売上増に伴って運転資金も増加し、それによる資金繰り圧迫に悩んでいるというケースならば、増加運転資金を銀行から借り入れることで資金の問題は解決されますし、しっかりと利益につながっていくでしょう。
増加運転資金は、売上増加に伴って得られた利益によって返済していく必要があるため、売上が増えて赤字になっているとすれば、銀行への返済に困ってしまう可能性も高まります。
売上から原価を差し引くことで粗利益を求めることができ、そこから販管費や営業外損益、特別損益、税金などを差し引いていくことでキャッシュフローを求めることができます。
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試験で求められる知識が役に立たない?
しかし、原価計算を的確に行うことは、簡単なことではありません。
日商簿記検定試験や公認会計士試験で求められる原価計算基準を理解している人でさえ、正しく原価計算ができないことが多々あるのです。
このため、原価計算に必要な知識を持っていると思われる経理担当者に任せ、原価計算システム構築させ、運用してみたところ、それが大して役に立たなかったというケースもしばしばみられます。
原価計算を資金繰りに活かしていくことは、原価について正しい知識を持ち、なおかつ経験がそこに加味されて、初めて可能となります。
ところが、必要となる正しい知識とは、日商簿記検定や公認会計士試験で求められる原価の知識とは限りません。
なぜならば、これらの試験で求められる原価計算の知識は原価計算基準が根拠となっているのですが、これは伝統的な理論であり、古いものだからです。
もちろん、この基準が作られた当時の一流の学者たちが、その智慧の髄を集めて作った伝統的な基準ですから、これを今でも大切なものとし、基礎的なものと考えることはあながち間違いではありません。
しかし、それゆえに精通するのは困難であり、試験でもそれを全て理解することを求められません。
したがって、簿記や公認会計士の試験に合格している人でも、それがすなわち「原価計算に精通している」ということの証明にはならないのです。
さらに、この原価計算基準が作られたのは、今から1900年代初めのアメリカであり、日本で採用されたのは1962年のことです。
一応、時代にそぐわない部分を更新したこともありますが、それも1980年代のことです。
CFレッド
このため、2018年の日本において、全ての会社がそのまま活用できるものとは言えなくなってきているぞ。
原価計算とは何者なのか?
また、日商簿記検定や公認会計士試験で求められる原価計算の知識は、必ずしも会社経営において、原価計算によって資金繰りや業績にプラスになることを目的とするものではありません。
多くの経営者は、経理担当者が学んだ原価計算の知識について、会社経営に役立てるためのものだと考えていると思います。
ところが、試験のために学習する原価計算の知識は、主に以下を目的としています。
すなわち、
- 財務諸表作成のため
- 価格計算のため
- 原価管理のため
- 予算管理のため
- 経営計画策定のため
という5つの目的です。
1962年に原価基準が公表された時、大蔵省はこれら5つが原価計算の目的だと明言しています。
財務諸表作成のため
会社は、買掛先や銀行などの債権者のほか、出資を受けているならば出資者に対しても、財務諸表を公表する必要があります。
それに当たって、財務諸表に記載される損益と財務に嘘が紛れ込まないためにも、原価の集計を求めています。
制度会計では一定期間の損益を報告するものであり、期末時点で製造中である仕掛品や製品の在庫については、製造原価を期間原価とはみなしません。
したがって、期首と期末の仕掛品を加味して当期の製造原価、そして販売した製品の売上原価を計算することが必要となります。
財務諸表では、原価を製造原価と販管費に分類しますが、製造原価は期首と期末の在庫金額の調整によって計算し、販管費は当期の売上高と対応する金額を期間原価とします。
このことから、原価計算は財務諸表を正しく作成するものであり、その中で棚卸資産の評価をすることはあっても、それが主たる目的ではないということが分かります。
ここでは、外部の利害関係者のために原価計算を用いているのです。
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価格計算のため
これも、外部の利害関係者を目的とするものです。
会社が販売する商品の価格は、会社が価格を設定しているように考えがちですが、実際にはそうではありません。
購入者が買いたいと考える価格でなければ売ることはできないため、市場の需給バランスが価格を決めていると言えます。
したがって、市場性がない商品はお金が支払われません。
CFイエロー
専業主婦が掃除や洗濯、料理などの家事をするとき、それに対してお金が支払われることはありません。
確かに、そこには労力や時間も費やされているのですから、同じだけの労力や時間を別の仕事に注いだり、あるいはホームヘルパーとして働いたりすればお金が得られます。
しかし、自分の家庭で家事をしている以上、そこに市場性はなく、お金が支払われることもないのです。
このことから、会社が提供する商品の販売価格には、合理的な根拠があると言えます。
購入を検討する外部との関係の中で、合理的な販売価格を設定するためには、原価計算が必要となります。
これも、原価計算が純粋に自社の経営のためのものとは言えない部分です。
原価管理のため
原価管理とは、経営を管理する立場にある人が、原価の維持や原価の引き下げなどを適切に行うことを指しています。
しかし、大蔵省の公表している見解によれば、原価維持を主要な目的としており、原価引き下げについては特に触れられていません。
原価維持とは、ある商品があった場合、その商品の材料や生産方法を一定に維持するために、標準原価を定め、その標準に近づけるためのものです。
もっとも、同じ商品を同じように生産していくだけでは成長がなく、経営的にも好ましくないため、原価の引き下げを考える必要があります。
CFブルー
原価の引き下げとは、商品のクオリティを下げることなく原価を抑えることだよ。
また、生産方法を検討することによっても原価の引き下げを図ります。
原価を引き下げるためには、製品を企画する段階で原価低減を図る原価企画、既に生産している製品について、材料や生産方法を改善することで原価低減を図る原価改善があります。
もし、原価管理が原価維持と原価引き下げの両方を対象としているならば、そのような原価管理のための原価計算は経営に役立つものとなるでしょう。
しかし、大蔵省の見解によれば、このような原価管理は原価の発生額をしっかりと記録し計算し、標準的な原価の水準と比較して、差がある場合には原因を分析したうえで能率アップにつなげることが目的であるとしています。
このことからも、あくまで基準における原価管理では原価維持を目的としており、原価引き下げは考えていないことが分かります。
また、原価計算基準では、直接材料費と直接労務費だけを原価管理の対象としており、間接費や販管費は原価管理を求めていません。
CFレッド
しかし、実際の会社経営では、原価の企画や改善にあたって様々な原価管理活動が必要となるぞ。
つまり、実際の経営においては、原価計算基準が想定していない部分についても原価管理を行っていくのです。
日商簿記検定や公認会計士試験で原価計算を修めた人でも、あくまでも大蔵省が原価計算基準として定めた範囲について学んでいるのですから、実際の経営に必要となる原価計算を全てカバーできるとは限らないのです。
予算管理のため
次に、原価計算は会社の予算編成と予算管理を効率化するために必要だとされています。
国家でも、企業でも、あるいは家庭においても、予算は非常に重要な要素です。
大蔵省が定めた原価計算基準では、予算について以下のように定めています。
「予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の用具となるものである」
このなかに、「企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し」という部分には特に注目すべきです。
CFイエロー
これは、予算を定めるためには具体的な中長期計画が事前に必要ということになるわ。
その中長期計画を1年間あたりで表示したものが年度予算となります。
まず計画があって予算を立てるのですから、予算の達成は計画の達成だということもできます。
そして、計画を金額に置き換えて予算とする際には、原価計算が必要となります。
もし、原価計算の知識が誤っていたとすれば、計画を金額で置き換えて予算を立てたとしても、その予算で事業を進めていくことが困難となり、経営計画も失敗に終わることとなります。
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経営計画策定のため
経営にあたっては、中長期の経営戦略が必要であることは、皆さんもよくご存知だと思います。
その中で、設備投資や企業買収などといった重要な意思決定を伴う場合もあると思います。
そのための方策を検討するにあたり、最善の策によって進めていくためには、原価計算が欠かせません。
というのも、経営計画を設定するためには、現状における業績や財政、将来的に予測される変化などを踏まえて計画していく必要があり、そこに原価計算という考え方がない場合には、大雑把な計画しか立てられないからです。
大蔵省の発表でもこの点に触れており、経営計画設定のために必要な原価情報を得るために、原価計算が必要であるとしています。
原価計算基準が指す原価計算とは・・・
以上のように、大蔵省が見解では、原価計算基準は色々な目的があることが分かります。
しかし、ここで言われる原価計算とは、制度としての原価計算に過ぎないことも分かります。
財務諸表を作成し、原価を管理し、予算を管理するための制度として、原価計算を捉えているのです。
CFブルー
このことについては、大蔵省の発表でも以下のように明言されているんだ。
「原価計算基準において原価計算とは、制度としての原価計算をいう。
原価計算制度は財務諸表の作成、原価計算、予算統制等の異なる目的をが、ともに達成されるための一定の計算秩序である。
(中略)原価計算制度は、この意味で原価会計にほかならない」
つまり、大蔵省が定めており、日商簿記検定や公認会計士試験で求められる原価計算の知識とは、あくまでも制度としてのものに他なりません。
経理担当者が、試験で求められる原価計算の知識を持っていたとしても、それがそのまま全ての会社に当てはまるものではありません。
その知識によって、財務諸表や原価管理、予算統制などが可能とされているものの、実際にはどの製品がどれくらい儲かっているのかわからなかったり、原価管理がうまくできていなかったりするケースが非常に多いのです。
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まとめ
資金繰りに困っている会社の中には、原価計算に問題がありそうだという実感を抱いている会社もあるかもしれません。
しかし、経理担当者は一般的な原価計算の知識を活用して原価計算を行っているのですから、そこに問題があるとは考えないことも多いです。
しかし、その一般的な原価計算の知識というものは、あくまでも制度としてのものに過ぎないのです。
多くの会社に必要となる知識ではあっても、多くの会社が資金繰りに役立てていけるとは限らないのです。
したがって、資金繰りに困っている会社では、原価計算を今一度見直し、自社に適した原価計算システムの再構築を検討してみる必要があるかもしれません。
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