銀行が融資の判断をする際には、決算書から業績や財務について分析し、貸し倒れリスクを量りつつ判断します。
しかし、中小企業の決算書は、必ずしも会社の実態を正確に表しているとは限らないため、銀行は様々な視点から会社を評価します。
特に、会社を構成するヒトはどうであるか、また事業で取り扱っているモノはどうであるかということが、融資に大きく影響することが少なくありません。
そこで本稿では、会社の「ヒト」と「モノ」の要素について、銀行がどのように評価しているのかを解説していきます。
決算書は他の材料があってこそ重要とされる
銀行が融資を判断する際には、会社に様々な書類の提出を求めます。
その資料の中でも、最も重視されると言われているのが決算書です。
決算書には、業績や財務に関する情報が数字で表されているため、定量的な分析が可能です。
経営者や従業員の能力、会社を取り巻く市場環境、会社が提供している商品やサービスなどの定性的な要素は、分析する人によって評価が異なります。
しかし、数字は誰が見ても同じ評価をすることができるため、融資判断の重要な材料となるのです。

提出される様々な資料のうち、決算書には特に重要な情報が記載されていることから、決算書が重視されるのは間違いのないことです。
しかし、これは「それぞれの材料と比較した場合に、より重視される」ということであり、決算書を全面的に信頼しているということではありません。
もちろん、大企業の決算書は、かなり信頼性が高いものです。
なぜならば、大企業は不特定多数から出資を受けており、実態に即した報告が欠かせないからです。
また、企業会計原則という会計基準を守る必要があることや、監査法人が会計監査を行うことなどからも、決算書の信頼性が極めて高いものとなります。
一方、中小企業は、不特定多数から出資を受けていることは少なく、出資者は代表者、家族、親戚、友人などに限られることがほとんどです。
このため、大企業のように出資者に配慮した決算を行う必要がなく、会計基準を厳密に守る必要もありません。

実際、統一された基準に依らない中小企業の決算書では、作成する人や会社の事情によって数字が異なることもあり、決算書の情報が会社の実態を正確に表していないことも多いです。
銀行も、このことをよくわきまえているため、中小企業の決算書を全面的に信頼していないのです。

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ヒトやモノも見られている
銀行は、決算書から収益性や財務の健全性を読み取り、返済力を把握します。
つまり、会社の実力を構成する「ヒト・モノ・カネ」の三大要素のうち、決算書からカネの情報を読み取っていると言えます。
しかし、上記の通り、銀行は決算書を全面的に信頼しているわけではありません。
そこで、銀行はより正確な融資判断を行うために、「ヒト」と「モノ」の要素から、決算書には表れない部分を読み取ります。
逆に言えば、決算書から読み取れる情報に多少問題がある会社でも、ヒトやモノといった面での強みをアピールすることができれば、融資を受けられる可能性が高まります。

銀行は会社の「ヒト」をどう見ている?
「銀行が会社のヒトを見る」と言えば、経営者や従業員について見られると考える人が多いと思います。
もちろん、経営者や従業員はチェックの対象となりますが、その他にも会社の役員や株主などについてもチェックしますし、それらの「ヒト」によって構成される、会社組織全体に対してもチェックしています。
銀行がどのようなチェックをしていくかを知っておくと、融資にプラスの影響を与えるために、会社の「ヒト」はどうあるべきかが分かります。
経営者
会社のヒトの要素を単体で見た時、最も重視されるのは経営者です。
中小企業では、経営者の性質がそのまま会社に反映されることが多いからです。
このため、銀行が会社の「ヒト」を判断するにあたっては、まずは経営者の能力、経歴や性格、家族構成などを把握するように努めます。
もちろん、表面的な情報だけで評価するのではなく、経営者としての「資質」について、特に重視されます。
例えば、次の要素が重視されます。
- 信念をもって経営しているか
- リーダーシップはあるか
- 事業展開に戦略性はあるか
- 事業を通じて社会に貢献する意志があるか
- 会社の業績や財務を正しく把握しているか
経営者としての資質に乏しく、このような点で疑問を抱かれてしまった場合には、融資判断にマイナスになります。
役員
会社の役員も、経営に大きな影響を与える存在です。
特に、会社の規模が大きくなるにつれて、経営者一人では手が回らなくなり、役員の影響力が大きくなります。
このため銀行は、役員の資質にも注目しています。
例えば、次の要素についてみています。
- それぞれの役員に経営能力はあるか
- 役員間に対立はないか
もっとも、役員の能力に問題がない場合でも、経営者がワンマンであり、役員の能力が発揮されないような場合は、当然マイナス評価につながります。
また、役員を調査したところ、経営立て直しのために親会社から送り込まれた役員が含まれていることが判明した場合などにも、マイナス評価につながることがあります。
したがって、それぞれの役員の能力だけではなく、役員の構成などについてもチェックされていると言えます。
従業員
従業員は経営資源の一つであり、経営に欠かせない存在です。
経営者や役員の能力が高く、経営方針や事業計画が完璧であったとしても、それを遂行していく従業員の能力が低ければ、事業はうまくいきません。
逆に、従業員の能力が高ければ、経営者や役員の能力から本来期待できる以上の成果を得られる場合もあります。
したがって、銀行は従業員についてもチェックしています。
例えば、次のような点がチェックされています。
- 従業員の能力はどうか
- 従業員のモチベーションはどうか
- 従業員が適材適所で配置されているか
このほか、従業員の平均年齢や離職率なども評価の対象となります。

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株主
中小企業においては不特定多数の人が株主になることは基本的にありません。
しかし、会社の規模が小さく、株主構成も一定の範囲に限られているからこそ、問題になることがあります。
例えば、株主が経営者とその家族で固められている場合には、株主間で相続争いが起きたり、株主間で対立したりすることにより、業績にマイナスの影響を与えることがあります。
このような兆候を察知すると、銀行はマイナスに捉えます。
また、株主の中に法人株主がいる場合には、別の観点から慎重にチェックがなされます。
これは、銀行が融資した資金が、株主となっている法人の赤字補填資金などに回されてしまう可能性があるからです。
そうなれば、銀行は融資した資金が期待された通りに活用されず、そこから貸し倒れのリスクなども生じることとなります。
このような理由から、法人株主が含まれている場合、銀行はその法人が資金難に陥っていないかどうかなどを調査し、融資を判断していきます。
組織の資質
経営者・役員・従業員・株主などの資質についてみてきました。
しかし銀行は、それぞれを単体で見るだけではなく、これらによって構成される組織としての資質をより重視します。
なぜならば、事業は個人プレーではなくチームプレーであり、組織全体での能力が高くなければ、その会社は生き残っていくことが難しいからです。
経営者だけ、役員だけ、あるいは従業員だけというように、特定の部分だけで高い能力を持っている組織は、その部分的な能力の高さをうまく活用することができません。
場合によっては、他の部分で足を引っ張ることとなり、部分的な良さが消えてしまうこともあります。

組織能力が高いということは、組織が持っている様々な経営資源をうまく活用していく能力が高いということです。
当然ながら組織における人的資源をうまく活用していけるということでもあります。
経営資源をうまく活用できるからこそ、競争力を高めることができ、それが会社の強みとなっていきます。
銀行がチェックする際には、以下のような特徴から組織能力を量ります。
- チームワークがある
- 職場に活気がある
- 誰もが真面目に働いている
- チャレンジ精神が感じられる
- 一つの目標に向かって組織が一丸となっている
- 組織内で情報が共有されている
- 部門間での連携が取れている
以上のように銀行は、会社の持つ「ヒト」の要素について、それぞれ単体での評価をするだけではなく、さらに組織全体での評価をします。
「ヒト」を評価することによって、会社の現状の問題点や評価できる点、組織としての潜在能力や将来性などを知ることができ、融資判断の参考になるのです。

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銀行は会社の「モノ」をどう見ている?
次に、会社の「モノ」について見ていきましょう。会社における「モノ」とは、当然ながら商品のことです。
そもそも、事業がうまくいくためには、営業力と商品力の両方が必要です。
「営業力×商品力=ビジネスの成果」であり、例えば営業力が5、商品力が5であればビジネスの成果は25、営業力が10でも商品力が1であればビジネスの成果は10となります。
このうち、営業力は資金力に比例します。
お金をかけて優秀な人材を雇ったり、お金をかけて大きく宣伝したりすれば、営業力を高めることができます。
つまり、大量の資金を投入して営業力を高めれば、商品力はそこそこでも、それなりの成果を得ることができます。
しかし、このような方法は、資金力のある大企業でなければ不可能であり、資金力に乏しい中小企業の営業力には限界があります。
このため、中小企業が成果を上げるためには、営業力よりも商品力が重要であり、商品力こそ成功のカギを握っていると言えます。
もちろん、お金をかけて優秀な人材を集め、商品の開発に取り組めば、商品力は高まりやすくなります。
したがって、商品力にも資金力が影響しないとは言えません。
それでも、商品力における資金力の影響は、営業力への影響のようにダイレクトなものではありません。

特に、最近はSNSなどを通じて口コミが拡散される時代です。
アイデアや企画力によって優秀な商品を生み出すことができれば、優秀な営業マンを雇わずとも、また大量の宣伝を行わずとも、顧客の口コミが営業・宣伝となり、販促につながっていきます。
したがって、商品力を高めることに成功すれば、資金力に乏しい中小企業でも、大きく売り上げていくことが可能です。
逆に、商品力が低い会社は、いくらお金の力で営業力を高めたとしても、口コミによって悪評が拡散され、売り上げに響くことになります。
このように考えると、会社の持つ「モノ」の要素が、非常に重要であることが分かります。
銀行が会社の「モノ」に注目し、商品の競争力や持続性を評価するのもこのためです。
商品力の評価
銀行が商品を評価する際には、まずは商品の特徴、品質、機能といった表面的な情報を把握し、さらにその商品の強みや独自性から、競争力を評価します。
これは、レストランなどのケースで考えると非常に分かりやすいです。
どこにでもあるようなレストランであり、メニューにも特徴がなければ、そのレストランの商品には強みや独自性はなく、高く評価できる「モノ」を有しているとは言えません。
しかし、レストランがミシュランに評価されたことがある、シェフが有名な賞を受賞したことがある、独創的なメニューを定期的に発表して客からも評価されているなどの場合には、そのレストランの商品には強みや独自性があり、素晴らしい「モノ」を有していると言えます。
このほかにも、次のような事も高く評価されます。
- 最先端の技術力を持っている
- 独自の特許を持っている
- 研究が評価されて大学などの機関と提携している

もちろん、最先端技術や特許といった見方をすると、「うちの会社にはそんなものはないよ」という会社も多いと思います。
しかし、商品の強みや独自性は色々なところから生まれてくるものです。
例えば、商品の価格設定も強み・独自性につながります。
仕入れルートに工夫を凝らして原価の低減に成功した会社では、商品を低価格で提供することができます。
これは、類似の商品を提供している同業他社と比べて、
- 安いからこそ売れやすい(価格に強みがある)
- その価格で提供できるのはその会社だけ(価格設定に独自性がある)
と言えます。
低価格で提供すれば、価格を下げても利益を確保しやすく、リピーターも獲得しやすく、価格競争で負けにくくなります。これも、立派な強みであることが分かるでしょう。
銀行が会社の「モノ」を評価するにあたっては、先端技術や独自技術を持っている、有力な機関から評価を受けているなどの場合に評価するのはもちろんのこと、価格設定などについても評価しているのです。
営業力の評価
次に、営業力の評価について見ていきましょう。
すでに書いた通り、営業力は資金力に比例するものであり、中小企業の営業力には限界があります。
それでも、商品を顧客に届けるためには営業が必要であり、営業力は欠かせません。
したがって、銀行は営業力も評価します。
もっとも、営業力に限界がある中小企業では、営業マンの能力がどうであるか、宣伝広告にどのくらい取り組むかということではなく、主に営業戦略について評価がなされます。
人材の雇用や宣伝広告とは違って、営業戦略はお金をかけずに高めることが可能です。
具体的には、新規顧客を効果的に開拓していくための販売戦略、既存客を維持していくための顧客管理力などをチェックされます。
すなわち、次のような視点で評価していきます。
- どこで、誰に売るか
- どのように商品を知ってもらうか
- 商品の強みや独自性をどのように伝えるか
- 他社との差別化をどのように図るか
- 顧客のリピートを促すためにどのように取り組むか
もちろん、販売する相手が個人か企業かによって、営業戦略には大きな違いが出てくるでしょう。
特に、企業相手に販売する場合には、銀行は「どのような会社に販売しているのか」「安定した販売が見込めるか」といった目線でも分析します。
継続性の評価
商品力と営業力に優れ、高い評価を得られたとしても、まだ安心はできません。
なぜならば、それが一過性のものでは意味がないからです。
会社は長期にわたって営業を続けていくものであり、銀行の融資も長期にわたって返済を続けていくものです。
継続的に利益を上げていくことができなければ、将来的に経営困難や返済不能に陥る可能性もあるため、銀行は融資することが難しいと判断します。

事業の継続性を知るうえで重要となるのが、生産体制です。
例えば、受注生産であれば、発注する取引先の経営状況、景気の動向、季節要因などによって、売上が左右される可能性があります。
また、見込み生産の場合には、見込み違いの場合に不良在庫を大量に抱える危険性があります。
このほか、一貫生産の場合には、機械の稼働率や作業効率が売上に影響します。
銀行から継続性を評価してもらうためには、自社の生産体制に応じて、取引先の安定性の高さ、景気や季節要因での売上低下への対策、生産計画の緻密さ、作業効率の高さなどをアピールすることが重要です。
なお、ここでは製造業の場合を挙げましたが、他の業種においても同様です。
銀行が評価しているのは、「事業の継続性を高めるために、問題を解決していけるかどうか」であり、この点での取り組みができている会社は、銀行からプラスの評価を得ることができます。
以上のように、会社の「モノ」を評価するにあたって重要なのは、次の3つです。
- その会社が強みや独自性を持った商品を有していること
- 営業戦略がしっかりしていること
- 継続して利益をあげられること
「モノ」について良い評価を受けることができれば、融資の審査でも有利になります。
金融庁の金融検査マニュアルでも、商品力や販売力に強みを持っている会社に対しては、債務者区分にプラスに評価するべきだと記載されています。
このことからも、銀行が「モノ」を評価し、融資判断に役立てていることが分かるでしょう。

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まとめ
銀行が会社を評価し、融資を判断するにあたっては、決算書から読み取れる数字だけではなく、「ヒト」や「モノ」といった定性的な要素も分析します。
もちろん、銀行員は非常に忙しいため、マイナスに評価すべき部分だけを取り上げるというように、消極的な分析・評価になることも多いです。
このため、これらの要素について積極的に評価してもらうためには、アピールすべき部分は会社側からアピールし、評価してもらえるように働きかける必要があります。
融資を有利に引き出すためにも、自社のヒトとモノについてマイナスになる部分を解消し、プラスになる部分をアピールしていくことが大切です。