前回は、売上高と利益率について話を伺いました。
しかし、融資稟議では資金繰りの良し悪しが核となり、売上高と利益率から知り得た情報だけでは不十分です。
そこで、融資担当者は引き続き財務分析を進めていきます。
売上・利益に続いて見ていくのは現預金です。
現預金は、資金繰りの安定性に大きく影響するものだからです。
では、現預金についてどのように分析していくのか、銀行員の話を聞いていきましょう。
資金繰りと現預金の関係
より詳細に、資金繰り把握していくためにはどこを見ていきますか?
売上と売上総利益率は、その会社の資金繰りが
- うまくいっていそうか・厳しそうか
- 今後うまくいきそうか・厳しくなりそうか
といった判断をするために見るものです。
ですから、現状の資金繰りをもっと詳しく見ていくためには、その会社のお金をもっとダイレクトに見ていく必要があります。
そうです。
会社の現預金は資金繰りを見るための重要な指標となります。
資金繰りを回していくためには、現預金は絶対に必要です。
これがゼロならば絶対に資金繰りは回っていきませんし、少なければ資金ショートの危険性が高いと言えます。
それに、健全な会社ほど現預金に余裕があることを、銀行員は経験から知っています。
現預金が乏しい会社ほど貸し倒れリスクが高いことも知っています。
といっても、これは銀行員だから知っているというのではなくて、現預金があれば資金繰りは安全、現預金がなければ資金繰りは危険ということは、経営者もよくわかっていると思います。
「現預金は重要ではない、別になくても問題ない」なんて考える人はいませんよね。

現金は、間違いなくあった方がいいんだね!
そうです。
中小企業の中で、現預金がたっぷりあって、資金繰りが楽だという会社はあまり多くありません。
資金繰りが苦しくて、現預金も低水準という会社も多いでしょう。
ですから、そのような中小企業の現状も踏まえて融資を検討するように、金融庁からもお達しが出ています。

現預金が乏しいから、即融資を受けられないということでもないだろう。
しかし、現預金が資金繰りに大きく影響するもので、資金繰りが融資稟議に大きく影響するのですから、現預金が融資の大きな判断基準になることは間違いありませんね。
現預金が多ければプラスですし、少なければマイナスですし、それは動かしがたい事実です。
中小企業だから、現預金が少なくても、銀行側が事情を汲んで融資してくれるという考え方は甘いでしょう。
それよりも、現預金の重要性をよく知っていただいて、現預金を増やすように努力し、融資を受けやすい状況を作っていく方がよほど建設的です。

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現預金が少ない会社はマイナス
では、財務分析で現預金を把握するとき、どのように見ていきますか?
決算書の現預金残高からチェックしていきます。
その会社の現預金がどのように動いているか、逐一確認することはできませんが、決算書で現預金残高のトレンドを見れば、資金繰りの様子がだいたい分かります。
まず、月商1ヶ月分は最低ラインです。
これは銀行員の共通の見方ですし、経営者の実感としても、現預金が月商1ヶ月分を切ったらまずいという実感があるかもしれませんね。
これは、年間の総売上高を12ヶ月で割った、平均月商の1ヶ月分ということです。
これを割り込んでしまうと、資金繰りがかなり窮屈になります。
月商1ヶ月分以上の現預金があれば、少なくとも資金繰りが危険な状況にないと言えるでしょう。
もっと安全な会社になると、月商の2~3ヶ月分くらいを確保していることもあります。
融資を申し込んでくる会社の中には、月商1ヶ月分をなんとか維持しているか、もしくはそれを下回っている会社もあります。

そのような会社は、資金繰りに困る可能性が高いわね。
月商1ヶ月分以下の会社は、ちょっとしたトラブルに耐えられない可能性があります。
売掛金の回収が遅れた場合や貸し倒れになった場合、その頻度や被害の程度によっては、月商1ヶ月分ではカバーできなくなる可能性が考えられます。
入ってくるべきものが入ってこなくなった時、少ない現預金から運転資金を出していくことになるのですから、少ない現預金をさらに減らすこととなり、資金ショートの危険性が高まります。
逆に、現預金に余裕がある会社は、もし同じような事態に見舞われても、すぐに危険になることは少ないです。
だから健全なのだということもできるでしょう。
言うまでもなく、資金繰りに困っているということです。
現預金が少ないために、資金繰りが回りにくくなっているんです。
何らかのトラブルに見舞われて、手元の現預金だけでは厳しいからという理由で融資を申し込んでくることもありますし、増加運転資金が足りずに融資を申し込んでくることもあります。
現預金が少ない会社は、出費の増加にあまり耐えられません。
ですから、例えば好条件の大きな取引が発生した時にも、それに先立って必要となる費用を支払えません。

しかし、取引のチャンスは逃したくないものですから、融資で賄おうと考えるわけだな。
ですから、現預金が少ない会社の特徴は、資金繰りに困ることが多くて、トラブルから受ける影響が大きく、チャンスをしっかりつかんでいくだけの体力にも問題があると言えるでしょうね。
そうです。
そのため現預金は、その会社の資金繰りと健全性を見極める指標としては、かなり信頼できるものだと言えます。
現預金でも、推移は確認します。
しかし、売上や売上総利益率のように、その会社の将来性を知るのに役立つというよりも、その会社の現在の安全性を知るためのものだと言えます。
その会社の現預金が増えていれば、当然良い傾向だと言えます。
資金繰りが悪ければ現預金を増やしていくことはできませんから、会社の安全性が高まっていると考えることもできます。
逆に、現預金が年々少なくなっている会社は問題です。
明らかに経営が上手くいっていないことが分かるからです。
経営が上手くいっていない会社でも、経営を続けている以上、色々な支払いが発生します。
しかし、経営が上手くいっていないものですから、事業で稼いだお金で支払っていくことが難しく、現預金を切り崩して支払っていく必要があります。
現預金が年々減っている会社では、このような理由で減っているのですから、ほぼ間違いなく資金繰り困難な会社だと言えます。

このような評価をするために、現預金の推移も見ていくぞ!
基本的には、現預金が多いことはプラスの材料となります。
しかし、現預金が多ければその会社は絶対に資金繰りが安全だとも言い切れません。
現預金といっても、その中身は色々です。
例えば、月商1ヶ月以上の現預金を持っていて、資金繰りに余裕があるように見えても、その現預金のほとんどが定期預金だったらどうでしょうか。
すぐに資金繰りに使える状態ではありませんから、資金繰りに困る可能性もあります。
さらに、その定期預金に銀行から担保設定されていたとすれば、資金繰りに困った時にすぐに解約して使うということが困難になります。
ですから、基本的に現預金が多いことはプラス材料になりますが、その内容によっては資金繰りに役立たないこともあるので、銀行員はその点もチェックします。
もちろん、資金繰りに活用できる状態の現預金がたくさんある会社は、融資を受けやすくなると考えると良いでしょう。

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現預金+借入金・利益での考え方
確かにそうです。
現預金の残高をみると、その増減の様子は分かりますし、そこから資金繰りの様子が分かります。
ですが、あくまでも「資金繰りが苦しいようだ」「資金繰りには困っていないようだ」といったレベルでしか分からないことも多いです。
ですから、銀行員は現預金だけではなく、そこに借入金と利益を加えてみるようにします。
まず、現預金を見る時、増減の理由は色々あると思うのですが、細かい部分について見ようとすると木を見て森を見ずの危険もありますから、細かすぎる見方はしません。
その代わりに、資金繰りの実態をより正確に見るために、現預金と借入金と利益を一緒に考えるのが効果的です。
現預金の増減を細かく見ない代わりに、現預金と借入金と利益の増減の関係を検証していくのです。
具体的には、2期分の決算書から現預金残高を比較してみて、現預金残高の増減をチェックします。

それに対する借入金の増減と利益の水準を見るという流れね。
それによって、現預金残高の増減が好ましいものかどうかを、より正確に知ることができます。
まず、2期分の決算書を比較して、現預金残高が増えているとすれば、それ自体は好ましい傾向と言えます。
さらに、現預金の増加分に見合う利益をきちんと得られているならば、利益によって現預金が増えたことが分かります。
つまり、事業の中で資金繰りを改善していったわけで、これはかなり好ましいといえます。

しかし、現預金残高が増加しているのに、利益が計上していないとすれば、これは怪しいんだ。
どこから増加分が出てきたのかを知るためには、借入金をチェックしてみます。
借入金が増加しているならば、現預金残高の増加分は借入金による増加であることが分かります。
つまり、売上や利益を伸ばし、資金繰りを改善したことで現預金が増えたのではなく、単に借入によって現預金が増えただけの状態です。
現預金残高は多いほどいいのですから、借入によって現預金を増やすという戦略が悪いとはいえません。
しかし、借入には返済がつきものですから、現預金が増えていても資金繰りが改善したわけではないと考えるべきです。
業務に慣れない融資担当者は、現預金が増えているから資金繰りが改善したと勘違いすることがあります。
そして経営者も借入によって手元資金が増えたことで、資金繰りが楽になったように錯覚することがあると思います。
しかし、それは間違った見方です。
しかし、資金繰りが改善したわけではありません。
現預金を水に例えるなら、資金繰りに問題がある会社の財務は、穴の開いた桶のようなものです。
いっぱい水を入れると、水には当分困らないように思います。
しかし、じわじわと水は減っていき、いずれまた水不足になります。

融資を受けてでも手元資金を増やすことは、経営を安定させるきっかけに過ぎないね。
手元資金が多くても、そもそも資金不足になってしまった原因を解消しなければ、また資金不足になるんです。
ですから、借入金によって現預金が増やすなら、それによって、資金ショートの危険性を一旦遠ざけておいて、そのすきに資金繰りを改善していく必要があります。

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2期比較で現預金残高が減っているならば、まず利益を見てみます。
赤字になっており、現預金が減っているならば、赤字を補填するために現預金を使っている可能性が高いです。
この場合、業績は悪化し、さらに現預金も減っているのですから、資金繰りは悪くなったと言えます。
もちろん、黒字の会社で現預金残高が減っているケースもあります。
現預金を赤字補填ではない何かに使ったことで目減りしているケースです。
このとき、お金の使い道には色々ありますが、その多くは事業への再投資と借入金の返済でしょう。
借入金の増減を見てみて、現預金の減少分相当の借入金減少がみられるならば、手元資金を使って借入金を圧縮したことが分かります。
これによって、返済の負担は軽くなり、資金繰りの改善が期待できます。
事業に再投資している場合には、現預金残高、借入金、利益と見ただけでは具体的な効果はわかりません。
効果の薄い投資をしている可能性も考えられますが、将来的な利益に結び付く可能性も十分にあります。
事業への再投資によって資金繰りを圧迫しているのでなければ問題ないと言えます。
しかし、借入金の圧縮にしろ、事業への再投資にしろ、現預金に余裕があるからこそできることです。

また、それによる資金繰り改善効果も期待することができるわね。
現預金残高は重要ですが、それだけを見ると単に増えた、減ったという傾向が分かるだけで、いい意味での増減なのか、それとも悪い意味での増減なのかが分かりません。
そこで、現預金にプラスして借入金と利益をみることで、資金繰りがもっと分かります。
はい。
経営者も、折に触れて決算書を読んでみて、現預金の増減をチェックして、さらに借入金と利益の三点を検証してみると、資金繰りが良くなっているか、悪くなっているかが見えてくると思います。

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まとめ
経営者の感覚で考えた時、現預金は多ければいい、少なければ心細いといった見方をすることが多いでしょう。
銀行員も、そのような大まかな見方をし、現預金の増減を資金繰りの良し悪しに結びつけて考えます。
しかし、現預金の増減をみる時、増えた理由や減った理由を知ることによって、資金繰りをより正確に知ることもできます。
資金繰りをコントロールする経営者も、現預金が増減した理由と良し悪しを意識して把握すれば、資金繰りに役立つことと思います。
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