借入金の負担が大きく、資金繰りが困難になっている会社では、返済資金を融資によって賄い、資金繰りを安定させていく必要があります。
このような性質の資金を「復元資金」と言います。
通常の融資を比較して、復元資金は複数の意味で問題があり、銀行は慎重な判断をすることになります。
融資を受けられなければ資金繰りがショートする状態ですから、銀行とうまく交渉しなければなりません。
本稿では、復元資金を引き出すための融資交渉を解説していきます。
資金繰りに融資は必須だが・・・
資金繰りを回していくにあたって、会社の自己資金だけで回していくことはできないものです。
無借金経営にこだわっている会社であれば、一切融資を受けることなく資金繰りをしている会社もみられます。
そのような会社の内情を見てみると、資金繰りが非常に厳しく、いつ経営危機に陥ってもおかしくないようなケースも多いです。
財務基盤がしっかりしている大企業でさえ、しっかりと融資を受けて資金繰りをしています。
自己資金だけに頼ることが非常に心細いことを知っており、なおかつ自己資金だけでは事業拡大を加速させられないことを知っているからです。
財務基盤が基本的に弱い中小企業では、なおさら融資の重要性は高いと言えるわ。
しかし、融資を受けすぎているならば、それもまた問題です。
融資を活用することで、資金繰りや事業の安定・効率化を図ることが目的であったはずが、借入金が逆効果を招く場合もあるからです。
返済負担が重くなるにつれて、資金繰りは回りにくくなっていくからです。
借入金の返済は、借入金を活用した結果として生まれてくる利益から返済するのが原則です。
業績に見合わない借入金を作ったり、借入金の活用を誤ってしまうと、利益からの返済が難しくなります。
このため、借入金を受けている会社の中には、返済負担によって資金繰りを圧迫されている会社もよく見られます。
利益のなかから返済していくことができない、あるいはできたとしても事業へのマイナス効果が大きすぎるという状態です。
ファクタリングについての記事はこちら
借入金が重い会社の資金繰り
そのような会社では、返済のための資金を融資で賄うのが普通です。
もちろん、業績や財務の内容が悪化傾向にあるならば、銀行は返済のための融資を出すことはできませんから、融資ではなくリスケジュールなどによって立て直しを図ることになります。
しかし、業績や財務がそれなりに安定しているとか、増収増益傾向にあるならば、銀行は融資によって資金繰りを支援してくれることも多いです。
これにより、返済資金を融資によって賄うことができます。
例えば、3000万円の融資を期間3年で受けるならば、年間返済額は1000万円となります。利息も支払いますが、利息は返済ではなく利息としての支出ですから、返済額には加味していません。
この時、資金繰り的に返済が難しく、なおかつ業況がそれなりに安定している会社ならば、年間返済額相当の1000万円を年に1回借入れ、それを返済に充てていくこととなります。
この例を見ても分かる通り、返済した分を再び借入れ、それによってまた1年返済を続け、翌年も、また翌年も同じ事を繰り返すことになります。
銀行から見れば、当初融資したものが減少の後に当初の水準まで戻ることとなります。
このような性質の融資資金を「復元資金」と呼ぶよ!
もっとも、銀行は非常に良い融資案件だと考えて、積極的に融資しているとは限りません。
上記の通り、融資の返済は利益の中から行うことが原則です。
しかしこの場合、返済を利益の中からではなく、融資によって賄っているわけです。
融資と返済の原則から外れていること、また資金繰りが良いとはいいがたいことから、銀行が慎重になることも多い融資と言えます。
銀行も危ない橋を渡っている
復元資金では、返済の原資を融資に求めており、利益からの返済とはなっていません。
なぜ銀行が融資に応じるのかと言えば、融資すれば銀行にプラスが見込まれ、逆に融資しなければ銀行にマイナスが見込まれるからです。
銀行側のメリット
年間返済額相当を毎年融資すれば、その会社の借入金はいつまでたっても減ることはありません。決して完済されることはないのです。
その会社が将来的にも安定していくと考えられるならば、銀行はかなり長期にわたって利息収入を稼いでいくことができます。
また、付き合いが長びくにつれて、会社との関係は深まっていきます。
そのため、銀行が会社に営業を仕掛けるチャンスも増えてきます。
銀行側のリスク
しかし、逆に融資しなければどうなるでしょうか。
その会社は、返済負担が重いと感じて融資を依頼しているのですから、そこに復元資金を供給しなければ、会社の資金繰りは大幅に悪化する可能性が高いです。
また、その会社が複数の銀行から借り入れており、全ての銀行に復元資金の融資を申し込んでいたとすれば、状況はさらに悪化します。
融資が受けられなかった場合、その会社の資金繰りは大きく悪化することは、取引している全ての銀行が知っていることです。
そのため、どこかひとつの銀行が融資を拒否してしまうと、他の銀行は会社の資金繰りが破綻すると判断して一斉に融資を拒否するようになり、回収に乗り出します。
つまり、借入金の負担を融資で賄っている会社は、融資のアテが少しでも外れてしまうと、それによって一気に資金繰りが崩壊していくのです。
非常に危ない橋を渡っているわけで、銀行もその点には敏感になっています。
全ての銀行が足並み揃えて支援すれば安心ですし、利益も見込めます。
しかし、少しでも足並みがばらつくと、貸し倒れリスクが急激に上がってしまうのです。
銀行の判断のキモ
以上のように、借入金を融資によって賄っている会社に対し、銀行は慎重に融資対応をしなければなりません。
融資の判断では、以下の点について重視されます。
会社の業績が安定していること
業績が長期にわたって、横ばいで安定していたり、増収増益を続けていたりするならば、銀行はプラスに捉えます。
長期にわたって業績が安定しており、なおかつ大きな懸念材料がなければ、今後も安定した業績を期待することができます。
急激に業績が悪化する可能性は低く、返済困難に陥るとは考えにくいです。
また、業績が安定している会社に対しては、多くの銀行が同様の判断をします。
銀行が足並み揃えて支援して資金調達はうまくいく、すなわち資金繰りは安定すると考えることができるよ!
全ての銀行が融資に応じること
上記の通り、融資している全ての銀行が、復元資金の融資に応じることが絶対条件となります。
全ての銀行がこの点には注意しており、融資が少しでも欠けると大きな問題になると考えています。だからこそ、他行の動向は非常に重要です。
業績が安定しているとしても、全ての銀行が融資に応じるとは限りません。
これまで長年支援を続けてきた銀行が、今年も必ず支援するという保証もありません。
もっとも、業績が安定している会社であり、景気や銀行の状況にも大きな変化がない場合、基本的には融資を受けられるだろう。
銀行も、融資を拒否した場合の大変さはわかっています。
銀行の足並みがばらつき、会社の資金繰りが回らなくなり、各銀行が回収へと方針を切り替えたならば、融資していた銀行同士で回収競争を演じることとなります。
資金繰りが厳しかった会社に対して、そのように回収を図っても、ほんの一部しか回収できずに破産に至る可能性が高いです。
めったやたらに会社をつぶすような判断をしていれば、銀行の収益も減ってしまいます。
そうなるよりは、業績も安定していることだし、銀行同士で足並みをそろえて支援を続け、長期にわたって利息その他で稼いだ方がいいと考えるのが普通です。
復元資金の融資を希望する会社は、上記の点をしっかりと押さえて交渉することで、融資交渉はかなりスムーズになることと思います。
銀行との交渉の様子
銀行にとっても、かなり慎重に判断すべき案件であることを解説してきました。
では、実際の融資交渉では、上記のような懸念点について、融資担当者はどのように検討していくのでしょうか。
まず、決算書その他の書類から、会社の業績や財務について、定量的な分析を加えることが重要です。
それが、今後の返済状況がどうなっていくか、他行の動向がどうなっていくかを推測する材料となります。
また、他行との交渉状況がポイントとなるため、経営者との面談の際には、その点についてしっかりと確認していくこととなります。
実際にどのような対話になるのか、どのように伝えていくのか、会話例によって見ていくのが分かりやすいでしょう。
ここでは、会社の状況を以下のように設定します。
- 人材派遣業者のA社。昨今の人手不足や働き方改革により、業績は好調。
- ただし、借入金の負担が重い。年間の売上高は6億円、経常利益は1500万円に対し、総借入額は3億円、年間返済額は1億円となっており、資金繰りを圧迫している。
- 資金繰り維持のために、借入先の銀行には毎年の決算更新時に融資を申し入れ、年間返済額1億円を調達している。
A社は、今年も例年と同じく、全ての借入先に融資を申し入れています。
業績が好調であることから、手ごたえは悪くありません。
全ての銀行に対して同じような交渉をしていますが、その中の一つであるA銀行への交渉の様子を見てみましょう。
A銀行への年間返済額は2000万円であり、今回も2000万円の融資申し入れです。
担当者との対話
(経営者は決算にあたり、決算内容や今期の経営計画について説明し、融資も申し入れています。この場で融資契約に至ることはありませんが、融資契約を前提として話を進めていくこととなります。)
経営者「はい。今後も長期にわたって追い風が期待できると思っています。」
担当者「しかし、返済負担は重いようですね。」
経営者「そうです。今年も融資で回していければと思っています。」担当者「当行の返済相当額には、今回も対応させていただきたいと思っています。他行さんにはもう相談されましたか?」
経営者「はい。決算説明と融資のお願いは、A銀行さんが最後です。まだ正式に返事をもらったわけではないですが、面談では皆さん支援に問題ないという感じでした。」担当者「そうですか。先ほどの説明の際に、他行との取引状況も説明いただきました。これを見ると、主力(メインバンク)のB銀行さんを除けば、他行さんの返済額も当行とほぼ同水準ですね。B銀行さんはどうでしょうか。」
経営者「B銀行さんには、既に承諾を頂いています。具体的な手続きも、まもなく始まると思います。」
担当者「それは安心しました。しかし、当行でも基本的には対応させていただきたいと思いますが、あくまでも他行さんも全て対応いただくことが前提となります。」
経営者「その点は、理解しています。」
担当者「他行さんとの交渉状況に応じた対応となりますので、稟議にもある程度お時間を頂戴するかもしれません。他行さんとの交渉状況を随時お伝えいただけると、稟議も進めやすくなります。」
経営者「分かりました。他行さんとの交渉状況は、まめに連絡します。」
担当者「今後もどうぞよろしくお願い致します。」
業績などに問題ないと感じた場合、銀行は基本的に対応の姿勢を取ってくれるだろう。
これまでも、業績を根拠に返済相当額を融資してきたのですから、ここで急に「融資しない」という対応は考えにくいです。
しかし、やはり他行の動向は非常に気になるようです。
主力行を含め、他行の動向がどうであるかを把握し、融資に役立てようとしています。
業績に問題がなければ、他行の動向次第ではあるけれども、基本的には融資対応という流れとなります。
もっとも、これは融資担当者と経営者の対話だけでの判断よ!
実際に融資が実行されるためには、融資担当者が上司と協議して稟議の方針を固め、稟議書を作り、支店内で回覧したうえで、問題がなければ融資実行という流れになります。
他行の動向によって判断が180度変わるような融資案件ですから、他行の動向をじっくり観察にしながら、慎重に稟議を進めていくこととなります。
担当者と上司の協議の様子を見ても、そのことがよく分かります。
上司「全体の返済額は?」
担当者「1億円です。他行にも既に融資を申し入れているとのことです。」
上司「あの会社の規模で毎年1億円返済だから、相当厳しいだろうね。他行は応じるのかな。」担当者「社長の話では、主力行からは融資を取り付けており、まもなく手続きが始まるとのことです。」
上司「主力行だからな。全部で何行?」担当者「当行含めて4行です。主力行への年間返済が4000万円、準主力以下は当行と同じ2000万円となっています。」
上司「主力、ウチ、それにC銀行にD銀行。CとDは大丈夫そうか?」
担当者「社長の話では大丈夫そうとのことですが、まだ何とも言えません。交渉状況を随時伝えてもらいながら、それに応じて稟議を進めるとお伝えしています。」
上司「分かった。他行の状況次第だな。他行が問題なければウチも出す。一行でも欠けたら再協議。」
担当者「分かりました。」
融資担当者は、普段からその会社を担当し、財務分析なども行っていますし、色々な説明も受けています。
それによって会社の業績などには問題ないと判断し、上司に話を持ち込んでいます。
その点に関して稟議で大きく問題視されることは、それほどないものです。
したがって、この場合に特に問題となるのは、やはり他行の動向です。
経営者と面談したのは融資担当者であり、上司は面談の内容を又聞きしているだけです。
融資担当者が決算や経営計画について説明を受け、他行の動向についても探り、「大丈夫そうだ」と思っていても、それを肌で感じていない上司は慎重にならざるを得ません。
そのため、他行の動向をうかがいながら、稟議はかなり慎重な姿勢で進められていくこととなります。
復元資金の稟議書
経営者との面談や上司との協議を踏まえて、融資担当者は稟議書を作成します。
これが、上席者たちの目に触れていき、最後に支店長決裁に至ります(案件によっては本部決裁)。
稟議にあたる人のうち、融資担当者以外は会社の状況や案件の詳細を知らず、あくまでも稟議書を中心として、その融資を実行すべきか拒否すべきかを検討していきます。
融資判断を大きく左右するものと言えますが、例のような会社の復元資金案件では、以下のような稟議書が作られると予測されます。
概況
人材派遣業者。昨今では経済政策の後押しも受けて業績は堅調。事業基盤は確立されている。
ただし、借入金の返済負担が重く、資金繰りを圧迫。今年度は100百万円程度の返済予定があり、取引金融機関から復元資金の支援を受けることが、資金繰りには必須の状態。
資金使途
経常運転資金。既存の借入れの返済を含め、資金繰り維持のために今回の申し入れとなったもの。
融資条件
証貸、金額20百万円、融資期間3年の分割返済、利率2.875%。
保全
全額無担保扱い許容。見るべき担保資産なく、他行も無担保扱いに対応。
資金調達余力
会社および代表者に、見るべき担保資産なし。マル保も保証限度枠を全て利用中で保証余力なし。
今後、返済の進捗により、保証余力が生じると思料。
他の金融機関も、例年復元資金融資に応じており、今年度も調達可能と思料。
狙い
資金繰り安定のために、本件融資は必須。他の金融機関にも既に同様の申し入れをしており、本件にて当行宛の年間返済額を支援するもの。
交渉のポイント
上の稟議書から得られる情報は、
- 業績には問題なし
- 返済負担は重い
- 担保余力や保証余力はない
- 復元資金がなければ資金繰りは行き詰る
ということです。
復元資金を希望する会社では、どうしてもこのような稟議書になることが多いため、できるだけ積極対応を引き出していくためにも、以下のポイントを踏まえた交渉が重要です。
業績をアピールする
業績以外の点ではマイナスの要素が目白押しです。これだけマイナスを抱えていると、業績が良くても積極対応は難しいと判断されるような内容です。
それでも融資するのは、融資を出さなければその会社がたちまち潰れてしまうから、というのがかなり大きな理由となります。
逆に言えば、付き合っている銀行が問題なく復元資金に応じ、業績も安定を続けるならば、それほど問題のない案件だと言えます。
このことから、復元資金を必要としている会社で欠かせないのは、業績の安定と言えます。
業績が安定しているからこそ、複数の銀行が復元資金の融資に応じ、資金繰りは維持されていきます。
業績は非常に大きなよりどころなのですから、もし業績に問題があると思われたり、将来的に心配だと思われたりすると、融資を受けられない可能性が高まってしまいます。
したがって、業績の推移には神経質にならざるを得ませんし、状況を維持していくための経営努力は大変大きなものが求められるでしょう。
経営では、一時的な業績低下を受け入れなければならないこともあります。
長期的な成長のためには、不採算な事業や取引先から撤退するなどして、一時的に業績が低下することもあるのです。
復元資金を必要としている会社では、銀行が業績低下に敏感になっています。
このようなポジティブな理由で、一時的に業績が低下する場合にも、かなりリスクを伴う可能性があります。
普通の会社でも、業績の維持は簡単ではないのに、業績が維持できなければ借入金負担に押しつぶされる状況です。
その点にはしっかりと留意し、業績は復元資金を受け続けるための鍵だと考えていくことが大切だよ!
当然ながら、業績を説明する際には、好意的に受け止めてもらえるように説明することが必須です。
良いところはしっかりとアピールし、悪いところには具体的な対策や見込みについて説明し、とにかく復元資金を出しても問題ない業績だと思わせることが大切なのです。
もちろん、万が一、業績の低下に陥った場合にも、あくまでも一時的な悪化であることを具体的な数値や計画とともに説明し、何とか納得を得なければなりません。
融資の依頼は決算期
業績についてきちんと説明するには、決算期に融資を申し入れるのが最も良いでしょう。それは、主に以下のような理由によります。
銀行側も準備しやすくなる
決算期には、決算書などの資料を銀行に提出し、経営者自ら決算の概要や経営状況、今後の計画などについて説明する機会が得られます。
このとき、借入先に対する事務処理のように捉えて、ただ資料を提出するだけの会社もありますが、それはいけません。
経営者の説明がない状態で融資担当者がその資料を分析すると、よくない情報を見つけた時、担当者の主観でしか判断することができません。
そのため、必要以上にマイナスの印象を抱き、復元資金の融資にも響く可能性があります。
そうならないように、経営者が自分で説明し、アピールやフォローを図り、会社の状況を正確に伝えることが必要です。
また、復元資金の融資では、他行の動向も見極めながらの稟議になるため、融資実行に時間がかかることが多いです。
そのため、いざ資金が不足しそうになってから依頼していると、資金繰りに間に合わなくなったり、万が一融資が難航した場合の対処ができなくなります。
ただでさえ慎重な資金繰りを求められる会社なのに、そのような資金繰りをやっていること自体、銀行は不安視する可能性もあります。
したがって、決算期に業績や資金繰りの状況や計画を説明する際、ちょうど良い機会と考えて復元資金の融資を依頼するのがベストです。
そうすることで、銀行も「決算期=復元資金を求められる時期」と考えることができるため、ある程度準備しておくこともできます。
いきなり融資を依頼されるよりも、万事スムーズに進みやすくなるのです。
再検討の余地を作らない
また、「鉄は熱いうちに打て」といいます。質の良い説明をし、好印象を得ることができたならば、そのホットなタイミングで融資を依頼するべきです。そのタイミングならば、融資担当者は、
「決算説明によると、状況は~~~であり、融資も問題なさそうだ」
と考えて稟議に臨むことができ、融資に後ろ向きな姿勢がない状態で稟議を進めてもらえます。
しかし、せっかく決算説明で好印象を与えても、そこから時間が経過してしまうと、
「決算説明の時は問題なかったようだが、足元の状況はどうだろう。試算表をもらおう」
という流れとなります。つまり、再検討の余地を作ってしまうことになるのです。
再検討されるときにも、会社の状況は決算期から大して変化していないかもしれません。
それでも、担当者が独自に試算表を分析していくとなると、何らかの問題点を見出す可能性があります。
決算期に依頼するに越したことはないのだ!
他行の動向をポジティブに伝える
業績などに問題がないことをよく伝え、好印象を得ると同時に融資を申し入れることで、融資を受けられる可能性は高まっていることでしょう。
しかし、それだけで融資が出ないことは、もうお分かりと思います。
復元資金を出す銀行としては、決算内容や経営計画から、業績には問題ないことはあくまでも「前提」に過ぎません。
業績を維持し、融資に問題ない状況を作っており、なおかつ交渉する全ての金融機関がそれを評価して融資を出す必要があります。
「他行の動向はどうか?」ということが、最終的な判断の根拠になるのです。
融資交渉の時に、他行の動向について弱気と捉えられる発言をしてしまうと、すべてが台無しになりかねません。
したがって、できるだけポジティブな内容を伝えることがポイントです。
もっとも、誇張して伝える必要はありません。
業績に何ら問題なく、銀行の融資方針や国内外の経済環境も極端に変化しておらず、これまでも復元資金を出してくれていた銀行ならば、
「他行次第ですが、基本的には対応したいと考えています。」
という姿勢を持つことと思います。全ての銀行から、このような意見をもらうことができれば、復元資金は調達できる可能性が高いです。
「他行次第」というのは、「他行が消極的な場合には当行も融資できません」ということであり、また「他行が全て対応するならば、融資可能です」ということです。
したがって、交渉する銀行には、
「他行にも既に交渉済みですが、基本的に対応可能とのことです」
と伝えることで、積極対応を引き出せることにつながるのです。
もちろん、積極支援が期待できるメインバンクその他の銀行で、既に融資を出せるという回答をもらっていれば、それはより強力な交渉材料となります。
しっかりと伝えることが大切よ!
最初の交渉相手はメインバンク
なお、最初に交渉する銀行では、まだどの銀行とも接触していないのですから、他行の様子について伝えることはできません。他行の動向を交渉材料にすることができないわけです。
もし、ここで相手を選び間違えると、
「他行さんの状況はまだわからないんですよね。うちでも、まだ判断しかねるので交渉に動きがあれば連絡してください」
などと言われ、ポジティブな姿勢を引き出せなくなるかもしれません。となると、次の交渉先でも、
「すでに他行さんには交渉されていますか?なるほど、E銀行さんには交渉済みなんですね。反応はどうでしたか?・・・まだ良いとも悪いとも言われていないのですね。私も、他行さん次第と考えていますから、それに応じて稟議を進めていきたいと思います」
などと言われる可能性があります。
これでは、
「他行さんの反応次第ですが、今のところ大きな問題はなさそうですし、基本的には応じたいと思っています」
というポジティブな意見がなかなか得られず、交渉材料が乏しいままになってしまいます。無計画な交渉をすると、このようなループに陥るかもしれません。
そこで、最初の交渉相手にはメインバンクを選ぶべきです。
他行の反応がまだわからない状況で交渉を始めるからこそ、メインバンクは最適な交渉相手なのだ!
まず、メインバンクとは一番深い付き合いをしているのですから、
「まずは、メインバンクから話を通していきたいと考えた次第です」
という立ち位置で交渉を始めることができます。
真っ当な考え方であり、メインバンクを最初の交渉相手に選ぶことになんの不自然さもありません。
メインバンクとしても、最初の交渉相手に選ばれて判断に困るということはないでしょう。
基本的に他行より積極対応するため、他行の動向が分からない段階でも融資してくれやすいです。
また、メインバンクならば、借入額も大きくなっているのが一般的です。
首尾よく支援を取り付けることができれば、他行は、
「メインバンクは問題ないようだ。融資額が一番大きい先からの調達がすんなり確定したようだし、これならウチも動きやすい」
と考え、積極対応をしやすくなります。
以上の理由から、最初の交渉相手はメインバンクを選ぶべきです。
メインバンク以外の交渉も戦略的に
交渉第一号にメインバンクを選び、支援を取り付けることができれば、準主力以下の交渉も進めやすくなります。
しかし、それ以外の銀行に対しても、交渉の順番はしっかり考えて進めていくべきです。
それによって、交渉の順序を考えていくことが大切です。
通常の銀行交渉では、あえて交渉が難しそうな銀行から順番に回っていくという戦略もあります。
上手くいかなくて元々と思える銀行に融資交渉を行い、交渉の経験を重ねた後に融資してくれそうな銀行と交渉することで、最終的に必要資金を調達する戦略です。
しかし、復元資金の融資では状況が異なります。
この場合、どれか一行でも欠けてしまうと全て台無しになってしまう可能性が高いため、上手くいかなくて元々という姿勢での交渉はできません。
また、一行でも欠けると台無しになる反面、積極対応の銀行が増えるにつれて、交渉全体が上手くまとまっていくという特徴があります。
そこで、メインバンク以降の交渉では、普段の付き合いから積極対応が期待できそうな銀行を優先して交渉していくべきです。
積極対応をしたいと考えている銀行ならば、他行の動向は気にしつつも、業績とメインバンクの支援を理由に、積極対応を取りやすいでしょう。
それ以降の交渉先でも、積極対応を得やすい相手を優先していくことで、支援してくれそうな銀行が一行、また一行と増えていくよ!
そうすれば、終盤にやりにくい銀行と交渉するときには、他の多くの銀行が積極対応を示している状況が作られているため、その銀行からも支援の対応を得られる可能性が高まります。
したがって、最初の交渉先はメインバンクを選び、それ以降は交渉しやすい相手から順番に交渉していくことが、復元資金を交渉する際のポイントと言えるでしょう。
まとめ
本稿で解説した通り、復元資金の融資は銀行にとって簡単な案件ではありません。
それを引き出すためには、業績などに問題がないことを前提として、全ての取引銀行から支援を受けられるかどうかにかかっています。
したがって、融資交渉の際には、交渉していく順序を含め、かなり戦略的な交渉が求められます。
銀行は他行の動向に敏感になっていますが、戦略的に交渉していけば、これを逆に交渉材料にすることもできます。
簡単に融資を受けられる案件ではないからこそ、しっかりとした交渉をしていきましょう。
コメント