債務者区分は、融資に大きな影響を与えるものです。
これをできるだけ高く維持し、引き下げられるにしても可能な限り食い止め、できるならばアップさせていくことが重要です。
しかし、債務者区分の重要性は知られていても、債務者区分の低下にどう対処していくべきかということは、意外にも知られていません。
そこで本稿では、経営改善計画を利用することによって、債務者区分を維持したり、低下を緩和したり、いずれは向上させたりする方法を解説していきます。
債務者区分とは?
債務者区分とは、銀行が融資先の会社を、財務内容や業績から判断して区分するもので、その良し悪しによって融資判断にも大きな影響を与えます。
- 正常先
- 要注意先
- 要管理先
- 破綻懸念先
- 実質破綻先
- 破綻先
これら六つに区分され、スムーズに融資を受けるためには正常先であることが望ましいです。
要注意先までならば融資が可能、要管理先以下ならば基本的に融資は不可能とされています。
債権者区分は次のように判断はしていきます。
- 業績が黒字か赤字か、赤字ならば当期だけか二期以上か
- 債務超過状態ではないかどうか、債務超過ならばその程度は軽微か重度か
- これまでに延滞をしているかどうか、延滞をしているならばその期間はどれくらいか
- リスケジュールを依頼しているかどうか、依頼しているならばリスケ状況はどうなっているか
本来の判断によれば、次のような会社が正常先に区分されます。
- 業績が黒字である
- 債務超過状態ではない
- 延滞をしていない
- 現状と今後の返済状況に問題がない
当期が赤字、ごく軽微な債務超過、3ヶ月未満の延滞などの軽い症状を要注意先に区分します。
危険な兆候が重なったり、単一の症状でも重度であったりすれば、要管理先以下に区分され、融資を受けることができなくなります。
しかし金融庁では、そもそも中小企業では財務や業績が安定しにくいことを踏まえ、債務者区分を画一的に判断してはならないとしています。
赤字かどうか、債務超過かどうかといった判断ではなく、何らかのポジティブな要素がある場合には積極的に評価し、債務者区分を引き下げなかったり、引き下げるにしても大幅ではなく小幅に引き下げたりするように指導しています。
ポジティブな要素の例
会社に危ない兆候があっても、債務者区分を維持できる「ポジティブな要素」には、以下のようなものが考えられます。
- 会社自体の返済能力に懸念があるが、経営者の個人資産がたくさんあり、それによって十分に返済の見込みがある
- 会社自体の返済能力に懸念があるが、経営者の親族に充分な資力があり、なおかつ支援が確実である
- 赤字や債務超過に陥ったが、あくまでも一過性のものであり、会社の収益力が問題なのではない
- 現在は赤字や債務超過であるが、優れた技術力や販売力を持っており、近いうちに収益力がアップし、経営が持ち直す可能性が高い

しかし、ここで問題となるのが、中小企業のなかにはこのようなポジティブな要素を持っていない会社も多いということです。
経営者自身の資産は乏しく、身内からの支援は見込めず、一過性の問題ではなく、技術力や販売力にも強みがない会社です。
そのような会社は、債務者区分の引き下げを食い止めることはできないのでしょうか。

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経営改善計画を材料にしよう
上に挙げたようなポジティブな要素がない会社でも、債務者区分の低下を食い止めることは可能です。
現在はポジティブな要素がなくとも、作ることが可能だからです。
金融庁のマニュアルでは、債務者区分の引き下げを修正すべき要素の一つとして、経営改善計画を挙げています。
経営改善計画とは、読んで字のごとく、経営をどのように改善していくかの計画を立てるものです。
すなわち、何が原因で現在の状況(債務者区分が悪い状況、債務者区分を引き下げられそうな状況)に陥っているかを明らかにし、改善のための方策を立て、推進のための計画を立てるものです。

金融庁のマニュアルにも、銀行の支援が前提であることを条件に、債務者区分引き下げを免れる可能性があるとしています。
銀行が支援するためには、その経営改善計画が合理的で実現の可能性が高いと銀行から認められる必要があります。
また、経営改善計画が認められた時点では、あくまでも債務者区分引き下げが保留された状態になるだけで、その後、経営改善計画が着実に達成(1年で計画の8割を達成など)されていく必要があります。
したがって、銀行に経営改善計画を提出し、それをポジティブな要素と捉えてもらい、債務者区分の引き下げを免れるということは、一定のハードルがあると言えます。
しかし、経営改善計画を作ることによって、次のような効果が得られるかもしれないのです。
- 赤字や債務超過状態に陥り、通常ならば正常先から要注意先にランクダウンするべきところを、正常先に維持できる
- 返済が厳しく、早期のリスケジュールを依頼しており、通常ならば要管理先にランクダウンするべきところを、要注意先に維持できる
- 状況が非常に困難で、赤字や債務超過のほか、既に3ヶ月以上の延滞まで引き起こしており、通常ならば破綻懸念先にランクダウンするべきところを、要管理先に維持できる
何らかの強みがあって、債務者区分の維持を図れる会社ならば良いのですが、そうでない会社は経営改善計画を活用するほかありません。
また、経営改善計画は、自社の経営を正常なものへと近づけていく努力を計画したものだとも言えます。
つまり、経営改善計画によって債務者区分低下を防ぐばかりではなく、計画達成の暁には債務者区分アップとなる可能性もあります。
正常な経営に持ち直したと認められれば、再び正常先に位置付けられ、融資を受けやすい会社になることも可能なのです。
あくまでも債務者区分のための経営改善計画
上記において、経営改善計画は、銀行が認めてこそ意味のあるものだと書きました。
銀行が認めてくれず、支援してくれないならば、債務者区分低下は免れません。
そのため、どのような経営改善計画が認められるのかということを知る必要があります。
銀行が認めてくれる経営改善計画とは、言い換えれば「銀行が喜ぶ経営改善計画」だと言えます。
勘違いしてはいけないのが、銀行が喜ぶためとはいっても、喜びさえすればなんでもOKではないということです。

もし、銀行に認めてもらうことだけが目的ならば、リストラ策を立てたり、仕入れを見直したりすることが重要となってきます。
返済不能の状況に陥っており、何としてでもリスケジュールを認めてもらわなければならないような場合には、このような経営改善計画を作ることもあります。
しかし、本稿の場合の最終目標は債務者区分を維持・改善です。
リストラや仕入れの見直しといった方法も、必要に応じて取り入れる必要があります。
しかし、やはり債務者区分により大きな影響を与える項目の改善を盛り込み、経営改善計画を作っていくべきです。
そうすれば、その経営改善計画は、「債務者区分維持・改善のための経営改善計画」になります。

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債務者区分に影響する項目から優先的に
では、債務者区分に大きく影響する項目には、どのようなものがあるのでしょうか。
もちろん、たくさんの項目が影響していることは言うまでもありませんが、影響が大きく、なおかつ改善しやすいものから優先的に改善していくべきです。
そこで、以下の項目から改善していくのがおすすめです。
・自己資本比率
・債務償還年数
・債務超過解消年数
このようなものを中心として経営改善計画を組み立てていけば、銀行にとっても、「債務者区分のための経営改善計画だな」と理解することができます。
そう理解できるということは、銀行にとって喜ばしいことです。
なぜならば、銀行は債務者区分に応じて、債務者区分が悪い融資先ほど多くの貸倒引当金を積む必要があるからです。
会社の努力によって債務者区分が維持され、あるいは改善されるということは、銀行の積むべき引当金が少なくなり、利益につながることですから、銀行は喜びます。
では、上記の財務指標について簡単に見ていきましょう。
自己資本比率
自己資本比率とは、会社の総資産に占める自己資本の割合のことであり、この数値が小さければ会社の自己資本に対して他人資本が多く、経営が安定していない状態だと判断されます。
自己資本比率は、会社の安定性に大きな影響を与える指標であり、債務者区分の判断でもウェイトが大きいため、優先的に改善していくべき指標です。
自己資本比率は、(資本金+資本剰余金+利益剰余金)÷総資産額×100=自己資本比率(%) として計算します。
したがって、自己資本比率を上げていくためには、分母となる総資産を圧縮するか、分子となる資本金や剰余金を増やすことが必要となります。
債務償還年数
債務償還年数とは、現在の会社の利益では、有利子負債を何年で完済できるかを指す指標です。
この数字が大きければ、借入が大きくてなかなか返済が完了しないということになります。
このため、債務者区分や銀行格付け、融資判断では大きな影響を持っています。
債務償還年数は、(長短期借入金-運転資金)÷(経常利益×50%+減価償却費)=債務償還年数 として計算します。
なお、この計算式の長短期借入金は、長期借入金と短期借入金だけではなく、割引手形・社債などを含みます。
一般的な債務者区分では、次のように分類されます。
- 債務償還年数が10年以内ならば正常先
- 10~20年ならば要注意先
- 20~30年ならば要管理先
- 30年超ならば破綻懸念先
したがって、利益を増やしたり、借入金を圧縮したりすることによって、債務償還年数を短縮し、できるだけ10年以内を目指す必要があります。
債務超過解消年数


債務超過状態がどれくらいで解消されるかということも踏まえて判断していきます。
債務超過状態に陥っている会社の中には、すぐにそれを解消できる会社もあれば、すぐには解消できない会社もあり、前者はあまり問題ないケースも多いのに対し、後者は大きな問題となるからです。
債務超過解消年数は、債務超過額÷税引き後利益=債務超過解消年数 として計算します。
- 1年以内ならば正常先
- 3年以内ならば要注意先
- 5年以内ならば要管理先
- 5年超ならば破綻懸念先

債務超過解消年数を改善するためには、利益を増やしたり、債務を圧縮したり、資本金を増加させて債務超過額を減らしたりといったアプローチとなります。
具体的方法の例
では、上記のことを改善するためには、具体的にはどのような方法があるかを考えていきましょう。
良く使われる方法の一つに、資産の売却があります。
この方法では、不動産や有価証券を売却したり、回収が遠い売掛金を売却したりすることによって現金を増やします。
もっとも、現金が増えただけでは総資産額は減少しませんから、この現金を以て借入金の返済に充てるのです。
こうすることによって、次のような効果が見込めます。
- 総資産が圧縮されるため、自己資本比率が上がる
- 負債が減少し、債務償還年数が短縮される
- 負債が減少し、債務超過解消年数が短くなる

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会社の状況によって経営改善計画は変わる
ここまで読んで、経営改善計画を作る意味と、作る際の力点が分かったと思います。
しかしまた、会社がどの債務者区分に位置しているかによって、経営改善計画の用い方は異なってきます。
現在の区分によって、維持するだけでいいのか、低下を防がなければいけないのか、致命的低下を避けるべきなのかといった違いがあるからです。
したがって、現在の債務者区分に適した対処を知り、経営改善計画の作成にも活かしていく必要があります(現在の債権者区分を把握する方法は、当サイトの他の記事を参考にしてください)。
現在正常先の会社
現在、正常先の会社は、融資をスムーズに受けられるため、経営改善計画など必要ないと思う人もいると思います。
しかし、債務者区分は正常先でも、正常先という債務者区分を基準として付けられる銀行格付けには数段階あるため、正常先の中でのランクアップを図る余地があります。
したがって、現在正常先の会社は、正常先を維持するとともに、経営改善計画を利用して格付けアップを図り、よりよい条件での融資を受けられるようにする、というアプローチとなります。
現在要注意先の会社
現在、要注意先の会社、あるいは今回の決算で要注意先に転落しそうという会社は、やや問題があります。
要注意先は、ぎりぎり融資が出るラインであり、安定した融資を受けることがやや難しいと言えるからです。
したがって、この場合には要注意先から正常先へのランクアップ、あるいは正常先から要注意先への引き下げ防止が目標となります。
そのために経営改善計画を作っていきます。
しかし、自社の状況から考えて、要管理先に近い要注意先であるとか、正常先から一気に要管理先に引き下げられそうだといった場合には、まずは要注意先を維持することを優先し、対策していく必要があります。
現在要管理先の会社
要管理先は、融資が出ない区分であり、銀行の判断によっては融資の回収もあり得ます。
したがって、現在要管理先の会社は、要注意先への改善を目指す必要があります。
また、今回の決算が非常に悪かったり、これからリスケを依頼する予定があったり、要管理先に転落しそうという会社は、何とか要注意先で食い止めるようにしなければなりません。
ポイントとしては、これ以上の悪化を防ぐことを優先した計画を立て、その上で債務者区分改善のための項目を優先的に改善していくことが重要となります。
現在破綻懸念先の会社
現状で破綻懸念先の会社は、もう駄目だと思われることが多いのですが、要管理先に引き上げることが可能です。
また、破綻懸念先にランクダウンするべきところを、要管理先で留められる場合もあります。
経営状況が非常に悪く、再建計画もうまくいっていない状況の会社を破綻懸念先に分類するわけですから、経営改善計画を提出するだけでも、要管理先の維持・要管理先への改善が望めるのです。
実質破綻先、破綻先の会社
この区分になると、銀行は再建の見込みなしと考えるため、債務者区分がアップするということもありません。
どう着手するか
以上のことを学び、経営改善計画を作る気になった人も多いと思います。
しかし、具体的にはいつから始めるのか、どのようなスタートを切るのか、銀行にはいつ提出するのかといった疑問があることでしょう。
基本的には、経営改善計画は会社が自主的に作り、銀行に提出するものです。
多くの会社はそれをせず、例えばリスケを依頼した場合などに、「じゃあ、経営改善計画を作ってください」などと言われます。
銀行が経営改善計画を作ってほしいと言ってくるということは、何らかの問題があることを銀行が認識しています。
それをほったらかしにできない状況であるとの認識もあり、どのように改善していくつもりなのか知りたがっている、ということにほかなりません。

したがって、「いつから作るか?いつスタートするか?」という疑問に対しては、「改善の必要があるならばすぐにでも」と考えてください。
例えば、今期の決算をしてみたところ、どうも債務者区分に響きそうだと考えたとします。
ならば、今期の決算に伴って経営改善計画を作成し、決算書と共に銀行に提出するのです。
既に決算を終えており、次回の決算まで時間があるというような場合には、半期決算の際に経営改善計画を作成し、提出します。
もちろん、すぐにでも作成すべき必要性を感じているならば、その時点で作っても良いと思います。
以上のようなタイミングで作成に取り掛かかります。

大まかな枠組みができたら、銀行に提出し、計画を以て経営改善に取り組むことを伝え、協力を仰いでください。
経営改善計画を見た銀行は、必要に応じて計画の修正を意見してくるでしょう。
その意見によって修正し、金融機関が協力してくれると決まれば、ひとまず債務者区分のダウンは防ぐことができます。
その後、経営改善計画を実行に移していき、進捗状況に応じて再評価となります。
もし、経営改善計画が順調に進んでおらず、やはり債務者区分の引き下げが妥当と判断された場合には、債務者区分の引き下げとなります。
しかし、現実的には、金融機関も実現性を認めている計画ですから、全く計画通りにいかないということは考えにくく、一定の成果が得られることと思います。
思いのほか成果が上がれば、債務者区分アップの可能性も出てきます。
このことからも、経営改善の必要が生じたタイミングで経営改善計画を作成し、取り組んでいくことの効果が分かると思います。

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まとめ
債務者区分を維持したり、引き下げを免れたりすることは、経営改善計画の作成によって可能です。
経営改善計画というと、リスケジュールの際に、銀行から求められてはじめて作成するものであり、後ろ向きのイメージもあるかもしれません。
しかし、経営改善計画によって、債務者区分の維持に役立てたり、低下を防いだり、後々アップしたりしていくというように、積極的な使い方もできるものなのです。
皆さんも、債務者区分維持・改善の材料として、経営改善計画の活用を検討してみてはいかがでしょうか。