設している銀行に融資を依頼するならば、銀行は預金残高の推移を確認することができます。それが売掛金入金用の預金口座ならば、銀行は売掛金の回収状況を把握することができます。
つまり、会社の財務や業績の状況を、100%信頼できる自行の口座情報から把握することができるのです。
悪い情報を正確にキャッチして、融資判断に役立てるならば、決算書の財務分析よりも正確な判断が可能となります。
決算書に記載されている情報は、あくまでも決算時点での過去の情報に過ぎません。
前期の決算内容が非常に良い会社は、融資をしてもよいという判断になりやすいものです。
しかし、決算以降に業績が悪化している可能性もあります。その場合には、融資に慎重になる必要があります。
また、他行より早く情報をキャッチして動くことによって、業績の悪化がチャンスになることもあります。業績がよい会社では、色々な銀行から融資を受けられるため、自行のシェアを伸ばしていくことは難しいものです。
しかし、業績が悪化しているならば、会社側も今後の融資対策をどうするべきかと悩んでいるはずです。
そこで、いち早く営業をかけることによって、自行の融資シェアを伸ばす機会とするのです。
この辺の判断は、融資担当者によって変わるでしょうが、ともかく取引振りが与信管理と融資判断に活用されることは間違いありません。
銀行の利益になる
その銀行に会社の口座を開設すれば、入金や振り込みに利用されることとなり、銀行は手数料収入を稼ぐことができます。
また、経営者個人の口座を開設したり、従業員の給与振込口座として指定したりすれば、そこでも手数料収入が期待できます。
このほか、従業員が住宅ローンなどのローンを組むときには、その銀行を優先的に利用するというのも、融資以外の取引でありながら、銀行の利益につながります。
また、会社の資金にしろ、経営者個人や従業員の資金にしろ、預金として預け入れておくだけでも、銀行にはメリットがあります。
そして、預金者の預金が融資の原資になっているのです。
つまり、預金が多い会社では融資余力も大きくなり、利益も大きくなるため、その意味でも預金にはメリットがあります。
さらに、いざという時には、会社の口座を凍結することで一定の回収を図ることができるため、保全の意味でも預金の獲得は重要です。
以上のように、融資以外の取引でも銀行に利益をもたらしている会社は、それが融資のプラス材料となります。
単に融資を受けて利息収入だけをもたらす会社よりも、融資以外の取引でも利益をもたらしてくれる会社の方が、銀行にとっては「お得意様」なのです。
お得意様の希望にはできるだけ応えて、長く取引を維持していくことは、商売の基本とも言えます。したがって、融資以外の取引が多い会社は、融資のプラス材料となります。
狙いとは
そして、取引振りと同時に記載されることが多い「狙い」ですが、これは融資にあたっての銀行の狙いです。
安全だから融資する、危険だから融資しないという単純な判断をするのではなく、その融資に意義を見出し、狙いをつけて判断するのです。
そうすることで、銀行に不利な融資条件でもあえて融資したり、貸し倒れリスクが高めの会社にも敢えて融資したりすることで、結果的に多くの利益を狙っていくのです。
一般的には、融資シェアを拡大することや、取引振りを拡大することなどが狙いとなります。
稟議書の記載例
取引振りと狙いについて、稟議書には以下のように記載されます。
国内為替のシフトを狙う場合
当社は業績堅調であり、従来より積極的に融資対応してきた先。
今回の融資対応により、現在A信用金庫で行っている国内為替を当行にシフトが実現する。優良先としても積極的に対応いたしたいもの。
将来的な利益を狙う場合
当社は、中国に現地法人を設立し、今後海外進出が本格化する見通し。海外展開に伴い外為取引が期待できるため、取引メリット拡大を図るためにも、本件には積極対応したいもの。
取引シェア回復狙う場合
当社は、当行の主力先。しかし、近年ではA銀行との取引が拡大しており、当行シェアは減少傾向にある。このままシェアが減少すれば、主力行としての位置づけが揺らぐ可能性があるため、シェア回復のためにも積極対応いたしたく、本件ぜひともご承認賜りたい。
準主力行としての地位確立を狙う場合
当社は、当行準主力先。業績低迷によって資金繰りは不安定。
主力行は、先月融資実行により支援済。当行もシェア相当の融資によって当社の資金繰りを支援し、準主力行としての位置づけを固めたいもの。
銀行に利益を与えよう
取引振りと狙いは、「結局のところ、なぜ融資すべきと考えるのか」という部分であり、結論とも言える部分です。
これまで融資担当者は、財務分析や経営者との面談、その他様々な情報収集を行い、業績や財務、資金使途、保全、他行の動向、融資条件などを稟議書に書いてきました。
それは、融資担当者がしっかりと確認・熟考したうえで記載したものであり、支店長以下上層部の人達はあまり口出しするところではありません。
稟議書の閲覧者たちは、融資担当者の分析結果に目を通し、会社の概況や数字を大まかに把握し、融資判断を導いていきます。
もし、結論を導くために情報が不十分である、不透明であるなどと感じた場合には、融資担当者に確認を行った上で検討します。
つまり、閲覧者の判断の根拠は、融資担当者の分析結果であり、同じ銀行員として同じような考え方で判断していくと、大きな判断のズレが生じることがそれほど多くないのです。
ただし、取引振りと狙いについては、そうとも言い切れません。
例えば、競合の激しい融資先であり、分析結果を踏まえても「積極的に融資すべきだ」と思える会社ならば、融資条件は会社側に有利なものになるでしょう。
大きな利益よりも、着実に取引シェアを拡大したほうがよいと考えるためです。
しかし、どのような融資を実行するのかについては、人によって判断が異なるわ。
10くらいの利益は確保しながら取引シェア拡大を目指すべきと考える人もいるでしょうし、利益は5になっても確実に取引を深めていくべきだと考える人もいるはずです。
また、分析結果から「積極的な融資は躊躇する」と判断した場合も同様です。
稟議書で狙いとしている利益が不十分だと感じたならば、「このくらいの利益しか狙えないならば、リスクを許容するべきではない」、「確かに利益は大きいかもしれないが、受け入れがたいリスクだ」などと考えるかもしれません。
このため、融資をできるだけスムーズに引き出していこうと思うならば、取引振りと狙いの面から働きかけていくことも重要です。
例えば、業績や財務に何らかの問題がある会社は、融資担当者の分析の結果、融資は慎重に検討したいという結論になると思います。
しかし、その銀行の取引シェアが拡大したり、融資以外で利益を得られたりするように仕向け、相応のリターンが狙える案件だと思わせることで、融資実行の可能性が高まります。
銀行に何を狙わせるかによって、融資交渉は大きく変わってきます。
銀行が狙いを定めるようなカードを決めてから融資交渉を始めるのと、何も持たずに融資交渉を始めるのとでは、結果は大きく違ってくるのです。
まとめ
本稿により、融資担当者は会社をどのように分析し、稟議書にはどのように記載していくのかが分かったと思います。
稟議書を踏まえた融資対策を行えば、何も考えずに融資を依頼するよりも、融資実行につながる稟議書に近づく可能性は確実に高まります。
業績の向上や財務の改善が全ての基本ですが、その経営努力を活かすも殺すも融資交渉次第です。
融資をしっかりと引き出していくためにも、稟議書の知識を活かしてほしいと思います。
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