キャリアアップ助成金で先行するコスト負担と、実質的な負担を軽減する考え方

助成金制度は、中小企業にとって非常に役立つ制度ではあるものの、受給のためには定められた要件を満たす必要があります。

そのためには、実際の受給に先立って生じるコストを会社が負担する必要があります。

この負担をよく把握しておかなければ、受給要件を満たすまでに負担に耐えられなくなる可能性があります。

また、受給要件を満たしたとしても、コスト負担に見合うだけのメリットが得られない可能性もあります。

そこで本稿では、キャリアアップ助成金を例として、コスト負担について解説していきます。

コスト負担は先行するものである

厚生労働省が実施している助成金制度は、労働環境の整備や生産性の向上に取り組んだ会社に助成金を支給する制度です。

労働環境整備・生産性向上といった取り組みは、結果的に人材不足を解消することにもつながるため、中小企業は助成金制度を積極的に活用していくべきです。

しかし、助成金を活用するにあたって、いくつかの負担が生じます。

代表的な負担と言えば、助成金の受給要件を満たすために、会社にコスト負担が生じることです。

あくまでも、助成金を受給できるタイミングは、支給要件を満たしたことが認められた後です。

そこに漕ぎつけるまでには、色々なコスト負担が先行します。

コスト負担の具体例(キャリアアップ助成金の場合)

例えば、多くの中小企業が活用すべき助成金の一つに、キャリアアップ助成金というものがあります。

キャリアアップ助成金ではいくつかのコースが設けられていますが、その一つである「正社員化コース」では、

  • 従業員との契約を有期契約から無期契約へ
  • 有期契約から正規雇用へ
  • 無期契約から正規雇用へ

契約条件を転換することで助成金を受給することができます。

受給できる金額は、転換の種類によって異なり、以下のように定められています。

基本的な支給額 生産性が6%向上している場合
有期契約から正規契約へ転換 1人当たり57万円 1人当たり72万円
有期契約から無期契約へ転換 1人当たり28万5000円 1人当たり36万円
無期契約から有期契約へ転換 1人当たり28万5000円 1人当たり36万円

なお、生産性が向上した場合の助成金ですが、これは転換した際の直近の会計年度の生産性が、3年度前の生産性と比較して6%以上伸びていた場合に支給されるものです。

ただし、受給のための要件には色々ありますが、コスト負担に関するものでは、

  • 転換の前提として6ヶ月以上雇用しており、なおかつ転換後に無期雇用労働者としての賃金を6ヶ月分支給していること
  • 転換後に支給される6ヶ月分の賃金が、転換前に支給された6ヶ月分の賃金と比較して、5%以上増額されていること

などが要件となっています。

つまり、この助成金を受給するためには、実際に雇用した1年間の人件費が先行しており、特に転換後には賃金をアップしたうえでの人件費が先行していることが分かります。

もちろん、このほかにも、受給要件を満たすために就業規則を変更したり、その他の様々な手続きを社労士に依頼したりすることによって、コスト負担が発生していることがあります。

しかし、受給要件を満たすために様々なコストを自社で負担しても、要件を満たす前に対象となる従業員が退職した場合には、助成金を受け取ることはできません。

CF ブルー
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もちろん、手続きで何らかのミスがあり、要件を満たせなかった場合にも助成金を受け取れないのだ。

また、すべての要件を満たした場合にも、その審査に2~6ヶ月を要するため、先行したコスト負担をすぐに取り戻せるわけではありません。

このようなコスト負担を認識しておかなければ、助成金を使いながら資金繰りの負担を軽減するはずが、負担に耐えられずに途中であきらめる事になります。

却って経営悪化につながったりする可能性があるのです。

賃金5%以上アップは6ヶ月間の総額で考える

さて、キャリアアップ助成金の正社員化コースを利用するにあたって、1年間の人件費を負担することは分かりやすいのですが、賃金を5%以上アップするという要件が、やや複雑です。

この賃金アップは、毎月の賃金をベースとして考えるのではなく、6か月間の総額で考えるのがポイントです。

毎月の基本給が5%以上アップしている場合に要件を満たすだけではなく、それ以外に支払われた賃金についても一定の範囲で考慮し、5%以上アップしている場合に件を満たす仕組みとなっています。

厚生労働省の公開しているパンフレットを見ると、毎月の基本給だけではなく、賞与や手当を以下のように考慮するとしています。

賞与

賃金5%アップに含まれる賞与の条件は、

  • 就業規則または労働協約に支給時期(「○月○日に支払う。」「○月に支給する。」など最低限支給月まで規定しているもの。)および支給対象者が明記されていること
  • 転換等後6か月間の賃金算定期間中に賞与が支給されていること
    (当該算定期間中に賞与が1度も支給されていない場合には、支給申請時点で支給時期および金額が確定しているものを含む。ただし、転換時期や支給時期のタイミング等により実態として処遇の改善が確認できない場合は算定から除く。)

となっています。

有期・無期契約から正規雇用へと転換し、賞与の支払いが生じているならば、それも含めて考えることができます。

CF ブルー
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諸手当

また、諸手当については、

  • 定額で支給されている諸手当(名称の如何は問わず、実費弁償的なものや毎月の状況により変動することが見込まれるものは除く。)

を考慮するとしています。

このため、転換後に働き方が変わり、手当を支給しているならば、それを含めて考えることができます。

その他

なお、転換後に働き方が変わったことにより、所定労働時間や支給形態等が異なる場合には時給ベースで賃金が5%以上アップしているかどうかを判断します。

CF イエロー
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以上のように、やや細かい定めがあるよ!

先行するコスト負担をできるだけ圧縮するためには、算定に含むことができる賃金は全て考慮します。

そうする事により、基本給など定額で支払うべき賃金の上昇をできるだけ抑えながら、5%アップをクリアすることがポイントとなります。

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実質的なコスト負担のシミュレーション

では、正社員化コースを利用した場合のコスト負担を、転換のケース別にシミュレーションしてみましょう。

有期契約から無期契約へ転換した場合

有期契約から無期契約に転換する場合、基本的には契約期間の定めがなくなるだけで、それ以外の待遇については変わりません。

ただし、助成金の受給のために、賃金を5%以上アップする必要があります。

したがって、転換前と転換後の勤務時間と出勤日数は変わらず、賞与や諸手当なども考慮しない場合には、基本給による人件費と、基本給を5%アップしたことによるコスト負担が先行します。

対象となる従業員の給与が、転換前の6ヶ月間で120万円と仮定すると、転換後の6ヶ月間で120万円から5%以上アップの要件を満たすためには、最低でも126万円が支給されている必要があります。

したがって、助成金の受給要件を満たすために先行するコスト負担は、転換前の6ヶ月分の給与である120万円と、転換後の6ヶ月分の給与である126万円を足した246万円となります。

実質的な負担はゼロ

しかし、転換前後に支払う基本給240万円については、無期契約に転換せずとも発生するものですから、実際には賃金5%の増額分である6万円だけを負担と考えることができます。

受給条件を満たしたのちに支給される助成金額は、基本的には1人当たり28.5万円、生産性が6%以上向上している場合には1人当たり36万円です。

したがって、受給要件を満たすために先行したコストを差し引くと、1人当たりの実質的なコスト負担は、

  • 基本の場合:28.5万円-6万円=22.5万円
  • 生産性向上の場合:36万円-6万円=30万円

となります。実質的な負担はゼロであり、むしろまとまった資金が手元に残ることが分かります。

有期契約あるいは無期契約から正規雇用へ転換した場合

有期契約あるいは無期契約から正規雇用へと転換した場合には、正社員向けの就業規則が適用されることになります。

契約期間の定め以外にも、勤務日数や勤務時間、基本給以外に支給される賃金の定めなど、色々な点で変更することとなりるため、賃金5%アップの判断もやや複雑となります。

時給ベースでの考え方

CF レッド
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まず、勤務日数や勤務時間が変わる場合には、時給ベースで判断する必要があるよ!

例えば、転換前の所定労働時間が6時間×週4日であり、この期間の総支給額が90万円であったならば、時給ベースでは、

90万円÷(24時間×52週間÷2)=1442円

となります。

正社員としての所定労働時間が8時間×週5日であれば、転換後の労働時間は1040時間に増えるため、賃金5%アップの要件を満たすために必要となる給与は、

  • 1442円×1040時間=149万9680円(転換前の時給で、転換後の所定労働時間を働いた場合)
  • 149万9680円×1.05%=157万4664円(賃金を5%アップした場合の、6ヶ月分の給与)

となり、転換後の6ヶ月で最低157万4664円が支給されていれば、要件を満たすことができます。

賞与を考慮した考え方

もっとも、正社員に対する基本給はあらかじめ定められているでしょうから、実際には上記とは異なる計算となります。

例えば、正社員の基本給は月25万円(6ヶ月分で150万円)と定めているならば、転換後に支給される時給ベースでの賃金は、

150万円÷1040時間=1442円

となります。

これでは、転換前の時給と同額になってしまうため、助成金の受給要件を満たすことができません。

しかし、この会社で年2回、1ヶ月分(25万円)の賞与を支給していたとすれば、

(150万円+25万円)÷1040時間=1683円

となります。この時の賃金アップ率は、

(1683円-1442円)÷1442円×100=16.7%

となり、助成金の受給要件を十分に満たすこととなります。

したがって、この場合に先行するコスト負担は、転換前の賃金90万円、転換後の基本給150万円、賞与の25万円を合わせた265万円となります。

実質的な負担

この例では、そのまま有期・無期契約を続けていたならば、転換後の6ヶ月も90万円の支給で済んでいたはずです。賞与の支払いも不要でした。

このため、正規雇用に転換したことによって発生する人件費の増額は、150万円との差額である60万円と、賞与25万円を合計した85万円となります。

したがって、受給要件を満たし、助成金の支給を受けることによって、会社の実質的なコスト負担は(1人当たり)、

有期契約から正規雇用へ転換の場合

  • 基本の場合:57万円-85万円=-28万円
  • 生産性向上の場合:72万円-85万円=-13万円

無期契約から正規雇用へ転換の場合

  • 基本の場合:28.5万円-85万円=-56.5万円
  • 生産性向上の場合:36万円-85万円=-49万円

となります。

CF イエロー
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会社の負担コストが相殺されたとは言えないものの、確実に軽減されていることは事実よ!

さらに、正社員として雇用したことによって、従業員の労働時間は増え、会社の生産性や売上・利益などが向上していることもあるでしょう。

コスト負担をカバーできるだけのメリットがあるはずです。

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実質コスト負担をより軽減するには対象の厳選が重要

実質的なコスト負担をより軽減し、メリットを最大化するためには、転換の対象とする従業員を厳選することが大切です。

特に正規雇用へと転換した場合には、従業員の労働時間が増えたり、賞与その他の手当が発生したりすることによって、5%を大きく上回る増額になることもあります。

この増額以上のメリットを得るためには、正社員になることによって会社への大きな貢献が期待できる、優秀な人材を選んで転換させることが重要です。

そのような期待が持てない人材を、助成金目当てに転換してしまうと、賃金増額分以上の貢献がなされず、却ってマイナスになる可能性が高いです。

CF レッド
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これは正社員化コースだけに関わらず、キャリアアップ助成金全般、あるいは助成金全般に言えることだ!

助成金は、あくまでも取り組みの結果として得られるものであって、第一目的ではありません。

人材不足の解消や労働環境の整備に取り組み、結果として助成金によって負担を軽減すると考えましょう。

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まとめ

本稿で見てきた通り、助成金の受給のためには、要件を満たすためにコスト負担が先行します。

この負担をカバーできなければ、受給要件を満たすこともできず、無駄骨となってしまいます。

要件を満たした後に、助成金を受け取ることによって、実質的なコストを一部あるいは全部カバーすることができることを知り、しっかりとコスト負担を計算に入れておきましょう。

また、実質的なコスト負担を軽減し、メリットを最大化するために、本来の目的に適うように進めていきましょう。

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