法律・制度

取適法(改正下請法)とファクタリング|手形払い禁止と電子記録債権のルール

最終更新 公開 約24分で読めます 執筆:アンドファクタリング運営事務局

広告なし・一次情報にもとづく解説です。編集方針

この記事の要点

  • 取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)は改正下請法として2026年1月1日に施行され、2026年1月1日以後の発注について、委託事業者が代金を手形で支払うことを禁止した。
  • 取適法は、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング方式を含む)についても、支払期日までに代金の満額に相当する金銭を得ることが困難なものの使用を「支払遅延」として禁止している。
  • 取適法の規制を受けるのは代金を支払う委託事業者であり、中小受託事業者が自社の売掛債権をファクタリング会社に売却することを禁じる規定は、条文・運用基準・公正取引委員会のQ&Aに見当たらない(2026年10月22日に再確認)。
  • 取適法では代金の支払期日を給付の受領日から60日以内で定める必要があり、期日までに支払わない委託事業者は年14.6%の遅延利息を負う。
  • 公正取引委員会は2026年9月29日と10月9日に、手形や、期日に満額の現金を得にくい電子記録債権で代金を支払った委託事業者に対し、取適法5条1項2号(支払遅延の禁止)違反として勧告を行った。
早わかり表
正式名称製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)
施行日2026年1月1日(2026年10月時点で施行済み)
手形払い2026年1月1日以後の発注分は禁止(5条1項2号)
電子記録債権・一括決済支払期日までに満額の現金を得にくいもの(満期が期日より後、手数料を受注側が負担など)は禁止
支払期日給付の受領日から60日以内。遅れると年14.6%の遅延利息
ファクタリングの利用受注側が自社の売掛金を売ることは取適法の規制対象外(規制されるのは発注側の支払手段)
支払手段の規制での勧告2026年9月29日(手形・電子記録債権)、10月9日(手形)に5条1項2号違反で勧告
目次
  1. 取適法とは
  2. 取適法で禁止された支払手段は?
  3. 取適法はファクタリングを禁止したのか
  4. 手形払いはいつから禁止されたのか
  5. 手形・電子記録債権での支払で勧告された事例は?
  6. 取適法の対象になる取引は?
  7. 支払期日の「60日ルール」と遅延利息
  8. 受注側にとって何が変わり、ファクタリングは必要か
  9. 業種によって取適法の影響はどう違う?
  10. 発注側(委託事業者)が準備すべきことは?
  11. 違反が疑われるときの相談先は?
  12. 2027年4月1日からの「支払告示」とは

取適法(中小受託取引適正化法)は、2026年1月1日に施行された改正下請法で、委託事業者が代金を手形で支払うことを禁止し、電子記録債権や一括決済方式も支払期日までに満額の現金を得にくいものは使えなくしました[1][2]。規制されるのは代金を払う側(委託事業者)の支払手段です。受注側の事業者が自社の売掛金をファクタリング会社に売ること自体は、取適法の規制対象ではありません[1][2]。

取適法とは

取適法とは、製造や修理、ソフトウェア開発、運送などを外部に委託する事業者(委託事業者)に対し、中小受託事業者への代金の支払遅延や減額などを禁止する法律です。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称は中小受託取引適正化法、通称が取適法です[4]。

改正法(令和7年法律第41号)は2025年5月16日に成立し、5月23日に公布され、2026年1月1日に施行されました[5]。法律の名前とともに用語も変わり、「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」になりました[5]。取適法はまったく新しい法律ではなく、下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)の題名と内容を改めたものです[1]。

公正取引委員会は、改正前の下請法と改正後の取適法の違いを次のように説明しています[4]。

項目 改正前(下請法、2025年12月まで) 改正後(取適法、2026年1月1日から)
支払手段 サイト60日超の手形等を指導の対象としていた(2024年11月交付分から) 手形払いを禁止。電子記録債権やファクタリング等も、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なものは禁止
振込手数料 — 中小受託事業者に負担させることを禁止(改正解説で明記)
価格の決め方 通常の対価より著しく低い価格を定める「買いたたき」を禁止 加えて、協議の求めに応じない、必要な説明をしないなど一方的に代金を決める行為を禁止
適用基準 資本金基準のみ 従業員数の基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)を追加
運送の取引 元請運送事業者から他の運送事業者への委託が対象 発荷主が元請運送事業者に運送を委託する取引(特定運送委託)も対象
執行体制 事業を所管する省庁は調査権限のみ 所管省庁の大臣に指導・助言の権限。報復措置の禁止の申告先に大臣を追加

2024年11月からの手形サイトの指導基準は公正取引委員会の公表資料によります[8]。それ以外の行は公正取引委員会の改正解説によります[4]。

この記事では、ファクタリングや資金繰りに直接関係する「支払手段」のルールを中心に解説します。対象取引と60日ルールの詳細は取適法の対象取引と「支払期日60日」ルールにまとめています。

取適法で禁止された支払手段は?

取適法で禁止されたのは、手形の交付と、金銭・手形以外の支払手段のうち「支払期日までに代金の額に相当する金銭と引き換えることが困難なもの」の使用です[1]。どちらも、代金を期日までに支払わない「支払遅延」の一類型として扱われます[1]。

公正取引委員会の運用基準は、「金銭及び手形以外の支払手段」の例として、一括決済方式(債権譲渡担保方式、ファクタリング方式、併存的債務引受方式)と電子記録債権を挙げています[2]。支払手段ごとの扱いを整理すると、次のとおりです。

支払手段 取適法での扱い 根拠
支払期日までの現金払い(銀行振込) 問題なし。ただし振込手数料を代金から差し引くことは不可 3条、運用基準[2]
約束手形 交付すること自体が支払遅延。サイト(満期までの期間)の長短を問わない 5条1項2号[1]
電子記録債権(満期日が支払期日以前、手数料の負担なし) 使用できる 運用基準[2]
電子記録債権(満期日が支払期日より後) 受注側が割引を受けないと期日に現金化できないため、原則として違反 運用基準[2]、Q&A Q80[3]
一括決済方式(決済日が支払期日以前、手数料の負担なし) 使用できる 運用基準[2]
一括決済方式(受取手数料等を受注側が負担) 違反。受注側との合意があっても違反 運用基準[2]、Q&A Q81[3]

受け取った支払手段が違反かを判断する手順

受注側が、受け取った支払手段が取適法に反していないかを確かめるときは、次の順に確認します[1][2][3]。

  1. 取引が取適法の対象か(取引の種類と、資本金または従業員数の基準)。対象外なら取適法の問題ではない
  2. 発注日が2026年1月1日以後か。以前の発注は改正前の下請法で判断する
  3. 支払手段が手形か。手形なら、それだけで支払遅延に当たる
  4. 電子記録債権・一括決済方式なら、満期日・決済日が支払期日(受領から60日以内)以前か。後なら原則として違反
  5. 満期日・決済日が期日以前でも、受取手数料・システム手数料・振込手数料を受注側が負担していないか。負担していれば違反

「満額を得ることが困難」とはどういう状態か

運用基準は、「引き換えることが困難であるもの」を、金銭による支払と同等の経済的効果が生じない支払手段と説明し、例を2つ挙げています[2]。

  1. 満期日・決済日が代金の支払期日より後に来るため、中小受託事業者が期日に現金を得るには、その支払手段を担保に融資を受けて利息を払ったり、割引を受けたりする必要があるもの
  2. 決済に伴って生じる受取手数料等を、中小受託事業者が負担する必要があるもの

満期日・決済日が支払期日以前に来る支払手段は使えます。ただし満期日までに支払不能などが起き、中小受託事業者が代金に相当する金銭を受け取れなかった場合、委託事業者は支払期日までに代金を支払う必要があります[2]。

手数料や割引料を差し引くことも禁止

公正取引委員会のQ&Aは、一括決済方式や電子記録債権の決済に伴う手数料(受取手数料、システム手数料など)を中小受託事業者に負担させることは、合意の有無にかかわらず支払遅延として違反になると回答しています(Q81)[3]。受注側が一時的に手数料を負担する仕組みの場合は、あらかじめ書面で合意し、委託事業者が支払期日までに同額を別途支払うなどして、期日に満額の現金を受け取れる状態を確保する必要があります(Q82)[3]。

銀行振込の手数料を代金から差し引くことも、合意の有無にかかわらず代金の「減額」に当たります[2]。運用基準は、手形払いを受けていた中小受託事業者が現金払いを希望したときに、代金から一定額を割引料として差し引いた事例も減額の例に挙げています[2]。

取適法はファクタリングを禁止したのか

取適法は、ファクタリングという取引そのものを禁止していません。取適法の条文で義務を負うのは代金を支払う委託事業者であり、禁止されているのは、委託事業者が代金の支払手段として手形や、期日に満額の現金を得にくい支払手段を使うことです[1][2]。

「取適法でファクタリングが禁止された」という誤解は、運用基準に出てくる「ファクタリング方式」という言葉から生じやすいものです。この「ファクタリング方式」は、支払企業(委託事業者)が金融機関などと契約して導入する一括決済方式の一類型で、委託事業者の支払手段として位置づけられています[2]。仕組みは一括ファクタリングとはで解説しています。

観点 一括決済方式の「ファクタリング方式」 通常のファクタリング(売掛債権の売却)
導入・申込みをするのは 代金を支払う委託事業者(支払企業) 売掛金を持つ事業者(受注側)が自分で申し込む
取適法での位置づけ 委託事業者の支払手段。期日に満額の現金を得にくい使い方は違反 取適法に規定なし
手数料を負担するのは 受注側に負担させると違反 利用者が自分の判断で負担する
主な根拠 取適法5条1項2号、運用基準、Q&A Q81・Q140 民法466条1項(債権は譲り渡すことができる)

一括決済方式のファクタリング方式についても、公正取引委員会は制度自体を禁止していないと回答しています。

受注側が自社の売掛債権をファクタリング会社に売る取引は、民法上の債権譲渡です。民法466条1項は「債権は、譲り渡すことができる」と定めています[6]。当サイトが2026年9月18日に確認し、10月22日に再確認した範囲では、取適法の条文、運用基準、公正取引委員会のQ&Aのいずれにも、中小受託事業者が自社の売掛債権を売却することを禁止・制限する規定や記述はありませんでした[1][2][3]。

受注側がファクタリングを使う前に確認したいこと

取適法の対象取引で受注側がファクタリングを検討するときは、先に次の3点を確認すると、不要な手数料を払わずに済む場合があります。

  1. 発注側の支払方法が取適法に反していないか。2026年1月1日以後の発注で手形を渡されている、満期が期日より後の電子記録債権で払われているなら、まず現金払いへの変更を求める(根拠は5条1項2号[1])
  2. 売掛先との契約に譲渡禁止(譲渡制限)特約がないか。特約があっても2020年4月1日以後の譲渡は原則有効だが、注意点がある。詳しくは譲渡禁止特約がある売掛金もファクタリングできる?
  3. 売掛先に知られてよいか。2社間・3社間の違いと、通知・登記・承諾で売掛先に伝わる経路はファクタリングは取引先にバレる?で整理している

手形払いはいつから禁止されたのか

取適法の対象取引では、2026年1月1日以後の発注に係る代金を手形で支払うことが禁止されています[7]。改正法の附則は、禁止行為を定めた5条などの規定を施行後にした製造委託等に適用し、施行前にした製造委託等には改正前の下請法を適用すると定めています[1]。

2025年12月以前の発注で下請法が適用される取引では、2024年11月1日以後に交付された、サイトが60日を超える手形・一括決済方式・電子記録債権が、行政指導の対象とされてきました[8]。取適法ではこれが一歩進み、サイトの長短にかかわらず手形の交付そのものが禁止になりました[1]。

手形については、取適法とは別に、銀行界の電子化の動きも進んでいます。公正取引委員会の2026年9月2日の要請文は、電子交換所での手形・小切手の交換が2027年3月31日に廃止されること、多くの金融機関が2026年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定していることに触れていました[7]。この期限はすでに過ぎており、期限を設けた金融機関では、原則として手形・小切手による当座勘定からの支払ができなくなっています[25]。

日付 出来事 2026年10月22日時点
2024年11月1日 サイト60日超の手形等を下請法の指導対象に(交付日基準) 実施済み
2026年1月1日 取適法施行。以後の発注分は手形払いを禁止 施行済み
2026年9月29日 手形・電子記録債権による支払を5条1項2号違反とした勧告(株式会社不二製作所)[21] 公表済み
2026年9月30日 多くの金融機関が設定した手形・小切手の最終振出期限 経過
2026年10月9日 手形による支払を5条1項2号違反とした勧告(パーパス株式会社)[22] 公表済み
2027年3月31日 電子交換所での手形・小切手の交換を廃止 未到来
2027年4月1日 支払告示の施行(取適法の対象外にも60日ルール) 未施行

取適法の対象外の取引では手形はまだ使えるのか

取適法の対象外の取引(資本金や従業員数の基準に当たらない取引、建設工事の下請負など)では、取適法による手形払いの禁止はかかりません。ただし全国銀行協会は、2027年4月1日から手形・小切手が使えなくなるわけではないとしつつ、電子交換所を介さない郵送などの相対決済になるため、金融機関の判断で取扱いが変わる可能性があると説明しています[15]。

フリーランス法だけが適用される取引について、公正取引委員会は、手形での報酬の支払が直ちにフリーランス法上の支払遅延に当たるわけではないとしつつ、手形以外の手段で支払うことが望ましいと回答しています[16]。フリーランスとの取引ルールはフリーランス法と報酬の支払期日で解説しています。

手形払いの遅延利息について、公正取引委員会は、手形を交付した場合は中小受託事業者が割引を受けたかどうかにかかわらず、手形の満期日を支払日として計算すると回答しています(Q83)[3]。手形の交換終了のスケジュールと受け取る側の対応は、約束手形の廃止はいつ?で詳しく解説しています。

手形・電子記録債権での支払で勧告された事例は?

公正取引委員会は2026年9月29日と10月9日に、手形や、期日に満額の現金を得にくい電子記録債権で代金を支払った委託事業者に対し、取適法5条1項2号(支払遅延の禁止)違反として勧告を行いました[21][22]。取適法の支払手段の規制が、施行から1年目に実際の措置として使われたことを示す事例です。

項目 株式会社不二製作所(2026年9月29日) パーパス株式会社(2026年10月9日)
違反とされた支払 2026年2〜5月、中小受託事業者5名に手形で計約387万円、40名に電子記録債権で計約7,079万円を交付し、支払期日までに金銭等で払わなかった。ほかに1名へ受領から60日以内に払わなかった約31万円 2026年2〜3月、中小受託事業者11名に手形で計約2,282万円を交付し、支払期日の経過後も支払わなかった
違反法条 取適法5条1項2号 取適法5条1項2号(ほかに減額・不当な経済上の利益の提供要請)
勧告の内容 未払相当額計約7,497万円(支払済みの約649万円を除く)と、6条1項の遅延利息を速やかに支払うこと 手形で払った約2,282万円(支払済み分を除く)と遅延利息の支払、振込手数料の差引き分の返還など
勧告の根拠 取適法10条1項。中小企業庁長官の措置請求(9条)を受けたもの 取適法10条1項(2025年12月以前の発注分は改正前の下請法7条)

表は公正取引委員会の公表資料によります[21][22]。不二製作所の事例では、電子記録債権について「支払期日までに代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難」なものを使ったと認定されています[21]。手形をやめて電子記録債権に切り替えただけでは足りず、満期日が支払期日以前か、受注側が手数料を負担しないかまで確認する必要があることがわかります。

取適法の対象になる取引は?

取適法が適用されるのは、取引の種類と、当事者の規模(資本金または従業員数)の両方が条件を満たす場合です[1]。取引の種類は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託の5つです[1]。

取引の種類 委託事業者 中小受託事業者
製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラムの作成委託、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託 資本金3億円超 資本金3億円以下の法人・個人
同上 資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下の法人・個人
上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 資本金5千万円超 資本金5千万円以下の法人・個人
同上 資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下の法人・個人
従業員基準(製造委託等) 常時使用する従業員300人超 従業員300人以下
従業員基準(上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託) 常時使用する従業員100人超 従業員100人以下

個人事業主やフリーランスは、資本金がなくても「個人」として中小受託事業者に当たりえます[1]。たとえば資本金1千万円を超える会社から部品の製造を受託した個人事業主は、資本金基準で取適法の対象になります。従業員を使用しないフリーランスへの業務委託には、取適法とは別にフリーランス法もかかり、両方が適用される発注では、発注側は両法の明示事項を1通の書面やメールでまとめて示せます[16]。

資本金の区分で「プログラム」「運送」「物品の倉庫における保管」「情報処理」が3億円の区分に入るのは、政令で定められているためです[13]。建設業者が請け負った建設工事を他の建設業者に請け負わせる取引は、取適法の役務提供委託から除かれています[1]。ただし公正取引委員会は、建設業者が建設資材の製造や設計図面の作成を委託する場合は取適法の対象になりうると説明しています(Q&A Q5)[3]。建設業の資金繰りは建設業のファクタリングも参考にしてください。

労働者派遣を受ける取引も、取適法の対象外です。公正取引委員会のQ&A(Q4)は、労働者派遣法にもとづいて派遣会社に派遣を依頼することは、自社の業務のために派遣を受けるもので、自ら用いる役務の委託として取適法の対象にならないと回答しています[3]。同じQ&Aは、派遣労働者は派遣先の指揮命令の下で業務を行うため、事業者が自ら業務を行っていることになり、委託取引にも当たらないとしています[3]。そのため、派遣会社が派遣先から受け取る派遣料金の支払条件について、取適法の60日ルールや手形払いの禁止を根拠にすることはできません。人材派遣業の資金繰りは人材派遣業のファクタリングで解説しています。

支払期日の「60日ルール」と遅延利息

取適法では、代金の支払期日を、給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に定めなければなりません[1]。期日までに払わなければ、委託事業者は遅延利息を支払う義務を負います[1]。

遅延利息は、受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じて計算します(6条1項)[1]。利率は年14.6%です[9]。

60日ルールは受注側の資金繰りを直接左右します。入金サイクルの計算や支払サイトの交渉は支払いサイトとはで解説しています。

受注側にとって何が変わり、ファクタリングは必要か

取適法で「支払期日に満額の現金」が原則になったため、受注側が手形の割引料を負担して資金化する場面は減る方向です。ただし、支払は受領から最長60日後で、その間の仕入れや人件費は先に出ていくため、資金繰りの谷が消えるわけではありません。

中小企業庁の調査(2026年3月の価格交渉促進月間フォローアップ、2025年10月〜2026年3月の取引が対象)では、支払手段の実態は次のとおりでした[10]。取適法の施行前後にまたがる期間の数字です。

項目 数値
支払手段が「現金のみ」の割合 87.5%(前回82.2%)
支払手段に手形の利用がある割合 3%(前回5.8%)
支払期日が60日を超える割合 6.6%
手形等で支払を受ける企業のうち、割引料等(ファクタリング手数料を含む)を受注側が負担している割合 24.3%

受注側がファクタリングを検討するのは、主に次のような場面です。

  • 取適法の対象取引でも、支払期日(最長60日)より前に仕入れや給与の支払いがある
  • 取引先の規模が基準に届かないなど、取適法の対象外の取引で支払サイトが長い
  • 建設工事の請負など、取適法ではなく別の法律(建設業法)が適用される取引

ファクタリングは手数料が差し引かれるため、年率に直すと融資より高くなる場合が多い資金調達です。使う前に、各社の公表値を集計したファクタリング手数料の相場や手数料計算ツールでコストを確かめ、でんさいとファクタリングの違いも比べてください。

発注側が支払方法を変えたときの確認ポイント

取適法の施行や手形の交換終了にあわせて、発注側が支払方法を変えるケースが増えています。運用基準と公正取引委員会のQ&Aに照らすと、次のような変更は違反になるおそれがあります[2][3]。

支払方法の変更例 取適法上の問題 根拠
手形をやめ、従来の手形の満期にあたる日に現金で払う(受領から60日超) 支払期日が受領から60日を超え、支払遅延に当たる 運用基準の違反事例[2]
手形をやめ、満期が受領から60日を超える電子記録債権で払う 期日に満額の現金を得るには割引が必要で、支払遅延に当たる 5条1項2号[1]、運用基準[2]
電子記録債権の代わりに現金で払う際に「割引料」を差し引く 受注側の希望による一時的な現金払いでも認められない Q&A Q103[3]
「毎月25日納品締切、翌々月5日支払」のような締め払いにする 受領から60日を超える分が出れば支払遅延に当たる 運用基準の違反事例[2]
一括決済方式に切り替え、受取手数料を受注側の負担にする 合意があっても支払遅延に当たる Q&A Q81[3]

支払方法の変更を打診されたら、変更後の支払日が「受領日から60日以内」に収まるか、満額が現金で届くかの2点をまず確認してください。

業種によって取適法の影響はどう違う?

取適法の影響は業種によって違います。建設工事の下請負は取適法の対象外で、運送は2026年から荷主との取引まで対象が広がり、ソフトウェア開発は検収の長さが60日ルールとぶつかりやすい、という違いがあります[1][3]。

業種 取適法での主な論点 公表されている数字・事例
建設業 建設工事の下請負は取適法の対象外(建設業法の規律)。資材の製造委託や設計図面の作成委託は対象になりうる(Q&A Q5) 国土交通省・中小企業庁の令和7年度調査で、手形期間を60日以内にしている(予定を含む)業者は94.6%、手形割引料を下請に負担させている元請は27.7%[17]
運送業 発荷主から元請運送事業者への運送委託(特定運送委託)が2026年1月1日から対象に 公正取引委員会の令和7年度調査で、荷主の問題行為1,051件のうち「代金の支払遅延」は240件(22.8%)[18]
ソフトウェア・IT プログラム作成は資本金3億円の区分。検査に60日以上かかっても、受領から60日以内に支払う必要がある(Q&A Q86) 運用基準は、プログラムの検査に3か月かかり納入後60日を超えて支払った事例を違反例に挙げる[2]
製造業 金型の製造委託は、原則として金型の受渡日が受領日(Q&A Q85) 運用基準は、毎月25日納品締切・翌々月5日支払で60日を超えた事例を違反例に挙げる[2]

業種別の資金繰りの注意点は、建設業のファクタリング、運送業のファクタリング、IT・Web制作業のファクタリング、製造業のファクタリングで解説しています。

発注側(委託事業者)が準備すべきことは?

発注側がまずやるべきことは、2026年1月1日以後の発注について、手形をやめ、支払期日(受領から60日以内)に満額が現金で届く支払方法に切り替えることです[1][7]。中小企業は、ある取引では受注側、別の取引では発注側になることが多いため、両方の立場で確認が必要です。

義務・論点 内容 根拠
発注内容の明示(4条) 発注したら直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを書面か電子メールなどで明示する 取適法4条[1]
書類の作成・保存(7条) 給付、受領、代金の支払などの記録を作成して保存する。一括決済方式や電子記録債権を使う場合は、受注側が期日に満額の現金を受け取れる措置を記録する 取適法7条[1]、Q&A Q71[3]
支払手段 手形は不可。電子記録債権・一括決済方式は満期日・決済日を支払期日以前にし、手数料を受注側に負担させない 5条1項2号[1]、運用基準[2]
手数料の一時負担 受注側が一時的に手数料を負担する仕組みなら、事前の書面合意と、期日までの補填が必要 Q&A Q82[3]
罰則 4条の明示をしない、7条の書類を作成・保存しないなどの場合、違反行為をした者は50万円以下の罰金。法人にも罰金刑 取適法14条・16条[1]
勧告 5条違反があると、公正取引委員会は代金や遅延利息の支払などを勧告する 取適法10条[1]

支払期日に現金を用意できない発注側が、受注側に割引や手数料の負担を求める形は取れません。資金繰りの面では、発注側が自社の売掛債権を資金化する、金融機関から借り入れるといった、自社の側での手当てが必要になります。資金調達の手段の比較は資金調達の方法一覧にまとめています。

違反が疑われるときの相談先は?

取適法違反が疑われるときは、公正取引委員会、中小企業庁、または事業を所管する省庁に知らせることができます[1][4]。委託事業者は、中小受託事業者がこれらの機関に違反を知らせたことを理由に、取引を減らしたり停止したりしてはいけません[1]。

各都道府県には中小企業の取引の相談窓口「取引かけこみ寺」があり、公正取引委員会の改正解説は、47都道府県の取引かけこみ寺に寄せられる声を活用するため、国と地方公共団体の連携を強化するとしています[4]。公正取引委員会の公表によると、令和7年度(2025年4月〜2026年3月。2025年12月までは改正前の下請法の期間)の勧告は39件、指導は8,261件でした[11]。違反類型で最も多いのは支払遅延の3,787件で、実体規定違反全体の52.4%を占め、割引困難な手形の交付は145件でした[14]。

窓口 相談・申告できること 連絡方法
公正取引委員会 取適法違反被疑事実の申告、取適法の考え方の相談 ウェブの申告フォームまたは郵送(「相談・申告・情報提供・手続等窓口」ページ)[19]
取引かけこみ寺(中小企業庁の委託事業、全国48か所) 代金の未払い・減額、一方的な代金決定などの取引上の悩み。相談無料・匿名可。裁判外紛争解決手続(ADR)もある フリーダイヤル 0120-418-618(平日9:00〜12:00、13:00〜17:00)[20]
事業を所管する省庁 取適法違反の事実を知らせる先として法律に明記(報復措置の禁止の対象) 各省庁の窓口[1]

窓口の情報は2026年9月18日に各公式ページで確認しました。取引かけこみ寺は、中小企業・個人事業主・フリーランスからの相談を受け付けると案内しています[20]。

相談の前に、次の資料をそろえておくと話が早く進みます。

  1. 発注書・注文書(発注日、代金、支払期日、支払方法がわかるもの)
  2. 納品書や検収書など、給付を受領した日がわかるもの
  3. 受け取った手形・電子記録債権・一括決済の内容(満期日、決済日、差し引かれた手数料)
  4. 自社と取引先の資本金・従業員数がわかる資料

2027年4月1日からの「支払告示」とは

支払告示とは、取適法の対象外の取引でも、製造委託等の代金を給付の受領日から60日を経過してなお支払わないことを、独占禁止法上の不公正な取引方法として禁止するルールです[12]。正式名称は「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」(令和8年6月18日公正取引委員会告示第3号)で、2027年4月1日に施行されます(2026年10月時点で未施行)[12][7]。

支払告示は、資本金や従業員数の基準に当たらず取適法が適用されない取引にも60日のルールを広げるものです[7]。ただし、国などの発注、取引上の地位が委託事業者に劣っていないと認められる受託事業者との取引、期間内に支払わないことに正当な理由がある場合は除かれます[12]。60日ルールを定める3つの制度を比べると、次のとおりです。

項目 取適法 支払告示 フリーランス法
施行日 2026年1月1日(施行済み) 2027年4月1日(未施行) 2024年11月1日(施行済み)
対象 資本金・従業員数の基準を満たす製造委託等 取適法の対象外も含む製造委託等(地位が劣っていない受託事業者との取引などを除く) 従業員を使用する発注者から、従業員を使用しないフリーランスへの業務委託
支払のルール 受領から60日以内の支払期日までに支払う 受領から60日を経過してなお支払わないことを禁止 受領から60日以内の支払期日までに支払う
手形 交付は支払遅延として禁止 告示に手形の交付を禁じる文言はない。公正取引委員会と中小企業庁は、できる限り現金で支払うよう要請 直ちに違反ではないが、手形以外が望ましいとされる

表は各法令・告示と公正取引委員会のQ&Aによります[1][12][16]。フリーランス法の詳細はフリーランス法と報酬の支払期日を参照してください。

公正取引委員会と中小企業庁は、取適法と支払告示の対象外の取引についても、サイトを60日以内に短縮し、できる限り現金で支払うよう事業者団体に求めています[7]。

よくある質問

Q取適法でファクタリングは禁止されたのですか?

A取適法はファクタリングという取引そのものを禁止していません。取適法が禁止しているのは、代金を支払う委託事業者が、手形や、支払期日までに満額の現金を得にくい電子記録債権・一括決済方式を支払手段として使うことです。受注側の事業者が自社の売掛債権をファクタリング会社に売ることを禁じる規定は、条文・運用基準・公正取引委員会のQ&Aに見当たりません。

Q取適法はいつから施行されていますか?

A取適法は2026年1月1日に施行されています。改正法(令和7年法律第41号)は2025年5月16日に成立し、5月23日に公布されました。手形払いの禁止は、2026年1月1日以後に発注した製造委託等の代金に適用されます。

Qでんさい(電子記録債権)で代金を受け取るのは取適法違反ですか?

Aでんさいなどの電子記録債権を使うこと自体は禁止されていません。満期日が支払期日(受領から60日以内)以前に来て、受注側が手数料を負担せずに満額を受け取れるなら使えます。満期日が支払期日より後で、受注側が割引を受けなければ期日に現金化できない場合は、委託事業者が割引料を負担するとしても原則として違反になります。

Q取適法の遅延利息は何%ですか?

A取適法の遅延利息は年14.6%です。委託事業者は、給付を受領した日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じて、未払金額に年14.6%を掛けた遅延利息を支払わなければなりません。手形で支払った場合は、手形の満期日を支払日として計算されます。

Q2026年1月以降に取引先から手形を渡されたらどうすればよいですか?

A取適法の対象取引で2026年1月1日以後に発注された代金なら、手形の交付は支払遅延として禁止されています。まず発注書の日付と、自社と取引先の資本金・従業員数から取適法の対象かを確認し、現金振込への変更を求めるのが基本です。解決しない場合は公正取引委員会、中小企業庁、各都道府県の取引かけこみ寺に相談できます。

Q一括ファクタリング(一括決済方式)は取適法で禁止されましたか?

A一括決済方式そのものは禁止されていません。公正取引委員会は、信託を使った一括決済方式について、いわゆるファクタリング方式に当たり、制度自体は取適法や独占禁止法で禁止されるものではないと回答しています。ただし、決済日が支払期日より後になるものや、受取手数料を受注側に負担させるものは支払遅延として違反になります。

Q取適法の対象外の取引なら手形を使えますか?

A取適法の対象外の取引では、取適法による手形払いの禁止はかかりません。ただし、多くの金融機関が設定した手形・小切手の最終振出期限(2026年9月30日)はすでに過ぎ、その金融機関では原則として手形による当座勘定からの支払ができなくなっています。電子交換所での交換も2027年3月31日に廃止され、その後は郵送などの相対決済になると全国銀行協会は説明しています。

Q取適法に違反するとどうなりますか?

A取適法5条の禁止行為に違反すると、公正取引委員会は10条にもとづき代金や遅延利息の支払などを勧告します。2026年9月29日には、手形と満額の現金化が難しい電子記録債権で代金を払った会社に、未払相当額約7,497万円と遅延利息の支払を勧告しました。発注内容の明示(4条)や書類の作成・保存(7条)に違反した場合は50万円以下の罰金で、法人も罰金刑の対象です(14条・16条)。

出典・参考資料

  1. e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号)」
  2. 公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」
  3. 公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
  4. 公正取引委員会「取適法・振興法(法改正について)」
  5. 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
  6. e-Gov法令検索「民法」
  7. 公正取引委員会「(令和8年9月2日)約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について」(2026年9月)
  8. 公正取引委員会「(令和6年10月1日)手形等のサイトの短縮について」(2024年10月)
  9. 公正取引委員会「取適法リーフレット」(2025年8月)
  10. 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果」(2026年6月)
  11. 公正取引委員会「令和7年度における取適法の運用状況及び企業間取引の公正化に向けた取組」(2026年6月)
  12. 公正取引委員会「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法(令和8年6月18日公正取引委員会告示第3号)」(2026年6月)
  13. e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」
  14. 公正取引委員会「令和7年度における取適法の運用状況(本文)」(2026年6月)
  15. 全国銀行協会「電子交換所の交換廃止時期の決定および手形・小切手交換廃止時期の明確化について」(2026年6月)
  16. 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A」
  17. 国土交通省・中小企業庁「令和7年度下請取引等実態調査の結果について」(2026年3月)
  18. 公正取引委員会「令和7年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果等について」(2026年6月)
  19. 公正取引委員会「相談・申告・情報提供・手続等窓口」
  20. 公益財団法人 全国中小企業振興機関協会「取引かけこみ寺事業」
  21. 公正取引委員会「(令和8年9月29日)株式会社不二製作所に対する勧告について」(2026年9月)
  22. 公正取引委員会「(令和8年10月9日)パーパス株式会社に対する勧告について」(2026年10月)
  23. 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト(資料編に法律の条文を収録)」(2025年11月)
  24. 公正取引委員会「取適法 勧告一覧(令和8年度)」
  25. 全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ(特設サイト)」

出典のURLと内容は2026年10月22日時点で確認しています。

この記事の更新履歴

  •  公開
  •  2026年9月30日の最終振出期限を過ぎたため、年表とFAQを経過後の表現に修正。公正取引委員会が手形・電子記録債権による支払を取適法5条1項2号違反とした勧告(2026年9月29日・10月9日)の節を追加。条文番号(3条・4条・5条1項2号/7号・6条・7条・10条・14条・16条)を、e-Govがメンテナンス中のため公正取引委員会・中小企業庁のテキスト掲載の条文と勧告文で再確認。タイトルを短縮

内容の誤りや古くなった情報にお気づきの場合は、お問い合わせからご連絡ください。確認のうえ訂正し、この欄に記録します。

この記事を引用するとき

記事・図表・データは、出典を明記していただければ引用できます(引用のルール)。出典は次のように記載してください。

アンドファクタリング「取適法(改正下請法)とファクタリング|手形払い禁止と電子記録債権のルール」(https://factoring.co.jp/law/toritekiho/、2026年10月22日更新)