人材不足に悩んでいる会社では、特に若手の確保に力を入れていく必要があります。
今後、何十年と労働に従事する若手の人材を確保すれば、長期的に経営を安定させることができるのです。
若手の確保のためには、若手が離職する理由を知り、理由ごとに対処して離職率低下を図るべきです。

特に、雇用環境に不満を抱いて離職する若手が多いため、雇用環境の改善が欠かせません。
本稿では、若年者が離職する理由のうち、雇用環境に関するものについて解説していきます。
若手の確保に力を入れよう
多くの会社が人材不足に悩んでおり、特に中小企業においては深刻な問題となっています。
これを問題視し、政府も女性の活躍推進、高年齢者の雇用促進、外国人労働者の受け入れ拡大など、様々な角度で取り組んでいます。
人材確保のためには、男性・女性、若年者・高年齢者、日本人・外国人など様々な人材がいる中で、自社に役立つ人材であれば積極的に雇用していくべきです。
もっとも、役立つ人材ならば誰でも雇用する、という方針はおすすめできません。
やはり、長期的な経営メリットを考えて、より大きなメリットが期待できる人材を選んでいく必要があります。

人材を分類するとき、性別や国籍よりも、年齢による分類は特に重要です。
高年齢者を雇用することによって、人材確保につながることもありますが、高年齢者の人材が活躍できる期間は短いです。
一方、若年者は、今後数十年間にわたって労働に従事していく存在です。
若年者を雇用し、定着させることによって、長期的に人材不足を防ぐができます。
したがって、今後人材確保を図っていく会社では、特に若手の雇用・離職率の低下に力を入れていくことが重要です。

若年者の離職の理由
しかしながら、若年者の離職率は高く、新卒採用の人材のうち大卒では3割、高卒では5割、中卒では7割の人材が、入社3年以内に離職すると言われています。
新卒採用が難しくなっているうえ、さらに離職率が高いとするデータもあり、中小企業の若手確保は非常に困難なように思えます。
とはいえ、上記の通り、長期的な経営の安定のためには若手の確保が欠かせませんし、全くお手上げというものでもありません。
離職する人には相応の理由があるものです。
若手は若手なりの価値観をもって、同じ会社で働き続けることを望まなかったり、働き続けることができなかったりして離職しているのです。
そこで、若手がなぜ離職に至るのかを知り、自社では何を原因に離職が起こるかを考え、原因ごとに対処していけば、離職率は確実に下げることができます。
平成25年度の「厚生労働省調査 若年者雇用実態調査」では、若年者の離職の理由は以下のようになっています。
グループ | 初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) | 割合(単位:%) | 合計(単位:%) |
A | 仕事が自分に合わない | 18.8 | 28.4 |
自分の技能・能力が活かせられなかった | 7.9 | ||
責任のある仕事を任されたかった | 1.7 | ||
B | 会社に将来性がない | 12.4 | 80.9 |
賃金の条件が良くなかった | 18.0 | ||
労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった | 22.2 | ||
不安定な雇用状態が嫌だった | 8.7 | ||
人間関係が良くなかった | 19.6 | ||
C | 健康上の理由 | 8.2 | 33.4 |
結婚・子育てのため | 9.5 | ||
介護・看護のため | 0.9 | ||
独立して事業を始めるため | 1.0 | ||
家業を継ぐまたは手伝うため | 1.1 | ||
倒産、整理解雇または希望退職に応じたため | 4.4 | ||
雇用期間の満了・雇い止め | 4.4 | ||
1つの会社に長く勤務する気がなかった | 3.9 | ||
D | その他 | 16.9 | 26.6 |
不明 | 9.7 |
この表では、離職の理由ごとに大まかなグループ分けをしています。それぞれのグループは、
- A・・・働き方に不満がある
- B・・・会社の雇用環境に不満がある
- C・・・離職せざるをえない特殊な理由を抱えている
- D・・・その他の理由
を意味しています。
本稿で取り上げるのは、会社の雇用環境に不満を抱えて離職する、Bグループへの対処です。

※Aグループ、Cグループへの対処について、詳しくはこちら

防げる離職を見過ごしていませんか?助成金を活用しながら離職率を下げよう

雇用環境への不満を取り除く
上記の表では、3つまでの複数回答が可能となっているため、A~Dグループの合計が100%になるものではありません。
同じグループ内で複数の理由を選んでいる人も多いと思います。
しかし、A~Dグループのうち、Bグループの理由で離職している人の合計は80.9%に上り、他のグループよりもかなり高い数値となっています。
このことから、早期に離職する若手の多くが、雇用環境に不満を抱いていることが分かります。
若手の離職率を下げるならば、雇用環境の改善に重点的に取り組むべきでしょう。
また、雇用環境の改善に力を入れるべき理由は、単にこのような数値上の理由だけではありません。
雇用環境の改善に取り組んだ会社では、様々な助成金を受給できます。
助成金については後述しますが、離職率改善による財務的な負担を軽減しながら取り組むためには、助成金の受給機会が多いBグループから手をつけていくのが効果的です。
若手の離職率を下げるためには、Bグループへの対処が欠かせないため、それぞれの理由への対処を本稿では簡潔に述べ、詳細は別稿で解説しています。

会社に将来性がない
今後、何十年と働いていく若年者にとって、会社の将来性は重要です。
将来に期待できる会社は多くありませんが、少なくとも将来性を不安視させない会社でなければ、離職率は低くなります。
12.4%の若手が、会社に将来性がないことを理由に離職しているため、この不安を除くことで離職率を下げられる可能性があります。
不安定な雇用状態が嫌だった
不安定な雇用状態を嫌って離職する人も、10%弱の高い数値となっています。
不安定な雇用状態を理由に離職する人の詳細な内訳を見てみると、正社員が8.2%、正社員以外が9.1%となっており、雇用形態があまり関係ないことが分かります。
一般的に、正社員として雇用した人は、定着率が高い傾向があります。
しかし、経営が厳しい会社では、正社員として採用されたからといって、必ずしも安定しているとは考えず、不安を抱く若手も多いのです。
したがって、不安定な雇用状態を不満に離職する若手は、会社の将来性を不安視しているとも言えます。
会社の将来性に不安を抱かせず、雇用状態を安定させることができれば、離職率低下が期待できます。

離職率を下げるためには対処が欠かせないぞ。
※会社の将来を不安視する離職と、不安定な雇用状態による離職について、詳しくはこちら


賃金の条件が良くなかった
賃金は、従業員の生活に直接的な影響を与えます。このため、賃金の条件が悪いことを理由に離職する若手は、18.0%に上ります。
誰しもお金はたくさんほしいもので、賃金が良ければ離職率は下がります。
特に、家庭を持つ若手にとって、賃金は切実な問題となります。
入社時点では独身であっても、数年のうちに結婚をし、子を設け、家庭を守る立場になった若手は、働きに見合う賃金が得られない場合、すぐに転職を考えることが多いです。
もちろん、闇雲に賃金を上げることで離職率を下げるのではなく、職務の内容や会社への貢献度を正しく評価し、評価に応じて賃金を支給することが重要です。
従業員が納得できる賃金を支給すれば、離職率低下に大きな効果が期待できます。

※賃金への不満から起こる離職について、詳しくはこちら

労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった
労働時間・休日・休暇の条件が悪ければ、賃金の条件が悪い以上に離職の原因となります。
賃金の条件を理由に離職する若手は18.0%であるのに対し、労働時間・休日・休暇の条件を理由に離職する若手は22.2%となっており、これは全ての理由の中で最も高い数値です。
人生において、労働が占める割合は非常に大きいです。
1日8時間労働すれば、社会人になってからの人生の3分の1を労働に費やすことになります。
労働時間が長い、休日出勤が多い、休暇を取りにくいといった会社で働く従業員は、労働が人生に占める割合がさらに大きくなり、人生全体での幸福度が大きく低下します。
たとえ賃金がよくても、人生の多くを仕事に費やす環境を嫌い、賃金が下がっても自由な時間を求めて離職する人は多いのです。
人材不足だからこそ、労働時間は長くなり、休日出勤は多くなり、休暇も取りにくい会社が多いと思います。
しかし、それでは離職率を下げることはできず、人材不足を解消することは困難です。
これらの条件を改善すれば、離職の最も大きな原因を取り除くことができます。

※労働時間・休日・休暇の条件を理由とする離職について、詳しくはこちら

人間関係が良くなかった
人間関係に悩んで離職する若手は19.6%に上り、離職理由の中で二番目に大きな理由となっています。
リクナビの調査結果(退職理由の本音ランキングBest10)を見ても、
- 1位:上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)
- 2位:労働時間・環境が不満だった(14%)
- 3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)
- 4位:給与が低かった(12%)
- 5位:仕事内容が面白くなかった(9%)
- 6位:社長がワンマンだった(7%)
- 7位:社風が合わなかった(6%)
- 7位:会社の経営方針・経営状況が変化した(6%)
- 7位:キャリアアップしたかった(6%)
- 10位:昇進・評価が不満だった(4%)
となっており、人間関係を理由とする人が非常の多いことが分かります。
リクナビの調査は若手に限定したものではありませんが、厚生労働省の調査とかなり似た結果となっています。
若手に限らず、人間関係を理由に離職する人が多いのです。
人間関係を改善すれば、離職率を大幅に下げることが期待できます。

※人間関係を原因とする離職について、詳しくはこちら


助成金を活用しながら取り組もう
以上の取り組みにあたっては、賃金の適正化・増額、労働時間や休日・休暇の改善、人間関係の改善などに取り組む必要があり、中にはコストを要するものも多いです。
離職率が高く、人材不足に悩んでいるものの資金は潤沢、という会社は考えにくいため、自社で可能な範囲で、コスト負担をできるだけ軽減しながら、徐々に取り組みを加速していくことが大切です。
したがって、取り組みにあたって助成金の活用が欠かせません。
雇用環境の改善に伴い、
- 賃金の増額
- 人事評価制度の導入
- テレワークの導入
- 時間外労働の上限設定
- 特別休暇制度の導入
- メンター制度の導入
などを実施することで、助成金を受給することができます。
自社で若手が離職している理由を分析し、優先度の高いものから取り組むことが大切ですが、その際には積極的に助成金を受給していきましょう。
この時、助成金の専門家である社労士の協力も欠かせません。
当サイトでは、優秀な社労士の紹介も行っていますので、ぜひ一度お問い合わせください。


まとめ
雇用環境に不満を抱いて離職する若年者はかなり多いです。
雇用環境を改善することで、離職率を大幅に下げることができます。
政府が働き方改革を推進していることから、雇用環境改善によって受給できる助成金は豊富に設定されています。
自社で可能なもの、あるいは自社で優先度が高いものから取り組み、助成金を受給していくこともできます。
助成金の活用についても、それぞれ別稿で解説しているため、ぜひ参考にしてください。
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