資金調達をスムーズに進めるためのポイントはたくさんあります。
その中でも特に重要であり、スムーズな資金調達のために必要欠くべからざるな要素と言えるのが、事業計画です。
事業計画書として銀行に提出するわけですが、これによって納得させることができなければ、融資をしてくれることはありません。
そこで本稿では、銀行が納得する事業計画のポイントを解説していきます。
事業計画はなぜ重要か
銀行からの融資によって資金調達を図る場合、審査を受けることになります。
この時、審査をする点はいくつもあるのですが、それらは全て「事業の中身を見るため」にやっていることです。
この意味から言えば、銀行から資金調達をするためには、会社や事業といった本質的な部分をよりよく理解してもらう必要があります。
そのためには事業計画が非常に重要となることが分かるでしょう。
事業計画書は、中期目標、数値計画、実行・管理体制などを論理的に説明できる資料であり、事業の中身を最も伝えやすい資料なのです。

会社の融資申込を直接受ける担当者が稟議書を作り、それを支店内の上層部へと順々に回していき、融資の判断を決めていくというシステムです。
会社の内容を直接知り得るのは末端の担当者だけであり、担当者以外は主に稟議書とその他の資料によって判断していくことになります。
そこで、事業計画をきちんと伝え、稟議書に反映してもらいいます。
事業の中身を良く知ってもらうことができれば、上層部にも事業の中身が正確に伝わり、資金調達がスムーズに進みやすくなるのです。
事業計画は、会社の方針や取り組みを計画するものであり、同時にその計画を遂行していくための仕組みを作るものでもあります。

事業計画は、会社の今後の事業をどう進めていくのかを、中長期的に計画します。
しかし、中長期の事業計画を立てるといっても、何十年も先までの計画を立てるのではありません。
期間は計画によって異なりますが、資金調達のために事業計画を立てる場合には、資金調達から完済までの期間の事業計画が必要となります。
以上のように、事業計画は資金調達のスムーズさを左右するものです。
この点を踏まえて、事業計画をどう立てていくべきかを学んでおくと、銀行からの資金調達の際に大いに役立つものと思います。

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事業計画の役割
事業計画は、資金調達のために作成すると思われがちですが、社外のためだけではなく社内のためにも機能するものです。
まず対外的な役割ですが、これは銀行からの資金調達のために機能したり、株主への説明のため、取引先への説明のためなどに、自社の成長戦略を伝える働きがあります。
とりわけ重要なのが銀行への役割です。
そもそも、会社を今後こうしていきたいという展望があって、それを成し遂げるために資金調達を図るのです。
ですから、事業計画をきちんと説明できない会社は資金調達に苦労することになります。
逆に、銀行が納得する事業計画を作っている会社は、資金調達がスムーズに進む可能性が大きく高まります。
次に社内への役割ですが、これは事業計画を経営目標として、達成すべき目標を社員に示す役割があります。
社員に方向性を明示して頑張りを促すためにも、多少の無理を要する計画を立てるのがポイントとなります。
事業計画のポイント
銀行が、融資審査の際に事業計画を重視するのは上記の通りです。
銀行が事業計画書を見た時、情報不足だと思われないためには、
- 長期ビジョン
- 現状認識
- 数値計画
- 行動計画
の四つを欠かすことができません。
では、この四つを具体的にどのように記載していくのかを見ていきましょう。
長期目標
これは、経営理念とも言えるもので、会社が事業を通して何を目指しているのかということです。
上場企業などのホームページを見てみると、かならずこれが明記されていることからも、その重要性が分かります。
中小企業でも、社内の目立つ場所や社長室に、額縁に入れて飾ってあることも多いです。
しかし、長期のビジョンとなると、どうしても具体性に欠けることが多いです。
だからこそ、現状の資金調達にはそれほど影響しないと考える経営者もいますが、実際には必ずみられる部分です。

あらゆる事業活動は、長期ビジョンを成し遂げるために役立つかどうかという視点で考えられます。
いくつかの選択肢の中から決断を迫られた場合にも、長期ビジョンをよりどころとして決断を下すことになります。
このように、長期ビジョンには会社の考え方の傾向・クセが出るとも言えます。
このため、長期ビジョンが良くない会社は、経営がうまくいかないものです。
何となくよさげな、具体的なイメージのない長期ビジョンを設けている会社は、長期ビジョンが意味不明です。
そのため、社長の考え方や判断基準が社員にとって意味不明ということになり、経営に支障が出てくるのです。
社長と社員の意識にズレがあれば、現場での判断が社長の思った通りにならず、事業が円滑に進んでいかないのです。
意識にズレがあることに早期に気付き、すぐに修正できればあまり問題はありません。
しかし多くの場合、社長は社員が思った通りに動いてくれていると思い込み、社員は社長の望む通りに動いていると思い込みます。

そのような会社が、銀行から良い評価を得て、スムーズに資金調達をしていけるはずがありません。
長期ビジョンを甘く考えている会社は、十中八九が業績不振に悩むことになります。
それだけ重要なものですから、資金調達の際に銀行が注目するのも当然のことなのです。

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良いビジョンとは?
しかし、良いビジョンとはどんなものであり、悪いビジョンとはどんなものであるか、そもそもそれが分からないという経営者も多いと思います。
良いビジョンと悪いビジョンの違いは以下の通りです。
良いビジョンとは、次の二点を備えているビジョンのことです。
- 会社の方向性が理解できること
- 社員にも浸透しやすいものであること
逆に悪いビジョンとは、次のとおりです。
- 会社の方向性が理解できず、社員に浸透しにくいもの
- 手段が目的になってしまっているもの
有名企業の経営理念などを見てみると、優れたものが多いため参考になると思います。
有名企業は、厳しい環境にも耐えて企業を成長させ続け、信頼を勝ち取っている企業のことを言います。
成長を続けて信頼を失わないだけの理由が、経営理念のなかに見えるはずです。
現状認識
事業計画と言うと、将来的な計画を立てるものであると考え、現状への認識が甘くなってしまう場合があります。
しかし、会社の現状を踏まえてこそ、将来的な計画もしっかりとしたものになるのです。
そのため、現状認識も大切な事業計画の一環です。
現状認識で重要となるのは次の事柄です。
- 自社の強みと弱みを分析すること
- 自社の属する業界の環境を把握すること
- 自社の商流を再確認すること
これらを正しく把握することができれば、今後取り組むべき課題も見えてきます。
このように、現状認識によって、事業計画の正確性が増していくのです。
まず自社の強みや弱みを分析することですが、より具体的にはSWOT分析と言って、
- 自社の強み(Strengths)
- 弱み(Weaknesses)
- 機会(Opportunities)
- 脅威(Threats)
という四つの観点から分析していきます。
この分析結果を、自社の属する環境と照らし合わせてみると、自社が業界内でどのような立ち位置にいるかをよく理解することができます。

物流は自社の商品の物的な流れを示すのに対し、商流では商的な流れを示すものです。
つまり、事業における受注や発注、出荷・在庫管理・販売管理などの取引関係の流れを表すものです。
簡単に言えばヒト・モノ・カネ・情報の流れを表しています。
これを確認することで、自社の商品やサービスがどのような取引を経て顧客に届き、自社の売上になっているのかを掴むことができます。
このような現状認識をもとに事業計画を立てるということは、あたかも現在地を知った上で、地図を見ながら目的地を目指すようなもので、堅実だと言えます。
現状認識によって自社の置かれている立ち位置を特定しなければ、事業計画を立てることはできないのです。
数値計画
数値計画とは、事業計画実施期間の貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書のことであり、事業計画の中核をなすものです。
長期ビジョンと現状認識とは異なり、数値計画では戦略を数値として表すものです。
事業計画に伴う様々な施策が数値に反映されています。
それだけに、銀行が事業計画を見る時には、数値計画によって事業計画の実現性を見ていきます。

これは、数値計画の定義が、「会社の具体的な戦略を財務数値化したもの」とされているからです。
数値計画を立てる際、損益計算書だけを作って貸借対照表を作らない会社も多いです。
しかし、資金調達をスムーズに進めるためには、そのようなやり方はマイナスです。
損益計算書だけの数値計画を見れば、銀行の担当者から、「貸借対照表を作成していないのは、資金繰りを管理できていないからではないのか?」と疑われることになります。
また、事業計画の実現性に乏しいと思われる可能性も高いです。
損益計算書を作って売上をアップさせる数値計画だけを提出すれば、銀行員からは、「売上アップのために頑張っていきますが、資金繰りは良くわかりません」と言っているように見られても仕方ないのです。
これでは、銀行が数値計画をプラスに捉えることはないでしょう。

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数値計画作成のために
数値計画を精密に立てていくためには、以下の数値を提出してください。
- 財務目標数値(財務計画のゴールを設定する)
- 数値計画の前提条件(達成のための前提となる施策その他)
- 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書
- 事業別損益計算書
- 得意先別の売上と利益
- 連結ベースでの数値計画(子会社がある場合)
これらの数値計画を立てるにあたっては、
- 見た目を飾る必要はない
- 数値計画と決算書の集計方法を一致させる
- 長期ビジョンに基づく施策を前提条件として数値計画を立てる
ということがポイントとなります。
見た目を飾る必要はない
これは、パワーポイントを使ったり、必要以上にグラフを使ったりして説明しようとすることです。
それをやってはならないわけではないのですが、このように見た目を飾る必要はないことを知っておきましょう。
パワーポイントは、書類の枚数が増えるためにたくさん説明したような気になるのですが、実際にはそれほど中身が伴わないことが多いです。
もしグラフを用いるならば、グラフの裏付けとなる数値も明記する必要があり、グラフが増えるほど数値計画が煩雑になってしまいます。

それを的確に伝えるためには、エクセルで説明するのが適しており、説得力もあります。
数値計画と決算書の集計方法を一致させる
数値計画と決算書で、集計方法が異なる場合がしばしばみられます。
しかし、集計方法が異なってしまうと、数値計画と決算書で勘定項目が異なるような現象が起きてしまい、説得力を失うことになります。
なぜならば、このような現象は、業績管理のための会計管理と、財務管理のソフトが異なることから起こってしまうからです。
数値計画では、会計管理のシステムの数値を用いることが多いのですが、決算書では経理担当者が財務会計ソフトを作ったり、顧問の税理士が作ったりすることから、集計方法の差異が出てくるのです。
銀行では、データベースに決算書の情報を登録しているため、資金調達の際に提出された数値計画と決算書の情報が違うことを非常に嫌います。
また、数値計画と決算書で異なるということは、社内でデータの統一がなされていない証拠にもなります。

つまり、社内の管理がずさんであり、そのような会社の作った数値計画は信用できないと思われて、融資審査に不利に働く可能性が高いのです。
長期ビジョンに基づく施策を前提条件として数値計画を立てる
達成可能な数値計画を立てることは非常に重要です。
しかし、経営環境が変化するなどして、会社の努力だけではどうにもならない事情によって、業績が悪化してしまう可能性があります。
数値計画を達成してこそ事業計画に意味があると考えると、多くの事業計画はたちまち信憑性の低いものとなってしまいます。
どんな素晴らしい企業でも、世界経済の変化や為替の変動、自然災害などによる経営環境の変化のために、数値計画を達成できないことがあるのです。
大切なのは、数値計画を必ず達成できるかどうかではなく、数値計画を達成させる覚悟があるかどうかということです。
つまり、必ず達成できなかったとしても、達成させるために合理的な施策を推進していく覚悟があることが重要なのです。
融資担当者から見て、「長期ビジョン達成のために具体的な施策が設けられており、それを推進できる覚悟も見られる。したがって、不可抗力によって経営環境が著しく悪化しない限り、数値計画の達成も可能であろう」と思われることが重要なのです。
このことから、数値計画を立てる際には、長期ビジョンに基づく施策を推進していくことを前提として、それを数値計画に落とし込むことがポイントであると言えます。

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行動計画
数値計画を立てたならば、行動計画を立てていきましょう。
行動計画まで立てたら、事業計画は完成となります。

現状認識と数値計画にはギャップがあって当然であす。
そのギャップを埋めるため、施策を推進するために具体的な方針をまとめていきます。
行動計画には、施策の目的と概要・推進の方法・実施期間・施策の効果・施策の可能性・施策推進の責任部署などを記載します。
これらが具体的であればあるほど、行動計画は実現性を帯びていきます。
行動計画に実現性があるということは、数値計画の実現性もあるということになります。
行動計画に実現性があってこそ、長期ビジョンに基づく施策を推進できるということです。
その施策が推進されていけば、数値計画の実現性も高まるからです。
以上のように、長期ビジョン、現状認識、数値計画、行動計画の四点をしっかりと盛り込み、資金調達に役立つ事業計画を作っていくことが大切です。
まとめ
本稿によって、銀行が納得する事業計画書が分かったと思います。
銀行の融資審査では、事業計画書を非常に重要視します。
したがって、資金調達がスムーズにいくかどうかは、事業計画書の説得力にあると言えます。
資金調達ルートは、会社にとっては生命線のようなものです。
それを確保するためにも、ぜひ銀行が好ましいと捉える事業計画書を作成し、資金繰りに活用してほしいと思います。