金融機関が融資を判断する際には、事業性も評価することがあります。
もっとも、すべての会社に対して事業性評価を行うのは無理があるため、対象となる会社を絞って評価していきます。
これにより、財務内容と事業内容の両面から評価を受けられるようになるため、事業性の評価により、好条件での融資を受けられることがあります。
また、経営状況が一時的に悪化した場合にも、継続的に融資を受けられる可能性が高まります。
本稿では、事業性評価の流れと、評価される内容について解説していきます。
事業性評価とは?
当サイトの別の記事(例えば「事業性を評価してもらおう!事業性評価の基礎知識」を参照)でも度々お話していますが、金融機関の与信判断にあたって評価の対象になるのは、決算書などによる財務評価だけではありません。
もちろん、金融機関の業務効率から考えると、財務評価によって画一的な判断を下さざるを得ない場合もあるでしょう。
また、画一的に判断して何ら問題ない融資案件もあるはずです。
しかし、金融庁の方針では、与信判断では事業性評価も行うように指導されており、金融機関もこれを無視するわけにはいかず、必要に応じて事業性評価を行っています。
融資を受けたい会社としては、財務評価だけで融資を受けられない場合には、事業性を評価してもらうように働きかけるべきです。
また、財務評価だけで融資を受けられる会社でも、そこへさらに事業性も評価してもらうことで、融資条件が良くなる可能性があります。

それを知るためには、銀行員が事業性評価をどのように進めるのか、流れと評価の方法を理解する必要があります。
※ただし、事業性を評価してもらえるよう、働きかけていくのは良いことですが、必ず良い結果になるとは言い切れません。
評価される状況になり会社が下手に評価を受けると、良くない評価がまとめ上げられ、共有され、関係がうまくいかなくなる可能性もあるので、注意が必要です。

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事業性評価の流れ
銀行員が事業性評価を行うにあたっては、以下のような流れによって行われます。
それぞれの流れについてみていきましょう。
(なお、この流れは、私が元銀行員から聞き取ったものです。金融機関によって違いがあるかもしれませんが、事業性評価の本質から考えれば、基本的には共通する流れであり、経営者の知識としてもふさわしいものと思います)
①事業性を評価する対象の会社を決める

事業性評価には手間がかかるため、取引しているすべての会社の事業性を評価することは、現実的に不可能です。
したがって、金融機関や支店の方針などによって一定の基準を設けて、対象先企業を決めていくのです。
事業性評価を通して、会社と金融機関の双方にメリットある関係を目指すのですから、その期待が持てる会社を優先的に評価していくことになります。
ピックアップされるのは、多くの場合、担当している会社の中でも融資量が大きい会社、今後取引を深めていこうとしている会社などです。
【経営者の心がけ】
ここで、事業性評価の対象としてピックアップされなければ、事業性評価を受けることはできません。
会社側の働きかけとしては、借入比率の高いメインバンクや、自社にとって好意的な金融機関に優先的に働きかけるべきでしょう。
具体的には、事業性評価の参考になる情報を積極的に開示していくのが効果的です。
これによって、銀行員は事業性を評価しやすくなります。
本来ならば、評価の対象に選ばれない会社であっても、ついでに評価してもらえたり、必要に応じて積極的に評価してもらえたりする可能性があります。
②事前調査を行う
次に、事業性評価の対象企業について、事前調査を行います。
事前調査では、手元にある資料や、間接的に得られる情報によって、企業の概況と外部環境を調査していきます。
なお、評価対象の会社には、
- すでに多くの融資を出しており、今後も融資を推進したい既存の融資先
- まだ融資を出していないものの、融資を推進したい新規の融資先
の二通りがあります。
事前調査の方法は、その対象が既存か新規かによって異なります。
既存融資先
金融機関は、既存の融資先について、これまでの付き合いの中で知りえた情報を蓄積しています。
銀行員は、まずはその情報から事業の概要や過去の取引情報などを把握していきます。
もちろん、決算書なども参考にし、売掛金や買掛金の内容から取引先を調べ、その会社を取り巻く外部環境も調査しておきます。
【経営者の心がけ】
事業性評価を受ける会社側は、普段から積極的に情報を提供し、事前調査がスムーズに進むようにしておくべきです。
それができなければ、事前調査の時点で不明点が多くなり、事業性評価が後回しになったり、ストップしたりする可能性が出てきます。
新規融資先
金融機関にとって、既存の優良顧客と深く付き合うだけではなく、新規の融資先を開拓し、優良顧客を作っていくことも重要な仕事です。

この場合には、新規先の情報は蓄積していないため、信用調査会社(帝国データバンクや東京商工リサーチなど)の資料や、企業年鑑などから情報を集めていきます。
これにより、会社の概況や業績・財務などについて、大まかな情報を得ることができます。
このほか、対象となる会社のパンフレットやホームページ、業界紙なども情報源になります。

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【経営者の心がけ】
このように事業性評価を受け、新規融資の提案を受けることができれば、会社としては万々歳です。
会社側から新規融資を開拓するのは大変なことですが、銀行側から開拓してくれるならば手間もかかりません。
したがって、信用調査会社が調査を申し込まれた場合には、会社に大きな問題がない以上、積極的に情報を提供しておくべきです。
また、外部に向けて情報を発信するために、パンフレットやホームページをしっかり作り込んでおくことも、事業性評価を受けるために役立ちます。
③ヒアリングを行う
②の事前調査は、ヒアリングをしっかりと行うためのものです。
情報をよく知らない状態では、行き当たりばったりのヒアリングになってしまい、事業性評価は困難です。
しかし、事前調査の上でヒアリングを行えば、事業性評価はスムーズに進みます。
銀行員は金融のプロであるものの、会社の事業分野では素人です。
経営者は、事業分野ではプロであるものの、金融では素人です。

ここで共通の話題となるのは、銀行員が事前に調査した内容から把握している事業内容となります。
【経営者の心がけ】
事業内容について話を持ち掛けられたとき、経営者の中には、
- 銀行員に話してもわからないだろう
- なにか探られているようで気味が悪い
などと考えて、消極的な対応をする人もいます。
しかし、銀行員は会社の実態を把握し、事業性を評価しようとしています。
この会話から、会社の現状や強み・弱み、課題、ニーズなどを確認していきます。
経営者が消極的な対応をすれば、ヒアリングはうまくいかず、評価されるべきことも評価されません。
このため、ヒアリングにはしっかりと対応するのはもちろんのこと、評価すべき情報をしっかり伝えるためにも、経理部門や営業部門などのスタッフも同席させ、情報を開示しましょう。
課題も開示しよう
会社が抱えている問題は、外部に漏らしたくないはずです。

会社側から課題を伝えるということは、経営者が課題を認識しているということであり、解決への取り組みなども見せられる場面ですから、むしろ活用していくべきです。
それに、課題を隠したところで、銀行員は聞き取った内容だけを鵜呑みにすることはありません。
仮説を立てて課題を探っていきますから、課題が大きく捉えられたり、間違って捉えられたりするリスクもあります。
そうなるよりは、課題も開示すべきです。
④情報の整理
事前調査と、その結果に基づくヒアリングにより、事業性評価のための情報がそろいます。
ここからは、会社の現状を把握するために、情報を整理していきます。
事前調査で得た情報の多くは、定量的な情報です。
その後のヒアリングを通した情報には、定性的な情報が多く含まれます。
この両面から、以下のような様々な角度から現状を整理していきます。
- 経営方針
- 経営陣をはじめとした組織
- 業績のトレンドと今後の見通し
- 製品や商品のライフサイクルと採算状況
- 取引先との関係
- 競合先との比較
- 資金繰りの状況
このように、複数の観点から整理していくと、その過程で疑問を抱いたり、矛盾していると感じる場合があります。
その場合にはヒアリングを繰り返し、疑問や矛盾の解消を図り、事業性を正確に評価できる環境を整えていきます。
ここで整理された情報は、金融機関の情報として保存され、支店内や本部で共有されます。

【経営者の心がけ】
ヒアリングが繰り返されたとき、それを面倒だと考えるのではなく、疑問や矛盾が解消されるようにしっかり対応することが大切です。
⑤検討
融資担当者が整理した情報をもとに、支店内で検討が行われます。
その会社の現状に基づき、将来性を検討し、既存融資先であれば今後の付き合いをどうしていくか、新規融資先ならばどのように取引を開始するか、今後の方針を判断していきます。
事業性評価の真の目的は、会社の状況を正確に理解し、融資や助言に役立てていくことです。
融資先が今後も安定した事業を継続していくならば、積極的な融資対応をしていく方針になりますし、それに伴う助言はどうすべきかも検討されます。
このため、検討の結果に基づいて、銀行員から経営者に対する提案も検討されます。
例えば、
「この会社は、○○が資金繰りの負担になっているな。
この改善として××を提案しよう。
そのための資金は△△万円くらいだろうから、その融資を提案してみよう」
などです。
⑥融資や助言の提案
金融機関での方針が固まると、実際に会社に対して提案が行われます。

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【経営者の心がけ】
金融機関の提案を、経営者は前向きに受け止めてよいでしょう。
中には、
「銀行から助言を受けたが、事業のことを良く知らない銀行員の助言なんてあてにならない」
などと考える人もいるかもしれませんが、その必要はありません。
繰り返す通り、金融機関が事業性評価を行う理由は、会社と金融機関が長期的にWin-Winの関係を築いていくためです。
したがって、この提案の結果、会社が一方的に不利を被ることはありません。

長期的に関係を深めることを前提として提案しているのですから、金融機関にとっては融資であると同時に、投資のような側面もあります。
だからこそ、会社に有利な条件での提案になっていることが多いのです。
もし、どうしても条件に納得がいかないならば、断っても良いでしょう。
しかし、今後会社の状況が悪くなる可能性もあり、そうなってからでは同じ条件での融資は受けられません。
そのため、好条件で借りられるときに借りておくとのがおすすめです。
⑦融資実行
なお、金融機関が融資を提案してきたとき、融資が実行される可能性はかなり高いです。
金融機関側から融資を持ち掛けておきながら、いざ経営者がやる気になったとき、
「すみません、稟議に通りませんでした」
となれば、金融機関と会社の関係は壊れてしまいます。
そうならないためにも、金融機関ではある程度手続きを進めたうえで融資を提案しています。
このため、提案された融資を会社が受け入れれば、融資が実行されるのが普通です。
⑧モニタリング
事業性を評価し、融資や助言が実行されると、会社は借入れもでき、アドバイスも受けられて良かったと思うでしょう。

長期的な利益を前提として、金融機関はかなり譲歩した条件での融資も実行しているのですから、むしろ金融機関にとってはここからが重要です。
金融機関は、その後の会社の業績や財務などをモニタリングし、継続的にフォローしていきます。
会社が順調であれば、新たな提案の機会を探っていきますし、不調であれば改善策を提案していきます。
【経営者の心がけ】
金融機関とうまく付き合っていくためには、借入れ後の関係を軽視してはいけません。
借りた金なのだから、会社の好きに使わせてくれと思う人もいるかもしれません。
しかし、金融機関のフォローはしっかりと受け止めて、共存共栄と関係強化を図っていきましょう。
対話に応じる経営者の強み
事業性評価は、金融機関が会社に対して一方的に行うものというイメージがあります。
しかし、上記の通り、経営者ができることもたくさんあります。
それをまとめるならば、金融機関への情報提供や対話に積極的に応じることです。

これは、中小企業の社長が非常に忙しく余裕がないことや、金融機関との関係を軽視しがちなことが理由です。
したがって、金融機関にとっては、情報提供や対話に積極的に応じてくれる経営者というだけで、非常に事業性を評価しやすくなります。
この点をよく認識しておくと、事業性を評価され、金融機関との関係が深まることも期待できるでしょう。

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まとめ
銀行員の事業性評価は、本稿で紹介した流れで進められていきます。
この調査・分析によって、会社の強み・弱み、市場での位置づけなどを総合的に把握し、与信判断に活かしていきます。
また、助言を行うことも可能となり、会社と金融機関の双方に、安定性や成長性でのメリットが期待できます。
なお、事業性評価は会社の実態を把握する方法の一つであり、ゴールではありません。
したがって、事業性評価を受ける会社は、それを融資実行に結び付けるだけではなく、その後の付き合いをよりよくするための手段と考え、長い目で活用していくことが大切です。
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