本稿をお読みの皆さんは、電子記録債権という言葉をなんとなく聞いたことがあるでしょう。
しかし、あまり具体的なことは知らないため、疑問点を明らかにしたいとの思いからお読み頂いていると思います。
そこで、本稿ではその疑問を解明すべく、電子記録債権にありがちな質問に全部答えます。
電子記録債権Q&A
Q1、そもそも、電子記録債権ってなんですか?

従来の手形は、紙面に債権情報を書き込んだ上で流通していたのですが、電子記録債権は電子的に記録されているため、ペーパーレスで流通するという特徴があります。
また、電子的な記録によって発生や譲渡、決済などの情報が管理されているのも特徴です。
Q2、電子記録債権はどうして作られたの?
従来の手形や指名債権には、色々なデメリットがありました。
手形ならば、紙としての実態が存在しますから、盗難や紛失の恐れがあり、それに伴って保管コストもかかっていました。
指名債権は、譲渡の際にはその債権が「実際には存在しないリスクや二重譲渡されているリスク、またその帰属がどこにあるのか」を確認するために手間やコストがかかっていました。
このことによって、企業の資金調達が円滑に進みにくかったのです。


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Q3、電子記録債権は、手形や指名債権の情報を電子化したものってこと?
よくある勘違いですが、電子記録債権は手形や指名債権を電子化したものではありません。
電子記録債権の流通が始まってからも、手形や指名債権は従来の形のままで流通し続けています。

Q4、電子記録債権を利用するメリットってあるの?
そもそも、電子記録債権は、手形や指名債権に伴うデメリットを解消するために作られたものですから、様々なメリットがあります。
従来の手形は、紙媒体を使用していました。
そのため、書面の作成や交付、保管のためにはコストがかかりますし、紛失や盗難のリスクも常につきまといます。

まず、電子記録債権は電子データの送受信で発生や譲渡を行うものですから、作成や交付のための事務負担が大幅に軽減されます。
また、手形では額面金額に応じて印紙税がかかりますが、電子記録債権は非課税であるため、印紙代がかかりません。
また、電子記録債権は電子債権記録機関の記録原簿において、電子データで管理するものですから、紛失や盗難のリスクはゼロになり、同時に管理のためのコスト負担も削減されます。
さらに、従来の手形は額面の分割が不可能でしたが、電子記録債権では分割が可能となっているため、資金効率の向上にも役立ちます。
次に、従来の指名債権との比較ですが、指名債権は譲渡の際に手形の不存在や二重譲渡のリスクがありました。
しかし、電子記録債権は電子データで確実に記録されているものですから、債権の存在や帰属が明確化されており、可視化もされているため確認が容易です。
また、指名債権では債権譲渡を債務者に対抗するためには、債務者にに通知の必要がありましたが、電子記録債権を譲渡する際には債務者への通知が不要となっています。

Q5、電子記録債権って誰でも使えるの?
電子記録債権を利用できるのは、法人、個人事業主、地方公共団体のいずれかに限られます。
このほか、日本国内に居住していること、反社会的勢力に属していないなど、適合性に問題がないことも求められます。

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Q6、電子記録債権には色々あるって聞きましたが?
そのとおりです。
下の表の通り、現時点で電子債権記録機関には4種類あります。
運営主体 | 全国銀行協会 | 三菱東京UFJ銀行 | 三井住友銀行 | みずほ銀行 |
サービス名 | でんさいネット | 電手決済サービス | 支払手形削減サービス | 電子債権決済サービス |
通称 | でんさい | 電手 | なし | 電ペイ |
参加金融機関 | 全国1400の金融機関 | 三菱東京UFJ銀行 | 三井住友銀行 | みずほ銀行 |
このうち、最もよく聞くのが「でんさい」でしょう。
でんさいは、全国銀行協会が提供するでんさいネットで流通する電子記録債権で、全国の銀行で利用することができます。
三菱東京UFJ銀行の電手、三井住友銀行の電子記録債権、みずほ銀行の電ペイは、それぞれの銀行以外の金融機関では利用することができません。
つまり、これらのメガバンクの提供する電子記録債権は、いわばそれぞれのメガバンクが、大企業を対象として、顧客の囲い込みのために作ったものです。
あるいは、これらのメガバンクにはグループ企業も多いものですから、グループ企業間での取引を円滑にするという目的もあります。
これらの電子記録債権はそれぞれ異なり、互換性はありません。
そのため、でんさいの利用環境があるからといって、電手を利用することはできないのです。

参加金融機関が非常に多いため、それだけにでんさいネットを利用する企業も多く、流通性が高いからです。
Q7、電子記録債権はどうやったら使えるようになる?
電子記録債権を利用するためには、まずは複数ある電子債権記録機関のうち、どれを利用するかを決めることから始まります。

でんさいを利用したいと考えた場合、電子債権記録機関と企業をつなぐのは銀行ですから、銀行に利用申し込みをする必要があります。
次に、履歴事項全部証明書などの資料を提出し、登録を行います。
利用が認められれば、その旨の報告を銀行から受け、利用者番号を受け取ります。
その後、銀行のでんさいネットのWebページにアクセスして利用者番号を確認すれば、利用開始が可能となります。
これをまとめると、以下のような流れです。
- でんさいネットに参加している金融機関に、申込書を提出する
- 求められた書類を提出し、登録を申請する
- 登録が認められると、金融機関から「でんさいネットサービスご利用開始のお知らせ」と「利用者番号」が送付される
- 金融機関のでんさいネットのWebページににアクセスしてログインし、利用者番号を確認する
- 利用開始
通常、この手続きに3週間程度を要します。
Q8、電子記録債権の利用の流れを教えてください。
電子記録債権を利用する流れは、以下の通りです。
- A社からB社に商品の販売が行われ、電子記録債権での支払いとする。
- 支払い企業であるA社と納入企業であるB社の双方は、それぞれの取引銀行に電子記録債権の発生記録を請求する。
- 銀行は、電子債権記録機関に発生記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には債権情報が記録され、「債権者:B社、債務者:A社」の電子記録債権が発生する。
- A社は、支払い期日までに取引銀行の口座に代金を振り込んでおく。
支払い期日になると、A社の取引銀行からB社の取引銀行へと送金が自動的に行われる(口座間送金決済)。 - A社の取引銀行は、電子債権記録機関に対して支払等記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には支払い完了の記録がなされ、電子記録債権は消滅する。
以上が、電子記録債権の利用の流れです。
ちなみに、譲渡を行う場合には、
- (上に同じ)
- (上に同じ)
- (上に同じ)
- B社がC社に対して電子記録債権の譲渡を行う場合、譲渡人であるB社と譲受人であるC社の双方は、それぞれの取引銀行に電子記録債権の譲渡記録を請求する。
- 銀行は、電子債権記録機関に譲渡記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には債権情報が記録され、「債権者:C社、債務者:A社」の電子記録債権に変更される。
- A社は、支払い期日までに取引銀行の口座に代金を振り込んでおく。
支払い期日になると、A社の取引銀行からC社の取引銀行へと送金が自動的に行われる。 - A社の取引銀行は、電子債権記録機関に対して支払等記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には支払い完了の記録がなされ、電子記録債権は消滅する。
という流れで行われます。
債権の発生から決済までの流れは、従来の手形の決済とイメージが似ています。

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Q9、電子記録債権の割引ってどうやるの?
電子記録債権は割引が可能であり、企業の資金繰りに役立ちます。
また、上記の通り、従来の手形は分割して利用できなかったのに対し、電子記録債権は分割が可能となっています。
つまり、従来の手形では、額面が1000万円であったならば、割引の際には1000万円をそのまま割引しなければならず、それ以下の金額だけを割引したい場合に不便でした。
しかし、電子記録債権では分割が可能となっています。
例えば1000万円の債権のうち、500万円だけを割引して資金化し、残る500万円は支払期日まで待って満額受け取るという利用が可能となりました。
電子記録債権の割引は、以下のような流れで行われます。
- A社からB社に商品の販売が行われ、電子記録債権での支払いとする。
- 支払い企業であるA社と納入企業であるB社の双方は、それぞれの取引銀行に電子記録債権の発生記録を請求する。
- 銀行は、電子債権記録機関に発生記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には債権情報が記録され、「債権者:B社、債務者:A社」の電子記録債権が発生する。
- B社が、支払期日より前に電子記録債権の割引をしたいと考えた場合、B社は取引銀行に割引の依頼を行う。
依頼を受けた銀行は審査を行い、割引可能であれば電子債権記録機関に対して譲渡記録を請求する。 - 電子債権記録機関の記録原簿には債権情報が記録され、「債権者:取引銀行、債務者:A社」の電子記録債権に変更される。
取引銀行からB社に、資金が提供される。 - A社は、支払い期日までに取引銀行の口座に代金を振り込んでおく。
支払い期日になると、A社の取引銀行からB社の取引銀行へと送金が自動的に行われる。
電子記録債権の全額を割引しているならば、送金された代金は全てB社の取引銀行のものとなる。
一部だけを割引しているならば、割引したものは取引銀行となり、それを差し引いたものがB社に支払われる。 - A社の取引銀行は、電子債権記録機関に対して支払等記録を請求し、電子債権記録機関の記録原簿には支払い完了の記録がなされ、電子記録債権は消滅する。
この流れを見ればわかる通り、従来の手形における手形割引と似た流れで行われると思えば、分かりやすいでしょう。
Q10、電子記録債権を利用した場合の仕分けはどうなるの?
電子記録債権の仕分けは、手形債権に準じた取り扱いになります。
A社がB社から100万円の商品を購入したとして、債務者と債権者それぞれの仕分け例を具体的に見てみましょう。
○債務者側の仕分け例
借方 | 貸方 | |
100万円の商品をB社から仕入れ | 商品 1,000,000 | 買掛金 1,000,000 |
発生記録によって電子記録債権による支払が成立 | 買掛金 1,000,000 | 電子記録債務 1,000,000 |
支払期日に口座間送金決済 | 電子記録債務 1,000,000 | 現金 1,000,000 |
○債権者側の仕分け例
借方 | 貸方 | |
100万円の商品をA社に販売 | 売掛金 1,000,000 | 商品 1,000,000 |
電子記録債権の受け取り | 電子記録債権 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
支払期日に口座間送金決済 | 現金 1,000,000 | 電子記録債権 1,000,000 |
もちろん、実際の会計処理については公認会計士や税理士に依頼するようにしてください。

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Q11、電子記録債権は安全なの?
安全です。もちろん、データベース上での管理であるため、ハッキングなどの被害を受ける確率はゼロではありません。
しかし、電子債権記録機関は主務大臣の認可によって営業をしており、主務大臣は「電子債権記録業務を問題なく、確実に遂行できる能力があること」を条件として認可を下しています。
だからこそ、全国銀行協会という巨大なネットワークや、三菱東京UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行といったメガバンクしか、電子債権記録機関として営業することができないのです。
また、電子債権記録機関が確実に業務を行うため、業務に支障をきたすあらゆることが禁止されています。
主務大臣の監督ぶりは徹底しており、電子債権記録機関はもはや国の機関といっても良いくらいに統制されている機関です。

被害が起きる可能性はゼロではないものの、従来の手形や指名債権から被害が発生する可能性と比較すれば、極めて安全と言って良いでしょう。