障害者雇用に取り組むにあたって、どうしても避けられないのが障害者の長期休職の問題です。
障害によっては、療養のための長期休職が必要になることがあり、これに悩む会社は少なくありません。
そこでおすすめしたいのは、障害者雇用安定助成金の障害者職場定着支援コースを利用して、助成金を受給しながら、長期休職と職場復帰支援に取り組んでいくことです。
本稿では、障害者の雇用義務が拡大しつつある今こそ取り組むべき、長期休職・職場復帰支援について解説していきます。
障害者雇用と長期休職
障害者の雇用義務は、現在は法定雇用率を2.2%と定められており、常用労働者が44人以上の会社で最低1人の障害者を雇用する義務があります。
この雇用義務は、2021年に法定雇用率2.3%へと引き上げることが予定されており、今後は障害者雇用が経営に与える影響も大きくなっていくはずです。
障害者雇用に取り組むとき、会社は障害者への合理的配慮義務も負うことになります。
この配慮には、勤務時間や休暇の配慮のほか、長期休職への対応なども含まれます。
障害特性によって内容は異なるものの、障害者は往々にして長期休職を必要とするものです。
症状の悪化に伴って、療養のために1ヶ月以上の休職を求められたとき、その対応について考えていない会社では、想像以上の負担が生じることになります。
- その障害者が従事していた職務をどう割り振るか
- 抜けた穴をどう埋めるか
- 職場復帰をどのように支援するか
など、考えておくべきことは多岐にわたります。

ただ障害者を雇用するだけで、障害者雇用は終わりじゃないんだね。
長期休職に対応するときの問題点
最近は、一般の従業員に対しても、病気の治療や出産・育児のための長期休職・職場復帰支援を促進するべく、両立支援が推進されています。
しかし、一般の従業員と障害者では、会社の対応は大きく異なります。
これは、一般の従業員の休職と復帰ではあまり問題にならない、様々な問題が想定されるからです。
具体的には、どのような問題が起こるのでしょうか。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によれば、障害者の長期休職・職場復帰では以下のような問題が起こることが多いようです。
復帰後の仕事の問題
まず、障害者の長期休職を受け入れる時、休職を受け入れることそのものよりも、復職後の職務で問題が生じることがあります。
単に休職を認めるだけならば、それほど問題にならないことも多いです。
一般的に、障害者に割り振る職務は負担が小さいものです。
調整の手間はあるものの、休職期間中、他の従業員がカバーできないほどの負担が生じることは考えにくいでしょう。
問題となるのは、職場復帰支援です。
長期休職によってしっかりと療養し、復帰前のように職務をこなせるならば、復帰支援は簡単です。
しかし、障害特性の悪化によって長期休職している場合には、長期休職によってさらなる悪化を防げていたとしても、雇用時よりも悪化した状態で復職を支援するケースも珍しくありません。
雇用する障害者について、雇用時の状態をもとに配慮を組み立ててきた会社では、症状が悪化したことにより、
- どの程度仕事ができるかわからない
- 復帰後の仕事の与え方・配置が難しい
- 本人に合う職務がない
といった問題が起こるのです。
長期休職前は、雇用時に把握した情報を元にして、
などと考えて取り組んできたはずです。
しかし、復職後に症状が悪化していると、休職前の職務が困難となり、新たに配置や職務内容を考え直す必要が生じます。
障害者への配慮が振り出しに戻ってしまうこともあるため、負担を感じている会社は多いのです。
また、
- 本人が症状の悪化を認めず、休職前の職務に復帰することにこだわる
- 再発を繰り返してしまう
といった悩みも多く挙げられています。
会社が復帰後の配慮のために職務を調整しても、本人は休職以前の職務にこだわることが少なくありません。
本人は障害者雇用で就労の機会を得て、継続して雇用されるために仕事をこなし、その中で周りにはわからない苦労もあったと思います。
新たな職務に配置転換されると、せっかく慣れていた職務から離れ、再び苦労を強いられることになります。
また、本人としても休職の結果、自分の能力がどのように変化しているか十分に把握できておらず、新たな職務をきちんとこなせるかどうかに自信が持てず、不安になっている部分も大きいと思います。
これがストレスとなり、症状の再発を繰り返してしまうこともあります。
再発を繰り返すと、会社はその度に調整する必要があるだけに、大きな負担になりかねないのです。

一般的な職場復帰支援と、障害者雇用における職場復帰支援の違いを正しく認識することが大切だ。

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障害者雇用安定助成金を活用しよう
上記のように、障害者雇用でしばしば起きる長期休職は、会社に様々な負担や悩みをもたらします。
長期休職を認め、休職中の職務や復職後の職務の調整のために負担が生じ、特に復職後にさらなる配慮が必要となることも多いため、コスト面での負担も生じます。
この負担を軽減するために、最も効果的な方法は助成金を活用することです。
障害者雇用に関する助成金は多く、その一つである障害者雇用安定助成金の障害者職場定着支援コース(以下、障害者職場定着支援コース)では、雇用する障害者の長期休職を受け入れ、職場復帰支援のための措置を取った会社に対して、助成金を支給しています。
障害者職場定着支援コースの措置の内容と受給額は、以下の通りです。
措置の内容
障害者職場定着支援コースの職場復帰支援では、障害者の長期休職の対象となる障害者の雇用を休職期間中も継続し、職場復帰の日から3ヶ月以内に職場復帰のための措置を開始します。
この措置は、長期休職する障害者がスムーズに職場に復帰し、離職することなく定着できることを目的としています。
そこで、復帰後の本人の能力や体調に配慮するために、
- 時間的配慮
- 職務開発
などの措置に取り組みます。
時間的配慮と職務開発の具体的な内容、取り組みのポイントなどは後程詳述します。
受給額
障害者職場定着支援コースの職場復帰支援では、時間的配慮と職務開発のどちらかの措置によって、助成金を受給できます。
両方に取り組んだ場合にも受給できますが、受給額が増えるわけではありません。
受給できる金額は、
となっています。
この助成金の支給対象期間は、一単位を6ヶ月1期としていますが、必ず6ヶ月分36万円を2期にわたって受給できるものではありません。
対象となる障害者が、支給対象期間中に実際に就労した月数分だけ支給され、なおかつ出勤割合が6割以上の月のみ支給対象となります。
例えば、復帰支援の対象となる障害者が、月15日の出勤を予定している場合、復帰以後の出勤が月9日未満であれば、その月は支給対象となりません。
1期6ヶ月間のうち、月野出勤日数が9日以上の月が4ヶ月、9日未満の月が2ヶ月であれば、受給できる金額は6万円×4ヶ月で24万円となります。
なお、同じく障害者職場定着支援コースの措置には、雇用する障害者の時間管理・休暇取得に配慮する措置も設けられていますが、この措置と職場復帰支援措置は併給できません。

できるだけ多く受給するためには、配慮を工夫して、無理なく出勤を促すことが大切ね。

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具体的な措置の内容
障害者職場定着支援コースは、単に助成金を受給できるだけではなく、受給のための取り組みを通して、職場復帰支援をしっかりと考えていくことに意義があります。
職場復帰支援では、時間的配慮と職務開発に取り組みます。
この措置の具体的な内容と、取り組みのポイントを見ていきましょう。
事前の準備
まず、この措置に取り組み、障害者の職場復帰と定着を促すためには、事前の準備が欠かせません。
上記の通り、雇用する障害者の長期休職と職場復帰支援では、多くの会社が復帰後の仕事の与え方や、本人の希望の汲み方などに悩んでいます。
このような悩みの多くは、情報不足から生じています。実際に、長期休職と職場復帰支援に悩む会社では、
- 本人の状態に関する正確な情報が得られない
という悩みも挙げています。
しかし、本人の状態に関する情報は、会社が情報収集に努めることで対処できるものです。
例えば、
といった取り組みが効果的です。
会社の担当者が、休職中の障害者に接触する機会を設けておけば、具体的にどのような状態であるのかが分かるでしょう
この時に本人とコミュニケーションをとれば、本人が職場復帰をどう考えているのかを知ることもできます。
また、会社が復帰を望んでいることなどを伝えれば、本人の復帰への不安を取り除くこともできます。
もちろん、会社の担当者に十分な知識があるとは限らず、本人との接触だけでは正確な情報を把握できないことも多いため、主治医から意見を聞くことも大切です。
主治医の見解を聞いていれば、状態に関する最も正確な情報を得られますし、復帰後の配慮についても意見を得ることができます。
復帰後の労働時間や通院の必要、症状の悪化に伴って新たに必要となる支援・配慮なども知ることができるでしょう。
これにより、本人がまだ休職している間に、職場復帰直後の勤務のペース、労働時間や特別休暇の調整、新たな支援機器の導入など、具体的な支援を考えておくこともできます。
このような、医師の専門的な見立てが最も正確で重要なものですが、医師でも気づきにくいデリケートな部分での配慮を探るために、家族にヒアリングすることも大切です。
医師の中には、一般的な医学的知見だけに基づき、より深い部分での本人の希望や、意外な部分でのストレス・病根について把握できていない医師もいるものです。
より良い職場復帰支援のためには、主治医の意見を絶対とするのではなく、最も近いところで障害者本人と付き合っている家族などにヒアリングし、配慮に役立てていきましょう。
これらの準備を進めたうえで、職場復帰が近づいてきたら、復帰に向けての本人の希望と、会社としての対応をすり合わせていきます。
いくら本人が復帰前と同じ労働時間や労働内容を希望しても、主治医や家族の意見ではそれが無理であると分かっていれば、きちんと話し合って新たな勤務へと導いていかなければなりません。
障害者の中には、健常者と同じように働けないことに負い目を感じ、無理をしすぎてしまう人もいます。
平常時ならば、それを殊勝な心がけとして受け入れることも必要ですが、長期休職の直後であるという特殊な事情を踏まえると、再発を繰り返さないためにも勤務の調整は欠かせません。
休職中の本人を訪ねた際のコミュニケーションを初め、復職後の面談などを通して、負担を軽減して勤務を開始することに納得してもらいましょう。
もちろん、本人と面談したうえで決めた職場復帰支援を開始する前に、
といった取り組みも欠かせません。
特に、経営者や担当者が障害者本人の状態を理解し、配慮する準備があっても、勤務する現場での理解がなければ働きにくくなるため、現場に理解を求めることは重要です。

事前の準備の複雑さからも、職場復帰支援の難しさがわかるね。
時間的配慮
以上のことを踏まえ、具体的な措置を考えていきましょう。
時間的配慮は、特に難しくありません。
本人や主治医、家族などから収集した情報をもとに、労働時間や休暇に配慮するべく、以下のような配慮を実施していきます。
- 短時間勤務
→長期休職前よりも勤務時間を短く設定して出勤させ、様子をみるもの。軽い負担で少しずつ調子を取り戻すのに効果的。
- 試し出勤
→長期休職前の職務を部分的にこなしながら、様子をみるもの。
あるいは、本人の状態に合わせて職務を変えた場合などに、新たな部署で試験的に一定期間継続して出勤させるもの。
軽い負担で少しずつ調子を取り戻す、あるいは新たな配置先で少しずつペースを掴むのに効果的。
- 時差出勤
→長期休職前とは出勤時間をずらすもの。
時間に余裕をもって出勤したり、出勤の混雑を避けることでストレスを軽減したりすることにより、負担の軽減を図る。
- 時間単位の年次有給休暇
→通常の有給休暇に加え、時間単位で有給休暇を取得できるようにし、復帰後の療養の継続に伴う通院に配慮する。
以上のような時間的配慮は、職場復帰に伴う負担を軽減するのに役立ちます。
負担を軽減しながら様子を見ていき、定期的に面談を実施して本人の希望も聞いていけば、長期休職前のペースで働けるようになるのも早まるでしょう。

時間的配慮は、一般の労働者の復帰支援にも通じるものが多いね。

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職務開発
長期休職の以前と以降で、本人の能力に大きな違いがない場合には、時間的配慮だけでも十分に対応可能です。
難しいのは、本人の能力が著しく変化しており、以前の職務に耐えられない場合です。
この場合、時間的配慮だけを実施すれば負担を十分に軽減することはできず、離職につながってしまいます。
そこで、職務開発が必要となります。
職務開発とは
基本的には、主治医の意見を参考にしつつ、本人の意見も聞いたうえで、新たな配属先を選びます。
このとき、主治医と本人の意見から、「AからBへと部署を替え、職務bにつかせよう」という判断ができれば問題ありません。
しかし、一般的に障害者雇用では、雇用時の能力をもとに、与えるべき職務を選んだり作ったりしているのが普通です。
したがって、復帰時の能力をもとに配置・職務を転換できる先が見つからないことも多いものです。
このような場合には、主治医と本人の意見をもとに、新たに配属すべき部署や職務をある程度定めたうえで、
- 職務の洗い出し
- 職務の切り出し・再構成
- 職務創出
などに努める必要があります。
これを、職務開発と言います。
これらの取り組みは、具体的には以下のような内容を指します。
新たな配属先の職務を全て洗い出し、復帰後の能力でも無理なくこなせる職務を見つけ出す。
洗い出した職務の中から見つけられない場合には、個々の職務の一部を切り出し、組み合わせ、スケジュール化することによって、復帰後の能力でも無理なくこなせる職務を作りだす。
職務の切り出し・再構成でも職務が見つからない場合には、その部署で必要としているものの、人手不足などを理由に行われていなかった仕事を検討し、復帰後の能力でも無理なくこなせる職務を作り出す。
※なお、職務を変更する場合には、総務省が定める職業分類における「中分類」が異なる職務に転換する必要があります。
中分類でおなじ括りになっている職務に就かせても、受給要件を満たしたことにはなりません。
職務分類については、総務省のHPを参考にしてください。

職務開発と聞くと、新しい仕事を作り出すように聞こえるけど、洗い出しや切り出しも当てはまるんだね。
職務開発のポイント1:職務を分析すること
以上のような職務開発を進めるとき、重要な視点の一つは職務を分析することです。
なぜならば、職務開発の前提として、職務を分析することがなければ、果たして復帰後の能力に適しているかどうかも把握できないためです。
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構の2010年の研究レポートでは、障害者の職務開発に関する調査にあたり、障害者職業カウンセラーにアンケートを取っています。
この中で、障害者雇用において職務開発が必要になった際、カウンセラーが職務分析で最も重要視しているのは、
「それぞれの職務の結果に求められる質、そのために必要なスキル」
の分析であると回答しています。
調査を受けた障害者職業カウンセラー全員がこの回答で一致しているため、かなり重要な視点と言えるでしょう。
職務分析をしなければ、能力やスキルが不足した状態で、新たな職務に就かせることになりかねません。
その結果、十分な結果が得られずに配属先の生産性が低下したり、本人の負担が増大して離職につながったりする可能性が高まります。

カウンセラーが口をそろえて重要だと言う職務分析。
しっかり取り組みたいものだ。
職務開発のポイント2:本人のやりがいになること
また、新たな職務を見つけ出して与えるといっても、与えるべき職務が見つからない中で、無理に生み出した「当たり障りのない簡単な仕事」「特に会社の利益にならない簡単な仕事」などを与えることは避けるべきです。
職場への定着のためには、やりがいが欠かせません。
それは、一般の労働者も障害者も同じです。
当たり障りのない、簡単で、特に会社の利益にもならない仕事だけを与えていたのでは、働く障害者もやりがいを感じられません。
もちろん、利益に結び付かない仕事に賃金を支払うのは、会社の負担にもなります。
このため、職場復帰に伴う職務開発では、会社の利益になる、1人分の仕事を開発することが大切です。

仕事にやりがいを求めるのは、誰でも一緒なんだ。
職務開発のポイント3:他の従業員の利益になること
職務開発にあたって、職務の洗い出しや切り出し・再構成のためには、配属検討先の従業員にアンケートを実施し、行っている職務を全て書きだしてもらう必要があります。
このとき、アンケート結果だけをもとに、採用・人事担当者がイメージで職務開発を進めてしまうと、本当に適性・やりがいのある職務を選べない可能性があります。
また、新たな職務につけたものの、配属先の従業員との関係がなかなか構築できず、現場のチームワークに混乱を来たしてしまう、生産性の低下につながるなども考えられます。
これを防ぐためには、現場の従業員や実務担当者にもヒアリングすることが重要です。
実際に現場の意見を聞き、現場の従業員にとっても助かることを確認した上で新たな職務を検討すれば、職場復帰はスムーズになりますし、生産性にも良い影響が期待できます。

復帰後に一番身近で働くのは現場の従業員よ。しっかり意見を聞いていこうね。

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まとめ
障害者職場定着支援コースで定められている様々な措置の中でも、職場復帰支援措置はやや難しい取り組みです。
単に長期休職を認めるだけならば簡単ですし、復帰後の能力に大きな変化がない場合にも、比較的簡単に取り組めるでしょう。
しかし、職務開発が必要になる場合には、本稿で解説したような様々なポイントを押さえながら取り組んでいく必要があるのです。
障害者の職場復帰支援の経験を積めば、障害者雇用はスムーズになり、障害者雇用に伴う助成金の受給額を増やすことにもつながります。

必要に応じて、地域障害者職業センターや職場支援員などのアドバイスも活用し、じっくりと取り組んでいこう!
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