日本政策金融公庫と制度融資との大きな違いと言えば、日本政策金融公庫は融資制度がたくさんあるということです。
それぞれの融資制度には、対象となる要件や融資限度額、金利、返済期間などが異なるため、自分に最も合う融資制度を選べるということも大きなメリットと言えます。
しかし、たくさんある融資制度の探し方に戸惑う人もいることでしょう。
そこで本稿では、これから起業したいAさんの例によって、融資制度の選び方を学んでいきましょう。
融資制度の選び方
これから起業を考えているAさんのプロフィールは以下の通りです。
- 飲食店を経営しようと計画している
- 35歳の男性
- これまでは8年間、自動車の営業として働いたのち、飲食店経営を目指して2年間飲食店で働いてきた
- 自己資金は500万円で、融資希望額は1000万円
- 担保と保証人はなし
まずAさんは、自己資金500万円があるので、地方自治体の制度融資を利用し、自己資金と同額にあたる500万円の調達を成功させました。
残る500万円は、日本政策金融公庫から融資を受けようと考えています。
しかし、日本政策金融公庫の融資制度は色々なものがあり、それぞれに融資条件も異なり、どの制度を利用するのが最も良いのか、いまいちわかりません。
日本政策金融公庫のホームページを見ても、たくさんの制度が列挙されています。
創業時に利用できるものや利用できないもの、特殊な要件を求められるものなどが並んでおり、戸惑うばかりです。
そんなAさんは、以下のような流れで融資制度を決めていくことになります。

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融資制度はこう選ぶ
まず、日本政策金融公庫の融資制度一覧のURLを開いてください
(URL:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/index.html)。
このページの上から順に、Aさんのケースで利用できる制度を検討していきます。
まず普通貸付ですが、これは特に創業融資ではないのでパスします。
次にセーフティネット貸付ですが、これは経営環境が悪化した会社に対する融資制度なので、これもパスです。
新企業育成貸付を検討する
その下にある新企業育成貸付ですが、起業を目指すAさんにはこれが狙い目です。
新規開業資金
まず新規開業資金ですが、これは以下の要件が設けられています。
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(1)現在お勤めの企業に継続して6年以上お勤めの方
(2)現在お勤めの企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方 - 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
- 技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
- 雇用の創出を伴う事業を始める方
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援事業を受けて事業を始める方
- 地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて事業を始める方
- 公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
- 前1~8までの要件に該当せず事業を始める方であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた方で、1,000万円を限度として本資金を利用する方
- 1~9のいずれかを満たして事業を始めた方で事業開始後おおむね7年以内の方
まず1ですが、Aさんは今働いている飲食店で2年間の勤務しかしていませんから、当てはまりません。
大学時代には、飲食店経営とは関係のない勉強をしてきたため、2にも当てはまりません。
特別な工夫もこれと言ってないので3にも当てはまりませんし、このように見ていくと5、6、7、8にも当てはまりません。
しかし、飲食店を始めたのちには従業員を雇う計画があるので、4に当てはまることが分かります。
そして、4を満たしながら、まだ事業を始める前の段階なので10にも該当します。

女性・若者・シニア起業家支援資金
この制度は、女性または35歳未満の若者、55歳以上のシニアが対象となっているので、35歳男性であるAさんは当てはまりません。
再挑戦支援資金
再挑戦支援資金は、廃業歴などがある人が対象となります。
Aさんの場合は、廃業歴がないので当てはまりません。
新事業活動促進資金
新事業活動促進資金は、経営多角化や事業転換などの第二創業を目指す人が対象であるため、Aさんは該当しません。
中小企業経営力強化資金
これは、新しいアイデアを事業化するための支援です。
商品やサービスに新規性があり、その開発や販売のために6ヶ月以上を要し、3年以内に事業の黒字化を見込める人が企業する場合、認定支援機関と一緒に事業計画を作成することで受けられるものです。
Aさんの場合、サービスや商品に新規性はないため、利用の対象外です。
しかし、金利が低めに設定されていますし、自己資金の要件がありませんから、起業にあたって新規性のある人は検討してみるのが良いでしょう。
その他の検討
その下には、企業活力強化貸付というものがあります。
ここにある企業活力強化資金から働き方改革推進支援資金までの一連の融資制度は、どれも起業に関する融資ではありません。
環境・エネルギー対策資金や社会環境対応施設設備資金も同じです。
企業再建資金も同様に、Aさんには無関係です。
その下にある「食品貸付」は、飲食店を志すAさんに関係しそうですが、これは食料品小売業、製造小売業、花卉小売業が対象であり、飲食店は対象ではありません。
震災復興関連の融資制度もAさんは利用できず、その後も利用できない融資制度が続いています。
しかし、さらに下に進むと見つかる新創業融資制度、挑戦支援資本強化特例制度は利用できる可能性があります。
新創業融資制度
新創業融資制度の要件は、以下の通りです。
- 雇用の創出を伴う事業を始める方
- 技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
- 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(1)現在の企業に継続して6年以上お勤めの方
(2)現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方 - 大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
- 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援事業を受けて事業を始める方
- 地域創業促進支援事業又は潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて事業を始める方
- 公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める方
- 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
- 前1~8までの要件に該当せず事業を始める方であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた方で、1,000万円を限度として本資金を利用する方
- 既に事業を始めている場合は、事業開始時に前1~9のいずれかに該当した方
新規開業資金の時に検討したように、Aさんは雇用の創出を伴うため1に該当し、新創業融資制度を利用できる可能性があります。
新創業融資制度と新規開業資金の違いは、新創業融資制度では無担保・無保証で融資が受けられるということです。
※なお、新創業融資制度とは、各融資制度を利用する場合に、無担保・無保証で利用できるようにする特例措置のことです。
したがって、新創業融資制度を利用するということは、正確には「新創業融資制度を利用して、新規開業資金を利用する」などということになります。
しかし、ここでは簡便のために「新創業融資制度」という一つの融資制度と捉えています。
挑戦支援資本強化特例制度
これは、技術やノウハウに新規性がある場合に利用できる制度で、資本性ローンとも言われます。
資本性ローンとは、借金をしているにもかかわらず、それが借入金ではなく資本とみなされるローンのことです。
借入金ではなく資本とみなされれば、会社の財務内容は良くなり、金融機関からの格付けも良くなります。
つまり、起業後に民間の金融機関からも融資を希望していくにあたって、融資が受けやすくなるのです。
このほか、挑戦支援資本強化特例制度は返済が一括であるため、5~15年間の据置期間が設けられていたり、業績が悪い時には金利が安くなったりといったメリットがあります。

それ以降、ページを下に進んでも創業に伴う融資制度はありません。
したがって、Aさんが起業にあたって利用できる融資制度は、
- 新規開業資金
- 新創業融資制度
のいずれかになることが分かりました。

もし今、資金繰りにお困りなら、こちらの窓口に相談されてみてはいかがでしょうか。
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新規開業資金と新創業融資制度はどっちを選ぶ?
では、Aさんは新規開業資金と新創業融資制度は、どちらを選ぶべきなのでしょうか。
両者を比較すると、以下の通りとなります。
比較 | 新規開業資金 | 新創業融資制度 |
融資限度額 | 7200万円以内 うち運転資金は4800万円以内 |
3000万円以内 うち運転資金は1500万円以内 |
基準金利 | 1.16~2.25% | 2.26~2.75% |
担保・保証人 | 必要 | 不要 |
自己資金 | 不要 | 融資総額の10%が必要 |
返済期間(設備資金) | 20年以内 うち据置期間2年以内 |
20年以内 うち据置期間2年以内 |
返済期間(運転資金) | 7年以内 うち据置期間2年以内 |
7年以内 うち据置期間2年以内 |
このように比較すると、新規開業資金を選ぶべき場合と、新創業融資制度を選ぶべき場合とが分かると思います。
新規開業資金を選ぶべき場合
新規開業資金は、融資限度額が大きく、金利は低く、自己資金も不要で、しかし担保と保証人が必要という特徴があります。
金利が低いということは、金利支払いによって利益が圧迫されないということですから、大きなメリットと言えます。
自己資金が不要であることも、同様に大きなメリットです。
ただし、自己資金がないということはいざという時の備えがなく、事業への本気度が伝わらないことから、金融機関としては好ましいとは捉えないことに注意してください。

したがって、Aさんが大きな借り入れを必要としており、自己資金が不十分であり、担保物件や保証人のあてがあるならば、新規開業資金がおすすめだと言えます。
しかし、Aさんが必要としている開業資金は1000万円であるため、必ずしも新規開業資金を選ぶ必要はありません。
さらに、担保物件を持っておらず、保証人のあてもないことから、新規開業資金は利用できないことが分かります。
新創業融資制度を選ぶべき場合
新創業融資制度は、融資限度額が小さく、金利は高く、自己資金が10%必要であり、しかし担保と保証人が不要という特徴があります。
まず、融資限度額が小さめに設定されていますから、大きなビジネスを志している人には利用しにくいと言えます。
また、金利が高いことは、利益を圧迫するため好ましくありません。
特に、日本政策金融公庫や自治体の制度融資は金利が低いことがメリットなのですが、新創業融資だけは金利が高めになっているのです。
このほか、自己資金が10%必要であることも、人によっては対応できない場合があります。
しかし、担保と保証人が不要です。

Aさんは小さな起業を目指しており、自己資金は準備できており、担保や保証人のあてがありません。
したがって、新創業融資制度を利用することになります。

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結論
以上のように融資制度を検討していくと、最終的にAさんが利用すべき融資制度は、新創業融資制度であることが分かりました。
このように、融資制度の要件や条件を一つずつ見ていき、自分に当てはまるかどうかを見ていけば、利用できる制度をピックアップできます。
さらに、ピックアップした融資制度が複数あるならば、それぞれの条件を比較することで、自分に合う制度を見つけることができます。
自分に適した融資制度を見つけるためには、このように探していく必要があります。
多少の手間がかかりますが、ぜひ実践してみてください。

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まとめ
日本政策金融公庫の融資制度を一つずつ見ていけば、自分に適した融資制度が分かります。
多くの人にとって利用できる融資制度は、新規開業資金か新創業融資制度になることでしょう。
この二つの融資制度はそれぞれ条件が異なるため、さらに自分に合う方を選ぶようにすれば、問題なく選ぶことが可能でしょう。
Aさんの場合は新創業融資制度を選ぶこととなりましたが、あなたの場合は新規開業資金が適しているかもしれません。
また、新規性のある商品・サービス・技術・ノウハウなどがあれば、中小企業経営力強化資金や挑戦支援資本強化特例制度が利用できる可能性もあります。
本稿を参考に、自分に適した創業融資を選んでいただければ幸いです。