与信管理は、資金繰りに非常に大きな影響を与えます。
与信管理がしっかりしていれば、資金繰りは安定しやすく、逆に与信管理ができていなければ、資金繰りは安定しないものなのです。
したがって、銀行への融資交渉の際にも、与信管理の状態は厳しくチェックされます。
もし、そこに問題が見られるならば、積極的な融資は難しいと判断され、融資交渉は難航する可能性が高いです。
では、与信管理が甘い会社が融資を受けるためには、どのように交渉していくべきなのでしょうか。
銀行の考え方も含め、詳しく解説していきたいと思います。
与信管理と資金繰りの関係
会社の資金繰りを安定させるためには、複数の要素が絡んできます。
まず、売上を資金繰りにしっかり使っていくため、あるいは回収遅延や貸し倒れによる資金繰りへの影響を抑えるためには、与信管理が不可欠です。
もちろん、銀行からしっかりと資金を調達して資金ショートを防ぐことや、万が一の備えとして手元資金を確保しておくことなども、資金繰り安定のためには欠かせない要素です。
このように、複数の要素から資金繰りの安定を図っていくべきですが、特に重要なのは与信管理です。
与信管理がしっかりしていれば、売掛金をしっかりと回収していくことができ、資金繰り計画が狂うことも少なくなります。
また、与信管理がしっかりしている会社では、取引契約の時点で管理を始めます。
取引先の信用度に応じて、与信期間や与信限度額を適切に設定することにより、回収遅延や貸し倒れの影響も軽減していきます。
与信管理ができているということは、それだけ資金繰りの安定性が高いということでもあるのです。
融資にも大きく影響する与信管理
銀行が融資する際には、利益からの返済が可能であるかを見極めるために、業績の安定性を重視します。
それと同程度、あるいはそれ以上に、資金繰りの安定性も重要な判断材料となります。
なぜならば、中小企業の業績は、外部要因によって大きく変化する可能性が高いからです。
例えば、取引シェアの大きい取引先からの受注が減少すれば、売上は大きく減少することになります。
経済環境や消費の動向によっても、業績を大きく左右されることでしょう。
このため、融資の時点では業績に何ら問題ないと判断されたとしても、融資期間中に業績が変わり、利益からの返済が見込めなくなることもあります。
業績が非常によく、資金繰りは不安定な会社ならば、業績だけを根拠に融資を引き出しているようなものです。
業績が低下すれば融資を受けられなくなり、資金繰りも急速に厳しくなり、倒産に至ることも考えられます。
しかし、資金繰りが安定している会社ならば、業績が落ちてもすぐに倒産することはありません。
資金繰りが安定しているうちは経営を継続することができ、立て直しを図るための猶予もあり、返済を続けることも可能です。
手元資金が潤沢であれば、それによって不足資金をまかなっていくことができます。
業績も資金繰りも安定していた会社ならば、業績が多少落ち込んだとしても、安定した資金繰りを背景に融資を引き出し、資金繰りを安定した状態に保つことができます。

資金繰りを左右する与信管理も、銀行の判断にも大きな影響を与えます。
このため、業績は好調であるものの与信管理がずさんな会社と、業績はそこそこで与信管理がしっかりしている会社ならば、後者の方が良い評価を受ける可能性が高いです。
前者はバランスを崩すと一気に資金繰りが狂う可能性があるのに対し、後者は堅実な経営が見込めるからです。
以上のように、与信管理は資金繰りに大きな影響を与えるものであり、それゆえに銀行との融資交渉にも欠かせない要素となってくるのです。
与信管理に取り組む会社では、与信管理によって売掛金回収に役立て、資金繰りを改善するものだと考えていると思います。
しかし、そこからさらに一歩踏み込んで、融資交渉にも影響するものだと考えるべきです。
与信管理の実状
しかし、実際の中小企業経営の現場では、与信管理を意識していない、または意識していてもそれほど取り組めていないというケースが非常に多いです。
与信管理は資金繰り安定に欠かせないものですから、意識していないケースは問題外です。
その状態では、回収にトラブルが生じたり、売掛金回収期間が長くなったりしてしまい、融資に悪影響をもたらす可能性があります。
しかし、これは与信管理への取り組みによって大きく改善される可能性もあります。
より問題と言えるのは、意識していてもそれほど取り組めていないというケースです。
意識していてもそれほど取り組めない原因には、与信管理のためのノウハウがあまりないことや、与信管理の前提となる信用調査能力に乏しいことが考えられます。
また、ノウハウや調査能力を備えていても、実際の経営を考えると、与信管理などと言っていられないことも多いものです。
与信管理では、取引先の信用状況に応じて、リスクの高い会社との取引を避けたり、取引先のリスクに応じて与信期間や与信限度額を設定していくものです。
しかし、業績を確保していく上では、ある程度リスクを許容して取引していく必要もあるため、与信管理が思ったほど効果をあげないこともあるのです。
したがって、中小企業の経営ではリスクを許容しながら与信管理をしていくことになります。
与信管理によって、そのリスクをコントロールしていくことには役立ちますが、それでも回収期間の長期化や回収トラブルの発生がしばしば起こる可能性があります。

それだけに、銀行交渉の際にもこの点が問題視されることも多いです。
実際に、融資担当者の財務分析の手法を見てみても、売掛金の回転期間は細かくチェックされており、異常を発見した場合には原因の特定に努め、稟議の材料とします。
与信管理に問題がある会社では、それを問題視されて融資交渉にマイナスになることがよくあるのです。
したがって、資金繰りのためには与信管理に努めることが重要です。
と同時に、そこに問題が生じやすい中小企業では、融資交渉と与信管理の関係についてよく知り、うまく交渉していく方法を身に着けておくことが大切なのです。

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与信管理に問題がある会社の融資交渉とは
では、与信管理に問題がある会社では、どのように融資交渉を進めていくべきなのでしょうか。
それを知るためには、具体的な融資交渉の様子と稟議の流れによって、融資交渉のポイントを見ていくのが分かりやすいです。
ここでは、以下のような会社(以下、A社)を例とします。
- 内装工事業者
- 小規模工事を多数受注。大規模工事の受注も増加傾向にある
- 同時に進めている案件が多いことから与信管理に無理が生じており、大規模工事では工期が長いことから売掛債権回転期間が延びている
- 売掛債権回転期間は約5ヶ月(建設業の業界平均値は3.5ヶ月程度)
- 立替負担から資金需要は大きく、借入金は増加。それに伴い返済負担も増加
- 返済負担を賄うために復元資金(返済に充てる資金)として3000万円の融資を申し入れ
A社の状況では、融資交渉は厳しくなる可能性が高いです。
業績はそれなりに良くとも、借入金負担が非常に重く、復元資金がなければ資金繰りは成り立たない状況です。
復元資金が必要なほどに借入れをしているのは、回収までの期間が長く、多額の立替資金が必要だからです。
実際、売掛債権回転期間は業界平均値を大きく上回っており、これが諸悪の根源と考えられます。
そこでA社は、メインバンクのB銀行に復元資金を申し入れました。
メインバンクは支援を受けやすい銀行ですから、復元資金という難しい案件でメインバンクを頼るのは良い判断といえます。
しかし、B銀行もメインバンクだからと言って、懸念の多いA社に対して、やすやすと融資をだすわけにもいきません。
小規模工事の受注が多く、大規模工事の受注も増加傾向にあり、それに伴って売掛債権回転期間は伸びています。
今後もこの傾向が続くならば、売掛債権回転期間はさらに伸びていく可能性があります。

売掛債権回転期間が長期化している理由をできるだけ正確に把握し、A社に対策を求め、今後すこしずつでも改善していけるならば、それが安心材料となります。
したがって、与信管理に問題がある会社の融資交渉では、
「与信管理の問題点について、原因を特定し、具体的な対策を検討し、融資交渉の際に説明し、納得を得る」
ということが、かなり重要なポイントになると言えます。
融資担当者との交渉の様子
与信管理を問題視される会社が融資を依頼した際、以下のようなやり取りが行われることと思います。
担当者「今回も、復元資金の申し入れとのことですが、基本的には支援させていただきたいと考えています。」
経営者「それは、ありがとうございます。」
担当者「しかし、以前から指摘していることですが、売掛債権回転期間に異常が発生しています。当行も、これを無視できない状況です。」
経営者「それほど長いとは思っていませんが・・・」
担当者「あくまでも一般論ではありますが、決算書を見ると、売掛債権回転期間は5ヶ月超となっています。内装工事業者を含める建設業においては、3~3.5ヶ月くらいが一般的ですから、異常値と言えます。御社の資金繰りが厳しいのも、ここに原因があると思われます。」
経営者「平均がそのくらいとは知りませんでした。」
担当者「長期化の原因は、どこにあると思われますか?」
経営者「そうだなぁ・・・。案件を管理しきれていないのかもしれません。」
担当者「与信管理ができていないのでしょうか。」
経営者「そうです。当社は小規模の案件をたくさん受注していますし、近年では大型の案件も少しずつ増えてきています。足元で受注している案件は100以上です。これを、私一人で管理していくのは難しいものですから、売掛金の回収ものびのび担っているのかと。」
担当者「なるほど。その案件を全て社長が管理されるのは、確かに無理があると思います。しかし、各案件の担当者から報告を受けるなどして管理していくこともできると思うのですが。」
経営者「それができればいいのですが、任せられる社員がそれほどいないのです。そのため、どうしても私が管理に深くかかわらなければならない状況でして・・・」
担当者「それにより、回転期間が延びているという実感はありますか?」
経営者「言われてみれば、そうだろうなとも思います。社員に任せられないので、結局私が中心になって管理しています。どうしても手が回らないこともありますし、請求できる代金を請求していないものもあります。回転期間が長くなっていることも、ここに原因があるように思います。」
担当者「当行は、御社の業績については懸念しておりません。しかし、社長のおっしゃる通り、与信管理の甘さが問題となっています。これさえきちんとしていれば、資金繰りはずっと改善されると思います。回転期間が5ヶ月を超えた今、抜本的な改善の必要があるのではないでしょうか。」
経営者「これまでも改善したいとは思ってきましたが、実際には難しく感じており・・・抜本的な改善といわれても、どうすればよいか分からないのが正直なところです。」
担当者「与信管理をしていくにあたって、それができる社員は経理部の○○さんくらいしか思い当たりません。実質的に、与信管理をしていくのは○○さんであり、そこに社長が関わっている状況です。それではとても管理が行き渡らないと思うのですが、経理担当者を新規に雇用して、与信管理を強化してはいかがでしょうか。」
経営者「それも考えたことがありますが、新規雇用は資金繰りを圧迫してしまいます。」
担当者「そうかもしれませんが、資金繰り困難の原因は与信管理にあります。新規雇用によって負担が増しても、長期的には資金繰りが改善するはずです。」
経営者「分かりました。新規雇用も含めて、資金繰り改善を図っていきます。」
理想的な対話は、経営者から融資担当者に対して問題点を述べ、改善案について説明し、納得を得ることです。
それができれば、改善のための積極的な姿勢があるとみて、稟議のプラス材料となります。
しかし、問題点がよくわからずに資金繰りに奔走している経営者も多いもので、上記の例のように、売掛債権回転期間が長期化しているという自覚がないケースもあります。
なんらかの問題があって銀行が積極的になりにくい、しかし融資を検討しないわけにもいかないという案件では、融資担当者がその問題について指摘し、改善策を提案することもあります。
この場合、売掛債権回転期間の長期化という問題点があり、なおかつメインバンクであることから、基本的には支援すべき立場にあるため、原因の特定と改善策の提案によって、融資の可能性を探っているのです。
もちろん、銀行員は融資のプロではあっても、経営のプロではありません。
そのため、融資担当者のアドバイスが必ずしも効果的とは限りません。

そして、一般的に効果があるとされる解決策を提案するのが普通ですから、参考になることも多いものです。
このような案件での融資担当者の視点は、経営者との面談によって問題点の把握と原因の特定に努め、さらに今後の改善策を協議し、融資できるかどうかの感触を掴んでいくことだといえます。
稟議の方向性
以上のような対話を踏まえ、経営者は経理担当者の新規雇用を含め、対策を図っていくことを確認しました。
それができれば、資金繰り悪化の原因である売掛債権回転期間も改善され、資金繰りも徐々に良くなっていくことでしょう。
しかし、融資稟議は融資担当者だけではなく、支店内で行うものです。
そこで融資担当者は、支店内の上席者に稟議を流すべく、稟議書を作成することとなります。
稟議書の作成にあたっては、A社の業績や財務の状況、経営者との面談の内容を踏まえて、上司と協議を行う必要があります。
それによって、稟議を進めて良いと言われて、初めて稟議書の作成に取り掛かります。
この時、融資担当者と上司の会話の様子を見ても、銀行が会社の与信管理を重視していることが分かります。
会話例を見てみましょう。
担当者「A社から融資の申し入れがありました。復元資金としての申し入れです。」
上司「A社は、相変わらず資金繰りが苦しいようだな。」
担当者「そのようです。以前から資金繰りに改善が見られず、むしろ徐々に悪化しているでしょう。」
上司「そろそろ危ないんじゃないか。主力行といっても、いつまでも融資できるわけじゃないし。原因は?」
担当者「売掛債権の長期化です。大型の案件も増えていて、工期が伸びています。」
上司「なるほど。工期が長引いているのか。それなら、回転期間も伸びるだろうな。」
担当者「しかし、それだけではありません。小型の案件も多く受注しているのですが、その管理が行き届いていないようなんです。」
上司「与信管理ができていないようじゃ、まずいな。どうしてできないの。」
担当者「与信管理にあたる人材が不足しており、ほぼ社長が管理しているようです。」
上司「それは無理があるだろう。社長との面談はどうだった?」
担当者「正直なところ、あまり自覚はないようです。かなり忙しいらしく、自覚する余裕がなかったものと思います。」
上司「ふむ。あまりやりたくない案件だな。与信管理なんて、ウチが考えることじゃなくて、社長が考えることなんだから。それができない会社は危ない。」
担当者「その通りです。私からは、経理部にしっかりとした人材を新規雇用してはどうかと提案しました。」
上司「社長は何と言ってた?」
担当者「微妙なところです。新規雇用にはお金がかかるという思いも強いようで。検討するとは言っていましたが、実際にはあまり期待できません。」
上司「わかった。社長とアポとってくれないか。私から話してみよう。」
担当者「ありがとうございます。助かります。」
上司「今回の依頼は3000万円だったね。主力行としては対応しなきゃいけないと思うから、基本的にはその方向で。ただし、いつまでも続かないから、A社との付き合いは慎重にやっていこう。」
担当者「担当者として、しっかりやっていきます。」
上司「結局は、主力行として融資することになるだろうから、稟議はあげて。あと、アポのこと頼むよ。あの社長、そろそろ厳しく言わないと危ないから。」
担当者「分かりました。」
融資担当者は、普段からA社の業績や財務を見ており、経営者とも面談を通じて付き合いがあり、近い関係にあります。
しかし、経営者とほとんど面識がない上司は、融資担当者から伝えられた情報を、非常にシンプルな視点から見ていくこととなります。
それだけに、A社のような会社の稟議では、
「資金繰りが厳しいようだ。原因は売掛債権回転期間が長期化していることらしい。与信管理が甘いから、それも当然だろう。社長の自覚も薄いらしい」
といった、見方をするのが普通です。
したがって、できるだけ融資したくないという気持ちが根底にはあります。
この例のように、上司が融資に対応しようと考える根拠は、メインバンクだからという一点だけです。

このケースでは、上司みずから経営者と面談するという結末を迎えています。
融資交渉は、基本的には融資担当者がやるものであり、上司が出てくることはありません。
イレギュラーな事態であり、好ましくない状況です。
与信管理ができていない会社は、かなり悪い印象を持たれることが分かるでしょう。

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稟議書にはこう書かれる
与信管理を問題視されている会社では、以下のような稟議書になることが多いです。
概況
- 2000年創業の内装工事業者。
- 従来が小規模工事を主体に受注してきたが、数年前から大規模工事の受注も増加。
- これにより業容は拡大しているものの、売掛債権回転期間は5ヶ月超となっており、資金繰りへの負担が大きくなっている。
- 与信管理の甘さも影響しており、早急な改善が求められる。
資金使途
- 経常運転資金。
- 今後1年間の当行への返済が30百万円あり。
- 本件にて返済相当額を融資し、資金繰りの安定を図るもの。
融資条件
- 証貸、金額30百万円、融資期間3年の分割返済、利率2.9%。
保全
- 会社に見るべき不動産はなく、全額無担保扱い許容。
- 取引振りは徐々に改善されており、流動保全は増加傾向。
資金調達余力
- 会社および代表者に見るべき不動産はなく、担保余力はなし。
- マル保も限度額一杯まで利用しており、保証余力もなし。
- 今後の返済進捗により、保証余力が生じるものと思料。
- また、他行も例年復元資金に応じており、実質的な調達余力は相当に見込まれるものと思料。
狙い
- 主力行として、当社の資金繰りを支援するもの。
- 与信管理などについて指導を行い、資金繰りの改善を図りたい。
やはり、稟議書でも売掛債権回転期間が長期化していることと、その原因が与信管理の甘さにあることに触れられています。
それでも、無担保扱いでプロパー融資に対応しようとしているのは、他行も復元資金に毎年応じてきていることから、資金繰りは当分問題ないだろうということ、そして主力行としての立場からそうすべきという判断によるものです。

他行の動き次第では、復元資金の調達が難航した場合、資金繰りが回らなくなる可能性が出てきます。
そのため、他行の動きに同調するのが普通です。
メインバンクとそれ以外の銀行の違いは、融資交渉にしっかりと利用していくべきことが分かります。

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融資交渉のポイント
ここまで解説してきた銀行側の考え方をまとめてみると、
- 基本的には積極的になりにくい案件である
- 財務面の異常値の原因を解明しなければならない
- 原因が分かれば、改善策も含めて融資を判断していく
- 稟議書には、弱点についてもしっかり記載し、稟議に役立てていく
- 必要に応じて、会社に指導もしつつ、今後の関係を探っていきたい
ということが分かります。
基本的に積極的になりにくいということが前提にあるため、そこをいかに説得していくかが争点となります。
その状況で融資を引き出していくためには、
- 問題点と改善策を引っ提げて相談にいく
- メインバンクに優先的に相談する
- 準主力以下でも、相談しやすい銀行から相談していく
ということがポイントとなります。
問題点と改善策を引っ提げて相談にいく
上記の例では、A社の社長は「お金がないから融資の相談にきました」という姿勢で交渉に臨んでいますが、これは危険な姿勢です。
担当者と上司の会話からも分かる通り、まず、原因と対策も分からずに資金繰りをしていることを危険視されます。
資金繰りが厳しい原因が分からず、対策も分からない会社に融資すれば、資金繰りが厳しくなって当然といえるお金の使い方をするのです。
融資した資金をしっかり回収できるかどうか、銀行側が不安視しても仕方ありません。
また、問題を認識できていないことにより、経営者としての能力の低さを疑われることにもなりかねません。
原因の特定と改善案の策定は、会社がしっかりとやっていくことであって、本来は銀行がアドバイスしていくものではないのです。
したがって、資金繰りが非常に悪化しており、資金需要も大きくなっているならば、まずはその原因をしっかり検討してみることが大切です。
売上が伸びて運転資金が増加した、売上や利益率が落ちた、売掛金の回収が難航している、貸し倒れになったなど、資金繰りが厳しくなる要因は大体決まっています。
どれも、経営者の感覚からなんとなく特定できたり、決算書などから特定できたりするものばかりです。
資金繰りが非常に苦しい時、どこかの数値が異常値となっています。
それだけに、分かりやすいともいえます。
異常値を発見し、資金繰り悪化の要因を特定すれば、なぜその要因が起こっているのかを考えていきます。
これも、理由はそれほど多くないため、特定は簡単です。
A社でも、銀行に交渉する前に経営者自ら決算書などを見てみると、資金繰りを悪化させる原因を特定できたと思います。
A社の社長は、売掛債権回転期間が長期化しているという自覚がなかったようですが、決算書を分析してみれば、そのことに気づくはずです。
さらに、なぜ回転期間が長期化しているのかを考えてみると、工期の長い大規模工事の受注が増えたこと、また小規模工事が多いため、回収できる売上を回収しきれていないことが原因だと考えられます。
大規模工事の受注については、売掛債権回転期間を長期化させても受注するメリットがあることも多いものですから、それによる長期化は問題にならないこともあります。
しかし、回収できるものを回収していないということは大きな問題です。
このような与信管理をしていると、取引先からは「請求が甘い会社だ」と思われてしまい、支払いを先延ばししても問題ないと考えられ、回収しにくくなってしまうからです。

また、社員教育を図り、連絡系統を作ることでも、経営者自ら管理する負担を減らすことが可能です。
このように与信管理が徹底されてくると、請求すべき期日をしっかりと守って請求し、支払いが遅れている会社には催促してプレッシャーをかけて回収を図ることが可能です。
これにより、売掛債権回転期間は目に見えて改善されてくるはずです。
また、与信管理に全社的に取り組めば、それぞれの社員の意識も向上し、しっかり回収しようという意識が芽生えます。
営業担当者も、取引契約の際に与信期間を意識するため、できるだけ短くなるように交渉することができます。
工期が長い大規模工事でも、代金の一部を前受金として支払ってもらったり、工事の進捗に応じて段階的に支払ってもらったりできるように契約を工夫することができるでしょう。
これによっても、与信状況はかなり改善されていきます。
銀行側の印象は格段にアップする
何も考えずに融資交渉を始めた場合では、融資担当者が資金繰り悪化の原因や改善案を教えており、経営者の意識が低いと感じています。
上司もそれを問題視し、ついには担当者の上司みずから面会して、厳しく指導するという流れになっています。
つまり、銀行は不安なのです。
資金繰りに問題があるものの、社長はそれほど緊張感がない、しかしメインバンクとして融資はする必要があるという状況ですから、貸し倒れリスクが徐々に上がっていることに不安を覚えています。
その不安を解消することが、融資交渉の狙いです。
もしA社が融資交渉に先立って、売掛債権回転期間の長期化が資金繰りを圧迫していること、その原因は与信管理にあることを特定します。
そして、新規雇用による与信管理体制を強化していくことや、大規模工事の回収条件を工夫することなど、改善案まで考えた上で融資交渉に臨んでいたならば、どのような期待ができるでしょうか。
おそらく、担当者は「この社長は原因に気付いている。改善案も効果的なものが多い。これなら大丈夫そうだ」という印象を持つでしょう。
担当者と上司の協議でも、
担当者「社長によると、原因は~~~とのことで、私の見解と同じです。改善案については~~~で、かなり具体的な方針を聞くことができました。私は、問題ないと思います」
上司「そうか。資金繰りは厳しそうだけど、主力行として融資は出そう。社長にも考えがあるようだし。回転期間がどうなっていくか、今後も注意していくように。」
という流れが期待でき、銀行側に大きな不安を与えることもなく、上司みずから注意を喚起してくるような状況にもなりません。
稟議書の内容にも、プラスの要素が加わることが期待できます。
「与信管理が甘いことが問題」との記載は避けられないでしょう。
ですが、「管理体制の強化について社長から説明あり。資金繰りの改善が期待できる」といった書かれ方をされる可能性があります。

そこで、銀行から指摘されるのではなく、経営者側から説明することによって、銀行に一定の安心を与え、交渉をスムーズに運んでいくことが重要です。
メインバンクに優先的に相談する
もっとも、原因の特定と改善案の策定をしてから交渉するにも、交渉先はよく選ぶ必要があります。
与信管理に問題がある会社では、融資を簡単に受けることができません。
したがって、銀行をよく選ばずに交渉すると、消極的な対応をする銀行から相談することとなり、悪い結果を招く可能性があります。
ただでさえ劣勢の状態で交渉が始まるのですから、プラス材料はできるだけ多いに越したことはありません。
最初の交渉では、業容が拡大していること、原因の特定と改善案の策定ができていることだけが好材料となりますから、少ない材料でも融資してくれる相手と交渉すべきです。
その相手とは、ずばりメインバンクです。
A社の稟議の様子を見ても分かりますが、悪材料が多い場合でも、メインバンクは基本的に支援すべき立場にあるという理由から、融資を出す方針で稟議されています。
そのような立場にない準主力以下の銀行から交渉を始めるよりも、融資を受けやすいことが分かると思います。
最初にメインバンクに相談し、融資を受けることができれば、その他の銀行にも支援を要請していくとき、業容の拡大、原因の特定と改善案の策定に加え、メインバンクからの支援が確定しているという好材料によって交渉していくことができます。
準主力以下でも、相談しやすい銀行から相談していく
メインバンクだけでは必要資金が足りない場合、準主力以下の銀行とも交渉していくこととなります。
特に、A社のように復元資金を必要としている会社では、融資を受けている全ての銀行と交渉することになるため、準主力以下の銀行に交渉する順番も慎重に決めていくことが大切です。
といっても、メインバンクを最優先に交渉した時と同じように考えれば問題ありません。
交渉する順番が早いほど、少ない材料で交渉していくこととなります。
支援してくれる銀行がまだ多くない状態で交渉するのです。
逆に、交渉の後の方になるにつれて、支援してくれる銀行が徐々に増えていくため、
「A銀行、B銀行、C銀行からの支援は取り付けています」
といった交渉が可能となります。

少ない材料でも応じてくれやすい銀行から交渉していき、次第に交渉材料を増やしていき、交渉が難しい相手からも良い回答を引き出していくのです。
与信管理に大きな問題がある会社では、上記のように戦略的に融資交渉を進めていくことが重要です。
原因の特定と改善案の策定を済ませてから交渉に臨み、こちらから先手を打ち、さらに交渉する順番も適切に選んでいくという戦略性があれば、融資はかなり引き出しやすくなると思います。

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まとめ
本稿では、与信管理に大きな問題を抱えている会社の融資交渉について書いてきました。
与信管理は資金繰りと大きく関係しているものですから、与信管理が悪ければ資金繰りも悪くなります。
資金繰りが悪ければ、銀行は融資しにくくなってしまうものです。
それでも融資を引き出していくためには、本稿で解説したように、戦略的な融資交渉を心がけるようにしましょう。
何も戦略を持たないよりも、かなり交渉しやすくなるはずです。