事業で苦労して稼いだ利益も、それが全て手元に残るわけではなく、銀行への返済や税金の支払いなどの必要があります。
特に、最終的に少しでも多くのお金を手元に残すためには、節税対策が必要です。
節税によく利用される方法の一つに保険があります。
しかし、節税のために加入したはずが、まったく節税の役に立っていなかったり、むしろ資金繰りを悪化させていることも多いものです。
本稿では、保険を節税に活かすための正しい知識をお伝えします。
保険の会計処理の基本
保険に加入して保険料を支払うと、その保険料の一部あるいは全額を損金として計上することができます(加入する保険に応じて計上できる損金が異なる)。
このため、保険は節税に良く利用されています。
しかし、保険に伴う益金・損金の会計処理を正しく理解していなければ、結果的に節税につながらないことも多く、むしろ資金繰りを悪化させるだけということも多いです。
そこで、まずはこの点について正しく理解しておく必要があります。
保険のタイプに応じて、計上できる損金は異なります。
全額損金タイプの保険ならば全額を損金として計上することができ、それ以外のタイプの保険(1/2損金タイプや1/3損金タイプなど)ならば、一部を損金として計上することが可能です。
この両者について、損金と益金の考え方を押さえていきましょう。
全額損金タイプ
全額損金タイプは、支払額を「支払保険料」として処理し、全額を損金とすることができます。
このため、支払い時は大きな節税効果が見込めます。
ただし、保険金を受け取ったときには、受取額を特別利益の「保険差益」として処理し、その全額を益金として計上する必要があります。
このため、全額損金タイプで返戻金などを受け取ったとき、その受取金に見合うだけの経費を計上しなければ、受取金額の全てが課税対象となり、税金が高くなります。
例えば、返戻率98%で返戻金を受け取ったとすれば、それまでに100%の損金を計上していたとしても、98%の返戻率で受け取った返戻金の全てが課税対象となります。

一部が損金となるタイプ
一部が損金となるタイプとして、ここでは1/2損金タイプを例にします。
1/2損金タイプでは、支払った保険料の1/2を損金として計上することができ、残る1/2は保険積立金として資産計上します。
保険金を受け取った際には、受取額から保険積立金相当額を差し引いたものを益金として計上します。
それまでに積み立てていた部分は、既に資産として計上しているため、益金に算入する必要はありません。
例えば、1/2損金タイプに加入しており、毎年1000万円の保険料を支払っていたとします。
5年間継続し、返戻率95%で4750万円の返戻金を受け取ったとすれば、それまでの保険積立金に相当する2500万円は益金にはならず、差額の2250万円を益金として処理します。


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保険の貯蓄性は高いか?
保険のタイプのうち、法人が好んで加入するのが全額損金タイプです。
これは、法人が保険に加入する理由の大部分が貯蓄性にあるためです。
全額損金タイプは、全額を損金として計上できるために節税効果が大きく、なおかつある程度の返戻率が期待できるため、貯蓄性があると思われることが多いです。
プランや支払時期にもよりますが、概ね50~90%程度の返戻率になっています。
ただし、貯蓄性という点を考えると、全額損金タイプの保険はそれほど優れたものとは言えません。
一般的に貯蓄と言えば、本来は資金をそのままプールしたり、若干の利子を期待して貯蓄するものだからです。
しかし保険は、返戻率が最も高くなるタイミングを考えても100%未満になるものですから、いくらか目減りすることを覚悟したうえでの貯蓄となります。
また、全額損金タイプは一般に割高です。
これは、全額損金タイプには保障が手厚くなっているものが多く、保障の手厚さに比例して保険料が高くなるからです。

このように考えると、保険に貯蓄性を期待するのはあまり好ましいことではありません。
資金計画を念入りにしないと保険で大損する
保険の貯蓄性を理解するためには、返戻率についてよく知る必要があります。
貯蓄性に目を向けて保険に加入するならば、解約時にできるだけ多くの返戻金を受け取れるように、返戻率の高いプランを組むべきです。
一般的に、全額損金タイプは1/2損金タイプなどの一部を損金にする保険と比べて、返戻率が低いのが普通です。
返戻率が100%に近ければ近いほど貯蓄性は高くなるため、そのような保険に加入すればいいと考える人も多いと思います。
しかし、ここで厄介になるのが、返戻率が期間によって異なることです。
貯蓄性が期待できる保険としては、逓増定期預金が良く知られています。
これは、保険の加入期間によって返戻率が異なる保険であり、加入期間が長くなるにつれて返戻率が高まり、やがて返戻率はピークとなり、それ以降は再び返戻率が下がっていくという保険です。
つまり、保険に加入したのち、短期間で解約すれば返戻率の低い状態で返戻金を受け取ることとなり、大損をすることになるのです。
このことから、保険に貯蓄性があるといっても、本当に貯蓄性が高いと言えるタイミングはごく限られていることが分かります。
そのタイミングをはずせば、積み立てた保険金を取り崩すことは難しく、保険による貯蓄は使い勝手が悪いものだと言えます。
むしろ、毎年一定額を支払わなければならないため、支払額が高額であるならば、支払いに苦労する可能性もあります。
このような場合、支払いを続ければ資金繰りが厳しく、しかし返戻率が低いために解約すれば大損になるという、「進むも地獄、退くも地獄」の状況に陥りかねません。

しかし、資金繰りが悪化したため、5年目には保険を解約してでも資金を調達しなければならなくなりました。
このタイミングでの返戻率が65%であったとすれば、5年目までに積み立てた5000万円の65%にあたる3250万円しか受け取ることができず、1750万円の損失となります。
このため、保険を節税に役立て、なおかつ返戻率による損失を出さないためには、返戻率が低いタイミングで解約しなくてもいいように、念入りな資金計画を立てた上で加入する必要があると言えます。
以上のことから、単に損金の計上だけを目的にしていると、大して貯蓄性が期待できず、さらに高額の保険料によって資金繰りが悪化することになります。
したがって、保険に加入する際には、
- 資金繰りを悪化させない範囲内でプランを組み、返戻率のピークで解約できるよう、資金計画を立てた上で加入すること
- 保障内容をしっかりと検討し、無駄に高額なプランに加入しないこと
が重要と言えます。

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保険の落とし穴「実質返戻率」に騙されない
ここまで、返戻率は100%を下回ることを前提に話を進めてきましたが、中には疑問に思っている人もいるかもしれません。
というのも、保険のセールスマンの営業トークや保険会社の資料によれば、返戻率が100%を超えるプランもあるとされているからです。
しかし、常識的に考えると、返戻率が100%を超えてしまうと保険会社が損をしてしまうので、100%を超えることはありません。
それでも、返戻率が100%を超えるとされているのは、保険会社や営業マンが数字に強引な解釈を加えることで、返戻率が100%を超える計算をしているからです。
このような強引な解釈によって、本来の返戻率よりもかなり高くなり、時に100%を超えてしまう返戻率のことを「実質返戻率」といいます。
実質返戻率とは、返戻金として受け取るお金だけではなく、経費として計上した金額を考慮した返戻率のことです。
つまり、保険会社の論理では、
「受け取れる返戻率は〇%ですが、返戻金を受け取るまで毎年経費に計上することで税金が安くなっています。この税金分を考慮すれば、実質的な返戻率はもっと高くなりますよ」
ということになります。
例えば、年間保険料が500万円の1/2損金タイプに加入したとしましょう。
返戻率が98%になる10年後に解約したとすれば、返戻金の額は4900万円、10年間で節税となったのは750万円(500万円×1/2×10年間×30%=750万円、法人税率は30%と仮定)であり、返戻金と節税額を足すと5650万円となることから、実質返戻率は113%にもなります。
しかし、このセールストークは詭弁であることが分かります。
なぜならば、返戻金を益金として計上し、税金が課せられることを考慮していないからです。
この例で益金を考慮すると、得られる返戻金4900万円から保険積立金に当る2500万円を差し引いた2400万円が課税対象となります。
法人税率が30%であれば720万円の納税が発生するのです。
このため、実質的な返戻率は98.6%((4900万円+750万円-720万円)÷5000万円=0.986)となり、返戻率が113%になることはありません。

したがって、保険の営業マンが実質返戻率は100%になるという説明をし、保険への加入を勧めてきた場合には、そのような話には乗らないことが大切です。

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業者選びのポイント
もちろん、保険に加入する際には、実質返戻率以外にも注意すべき点があります。
まず、保険の加入を検討する際には、業者選びが重要です。
保険業者は、契約を取ってこそ売上になるわけです。
保険業者間の競争も激しいことから、資料請求などを通して保険への興味を示すと、かなりしつこい勧誘を受ける場合もあります。
このため、保険商品の種類があまり多くない業者に依頼してしまうと、少ない商品の中からしつこい営業を受け、最良の選択ができないままに加入してしまう可能性があります。
そうならないためには、特定の保険会社の商品を取り扱っている業者よりも、複数の保険会社の商品を取り扱っている業者に依頼することが大切です。

また、高額の保険を勧めてくる業者にも注意が必要です。
トークスキルによって誘導し、必要以上に保障が手厚い、高額の保険を契約させようとしてくる可能性があります。
そのような営業トークに乗せられてしまうと、資金繰りを圧迫することになるので避けなければなりません。
営業トークに惑わされることなく、自社に必要な保険を必要なだけ加入し、その上で節税にも役立てていくと考えることが大切です。
出口戦略を考えて保険をかけよう
ここまで読んで、保険の使い方を間違えると、ほとんど節税にならなかったり、却って資金繰りを圧迫したりすることが分かったと思います。
では、保険を節税に活かすための、正しい利用方法とはどのようなものなのでしょうか。
保険を節税に活かしていくためには、出口戦略を考えておくことが重要です。
上記の通り、資金計画を念入りに立てることが大切ですが、その資金計画にしても、返戻率のピークは何年目であるか、そのタイミングで受け取った返戻金をどのように活用するか、といったことを考えなければ、計画の立てようがありません。

よくある出口戦略は大きな経費が予定されているタイミングで返戻金を受け取り、返戻金を以てその経費に充てることによって相殺するという方法です。
上記でも書いた通り、返戻金は益金として計上され、税金が課せられるため、長い目で見れば節税効果はありません。
しかし、出口戦略によって返戻金を経費に充てるならば、返戻金分の損金が生じ、税負担も発生しないというわけです。
このような出口戦略の例を挙げるならば、返戻金の受け取りと退職金の支払いのタイミングを合わせるという戦略があります。
保険積立金として積み立てられ、いずれ返戻金として戻ってくるタイミングに合わせて退職金を支払えば、返戻金と同等の経費が発生し、税負担を打ち消すことができます。
例えば、1/2損金タイプの保険を毎年500万円支払っておき、返戻率がピークの98%となる10年目に返戻金を受け取るとします。
この場合、年間支払いの半分に当たる250万円を毎年の損金として計上し、75万円(250万円×30%=75万円)の節税効果を得ることができます。

10年目に返戻率98%で4900万円の返戻金を受け取ると、そのうち保険積立金を差し引いた2400万円が課税対象となり、720万円(2400万円×30%=720万円)の税金が発生します。
しかし、このタイミングで同時に2400万円の退職金を支払うと、課税対象となった2400万円の保険金収入が相殺され、この部分での税負担はゼロとなります。
ただし、言い換えるならば、これは2400万円の退職金を用意するために、毎年500万円のキャッシュを減らしているということでもあります。
きちんとした資金計画がなければ、途中で資金繰りに困る可能性もあるため、その点には充分な注意が必要です。
利益に波がある会社での活用
出口戦略以外で保険を節税に役立てられるのは、利益に波がある会社です。
ほとんどの会社では、毎年一定した利益を上げられることはなく、いくらかの波があることと思います。
その波は業種によって異なりますが、ある年には赤字、ある年には黒字の繰り返しになることもあります。
それでも、税金は確実に発生します。黒字の年度には利益に応じた税金が課せられ、赤字の年度には税金はゼロとなります。
つまり、ある年に1000万円の利益が出たならば1000万円に対して税金が課せられ、その翌年の利益が0円ならば税金が課せられないわけですが、この2年間での平均利益である500万円に課税するという考え方はされず、あくまでも1年ごとに税金を計算します。
このことから、利益に波のある会社では、長期的な平均利益から見た税金よりも、実際に毎年課せられる税金の方が高くなります。

このような場合には、利益の多く出た年に設備投資などを行ったり、利益の減少が見込まれる翌期の経費を当期の経費として計上することで、各年度の利益を平均化して節税を図ります。
保険も、このような目的で利用することができます。
利益が多めに出た時に保険を購入し、利益が出なかった時に保険を取り崩して資金を調達するのです。
これをうまく利用すれば、赤字の年には保険金で特別利益を計上し、毎年黒字決算とすることができるため、金融機関への対策としても有効です。
もちろん、繰り返す通り保険には返戻率の問題があります。
このため、赤字決算になりそうだからといって解約しようとしても、返戻率が低くて解約が難しいということも考えられます。
したがって、このような方法が利用できるのは、利益に波がある会社で、なおかつその波のサイクルが一定しており、利益が少なくなるタイミングと返戻率が高まるタイミングを一致させられる会社に限られるでしょう。
利益の波が不安定な会社が備えとして利用したい場合にも、多額の保険を掛けることは避けるべきです。

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まとめ
節税に利用されることが多い保険ですが、正しく利用しなければ節税に役立てることはできません。
返戻金が課税対象となるため、何の対策もしなければ結局は節税につながりませんし、返戻率の低い時期に解約すれば大きな損失となります。
また、保険料の支払いそのものが資金繰りを圧迫する可能性もあります。
そのようなことにならないためにも、自社に最適な保険を選び、資金繰りに無理の生じない資金計画を立て、返戻金への対策も見込んだうえで保険をかける必要があります。
このような考え方を持たずに保険を契約しているならば、資金繰りに良くない影響を与えている可能性も高いので、その場合には保険を見直してみることをお勧めします。
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