第3回で詳しく解説した通り、管理会計は財務の視点によって業績改善を考えるものであり、それだけでは業績改善が失敗する可能性が高いです。
それに加えて重要となるのが顧客の視点であり、これを考慮せずに業績改善が成就することはありません。
第4回では、顧客の視点の重要性や、顧客満足度の考え方について解説していきます。
財務の視点だけでは結果は得られない
管理会計は財務の視点から業績改善を図るものであり、それだけでは黒字転換が難しいことを解説してきました。
財務の視点に加えて、顧客の視点と業務プロセスの視点が必ず必要となります。
顧客の視点については、皆さんもある程度イメージがつくと思います。
顧客目線での商品開発や接客が重要であることはよく知られています。
銀行員が定性的な要素を判断する際にも、「顧客を大切にしない会社には融資できない」と考えるほどです。
しかし、いざ業績改善のために取り組むとなると、「そのためには何かを犠牲にする必要がる」と考えて、犠牲にすべきではないものまで犠牲にしてしまうことがあります。
もちろん、何かを犠牲にしなければならないのは間違いないことです。
コスト削減のために、社内で何らかの不便が生じることもあるでしょうし、利益アップのために四苦八苦し、経営者や従業員の体力・精神力・時間などが犠牲になるかもしれません。
とはいえ、顧客を犠牲にするのは間違っています。
顧客を犠牲にした業績改善に取り組めば、それが売上低下などを招いて業績改善の足を引っ張ることになります。
第3回でも触れましたが、業績改善を財務の視点だけで考えた結果、売上が大幅に落ちてしまったり、お店の雰囲気が悪くなってしまったりすることがよくあります。
例えば、コスト削減のために給料をカットし、売上アップのために従業員を人時売上高で管理する方針を立てたとします。
そして、「人時売上高が〇〇に達したら、給料を従来の水準に戻す」などの条件を設定し、従業員の士気を高めようとすればどうでしょうか。
従業員は各自の売上のことしか考えなくなり、売上にならない接客がおろそかになったり、高額メニューをしつこく勧めたりして、顧客に色々な不満が生まれてきます。
また、使用する食材の質を低下させ、コスト削減を図ったことにより、顧客離れを招くこともあります。

リピーターはお店の大切な収益源ですが、常連客ほどお店の変化には敏感なものよ。
接客や食材のクオリティが低下しているとわかれば、リピーターが離れていくことになり、売上に深刻な影響を及ぼします。
このように、財務の視点だけ、売手側の視点だけで業績改善を推し進めていくと、結果だけを求めて過程を無視することになり、満足な結果が得られないことが多いのです。
そこで、財務の視点に加えて顧客の視点、業務プロセスの視点も必要になってくるのです。
顧客視点がなぜ重要なのか
顧客の視点は、損益計算書の売上高にダイレクトに表れます。
なぜならば、顧客視点での取り組みとは、よく聞く言葉で言えば「マーケティング」であり、それが売上を左右するものだからです。
ここだけを見ても、顧客視点を抜きにして業績改善が不可能であることが分かるでしょう。
最低でも売上を維持して限界利益を高める、できれば売上そのものを高めることが、業績改善には欠かせません。
お金を払ってくれるのは顧客であり、顧客が買ってくれなければ事業は成り立たないのです。
激安価格で販売しているお店も、顧客が買わなければ成り立ちません。
高級路線でやっているお店も、顧客が買ってくれれば成り立ちます。

商売が成り立つかどうかは、顧客に求められるかどうかにかかっていて、これは「会社を作っているのは顧客である」と言い換えることもできるな。
したがって、商売を成り立たせ、黒字転換を実現し、順調に経営を続けていきたければ、顧客に求められる会社でなければなりません。
それができれば売上は維持できますし、伸ばしていくこともできます。
赤字に陥って困っている飲食店A店でも、顧客の不満が大きくなっていたり、顧客離れが起こったりしていることでしょう。
それでも900万円の月商があるのですから、不満ばかりで顧客が一切つかないという状況ではなく、やはりリピーターを含む顧客がいるのは事実です。
そこで、この顧客たちが何を求めて飲食店A店で買っているのかを知ると同時に、その顧客たちが何に不満を感じているかを把握することが必要です。
そこを意識して取り組むことで顧客離れを防ぎ、新規顧客をリピーターに育てていくことができます。これが、顧客目線での業績改善です。

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簡単に始められる取り組み
顧客の視点で考えるためには、顧客の考えを知る必要があります。
その方法は単純で、顧客に直接尋ねるのが良いでしょう。
多くの会社がアンケートを取り入れているのも、顧客の考えを知り、顧客目線を経営に活かすためです。

すでにアンケートを実施しているならば、それを十分に活用できていない可能性が高いよ。
アンケートを実施していないならば、すぐにでも始めてみるのが良いでしょう。
アンケートは、ほとんど費用もかからないのですから、赤字で資金繰りが苦しい会社でもすぐに始めることができます。
方法は簡単です。
飲食店A店のような店舗経営の場合には、テーブルにアンケート用紙を置いておき、気が向いた人に書いてもらえばよいのです。
スーパーなどの小売店ならば、入り口にアンケートボックスを置き、匿名で書けるようにしておけば良いでしょう。
店舗を構えていない通販業者では、購入者にメールでアンケートをお願いすることができます。
アンケート用紙の作成も簡単です。
というよりも、複雑なアンケートを作ってしまうと、顧客が書きたくないと感じてしまいますから、簡単な内容にすべきです。
例えば、飲食店A店の場合には、
(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)2、飲食店A店をまた利用したいと思いますか?
(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)3、飲食店A店の商品にはご満足いただけましたか?
(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)
3で「満足・やや満足」と答えられたお客様:満足したメニュー( )
3で「不満・やや不満」と答えられたお客様:不満だったメニュー( )
4、飲食店A店の料金にはご満足いただけましたか?
(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)
4で「満足・やや満足」と答えられたお客様:満足したメニュー( )
4で「不満・やや不満」と答えられたお客様:不満だったメニュー( )
5、飲食店A店のスタッフの接客にはご満足いただけましたか?
(満足・やや満足・どちらでもない・やや不満・不満)
印象に残ったスタッフの名前をお聞かせください( )
6、飲食店A店でお気に入りの点があれば、お聞かせください。
( )
7、飲食店A店でご不満な点があれば、お聞かせください。
( )
といった内容で良いでしょう。
よく見るアンケート用紙とだいたい同じ内容と考えて問題ありません。
アンケートに効果はある?
これまでアンケートに取り組んでいなかった会社でも、単に顧客視点の重要性を意識していないだけであれば、すんなりと導入できると思います。
もっとも、アンケートを実施した経験があり、いつしか辞めてしまった会社では、アンケートの効果に半信半疑なことも多いです。
従業員の中には、「社長が意味のないことをやろうとしている」といった不満を抱く人もいるかもしれません。
なぜアンケートの効果に疑問を抱くのかと言えば、
などの理由がよく見られます。
しかし、一見理不尽な誹謗中傷に見える意見でも、顧客の視点であることに変わりはありません。
そこに取り入れるべきヒントが隠されていることがよくあります。
また、アンケートがなかなか集まらなければ、少ないサンプルをもとに改善を進めるのは危険だと感じる人もいると思います。
しかし、アンケートを書いてくれる顧客というのは、お店に好意的だからこそ意見を伝えたいと考えていたり、お店にガツンと言ってやりたい不満を抱えていたり、良くも悪くも関心があります。

その関心こそが顧客の考えを知る手がかりになるわ。
アンケートを始めて一定期間が経過し、集計してみると、少しずつ顧客の視点が明らかになっていきます。
顧客満足度が高い会社では、喜んでお金を払ってくれるお客さんが多く、リピーターも多く、新規顧客も獲得しやすく、アンケート結果もまずまず良いものになるでしょう。
しかし赤字の会社では、厳しいアンケート結果になると思います。
アンケートをしていなかった時にも薄々感づいていたかもしれませんが、それがアンケートによって明らかになるのです。
それだけでも収穫は大きいと思います。
また、顧客が何に満足しているか、何に不満なのかを知ることができれば、業績改善の大きな手掛かりとなります。
例えば、
- メニューAの人気が高いことが分かった。限界利益率が低いメニューであるため、取り扱いを止めることを検討していたが、取り扱いを続けたほうがよさそうだ。それが来客につながる可能性が高い。
- クオリティを落としたメニューBに不満を持っている顧客が多いことが分かった。食材費を削減するためにやったことだが、顧客はそれを見透かしていた。仕入れを今一度見直したい。
- 人件費を削減したところ、キッチンのスタッフが不足し、料理を提供するまでの待ち時間が長くなったことに不満があるようだ。シフトを再検討する必要がある。
などのヒントが得られるのです。
管理会計だけで考えていれば、売上、コスト、利益率といった観点でしか見ることができずに売上低下を招くことが多いのですが、アンケートで顧客の視点を取り入れていけば、それを防ぐことができます。

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顧客満足度と売上の関係
アンケートの結果を取り入れ、顧客が不満を抱く部分を取り除き、顧客が満足している部分を高めていけば、顧客満足度は高まります。
顧客満足度が高まれば、売上は上がります。
そんな単純なことかと疑問に思う人もいるでしょうが、これは事実です。
なぜならば、満足度の高い顧客は、「もっと買いたい」「また買いたい」「人にも勧めたい」といった感情を持つからです。
顧客の購買意欲は、支払ったお金と満足度の関係に左右されます。
「支払ったお金>満足度」であれば、もう二度と買いたいとは思わないでしょう。

逆に、「支払ったお金<満足度」であれば、また買いたいと思ってリピーターになってくれるよ。
業績改善のためには値上げか?値下げか?
業績改善となると、顧客満足度を無視した改善に取り組むケースが多いわけですが、それがよく表れている改善策の一つが「値上げ」です。
値上げをすれば利益が大きくなるため、業績改善に近づくと考えるのです。
逆に、業績改善を考えているのに、「値下げ」を考える会社はあまりないでしょう。
値下げをすれば利益は小さくなり、業績は悪化すると考えるのが普通です。
しかし、この考え方は本当に正しいのでしょうか。
顧客の視点も考慮していくと、意外な事実が見えてきます。
値上げした場合
前述の通り、顧客の購買意欲は支払ったお金と満足度の関係に左右されます。
値上げを行うと、顧客が支払うお金は大きくなるのですから、それを上回る満足度の提供は難しくなります。
値上げ前は、
支払ったお金(50)<満足度(60)
であり、満足度のほうが高かったとしても、値上げをしたことで
支払ったお金(65)>満足度(60)
となってしまえば、顧客は離れていきます。
特に、赤字で経営が苦しい会社では、値上げとともにサービスの質が落ちてしまうこともあります。
その場合には、
支払ったお金(65)<満足度(50)
などとなり、顧客離れが加速する可能性があります。
値上げによって顧客離れが起こるのは、このような理由によるものです。
顧客離れを引き起こせば、かえって業績は悪化します。もし、業績改善のために値上げをしたければ、満足度も同時に高まるような工夫が必要となります。
値下げした場合
では、値下げした場合はどうでしょうか。値下げをする前は、
支払ったお金(60)>満足度(50)
の関係にあって、顧客離れが起こっていたとしても、値下げをすることによって、
支払ったお金(45)<満足度(50)
に持ち込むことができれば、リピーターを獲得することも可能です。同時に、サービスの向上にも努めていけば、
支払ったお金(45)<満足度(60)
となれば、来客数を伸ばしていくことができ、業績が改善する可能性もあります。
もちろん、値下げをしたことで赤字が拡大してしまっては意味がありませんが、利益が多少目減りするくらいであれば、値上げよりも効果が高いことが多いのです。

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顧客満足度を高めよう
実際に値上げ・値下げを行うかどうかは別として、支払うお金と満足度の関係をこのように考えることができれば、顧客視点での考え方がより分かりやすくなるでしょう。
また、満足度を高める重要性が分かれば、
- 値上げをするならば、それに見合うように満足度を高める
- 値下げをしても、満足度がそれを下回らないように維持する
といった視点で考えることもできます。
言い換えれば、顧客満足度が非常に高ければ、ある程度の値上げは問題ありませんし、顧客満足度が低ければ値下げをしても意味がないこともあります。
顧客満足度とは、それくらい重要なものなのです。

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まとめ
管理会計だけでは業績を改善できないことは、第3回でも詳しく述べてきました。
第4回で顧客の視点の重要性が分かれば、管理会計の知識だけではどうにもならないことが、より詳しくわかったことと思います。
顧客満足度を高める取り組みは、ほとんどお金をかけずにできる方法もたくさんあります。
したがって、赤字の会社が黒字転換を目指すうえで欠かせないものです。

第5回では、業務プロセスを改善する方法を学んでいこう!
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