会社によって事業内容は異なりますが、どのような事業を進めていくにせよ、設備が必ず必要になります。
生産のための機械設備、工場の新設や増設、店舗の改装や新規出店、設備の合理化や更新など、色々な設備投資が必要となるのです。
しかし、設備投資のためには多額の資金が必要であり、銀行からの融資によって調達しなければなりません。
多額の長期融資は銀行にとってリスクが高いため、融資交渉が難航することもよくあります。
では、設備資金の融資交渉は、どのように進めていくべきなのでしょうか。本稿で徹底的に解説していきます。
設備資金について
どのような業種でも、事業には必ず設備投資を伴います。
製造業ならば生産設備の投資が必要でしょうし、小売業やサービス業でも店舗設備への投資が必要です。事務所の設備も設備投資に含まれます。
大きな括りでいえば、運転資金以外は全て設備投資とする考え方もあるほどです。
会社が行う投資のうち、設備投資は非常に重要なものだ!
設備の導入によって生産力や販売力を強化したり、設備更新によって生産力や販売力の低下を防いだりすることは、会社の収益力や将来性を左右します。
多くの会社がしのぎを削っているなかで、自社だけ設備投資を行わなければ、他社との競争に負けてしまいます。
そうならないためには、様々な形で設備投資を実施していくこととなりますが、その際には設備資金が必要となります。
設備への投資では、多額の資金を必要とすることも多いため、自己資金だけでカバーすることは難しく、銀行から融資を受けなければなりません。
ファクタリングについての記事はこちら
銀行の考え方
しかし、設備資金は銀行側のリスクも高いため、銀行は融資判断に慎重になります。
そのため、設備資金の融資を受けるためには、よく考えて交渉していかなければなりません。
銀行が設備資金をハイリスクだと判断する根拠には、以下のようなものがあります。
融資額が大きい
設備投資は、機械設備を導入したり、工場を新設したり、店舗を新規出店したり、とにかくお金がかかることが多いものです。
融資額が大きくなれば、当然ながら返済負担は大きくなります。
もちろん、融資期間を長めにすることによって、毎回の返済は無理のないように設定することができますが、返済期間中には基本的にその返済条件を守る必要があります。
融資の時点では問題ない返済額に設定されていても、返済期間中に経営環境が悪化すれば、支払いが困難になるかもしれません。
このため、銀行は融資額が大きい設備資金をハイリスクだと考えます。
融資期間が長い
また、多額のお金をかけて設備投資を実施しても、その後すぐに売上につながるわけではありません。
設備投資の成果は、時間とともに徐々に得られるものよ!
多額ゆえに短期間での返済は難しく、また成果が得られるまでに時間を要することから、設備資金の融資はどうしても長期での返済計画にならざるを得ません。
銀行は、基本的に長期での返済を嫌います。
これは、返済期間が長くなればなるほど、その期間中に企業の経営環境が悪化し、返済が困難になる可能性が高まるためです。
融資する時点では問題ないと判断しても、外部からの影響を受けやすい中小企業は、いつ経営が悪化するか分かりません。
だからこそ、長期融資はリスクが高いのだ。
計画が実現するか分からない
会社では、それなりに投資計画を立てて融資交渉をするものですが、これはあくまでも計画です。
計画書が緻密に作られており、説得力があったとしても、そこから判断できるのは「実現性が高そう」「実現性が低そう」といったことに過ぎません。
まだ投資していない段階での融資判断ですから、そのような判断しかできないのは仕方のないことです。しかし、銀行が「もし実現しなかったら・・・?」と考えるのは当然です。
実現しなければ、多額の投資をしたにもかかわらず計画通りの利益が得られず、経営が悪化し、返済もうまくいかなくなる可能性が高まります。
計画を達成できなければ、返済負担が資金繰りを圧迫するようになり、貸し倒れリスクは急速に高まります。
「きちんと回収できるかどうか」を最重視する銀行としては、慎重にならざるを得ないのです。
以上の理由から、銀行は設備資金の融資をハイリスクだと捉えており、融資にはかなり慎重になる。
投資の内容をしっかり把握し、投資計画や返済計画も説明を求め、具体的で実現性も高いと思えないものには融資しません。
そのような設備投資は、もはや投資というよりも投機の要素が強いといえます。
とはいえ、事業において戦略的で前向きな設備投資は必須のものであり、銀行もその点を理解していないわけではありません。
取引している会社が設備投資によって実力を高め、将来にわたってよい取引を続けていけるならば、銀行にとってもメリットがあります。
したがって、銀行が設備資金の融資に慎重になる事情を踏まえて、銀行が融資してもいいと思える交渉を展開していくことが重要です。
融資交渉のために設備投資の特徴を知る
設備資金の融資交渉で最も重要となるのは、投資計画を明示することです。
投資計画を明確にし、投資の内容や見込まれる効果や利益などを示し、その利益からきちんと返済していけることを説明していくのです。
上記において、計画はあくまでも計画にすぎず、銀行は慎重に見ていると書きました。
しかし、計画段階で「融資すべきではない」と思われるような設備投資では、融資が受けられるはずはありません。
投資計画をしっかりと説明し、納得してもらい、「このような投資なら、ぜひ検討みよう」と思わせることが重要なのです。
納得のいく計画を立てるためには、自社の予定している設備投資の内容を正確に把握することが前提となるわ。
設備投資にもいくつかの種類がありますから、それぞれの特徴を把握し、自社の場合にはどれに該当するかを確認しておくことが重要です。
一口に設備投資と言っても、どのような設備投資をするのかによって、以下のように区別されています。
ここを大雑把に「設備投資」と考える経営者も多いのですが、それぞれの設備資金によって特徴が異なり、銀行側が注視するポイントも異なるため、会社側でも細かい分類によって把握しておくことが大切です。
生産力強化のため
まず、最も一般的な設備投資は、生産力を強化するための投資です。銀行のマニュアルなどでは、「生産型設備投資」などの呼び方をされています。
製造業などで、生産力を高めて売上を伸ばすことを目的とした投資です。
生産力を高めるといっても色々で、既存の商品の生産力を高める場合と、新規の商品の生産を始める場合に分けられます。
また、新型の設備を導入したり、工場を新設・増設したりするなど、投資の方法も複数考えられます。
設備投資では、投資効果が重要となるよ!
効果のある投資を実施し、利益を出し、そこから返済もできることを説明することが重要なのです。
そこで、生産力強化の投資でも、この点について詳しく計画を立てて、説明する必要があります。
具体的には、以下の点についてよく検討し、計画に盛り込んでください。
設備増強によって生産力を高める商品は何か?その根拠は?
まず、どのように生産力を増強するのかを説明します。
もちろん、その商品を多く生産するための根拠も必要です。
この点を説明できないと、投資効果の説明は不可能です。
もし、生産力を高めたとしても、商品の需要が減退すれば生産過剰となり、せっかく投資した設備が稼働停止となります。
投資した設備からの利益が見込めなくなり、返済も困難に陥る可能性があるため、銀行に危険視されるのです。
販売力はあるか?
また、生産力を高める根拠を具体的に説明できたとしても、それだけでは不十分です。
同時に、販売力も十分にあることを説明しなければならないよ!
そうなれば、銀行は返済を危ぶみます。
そうならないためには、既存の商品を増産するならば、需要に対応しきれていない状況を具体的に説明するべきでしょう。
新規の商品を生産するならば、需要の見込みを詳しく説明すると同時に、販売先もある程度見つけた上で融資交渉したほうがスムーズに説明できます。
その他
その他には、投資規模が妥当であることも重要だ!
生産力と販売力について説明できても、自社の規模に見合う投資規模でなければ、計画は不完全なものとなります。
設備投資の多くは、それによって売上を伸ばしたいという前向きな投資ですから、強気すぎる投資計画を作ってしまいがちなものです。
しかし、自社の規模に見合う堅実な投資計画でなければ、投機性が高いと見なされて危険視されることが多いので、注意が必要です。
売力強化のため
販売力強化のための投資は、「販売力拡充設備投資」とも呼ばれるものです。
売上を増やすために新規に出店したり、店舗を改装したりする場合の投資を指します。
ここでも、以下のような点に注意しつつ計画を立てていきましょう。
売上は確保できるか?その根拠は?
第一のポイントは、販売力を強化するために資金を投じ、その投資額に見合う売上を確実に確保できるかどうかです。
損益分岐点を上回る見込みをしっかりと説明できなければ、融資を受けることは難しくなります。
この調査・分析が不十分な状態で計画を立て、巧みに説明して理解を得ようと思っても、おそらく難しいでしょう。
なぜならば、これらの点については、銀行員も現地調査によって確認し、計画の実現性を判断するからです。
会社側の調査が甘かったり、おかしな計画になっていることが分かれば、銀行員は計画に疑問を抱きます。
説明を求められても、会社の調査が甘ければ適切な回答はできず、融資を受けられなくなってしまいます。
投資する必然性があるか?
新規出店や店舗の改装などをするには、必然的な理由があるかどうかを厳しく見られます。
なぜならば、既存の店舗での取り組みが不十分な段階で多店舗展開に乗り出すと、全ての店舗での取り組みが中途半端になってしまい、むしろ負担が大きくなることも多く、経営が悪化する可能性が高いからです。
多額の投資をして経営が悪化するくらいならば、既存店での売上拡大を目指していくほうがよほど健全です。したがって、銀行は融資すべきではないと考えます。
一般的には、既存店の売上を伸ばすのが限界になったとき、初めて新規出店を検討するのがセオリーです。
店舗の改装なども、基本的な考え方は同じです。まだ店舗が陳腐化しているわけでもなく、売上を維持したり、伸ばしたりすることが可能な状態であれば、改装の必要はありません。
お金をかけて改装するよりも、現状のままで経営を続けたほうが良いでしょう。
したがって、投資計画を説明するためには、既存店の売上が限界に達している、あるいは陳腐化して売上が落ちているなどの問題に触れ、その問題を解決するために設備投資が必要という説明が好ましいでしょう。
合理化のため
合理化のための投資は、「合理化投資」と呼ばれるものであり、生産力や販売力の増強と比べるとやや解釈が難しい設備投資です。
設備投資というと、「設備に投資して売上を伸ばし、より多くの利益を得る」というイメージを持っている人も多いと思います。
しかし、より多くの利益を得るための方法は、売上を伸ばすだけではありません。
経費削減によって利益を高めることもできます。
簡単に言えば、利益率10%の場合には、100円の売上に対して10円の利益が得られます。
これを、設備投資によって売上を150円に伸ばすと、得られる利益は15円になります。
合理化投資では、後者の効果を見込んで設備投資を行います。計画を立てる時にも、「経費削減が目的だ」というスタンスで取り組むことが重要となります。
経費削減分で返済できるか?
生産力や販売力の強化が目的となる場合、それらの投資によって売上と利益を伸ばし、その利益から返済できる計画でなければなりません。
一方、合理化投資は経費削減が目的です。
したがって、経費削減によって得られる利益によって、返済できる計画を立てる必要があります。
経費削減効果を具体的な数字で示し、返済計画に反映させてください。
投資効果は高いか?
合理化投資では、売上を伸ばしていくという積極的な投資に比べて、経費を削減していくという保守的な投資になることから、経費削減効果が高い部分にピンポイントで投資していくことが重要となります。
ピンポイントで投資していくといっても、これが難しいところよ!
問題が見られる一部分に投資しても、全体での効率化にはつながらないこともありますし、むしろ非効率になることもあります。
例えば、A→B→C→D→Eという流れで生産が行われており、
A(1)→B(1)→C(1)→D(1)→E(1)
という具合に、それぞれの工程でミスが発生する確率が1となっているのが好ましいと状態であると仮定します。
もし、
A(1)→B(1)→C(10)→D(1)→E(1)
という流れになっていれば、せっかくA、B、D、Eの4つの工程でミスを抑えられていても、Cの工程で10倍のミスが発生します。
他の工程でうまくいっても、Cで起こるミスによって、不良品をたくさん生み出している可能性があります。
そこで、工程Cに合理化投資を図り、
A(1)→B(1)→C(1)→D(1)→E(1)
へ改善することができれば、ミスが発生する確率を抑えることができ、合理化は成功したといえます。
ピンポイントで投資することで、最小の投資で最大の効果を期待することができるため、銀行も納得しやすいといえます。
しかし、問題点は必ずしも1つとは限りません。例えば、本来ならば
A(1)→B(1)→C(1)→D(1)→E(1)
であるべき工程が、
A(1)→B(5)→C(10)→D(3)→E(1)
となっている可能性もあります。
この時、B、C、Dのうち1か所だけに合理化を図ったり、問題の程度に応じた投資ができなかったりすれば、十分な合理化にはつながりません。
むしろ、比較的問題の小さいDに多く投資し、Cに少し投資するなどの間違いがあれば、投資効率は悪くなってしまいます。
正しく合理化するならば、3か所すべてに対して「B:C:D=5:10:3」の割合で投資すべきです。
ピンポイントでの効率的な投資はこのように考えるべきであり、計画性を求められる部分でもあります。
合理化のマイナス面を考慮しているか
なお、合理化では無駄を省いてコストを削減することを目指しますが、削減される無駄の代表的なものには、
- 工程において、詰まりやミスを生んでいる障害を取り除く⇒製造諸コストの削減
- 無駄に消費されている材料を削減する⇒材料費の削減
- 無駄になっている人員を削減する⇒人件費の削減
などがあります。
計画を立てるうえで特に注意したいのは、人件費削減効果についてです。
合理化によって無駄を省くと、その無駄に対応していた労力は不要となり、場合によっては人員を削減することにもつながります。
したがって、合理化によって人件費削減効果を見込む場合には、この点をしっかりと考慮することが重要だ!
人材流出が事業に支障を来さないことを説明し、退職金なども織り込んだ計画を作っておかなければ、実現性に乏しいと思われてしまいます。
設備更新のため
最後に、設備更新のための投資があります。これは読んで字のごとく、設備を更新するための投資です。
現在の設備の生産能力が落ちている、故障が多くなっている、技術的に陳腐化しているなどの問題がある場合には、売上の低下を招くこととなり、競争力も低下します。
そこで、設備更新によって改善を図るのです。
設備は年々古くなっていくものですが、技術革新の目覚ましい昨今では、耐用年数に達していない設備が陳腐化することもあります。
したがって、必ずしも古くなった設備を更新するばかりではなく、思ったより早い段階で更新する場合もあります。
このような特徴を踏まえて、計画では以下のことに注意する必要があります。
タイミングは適切か?
まず、今が設備更新のタイミングとして本当に適切かどうかを、しっかり考える必要があります。
耐用年数を経過している設備ならば、実際に生産能力の低下を招いていることも多く、合理的なタイミングと言えます。
しかし、耐用年数よりも短いサイクルで更新する場合には、その理由をしっかり説明する必要があります。
故障が多くて困っている、技術革新によって更新に迫られているなどの理由が多いでしょうが、あえて今更新すべきと考えている理由は具体的に説明しましょう。
特に、技術革新が目覚ましい業種において新型設備を導入する場合、導入後まもなく新たな技術が開発されることもあります。
そのような点も含めて、「今」更新すべき理由を説明しなければなりません。
この点について検討していくと、より適切な判断が可能となるのだ。
もし、1年くらい待てば新型機械が出ると分かったならば、現時点での最新機械を1年間リースして、1年後に設備更新するという流れが考えられます。
そのような場合にも、その段階で融資交渉を初めてよいでしょう。例えば、
などとあらかじめ伝えておくのです。
このように伝えておけば、中長期的な計画を立てながら経営していることが評価され、いざ設備更新となったときに交渉がスムーズに進みやすくなります。
返済原資はどうする?
生産力や販売力の増強では、売上を伸ばして得られた利益が返済原資となります。
合理化では、経費削減によって得られた利益が返済原資となります。
しかし、設備更新は売上を伸ばすことも、経費を削減することも目指していません。
設備の老朽化や陳腐化によって悪化した生産力や販売力を復元するものであり、増強するものではないのです。
実際には、新型の設備を導入することで更新することもありますから、売上が伸びたり、経費削減につながったりことも多々あります。
しかし、更新による売上や利益への効果は本来の目的ではないため、その数値を計画に織り込むことはできません。
あくまでも、既存の収益力によって返済できるという計画を作ることが重要となります。
法定耐用年数を考慮して!
なお、生産力の増強、販売力の増強、合理化、設備更新の全ての設備投資において、投資計画では法定耐用年数を考慮することを忘れないでください。
その設備の法定耐用年数の範囲内で返済が完了する計画を立てていなければ、銀行を納得させることはできません。
法定耐用年数を超えれば、生産力や販売力は低下してくるのが普通であり、その設備から得られる売上や利益も低下します。
場合によっては、稼働状況が急激に悪化し、早急に設備更新を求められるかもしれません。
法定耐用年数を超えて設備を更新しようとしたとき、まだ返済が終わっていなければ、完済しないうちにまた多額の借入れをすることとなり、資金繰りが悪化する可能性があります。
このため、リスクを嫌う銀行としては、法定耐用年数以上の返済計画を認めることはできません。
法定耐用年数以内で返済を完了させた上で、再度設備資金の融資を検討していきます。
したがって、融資交渉で提出する計画では、法定耐用年数以内に収まる計画を作ることが必須です。
投資計画の説得力を高めるために
投資計画をより正確に作るためには、計画における数値の根拠をしっかりと説明する必要があります。
単に「これくらいの設備資金を投資し、これくらいの売上増加を見込んでいる」というように、投資によって得られる効果を説明するだけでは説得力に欠けます。
そこで、なぜその額の投資をするのか、なぜその効果が得られるのかなどの根拠をできるだけ明らかにしつつ、計画に盛り込んでいくべきです。
具体的には、
- 調達計画
- 投資計画の緻密性
の二点を計画に盛り込むことを意識してください。
調達計画
調達計画とは、設備資金の調達計画のことよ!
投資計画では、投資する内容や期待する効果を検討し、必要な投資資金を明らかにしていきますが、投資資金の根拠と調達方法について説明するのです。
調達額の説明
調達計画を説明する前提として、必要額をしっかりと説明する必要があります。
例えば、1億円の投資資金を調達しようとしているならば、銀行はなぜ1億円が必要なのかを必ず把握します。
「おそらく1億円くらいあれば十分だから」、「これまでの経験から1億円くらいだと思うから」などの説明では納得させることはできません。具体的な情報とともに説明することが大切であり、
などの説明をする必要があります。
もちろん、投資効果を説明する観点から、数ある設備の中でも特に設備Aと設備Bを選んだ理由も説明すべきですし、設備Aと設備Bの金額や工費を証明するために、見積書も提示するべきです。
調達計画の説明
説明した調達額を調達するために、どのような調達計画を立てているのかについてもしっかり説明します。
1億円の調達を計画している場合、調達する方法はいくつか考えられます。例えば、
- 一行から1億円全額を調達する
- 複数の銀行から融資を受けて合計1億円を調達する
- 全額をプロパー融資で調達する
- 一部を保証協会付融資で調達する
- 一部を自己資金や補助金で調達する
などが考えられます。
銀行を納得させるためには、どのような調達を考えているのかを説明するだけではなく、その調達方法を選んだ理由も説明する必要があります。
その説明の内容によって、融資判断が左右されることもあります。
業績が好調な会社ならば、調達方法にそれほど疑いを抱かれることはないだろう。
しかし、融資を受けにくい何らかの問題を抱えている会社が、準主力以下の銀行に全額融資を希望している場合などには、「なぜメインバンクではなくウチに来たのだろう?メインバンクから借りられなかったのか?」などの疑問を抱かれ、融資を拒否されることがあるのです。
したがって、調達計画を説明するには、
など、具体的に説明することが重要です。
投資計画の緻密性
次に、計画の数値を詳細に説明します。
銀行から「よくわからない計画だ」と思われてしまうと融資を受けられなくなりますが、計画で用いている数値が理解できないときに、そのような印象を与えてしまいます。
したがって、計画に用いる数値の根拠を示し、緻密に作っていることを理解してもらう必要があります。
もちろん、売上や利益がどのようになっていくかという数値は予測ですから、100%正確な数値を示すことは不可能です。
しかし、それをできるだけ正確なものに近づけることは可能です。
なぜならば、設備を導入する際に一時的に売上が減少することがあったり、軌道に乗るまでに時間がかかることがあったり、売上が増加したために増加運転資金が発生したりと、計画が単純にはいかない要素がいくつもあるからです。
そのような要素も考慮することで、計画の数値は現実味を帯びてきます。
例えば、
「○○万円の設備投資により、生産能力が〇%アップする見込みです。この見込みによれば、売上高は〇%アップとなります。返済原資は〇万円となり、法定耐用年数を返済期間とした場合の毎月〇万円の返済を十分にカバーすることができます。
しかし、生産が軌道に乗るまでの期間として、初期の〇ヶ月はやや低めの〇%に見積もっています。また、設備の入れ替えに伴う生産力低下を考慮して、最初の1ヶ月は売上高〇%ダウンを見込んでいます。もちろん、この場合にも返済計画への影響はありません。
生産能力が高まることに伴い、運転資金は従来と比べて〇万円多く必要となります。増加運転資金は自己資金でカバーできるので問題ありません。」
といった説明をしなければなりません。
特に重要なのが、増加運転資金についての計画です。
売上アップを期待して設備投資をするならば、当然売上が伸びた分だけ運転資金も増えることとなります。
これを考慮していなければ、せっかく売上が伸びても増加運転資金が資金繰りを圧迫し、行き詰まる可能性が考えられます。
このような点についてもしっかりと考慮されている投資計画ならば、銀行からの納得が得られやすくなります。
先手を打つ
これらの要素は、計画に充分に盛り込んでいなかったとしても、銀行から説明を求められるものです。
しかし、結局求められる情報であれば、計画に盛り込んでしまうのがベストです。
求められたら説明すればいいや、くらいに考えていると、予想以上に深いところまで説明を求められて対応できず、マイナスの印象を与える可能性があります。
計画の作り直しを求められ、融資交渉に時間がかかってしまうこともあります。
また、求められた説明に答えられれば良いというものでもありません。
投資計画の説明では情報が欠落しているため納得しにくく、詳細な情報を伝えたとしても、銀行側が大雑把な計画に詳細な情報を落とし込んで検討した結果、必ずしも会社が考えていた見方をされないことがあるのです。
したがって、大雑把な部分から詳細な部分まで、最初から全て考慮して一貫した投資計画を作り、会社の考えをしっかりと伝えることが大切です。
前向きな融資を引き出すために
上記でも触れたことですが、投資計画はあくまでも計画であり、融資額の大きさや融資期間の長さから、計画が実現しなかった場合のリスクが非常に大きくなります。
銀行はできるだけリスクを取りたくないと考えることも、設備資金の融資交渉が難しい一因とも言えます。
しかし、逆に考えてみると、これは融資交渉のアプローチに使えることでもあります。
銀行がリスクの高さを嫌っているならば、そのリスクが低くなるように会社側から働きかけることで、融資を受けやすくなるとも言えるのです。
具体的には、以下のような方法によってリスクの引き下げを図ることができます。積極的に交渉カードとして取り入れるように意識しましょう。
担保の提供
銀行のリスクを引き下げる方法の代表的な方法は、担保を提供することです。
銀行は、担保価値の範囲内で融資を出すことによって、万が一返済が困難になった場合には担保からの回収を図ることができるため、リスクを大幅に下げることができます。
このため、十分な保全となる担保を提供することができれば、融資はかなり通りやすくなります。
担保にできる資産には色々ありますが、設備投資を行う際には、既に持っている資産を担保にするだけではなく、投資対象の設備を担保にする方法もあります。
すでに持っている資産を担保とする場合、会社の持っている不動産、定期預金、有価証券、売掛債権、動産(車両や機械など)などを担保にすることが考えられます。
中でも、不動産は担保としてよく利用されるものです。
現在担保にできる資産を持っていない場合でも、これから投資する設備を担保にすることが可能です。
例えば、工場を新設するならば、銀行はその工場を担保とすることによってリスクを下げられるため、その工場の担保価値を考慮して融資を検討することができます。
ただし、担保にできる資産を持っていなかったり、これから投資する設備も担保にできない場合もあります。
投資する設備に担保価値が認められにくいケースや、改装する店舗が既に担保に取られているケースなどです。
そのような場合には、担保の提供によるリスク引き下げはできないため、別の方法を検討することとなります。
信用保証協会の利用
信用保証協会の保証をつけて融資を受けると、万が一返済ができなくなったとき、信用保証協会が銀行に対して代位弁済するため、銀行はかなり低リスクとなります。
信用保証協会の保証枠には上限がありますが、その範囲内で設備資金をカバーできる会社では、信用保証協会の保証をつけることで融資を受けやすくなります。
もっとも、信用保証協会の保証を受けた場合には、信用保証協会に対して保証手数料を支払う必要がありますし、代位弁済を受けた場合には債権者が銀行から信用保証協会に変わるため、会社や代表者は返済を続けることとなります。このため、保証の利用にはリスクも伴います。
しかし、保証枠が残っているならば、交渉カードとして利用することも考えてみるべきでしょう。
全額をカバーできなかったとしても、一部を保証協会付融資、残りをプロパー融資といった形で検討することも可能です。
協調融資の利用
信用保証協会と組み合わせる例と似ていますが、他行との融資を組み合わせるのも効果的な方法です。
複数の銀行の融資を組み合わせるならば、各銀行の融資額は小さくなり、リスクも小さくなるためです。
この方法を、協調融資と呼ぶよ!
そのため、協調融資は中小企業には縁のないものというイメージもあるでしょうが、中小企業でも協調融資を利用することは可能です。
シンジケートローンは巨額の資金を動かすため、中小企業の設備投資には利用できないのが普通ですが、民間金融機関(主に信用金庫)と日本政策金融公庫を組み合わせる形での協調融資は利用可能なケースも多いです。
実際、日本政策金融公庫のニュースリリースを見てみると、平成29年には上半期だけで1万件以上の協調融資が実施されています。
例えば、
「このような計画で、1億円の設備資金を必要としています。3000万円については手元資金からカバーできるので、残りの7000万円の融資をお願いします」
などと説明した時、
「7000万円ですか。担保余力なども考えると、7000万円全額プロパー融資というのは難しいので、協調融資という形ではいかがでしょうか。当行から3500万円、日本政策金融公庫から3500万円という形であれば、検討させていただきます」
といった提案をされるのです。
その後、日本政策金融公庫に融資を申し入れ、既に銀行から3500万円までの融資を取り付けていることを説明すれば、もともと日本政策金融公庫は民間金融機関を補完するという立場にありますから、積極的に対応してくれる可能性も高いです。
会社側から提案していくものではありませんが、銀行からこのような提案を受けた時には即座に応じられるように、頭の片隅において交渉するのが良いでしょう。
補助金の利用
銀行の融資額を小さくすることでリスクを下げられることから考えると、補助金の利用も効果的です。
補助金とは、補助金交付のための要件を満たしており、なおかつ審査によって選ばれた会社に対し、国や地方自治体が返済不要の資金を交付し補助するものです。
返済しなくてよい資金ですから、返済負担による資金繰りへの影響もありません。
設備投資を実施するにあたって、投資資金の一部を補助金によって賄うことができれば、設備投資のリスクを下げることができます。
もちろん、融資総額が小さくなることから、銀行も前向きな判断をしやすくなります。
補助金制度には色々なものがあり、補助金の支給額も色々です。数十万円や数百万円を上限とする制度もあれば、何割という割合で補助するものもあります。
設備投資の場合には、1億円などの上限金額を定めたうえで、必要資金の1/3、1/2、2/3などを補助するパターンが多く、かなり多額の設備資金をカバーできる可能性があります。
例えば、2018年11月時点で東京都が実施している補助金の一つに、中小企業の設備投資を対象として、限度額1億円で1/2まで補助する制度があります。このような補助金を受けることができれば、1億円の設備投資を実質負担5000万円で実施できる可能性があります。
残りの金額を銀行融資でまかなうならば、全額を融資する場合と比べて、銀行も前向きに検討しやすくなるでしょう。
さらに、補助金を受けたいと考えている企業は多く、補助金を受給するハードルは高いことから、補助金を受給できるという事実そのものがプラス材料となります。
国がお墨付きを与えた補助金事業なのですから、計画の実現性も高いと考え、積極的な融資につながる可能性も高いです。
補助金の受給は決して簡単なものではありませんが、受給できた場合には融資交渉にも大きなプラスになるため、挑戦してみる価値は大いにあるでしょう。
自己資金の取り崩し
担保を持っておらず、信用保証協会の保証枠利用できず、協調融資も考えておらず、補助金も利用しないという場合、融資のハードルはかなり高くなります。
何千万円、あるいは1億円以上の設備資金を、全額無担保のプロパー融資とするのは銀行のリスクが非常に高いのです。
よほど業績や財務内容が良かったり、成長性を見込まれている会社でなければ難しいでしょう。
この場合には、自己資金を取り崩すという方法が考えられます。
手元資金に余裕がある会社に限られますが、資金繰りに悪影響がない程度に設備資金に回し、残った部分を融資でカバーするのです。
自己資金を取り崩すということは、設備資金に回しても資金繰りに悪影響がないということであり、財務状態が非常に良いということですから、銀行から好印象を持たれることとなります。
また、全額プロパー融資でカバーして、銀行に大きなリスクを負わせるのではなく、自社でもそれなりに手元資金を出してリスクを負うことによって、覚悟を見せることもできます。
会社も、自信のない投資計画には自己資金を投入できないものです。そこに投入できる自己資金の多さは自信の表れとも見ることができるため、投資計画の実現性と自己資金の割合から、銀行の積極姿勢を引き出せる可能性が出てきます。
事後管理への協力
ここまで書いた内容は、銀行の保全を充実させたり、銀行の融資総額を少なくしたりすることによって、銀行のリスクを引き下げる方法です。
それらの対策によって銀行のリスクを引き下げることができれば、融資を受けられる可能性は高まりますが、そこからもう一歩踏み込んでリスク引き下げる方法があります。
それは、事後管理への協力だ!
銀行は、融資したら後は会社に任せきりにして、約束通りに返済されていくのをただ待っているというわけではありません。
その後の会社の動きを把握しつつ、回収リスクをコントロールしていく必要があるのです。
このため銀行は、融資した投資資金が計画通りに使われているか、投資計画通りに効果は出ているかなどを気にしています。
このような事後管理にも積極的に協力していくことができれば、銀行の与信管理はスムーズになり、リスクを抑えることにつながります。
したがって、融資交渉の段階で、事後管理に協力的な姿勢を見せることは大切です。
融資した資金を計画通りに使っていることを見せるためには、融資を受けた投資資金をその銀行の口座に入れておくのがいいでしょう。
その銀行の口座に入れておけば、お金の流れを銀行が確認できるようになりますから、伝えた通りの支払時期と支払額で決済されている様子を見せることができます。
投資後の状況については、決算状況と投資計画を比較することで把握が可能です。
そのためには、決算期に決算書を提出するだけではなく、毎月の試算表を提出するなどして、状況を把握しやすくするのが良いでしょう。
これにより、計画通りの実績に達しているかどうかを知らせることができます。
もし、計画に達していない場合には、銀行の回収リスクは高まります。そのため、会社に対して原因と対策の説明を求めてくるのが普通です。
試算表によって現状把握に努めていれば、自社でも原因を調査して対策を打つことができますから、銀行に必要以上の不安を抱かせないことにもつながります。
事後管理への協力姿勢は、融資交渉の時点では伝える機会がそれほどないかもしれません。
本来、事後管理は銀行の仕事であって、会社側から自発的に動くものではないからです。
しかし、融資交渉で投資計画を説明していく中で、
「~~~という計画になっています。計画のとおり、投資資金の決済時期や金額はこのようになっていますが、○○銀行さん(融資を受ける銀行)の口座からの支払いを考えています。
また、計画と実績の比較のために、毎月試算表を作成して現状把握に努める予定です。作成した試算表は、○○銀行さんにもお渡しします」
などとさりげなく伝えるだけで、プラスの印象を与えられる可能性が高いです。
実際の融資交渉
設備資金の融資交渉のポイントについて解説してきましたが、実際の融資交渉の様子についても見ておきましょう。
設備投資を検討している会社の経営者と、融資担当者の面談の様子です。
ここで例とする会社は、以下のように設定します。
- 製造業者のA社
- 業績は安定して推移しており、財務的にも問題なし。
- 生産設備の更新のために1億円を必要としている。
- 担保にできる資産は持っていない。
- 補助金の受給が決まり、残りの資金をメインバンクのB銀行に融資依頼。
比較的よくみられるケースですが、どのような融資交渉をしていけばよいのでしょうか。
担当者:設備更新とのことですが、どのような内容になるのでしょうか。
経営者「工場で使っている生産設備の更新を考えています。耐用年数を超えてから徐々に効率が低下しているので買い換えようと。」
担当者:投資額はどれくらいになりますか?
経営者:具体的な金額や投資計画について、資料を作ってきました。~~~(資料を渡して簡単に説明)という計画になっていますが、設備はT社製の9000万円のもの、設置工事はY社に発注で1000万円、合計1億円の予定となっています。見積書も資料に添付している通りです。
担当者:ありがとうございます。しかし1億円というと、大きいですね。資料を見ますと、効率が落ちているのは分かりますし、更新による効果も得られるようですが、今買い替えようと決めたきっかけはあるのですか?:
経営者:はい。2年前から買い替えたほうがいいとは感じていましたから、設備資金の補助金に応募してきたんです。競争が激しくてなかなかうまくいかなかったのですが、今回受給が決まったので、買い替えようと思ったのです。
担当者:それはよろしいですね。受給額はおいくらですか?
経営者:限度額2000万円で、満額受給となりました。
担当者:では、残る8000万円を融資ということですね。
経営者:はい、お願いできればと思っています。
担当者:投資計画はよくわかりましたし、主力行として検討させていただきたいとは思っています。しかし、既に御社に出している融資なども考えると、8000万円全額をプロパー融資というのが難しいと思います。担保などがあればよいのですが・・・。
経営者:工場は既にB銀行さんに担保に入れていますし、他には担保がないんです。
担当者:担保にいただいている工場も、担保余力はない状況です。手元資金から一部補填というのはいかがでしょうか。
経営者:一部でしたら大丈夫です。しかし、資金繰りが忙しいところでもありますから、2000万円くらいが限度かと。月商2ヶ月分はキープしておきたいので。
担当者:分かりました。となると、残るは6000万円ですね。
経営者:保証協会の保証枠はまだあったと思いますが。
担当者:そうですね。当行と他行で5000万円利用中ですが、御社の業績から考えて、おそらく上限まで出ると思います。3000万円マル保が出れば、プロパー3000万円は検討しやすいです。
経営者:マル保は大丈夫ですかね。
担当者:審査してみなければ分かりませんが、そのような形であれば当行としても対応しやすいので、ご検討いただければと思います。
経営者:分かりました。それでいいです。宜しくお願いします。
担当者:ありがとうございます。投資計画については詳しく検討させていただきますが、必要な資料などがあれば提出いただければと思います。
経営者:分かりました。融資いただいた資金については、B銀行さんの口座からの支払いを考えています。また、投資後は毎月試算表を作って投資効果の把握に努めるつもりですから、その資料も毎月お渡ししようと思っています。
担当者:それは助かります。では、持ち帰って検討させていただきます。
実際には、投資計画についてもっと込み合った話はあると思いますが、簡単な流れは上記のようになります。
設備資金の融資を申し入れ、投資計画を説明し、投資計画に問題がなければ必要資金の調達計画について話し合い、調達計画でも問題がなければ前向きな検討をしていくという流れです。
もちろん、銀行の融資判断は稟議によって行われるため、融資担当者が納得すれば融資がでるわけではなく、支店内の稟議で判断されていきます。
とはいえ、融資担当者がその案件を支店に持ち帰って上司と協議し、稟議書を作って稟議を進めていくのですから、担当者が納得しなければ、融資を受けられる可能性は非常に低くなります。
だからこそ、融資交渉で担当者をしっかりと納得させるように、投資計画や調達計画を綿密に作り上げ、ポイントを押さえた交渉をしていくことは非常に重要です。
稟議の方針を固める
さて、経営者と面談した融資担当者は、面談で聞き取った投資計画や調達計画、案件の全体的な印象などを上司に伝え、協議していくこととなります。
この協議によって稟議の方針が決められ、前向きに検討してよいと判断されれば稟議書が作られることとなります。
上司と担当者の会話も、簡単に見ておきましょう。
担当者:A社から設備資金の申し入れがありました。設備更新の費用で、必要額は1億円です。
上司:1億円か。大きな案件だな。計画はどうなの?
担当者:資料を頂いています。社長の説明では何ら問題ありませんし、持ち返ってから詳しく読み込んだのですが、よくできた計画だと感じました。
上司:そうか。調達計画はどうなってるの?
担当者:2000万円は補助金、2000万円は手元資金ですから、当行では6000万円の調達となります。
上司:補助金も出るんだね。いいじゃないか。準主力のC銀行に流れたら、主力行としての立場も危なくなるしな。
担当者:そう思います。しかし、担保がないのが問題です。
上司:なるほど、工場は既にうちが担保に取っているからか。じゃあ、6000万円のプロパーになるの?:
担当者:いえ、マル保で3000万円、プロパーで3000万円という組み立てを考えています。
上司:なるほど。マル保は出るの?
担当者:まだ相談していない段階ですが、A社の業績や財務から考えて、おそらく問題ないかと。
上司:そうか。それなら進めていこう。すぐに稟議をあげてくれ。
担当者:わかりました。
会社が業績や財務に問題を抱えているならば、上司ももっと慎重になることと思いますが、この例ではそのような問題は見られません。
投資計画や調達計画にも、特別な問題はありません。
上司が危惧しているのは、無担保扱いで融資する額が大きいという一点のみです。
しかし、それについても補助金、手元資金、マル保の利用によって解決されており、結果的に上司はゴーサインを出すこととなっています。
何らかの大きな問題を抱えている会社ならば、融資交渉はより複雑になっていくものですが、基本的にはこのような流れで稟議の方針が固められていきます。
稟議書の記載例
このような流れで、融資には積極的に対応するという方針が決まりました。
これから支店内での稟議に移っていきますが、稟議で重要となるのが稟議書です。
稟議書を軸として稟議が進められていくため、稟議書の内容で結果は大きく左右されます。
A社の場合、以下のような稟議書になると思われます。
概況
業歴50年以上の製造業者。複数の大手企業とも取引しており、受注基盤を確立。
前期は売上100百万円、経常利益10百万円と安定推移。足元の業績は、決算期以降6ヶ月経過の試算表にて売上500百万円、経常利益5百万円と引き続き安定推移。
資金使途
設備更新投資資金。主力工場の生産設備が老朽化しているため。
融資条件
証貸、金額30百万円、期間8年の分割返済、利率1.825%。
マル保、金額30百万円、期間8年の分割返済、利率1.585%。
保全
全額無担保扱い許容。業歴長く、業績も安定推移中。準主力以下の金融機関も積極対応しており、当面資金繰りに不安はないもの。
資金調達余力
当社の工場は当行にて担保設定中。代表者にも見るべき不動産なく、担保余力はなし。マル保は保証枠に30百万円の余力あり。本件にて30百万円の実行予定。
狙い
当行長年の主力先。今回、マル保とのセットにて融資に対応致したいもの。これを機に融資シェア拡大を図り、主力行としての地位を確立したい。
このような稟議書が作られれば、稟議にあたる行員の印象は、
「長く付き合っているA社が設備更新をするのか。マル保との組み合わせでプロパーは3000万円。担保はないけど資金調達余力はあるようだし、いいじゃないか」
となる可能性が高いです。
設備投資は会社の将来的な業績を左右するものですから、それを主力行として支援し、関係をより強めていくという意義もあります。
また、設備投資は頻繁に実施するものではありませんから、ある意味では融資によって取引を強める良い機会だとも言えます。
このため、しっかりと計画が立てられており、リスクもコントロールされているならば、設備資金を融資してもらえる可能性は充分にあります。
まとめ
本稿では、設備資金の融資を受けるためのポイントについて、かなり細かく説明してきました。
設備投資は多くの会社にとって必要不可欠なものですが、必要資金が大きいだけに、融資交渉が難しくなることも多いです。
交渉のノウハウをあまり知らずに交渉すると、融資を拒否されてしまう可能性は高いです。
必要不可欠な資金需要であり、なおかつ交渉が難しいものですから、投資計画と交渉の流れをしっかりと組み立てていく必要があります。
本稿を参考にして、スムーズに融資を受けられるように交渉を進めてほしいと思います。
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