一口に金融機関といっても、色々な金融機関があります。
金融機関ごとに、得意とする取引先はことなりますから、中小企業が積極的に付き合うべき金融機関を知っておくことによって、金融機関の開拓がラクになります。
また、複数の銀行から融資を受けながら開拓していくにあたっても、その効果的な組み合わせ方を知っておくと、一層開拓がスムーズに進んでいくことでしょう。
本稿では、金融機関ごとの特徴と、その組み合わせ方について解説していきます。
金融機関にも色々
特定の金融機関と一行取引をしていると、その金融機関から借りられないと困ります。
そのため、金融機関側に有利な条件で借りることになったり、いざと言う時に借りられずに窮地に立たされることになります。
したがって、金融機関と良い付き合いをしていくためには、複数の金融機関と付き合っていく必要があります。
複数の金融機関と付き合っていくにあたって、それぞれの金融機関の特徴を押さえておくことが大切です。
金融機関を大きく分けると、民間金融機関と政府系金融機関の二種類に分けられます。
ファクタリングについての記事はこちら
民間金融機関の分類
民間金融機関をさらに分けると、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合などがあります。
これらの金融機関について解説を加えると、以下の通りです。
都市銀行
みずほ銀行、三菱UFJ 銀行、三井住友銀行などはメガバンクとも呼ばれますが、これにりそな銀行と埼玉りそな銀行など加えて都市銀行とも言われます。
都市銀行も、中小企業と取引がないわけではありませんが、消極的だと言えます。
金融庁からの指導により、建前としては取引をするとしていますが、取引の中心は大企業です。
中小企業への貸付けは小規模であり、うまみが少なく、しかもリスクが高いため、あまり相手にしたくないと考えているのです。
都市銀行は中小企業と付き合いたいと考えていませんから、付き合いを求められても何かと理由をつけて、付き合わないようにしてくるものと考えておいた方が良いでしょう。
都市銀行と付き合いがあれば体裁がよいからと、無理をして都市銀行をメインバンクにしている中小企業もありますが、これはかなりリスクが高いです。
都市銀行が中小企業との付き合いを嫌うのはうまみがないからであり、無理にでも付き合いを望めばうまみのあるようにしなければならないため、取引条件が悪くなってしまう可能性が高いです。
ただし、海外展開を見据えている中小企業ならば、海外ネットワークの強い都市銀行は頼りになる存在です。
そのような中小企業は、取引があった方が心強いと言えます。
地方銀行
地方銀行とは、簡単に言えば地方の名前が付いた銀行です。
福岡銀行、広島銀行、静岡銀行など、都道府県名をつけている場合もあれば、西日本銀行、北九州銀行、池田泉州銀行のように、市町村や地域の名前を付けている場合もあります。
細かく分ければ、地方銀行と第二地方銀行に分けることができますが、地方銀行としてまとめて考えて構いません。
地方銀行は、その名前のついた地方でしか活動していないようにも思われがちなのですが、営業範囲は広く、規模も様々です。
したがって、3000万円以上の融資を希望しているならば、地方銀行をメインバンクとするのが良いでしょう。
地方銀行の公的な役割は、地域企業への融資を通し、地域経済を活性化することにあります。
したがって、その地域の会社への融資は積極的ですから、都市銀行よりも融資のハードルが低くなります。
新規融資や少額融資の場合には、基本的に保証協会付き融資になりますが、付き合いを深めていけばプロパー融資も可能となります。
金利や返済条件にも柔軟なので、利用しやすい銀行と言えます。
信用金庫・信用組合
信用金庫・信用組合は、民間金融機関の中で最も小規模の金融機関です。
信用金庫・信用組合は、法律によって資金運用や営業地域に制限があるため、狭い地域で中小企業や個人への融資に特化した営業を行なっています。
したがって、融資額も1000万円以下の保証協会付き融資になることがほとんどであり、金利もやや高めです。
しかし、融資希望が通りやすく、小回りの利く借入先であり、複数の金融機関と取引する上での組み合わせの要素として使いやすい存在です。
また、規模の大きい信用金庫になると、融資額や金利も地方銀行とそうかわらないものになります。
政府系金融機関の分類
政府系金融機関には色々ありますが、中でも中小企業に融資してくれるのは、日本政策金融公庫と商工組合中央金庫です。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、2008年、国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫の3つが統合されてできた金融機関です。
この関係から、日本政策金融公庫の事業は、国民生活事業(以下、国金)・農林水産事業(以下、農林公庫)・中小企業事業(以下、中小公庫)の3つに分かれて運営されています。
国金
なぜならば、融資判断がスピーディであり、創業資金にも対応しているほか、税理士や商工会議所とのつながりもあるからです。
融資額は300~1000万円と小口ですが、審査が早いため利用しやすく、特に創業資金は銀行ではなかなか融資を受けられないため、国金を利用する場合が多いです。
また国金では、商工会議所の指導を受けるという条件つきであれば、小規模事業者経営改善資金という制度を利用することもできます。
これは、赤字の会社でも利用できるケースが多い制度です。
赤字の会社は、銀行から借りられないのが普通ですから、このような制度は知っておくと重宝します。
農林公庫
農林公庫は、農林水産事業に対して融資を行なっています。
例えば、農機具などの購入資金を低金利で融資してくれます。
中小公庫
より多くの資金を必要としている場合には、中小公庫に依頼するのが良いでしょう。
ただし、融資額が大きく、支店も少ないため、規模が大きい会社でなければあまり取引するケースはありません。
また、融資判断に時間がかかります。
それでも、低い金利で多額の資金を調達することができるため、必要に応じて検討してみる価値は十分にあるでしょう。
中小公庫は特に製造業に強いという特徴があります。
そのため、工場抵当法に基づいて、工場や機械を抵当にしたうえでの融資にもなれていますから、製造業者の融資には利用しやすくなっています。
商工組合中央金庫
商工組合中央金庫は、中小公庫に近い金融機関で、大きな額の融資を低利で行なっています。
日本政策金融公庫との違いは、日本政策金融公庫は100%政府の出資であるのに対し、商工組合中央金庫は過半数が民間の出資であることです。
また、日本政策金融公庫では保証協会の保証をつけることができないのに対し、商工組合中央金庫では保証協会の保証をつける場合があります。
このほか、商工組合中央金庫では民間金融機関以上に粉飾に厳しいという特徴があります。
したがって、商工組合中央金庫と取引していることによって、他の金融機関に対して粉飾がないクリーンな会社であることを印象付けられるというメリットもあります。
金融機関の組み合わせ方
上記の通り、金融機関には色々あります。
複数の金融機関と取引していくにあたり、どのように選んでいけばいいのでしょうか。
それを知るためには、希望する融資総額から考えるのが良いでしょう。
希望融資総額から考える
例えば、融資希望総額が2000万円だったとします。
この場合、地銀から1000万円、信金から500万円、国金から500万円といった選択肢が考えられます。
この時のポイントは、地銀Aから1000万円、地銀Bから1000万円、あるいは信金Aから500万円、信金Bから500万円、国金から1000万円というように、地銀や信金を複数組み合わせないことです。
なぜならば、取引銀行が少ないうちから同じ系統の金融機関同士を組み合わせてしまうと、なぜ借入先をまとめないのかと聞かれた時、あえてそうする理由を説明しにくくなるからです。
しかし、地銀と信金と国金というようにばらけさせていれば、地銀から説明を求められたときには「小回りが利く金融機関を開拓しておきたいため、信金とも付き合っておきたい」、信金から説明を求められたときには「もっと大きな融資が必要になったときのために地銀とも付き合っておきたい」と説明できます。
説明を受けた金融機関も、それが表面的なものと分かっているものですが、表面的に大義名分が立つかどうかということは、金融機関の交渉では非常に重要なことです。
国金から開拓を
これから開拓していく会社にとっては、地銀と信金と国金を組み合わせる時、どこから開拓していけばいいか迷うことでしょう。
その場合、国金から開拓していくのが得策です。
預金を持っていないということは、借りたお金を国金ではなく、どこかの金融機関に預けて返済をしていく必要があるということです。
地銀や信金に預けたとすれば、そこで取引が生まれますから、次に地銀や信金に融資の相談をしやすくなります。
したがって、最初は国金から借り入れを行います。
すでに書いた通り、信金は地銀よりも融資が通りやすいという特徴があります。
そして最後に、地銀に融資を打診します。
地銀は、国金や信金よりも審査が厳しいですが、金融機関は本質的に、他の金融機関の動向に敏感であり、他の金融機関が融資しているという事実があると、融資に積極的になりやすい性質があります。
そのため、国金や信金から既に融資を受けている会社は、地銀も積極的に融資を検討してくれる可能性が高くなります。
そこで、地銀を最後に回すのです。
このように、2000万円の調達が必要な場合、まず国金から500万円、次に信金から500万円、最後に地銀から1000万円という流れで依頼するのが、最もスムーズにいく形でしょう。
多額の調達の場合
融資総額が3000万円以下ならば、地銀と信金と国金を組み合わせることで対応が可能です。
地銀1500万、信金1000万、国金500万円でもいいですし、色々パターンは考えられるでしょう。
では、3000万円超になった場合にはどうするのでしょうか。
この場合、地銀を複数組み合わせ、それを中小公庫や国金、信金で補うという形になるでしょう。
例えば1億円の融資を必要としているならば、地銀の大型支店から5000万円の融資を受け、別の地銀から3000万円の融資を受け、最後に国金から1000万円、信金から1000万円の融資を受け、計1億円の融資を受けるといったあんばいです。
このように、地銀同士を組み合わせることになるわけですが、この時のポイントは、ライバル同士を組み合わせることです。
お互いにライバル意識を持っている地銀は多いので、敢えてそこへ融資を依頼すれば、「あそこが融資するのにこちらが融資しないわけにはいかい」という意識が生まれ、交渉がラクになるのです。
日本政策金融公庫を必ず入れる
このほか、借入総額がどうであれ、日本政策金融公庫が必ず入っていることに注目してほしいと思います。
民間金融機関は、業績が悪化した時にはかなりシビアな対応をしてきます。
それまで返済実績があっても、追加融資を断られることも多いです。
しかし日本政策金融公庫は、民間金融機関よりもずっと返済実績を重視します。
したがって、業績が悪化した時でも、返済実績さえしっかりしていれば、追加融資を受けられる可能性が高いのです。
赤字の場合でも借りられることが多いですし、貸しはがしを受けることもないので、平常時からしっかりと付き合っておくことが大切なのです。
他地域の地銀を入れてみる
このほかのテクニックとして、ライバル同士の地銀を組み合わせることに加えて、全く関係のない地域の地銀の支店を入れるというものがあります。
例えば、同じ県内の地銀同士を争わせつつ、隣の県に本店がある地銀の支店にも融資を依頼するのです。
アウェーで戦う支店では、支店長の能力が高いケースが多いです。
また、アウェーゆえの顧客開拓の難しさがありますから、融資を打診した時、よい条件を提示してくることが多いです。
支店長の能力の高さとアウェーゆえのハングリーさが相俟って、積極的に融資を通してくれる可能性があります。
したがって、県内のライバル同士の地銀をふたつに、県外の地銀をひとつ加えることによって、県内の地銀にも緊張感が生まれ、この三行全ての融資条件が良くなる可能性が出てきます。
これと同じ意味で、県外の地銀の支店ではなく、新規出店の支店を加えるのも良いでしょう。
新規出店した支店も顧客獲得に必死ですから、色々な好条件を出してくれ、それが全体の融資に良い影響をもたらす可能性が高いです。
まとめ
金融機関ごとの違いを知っておくと、自社が付き合うべき金融機関が分かります。
これから開拓していくべき金融機関も見えてくることでしょう。
しかし、それに加えて、融資総額から考える組み合わせや、開拓していく順序を知っているならば、なおさらスムーズに開拓が進むことと思います。
安定した経営のためには、金融機関からの資金供給が必要です。
そのためには、複数の金融機関と取引をし、好条件での資金供給を絶やさないことが大切です。
ぜひ、開拓すべき金融機関と組み合わせを考えつつ、開拓を進めてほしいと思います。