経営者の皆さんは、現金の重要性をどのように認識しているでしょうか。
現金は資金繰りに欠かせないものであり、成功する企業ほど現金を意識した経営をしているものです。
現金と他の資産の重要性をどのように認識しているかによって、経営の成否は大きく左右されるといっても過言ではありません。
そこで本稿では、経営の明暗を分ける「キャッシュ・イズ・キング」の考え方について解説していきます。
中小企業の成功とは?
当サイトを見ている人の中には、実際に会社を経営している人も多いと思います。
自分で起業した人もいれば、後を継いだ人もいると思いますが、誰もが等しく会社を成功させたいと思っていることでしょう。
では、中小企業における「成功」とは、どのようなことをいうのでしょうか。
会社の成功のバロメーターは年商で表すことが多いのですが、中小企業の成功は年商3億円、5億円、10億円を目安とすることが多いです。
もちろん、この年商に達することが容易ではないからこそ、この年商をもって「成功」というわけです。
実際、年商10億円を超える会社がどれくらいあるかといえば、中小企業庁の調査データによると、全体の2%程度とされています。
ひとつランクを下げて年商5億円を見てみても、そのラインを超える中小企業はわずか5%程度です。
このような狭き門を潜り抜け、年商5億円あるいは10億円の壁を超えて成功に至るためには、経営者が資金繰りにたけているかどうかが重要なポイントとなります。
はっきり言って、資金繰りができない経営者が率いている会社では、年商5億円、10億円と超えていくことはほぼ不可能です。
年商が増えていくということは業容が拡大していくということです。
その会社は経営者一人ではとても回していけるものではなくなるため、優秀な人材が役割分担をして経営を回していく必要があります。
スタートアップ時には、経営者自身がカバーする範囲は広いものですが、会社が大きくなるにつれて、経営者の主な仕事はマネジメントになっていくのです。
社員たちがそれぞれ思う存分に能力を発揮していけるためにも、資金面で問題が起こらないように資金を調達します。
効率的で計画的な資金繰りをしていける経営者でなければ、会社の成功はとてもおぼつかないのです。
成功する会社は一握りですが、そこに仲間入りできるかどうかということは、経営者の資金繰りにかかっているといえるのです。
ファクタリングについての記事はこちら
成功している経営者ほどお金にシビア
年商が3億円、5億円、10億円と伸びていく、成功している会社の経営者は、資金繰りをしっかりコントロールしているものです。
起業後間もないころには、まだ年商もそれほど多くなく、資金繰りも複雑にはなりにくいです。
資金繰りを無視していいわけではありませんが、資金繰りはそこそこにしておいても、基本的にはエネルギッシュに立ち回ることによって、遮二無二業績を伸ばしていくスタートアップ企業は多いものです。
このため、スタートアップ期に勢いよく成長している会社は、その時点ではあまり差がなく、どの会社も将来有望に見えます。
しかし、上記の通り、業容が徐々に拡大していくにつれて、徐々に差が出てきます。
経営者自身ではなく社員が第一線で戦うようになると、経営者の主な仕事は資金繰りを中心としたマネジメントにシフトします。
この時、経営者が数字にシビアになって資金繰りを回していくならば、お金に困って足踏みすることがなく、スタートアップ後の余勢を駆って成長を続けていくことができます。
一方、経営者の数字への意識が低く、スタートアップ期と同じ感覚で大雑把に切り盛りしている会社は、資金繰りが苦しくなって成長が止まってしまいます。
売上が伸びるにつれて増加する運転資金の需要に耐えられなかったり、銀行交渉がうまくいかずに投資がスムーズにできなかったり、資金不足に陥って業容の縮小を迫られたりしてしまうのです。
中には、
「お金にこだわらずとも一生懸命に働いていれば、経営はうまくいく」
と考える経営者も多いものです。
しかし、そのような考え方ではお金の流れや利益の使いどころをしっかりコントロールしていくことができません。
一生懸命に働いて利益が出るところまではうまくいっても、その先がうまくいかず、経営もうまくいかないということになります。
業容が大きくなるにつれて資金繰りの重要性は高まっていくのです。
経営者としての「一生懸命な働き」とは、資金繰りをしっかりやっていくこと抜きにはあり得ません。
お金の流れをしっかりとコントロールする仕組みをきちんとつくっているからこそ、一生懸命に働いて利益を得て、なおかつしっかりキャッシュが回っていくのです。
「一生懸命にやれば経営はうまくいく」
という考え方は、例えるならば
「一生懸命に祈っていれば必ず幸福になる」
という希望的観測と何ら変わりません。
経営がうまくいくための資金繰りをしっかりやって、なおかつ一生懸命に取り組むことで経営はうまくいくのであり、幸福になるための努力を払って、なおかつ祈りを込めて敬虔に生きることで幸福になるのです。
キャッシュフロー経営はなぜ大切?
これまでにも何度か出てきた
「お金の流れ」は
「キャッシュフロー」
とも呼ばれ、事業のおけるお金の動きのことです。
堅実な経営に必要な要素として、よく「キャッシュフロー経営が大切」などと言われます。
これは「お金の流れを意識した経営が大切」という意味にほかなりません。
では、どうしてお金の流れを意識した経営が大切なのかといえば、これは単純な話で、経営における資金の重要性が非常に高いからです。
そもそも、会社というものは組織的に事業を展開するための仕組みであり、事業は資金を運用して利益を得る活動を指しています。
資金の運用の良し悪しによって、事業の成績も左右されるのですから、お金の流れはきちんと把握しておく必要があります。
「勘定合って銭足らず」
という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは
「帳簿では儲かっているのにお金が足りない」
ということであり、帳簿ではしっかり売上も計上されているのに、支払いや返済のためのお金が手元に不足している状態をいいます。
勘定合って銭足らずの状態になったとき、売上の回収が間近に迫っているならば、取引先や銀行への支払いを少しだけ待ってもらうように交渉することもできるでしょう。
しかし、税金は納税の時期が決まっていますから、もう間もなく回収されるから少しだけ待ってもらおうと思っても、そう簡単にはいきません。
利益が出ているからこそ課税されているのですから、その利益(自己資金)から払えばいいでしょうというのが税務署の理屈です。
税金の未納があれば、本来会社が受けられる公的な援助も受けられなくなることが多いです。
銀行融資にも大きなマイナスになってしまうため、大きなハンデを背負うことにもなりかねません。
そうならないためにも、会社に入ってくるお金と出ていくお金をしっかりと把握します。
そして、出ていくお金を入ってくるお金の範囲内にできるだけ収め、手元資金が不足しない状態を作っていく必要があります。
成功する会社への第一歩は・・・
成功する会社に近づくためには、資金繰りの安定が必要不可欠な要素であり、現時点で資金繰りに不安がある会社は、資金繰り改善に取り組むことが急務となります。
しかし、
- 資金繰りを改善しよう
- キャッシュフロー経営を心掛けよう
- そしてお金で悩まされないようにしよう
などと言うのは簡単ですが、具体的に何から手を付けて、どう進めていいのかわからない人も多いはずです。
ここまで書いてきた通り、資金繰りにしろキャッシュフロー経営にしろ、事業のためにお金がいろいろに動くことをコントロールしていくものです。
その動かすお金、つまり手元の現金に注目することでシンプルな見方ができるようになります。
資金状況を把握しているか?
会社が持っているキャッシュくらい、改めてチェックするまでもなく、だいたいわかっていると思う人も多いと思います。
しかし、わかっているつもりでも正しく把握できないケースは意外なほどに多いのです。
創業間もないころならばまだしも、ある程度経営を進めてきた会社ならば、すべてを一つの銀行の一つの口座に集中させていないはずです。
取引する金融機関が増えれば、
- うちで定期預金を作ってください
- 当行で海外送金を使っていただきたい
- ぜひ売掛金の入金に使ってほしいのですが・・・
などと持ち掛けられることも多く、複数の銀行の複数の口座に資金が分散するのが普通です。
これらは、正確に把握していて当然のものではあるのですが、ぼんやりと把握しているだけということも多く、
「これくらいの支払いならばなんとかなりそうだ」
と考えていたら全然足りなかったというようなことも実際に起こっています。
イメージの中のキャッシュと現実のキャッシュの食い違いを正しておくことが第一歩となります。
お金の流れを把握する
もっとも、手元資金の総額を計算して把握すれば資金繰りが改善して成功する会社の仲間入り、というような簡単な話ではありません。
手元資金の総額を計算した理由は、会社のお金の流れを把握して資金繰りに役立てるためであり、その前提となる資金状況を確認しただけのことです。
確認した資金状況を資金繰りに生かしていくためには、その資金が毎日どのように動いているかをチェックする必要があります。
そこに至ってようやく成功へのスタートラインに立ったといえます。
多くの会社がお金の流れを把握できておらず、起業後10年以内に90%もの会社が倒産していくのです。
このことからもキャッシュフロー経営が一筋縄ではいかないことがわかります。
それをうまく把握していくためには、以下の流れで進めていくのがセオリーです。
1、わかりやすい流れから考える
お金の流れの中でも、まずはわかりやすい流れから把握していくのがよいでしょう。
流れが分かりやすいものと分かりにくいものが混在している状況で考えると、混乱してしまいやすいので、まずはわかりやすいものから優先的に把握していきます。
- 税金や社員の給料
- 借り入れの返済
- 事務所の賃料
など、支払期日が決まっているものについては、流れを把握しやすいと思います。
このような、基本的に固定されている費用は、経営を続けていくために必ず必要な支払いであり、少なくともこの費用を賄えるだけの資金が常時必要となります。
2、わかりにくいものを考えていく
次に、わかりにくいものを考えていくわけですが、わかりにくいものとは現金として入ってきたり、出ていったりするタイミングが一定していないものです。
売掛金や買掛金がその代表的な例で、取引先との契約によって期日が複数に分散しているような場合には、お金の流れが把握しにくくなります。
しかし、わかりにくいとは言っても、それらの発生のタイミングは契約内容から明らかなのですから、丁寧に見ていけば流れはわかります。
資金繰り予定表とは、今後の資金繰り計画を記載する表のことです。
売掛金の回収や買掛金の支払いをはじめとしたお金の流れを表に書き込んでいくことによって、会社のお金の流れと、その流れを踏まえた手元資金の状況が詳しくわかります。
頭の中だけで把握しようとしたり、体系化されていないまとめ方で把握しようとしたりしても無理があります。
ですから、資金繰り表を使ってお金の流れを把握していきましょう。
資金状況について何の整理もしていなかった時、お金の流れは靄がかかったようにわかりにくいと感じていたはずです。
しかし、このように整理してしまえば、
お金の流れが非常にクリアに見えるようになり、資金繰りを改善していく余地もたくさん見出せるようになります。
資金繰り改善の準備がかなり整ったといえますが、次にどこに手を付けるのかと言えば、ずばり
「流れが分かりにくいものを、できるだけ分かりやすくする」
ということです。
3、分かりにくいものを分かりやすくする
流れが分かりにくいもの代表的は売掛金や買掛金などであり、分かりにくい理由は
- 期日が一定していない
- 予定していた期日が狂うことがある
という性質があるからです。
例えば、取引契約の際に支払期日を取引先の要求通りにしていたところ、
- A社は毎月15日
- B社は毎月20日
- C社は毎月末
として契約していれば、支払期日が複数に分かれて資金の流れが無駄に複雑になります。
また、売掛金の回収についても、取引先の希望する支払い条件をそのまま呑んでいれば、売上の入金が複雑になってしまい、請求漏れが起こる可能性が高まります。
このように複雑になるのは、「取引先の希望もあることだから、しょうがない」と考えている人もいるかもしれませんが 、それは違います。
「月末締め、翌月末払い」など一定の条件にそろえるように交渉することが大切なんだ。
そのように交渉すれば、応じてくれる取引先は案外多いものですから、なにも交渉しない場合に比べて、確実にお金の流れはシンプルになります。
このような改善を図ることによって、お金の流れを把握しやすくなるのです。
以上のように、
- 会社の資金状況を確認する
- 定期的なお金の流れを確認する
- 不定期的なお金の流れを確認する
- 流れの把握を簡単になるようにしていく
と進めていけば、お金の流れはかなりわかりやすくなります。
取りこぼしを防ぐ
上記のように整理してみると、それなりに整理していたつもりでも、まったく整理できていなかったことに気づくケースが少なくありません。
単に整理してお金の流れをクリアにしていき、さらに流れがもっとわかりやすくなるように工夫していくと、処理に困るものも出てくると思います。
売掛金は、帳簿では資産として計上されていますが、実際の現金とは性質が明らかに異なるため、しっかり把握しておかなければ資金繰り改善はおぼつきません。
しかし、売掛金の把握を進めていくと、すでに回収期日が来ている売掛金が見つかることがあります。
つまり、お金の流れが見えにくくなっており、与信管理がうまくいかなかったことによって、取引先に請求できるものを請求していない「請求漏れ」が起こっているのです。
取引先に対し、契約通りの期日に支払ってもらうために請求書を送付することは売手の仕事です。
請求書を送り忘れてしまうということは、取引先に「約束の期日ですから払ってください」と伝えないのと同じことです。
ですから、取引先が期日通りに支払わなかったとしても、責任を問うことはできません。
むしろ、取引先も資金繰りが厳しかった場合には、請求が忘れられていることを幸いに、すっぽかそうとすることもあるでしょう。
また、期日通りに請求しないことが多いと、与信管理がずさんであるというイメージが定着し、
「あの会社は支払いに遅れてもうるさいことは言わない」
と思われ、支払いを後回しにされる可能性も出てきます。
したがって、会社の資金繰りを整理する中で、現金になっているはずなのになっていない「眠っている資産」を特定した際には、早急に現金に換えていく必要があります。
そんなものがあれば、とっくに現金化していると思う経営者も多いと思いますが、与信管理がずさんな会社では売掛金の請求漏れが起こる可能性が十分にあるので、油断は禁物です。
請求漏れが資金繰りを圧迫する
回収できるものを放置している会社では、資金繰りはいつまでも改善されないでしょう。
入ってくるべきものが入ってこなければ、資金繰りが苦しくなるのは言うまでもないことですが、数字によって考えるともっと具体的にわかります。
利益率10%の会社では、100万円の売掛金が発生したとき、同時に90万円の経費を負担していることになります。
100万円の売掛金が発生する前提とします。
仕入代金や人件費やいろいろな経費が先行しており、この100万円を回収したときにはじめて経費がペイされ、10万円の利益が確保できます。
10万円の利益のために90万円の経費を負担して100万円の売掛金を得たものの、請求漏れによって回収できていなければ、いつまでたっても利益は確保されません。
利益率が10%ですから、この90万円の損失をカバーするためには900万円の売上が必要となり、その売上のためには810万円の経費が掛かります。
このように考えていくと、少額の請求漏れも決して無視できないものだとわかるでしょう。
請求漏れが起きているようなずさんな会社が、年商3億円、5億円、10億円と成長していくことは不可能なのです。
キッシュ・イズ・キング!
会社のキャッシュに注目する癖をつけていない人は、資産全体をなんとなく眺めてしまうことが多いものです。
キャッシュが少なく危険な状況でも、売掛金や棚卸資産が多いのを見て安心してしまうことがあります。
現金が少なくても、いずれ現金になる売掛金や在庫がたくさんあるから、経営は安定していると考えるわけです。
実際には、その売掛金には回収漏れや回収不能のものも含まれている可能性があり、100%予定通りに回収できる保証はどこにもありません。
また、在庫も100%計画通りに売れる保証はなく、需給の変化によって売れなくなる可能性もあります。
しかし、資金繰りを回していくために重要なのは現金ですから、現金だけに注目する癖をつけるために、まずは貸借対照表の「現金および預金」の欄だけに注目するようにしてみてください。
資金繰り、キャッシュフロー経営の観点からみれば、
「キャッシュ・イズ・キング」
が真理なのです。
キャッシュ・イズ・キングなワケ(1)
売掛金や在庫といった「現金および預金」以外の資産は、
「あくまでも現金ではない」
とみなし、
「資産ではあるが、現金よりも劣ったもの」
とみなすべきです。
すなわち、
- 現金→今すぐ資金繰りに活用できる資産
- 売掛金→回収期日に予定通り回収できて初めて資金繰りに活用できる資産
- 在庫→営業活動によって販売し、発生した売掛金を回収期日に予定通り回収できて初めて資金繰りに活用できる資産
というように、使い勝手の面で明らかな優劣があるのです。
実際には、売掛金はファクタリングによって現金化したり、受取手形を手形割引によって現金化したりすることで、回収を待たずに活用できる場合もあります。
しかし、そのような資金調達には手数料や手間や信用リスクなどもあることを考えると、これらの資産は明らかに、
現金>売掛金>在庫
と優劣をつけることができます。
キャッシュ・イズ・キングなワケ(2)
また、在庫と売掛金を資金効率の観点から考えてみても、現金が最も優れていることが分かります。
在庫と資金効率
在庫は、現金によって商品や原料などを仕入れることで会社の資産となります。
言い換えるならば
1、流動性の高い現金を、流動性の低い在庫に置き換える
ということです。
最も使い勝手の良い現金を、売れなければどうしようもない在庫に置き換えているのですから、スムーズに売れる場合でも、資金効率が悪いことには間違いありません。
さらに、スムーズに売れなかった場合には、商品が劣化したり、需要が変化したりすることによって、在庫処分に困ることもあります。
売れない在庫のために管理コストもかさみ、結局は採算割れの値引き販売をしたり、完全に破棄したりすることもあり、その場合には、
1、流動性の高い現金を、流動性の低い在庫に置き換える
2、在庫から赤字に置き換わる
ということになります。
現金として持っていれば、いつでも活用可能で価値の目減りもほとんどなかったものが、在庫に置き換えたことによって、最終的には赤字を生んでしまうのです。
売掛金と資金効率
売掛金は、現金を使って仕入れた在庫を販売し、取引先に一定の支払い猶予を与えるために発生するものです。
取引先が支払うまで自社が立て替えているとも言えます。
つまり、
- 流動性の高い現金を、流動性の低い商品に置き換える
- 様々なコストを投じて販売し、取引先からの支払いを自社で立て替える
- 在庫が売掛金へと置き換わる
という流れです。
在庫から売掛金に置き換わったことで、現金に一歩近づいたことは事実です。
その場合には、売掛金のもととなった在庫の仕入代金、販売までにかかった諸コストはすべて損失となり、
- 流動性の高い現金を、流動性の低い商品に置き換える
- 様々なコストを投じて販売し、取引先からの支払いを自社で立て替える
- 在庫が売掛金へと置き換わる
- 売掛金が赤字に置き換わる
となります。
貸し倒れという結末を迎えた場合、在庫だけで見た場合よりも損失は大きくなります。
現金で持ち続けた場合と比較すれば、売掛金の劣っていることがよくわかるでしょう。
仕方なくやっているだけ
すべて現金で完結する事業であれば、現金をわざわざ在庫や売掛金などに置き換える必要はなく、資金効率を悪化させることもありません。
現金として持っていれば、それが赤字をもたらすことはないのに、在庫や売掛金に置き換えることによって、いろいろなリスクを抱えているのです。
なんともバカげたお金の使い方ですが、事業の仕組みとしては避けられないからこそ、あえてこのような非効率なお金の使い方をしているだけです。
もし在庫を抱えずに商売が成り立つならば、そうするに越したことはないのです。
在庫を抱えることなく商売が成り立ち、さらに取引はすべて現金で行うことができれば、在庫と売掛金を抱えることはなくなります。
資金繰りは非常にラクになるでしょう。
ですが、それでも「キャッシュ・イズ・キング」であることを念頭に置き、できるだけ現金を増やす努力が必要となります。
つまり、この考えに基づいて資金の流れを把握していくと、資金効率の観点からも考えられるようになります。
そして、実際に現金を増やしていくために、以下のような取り組みもよく理解できることと思います。
売掛金を減らす
まず、現金に劣る売掛金が、できるだけ大きくならないように気を付けておくことが大切です。
売掛金が多いということは、取引先の支払いを肩代わりしている額が多いということです。
ひとつ、例を見てみましょう。
ある年の4月、200万円の現金のうち100万円を在庫に変えます。
それを販売して200万円の売掛金になった場合、流動資産は
- 現金100万円
- 売掛金200万円
となります。
代金受け取りを翌々月の末とした場合、これが、
- 現金300万円
- 売掛金0万円
となるのは6月末のことです。
しかし、同じ条件で販売した売掛金の支払い期日を翌月末としたならば、5月末時点で
- 現金300万円
- 売掛金0万円
となることが分かります。
このように、代金の支払い期限をできるだけ前倒しに設定しておくことによって、流動性の低い売掛金に置き換わってしまう時間をできるだけ短くします。
もちろん、最良の取引はすべて現金で取引することで、そうすれば売掛金に置き換わる期間がありません。
しかし、ほとんどの取引は売掛なしには成立しませんから、単価を少し引き下げるかわりに一部だけ現金で支払ってもらうなどの交渉も考えていく必要があります。
もっとも、取引先の立場もありますから、少なくとも自社が不利にならないように、そしてできるだけ有利になるように条件を設定するように考えます。
また、これはあくまでも、きちんと条件通りに回収してこそ成り立つ考え方です。
ですから、与信管理はしっかりと行い、請求漏れを防ぐのはもちろんのこと、回収遅れや貸し倒れの発生はできるだけゼロに近づけていく努力も必要です。
在庫を減らす
在庫は、売掛金以上に流動性が低い資産ですから、かなり念入りに対策していく必要があります。
まず、在庫のままの状態では資金繰りに悪影響になるばかりですから、仕入計画を販売計画としっかり連動させ、余分な在庫をできるだけ抱えないようにしなければなりません。
過剰在庫は、価値が大きく減ったり、価値がなくなったりして不良在庫になることもあります。
在庫スペースや管理に当たる人件費などを浪費することにもつながるため、早急な処分と対応が必要です。
中には、
「ギリギリの在庫で回していけば、いざ注文が入ったときに対応できず、販売のチャンスを逃してしまう」
と考える人もいると思います。
たしかに、機会の損失はできるだけ避けるべきですが、「いざという時のチャンス」は頻繁に起こるものではないです。
それよりも、「いざという時のチャンス」に期待せずに適正在庫を保ち、安定した資金繰りの中で仕入れルートの開拓などを進めていきます。
いざ販売計画を上回って在庫不足になったときにすぐに対応できるようにしておくほうがよほど効率的です。
このようなことに留意していれば、在庫を圧縮することは可能であり、圧縮した分だけ現金を増やすことができます。
他の資産も同様に考える
ここまで、売掛金や在庫に焦点を当てて解説しましたが、他の資産についても基本的には同じように考えます。
それらの資産も、事業に必要だからこそ現金を投じて取得した資産であり、現金より優れているとは言えない資産です。
有価証券や固定資産といった資産も、その必要性について深く考えてみると、積極的に保有する必要がないものが非常に多いのです。
特に固定資産は、事業に不可欠なものを除けば、税金や管理費用などのロスばかりが発生していることがかなりあります。
増やした現金の動かし方
最後に忘れてはならないのが、ここまでの方法によって増やした現金の動かし方です。
手元資金をできるだけ多い状態に保つことを考えるならば、
- 現金はできるだけ多く、できるだけ早く増やす
さらに
- できるだけ少なく、できるだけ遅く減らす
ことが大切です。
すでに解説した通り、現金をできるだけ早く増やすためには、売掛金の支払い期限を短く設定することで、売掛金として留まっている期間を短くすることが大切です。
同じように考えると、現金をできるだけ遅く減らすためには、買掛金の支払い期限を長く設定し、買掛金として留まっている期間を長くすることも重要です。
買掛金の支払いが1か月後、売掛金の回収が2か月後であれば、売掛金の回収より先に買掛金を支払わなければなりません。
しかし、
- 買掛金の支払いが2か月後
- 売掛金の回収も2か月後
であれば、回収した売掛金によって買掛金を支払うことができ、手元資金を減らす必要はなくなります。
もっと言えば、買掛金の支払いが2か月後、売掛金の回収が1か月後ならば、回収した売掛金が現金として1か月間留まるわけですから、資金繰りにもかなりの余裕が出てきます。
実際には、支払のほうが先行することが多いのですが、支払いと入金のギャップを少しでも短くすることによって、会社の現金を減らすスピードを遅くすることができ、資金繰りを改善していくことが可能です。
まとめ
本稿を読んで、資金繰りにおける現金の重要性がよく理解できたことと思います。
資金の流れをしっかり分析していくと、最も重要な現金の動きをコントロールしていくことができます。
そして、改善に取り組むことによって資金繰りはよくなり、会社の安全性も高まります。
成功する会社は、例外なくこのような取り組みを行っています。
資金繰りをしっかりと把握し、キャッシュフロー経営を心掛け、そのために現金の重要性を常に意識して経営しているのです。
これを意識することで、将来的に会社が成功する確率は高まりますし、倒産に至る確率は低くなることでしょう。
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