企業経営においては、さまざまな理由から「運転資金が厳しい・・・」という悩みが生じることがあります。
運転資金が不足したとき、それを解消するためには売掛債権をお金に替えるという方法があります。
売掛債権の有効活用は、単に運転資金を調達するだけではなく、経営を効率化する働きもあります。
本稿では、運転資金と売掛債権の資金化について解説していきます。
運転資金の考え方
まず、本稿の解説を進めるにあたって、運転資金というものを正しく理解しておくのがよいでしょう。
運転資金というのは、ごく簡単にいってしまえば、事業を回していくために必要となる資金のことです。
企業が経営を続けて行くということは、仕入れを行い、生産をし、販売するという一連の流れが途切れることなく、円滑に循環していかなければなりません。
そのためには、資金が必要となります。
販売によって生じた代金を仕入代金の決済より先に回収し、仕入代金の決済に回して利益も確保するのが理想的な流れです。
しかし現実的には、売上代金の回収が仕入代金の決済よりも遅れることはよくあることです。
しかも、業種によっては、原料や商品の在庫は常に一定量を保有しておく必要があります。


したがって、運転資金は以下の計算式から算出することができます。
運転資金=売掛債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買掛債務(買掛金+支払手形)
※売掛債権:販売済みで代金が未回収のもの
※棚卸資産:販売前段階にある資産
この式を見ると、売掛債権と棚卸資産の金額相当額は資金が必要であり、その一方で買掛債務は支払期日まで代金の支払いを猶予されています。
そのため買掛債務を差し引いた金額が企業の運転資金として必要となる金額であることが分かります。
もっとも、運転資金の算出は、業種によって異なることもよくあります。
たとえば、業種によっては前渡金や前受金など、売掛債権や買掛債務に準ずるものが発生することがありますが、その場合にはそれらを考慮して運転資金を算出する必要があります。
そのような業種として分かりやすいのは、建設業です。
建設業では、工事代金の回収が着工時・棟上時・完工時の三段階に分割して支払われることが多くなります。
そのため、労務費や材料費、下請け先に対する前払い金などの支払いが先行することになりますから、工事立替金需要が発生することになります。
建設業の工事立替金は以下の計算式から算出します。
工事立替金=受取手形+完成工事未収入金+未成工事支出金-(支払手形+工事未払金+未成工事受入金)
この他、サービス業ではサービスの提供に先立って、顧客からさまざまな前受金を受けることがあります。
旅行業ならば旅行前受金、学習塾ならば授業料、その他さまざまなサービス業における会費などがこれにあたります。
その場合には、運転資金は比較的少額になることが多くなります。
多少専門的な解説になりましたが、運転資金はこのように考えると、より深く理解できます。
運転資金の種類
一口に運転資金といっても、運転資金にはいろいろなものがあります。
所要運転資金
これが最も基本的な運転資金であり、事業の円滑な継続のために必要となる運転資金のことです。
所要運転資金は、事業の継続のために経常的に発生する運転資金の需要を指すものです。
運転資金が不足した場合には銀行に融資の申し入れを行うものですが、その際には単に使途の確認が行われるだけではなく、事業継続のために果たしていくらの運転資金が必要となるのかを勘案することになります。



増加運転資金
所要運転資金は、企業がそれまでと同程度のペースで仕入れ・製造・販売を行い、同程度の金額を扱っていることが前提となっています。
しかし実際には、企業というものは売上を伸ばそうとするものですし、月や年度、あるいは季節によっても売上高は増減するものです。
このことから、回収条件や支払条件は常に一定ということはなく、変化するものです。
所要運転資金の計算式を見れば分かりますが、売上の増加や回収条件の長期化(すなわち売掛債権の増加)が起こると、必要な運転資金は増加することになります。
同じく、棚卸資産の増加、支払サイトの短縮化による買掛債務の減少などが起こった場合にも、運転資金は増加します。


増加運転資金の需要について検討を行う際には、まず発生の原因を確認することが大切です。
売上が増加しているために運転資金も増加しているのであれば、増加運転資金の発生は好ましいことといえるでしょう。
しかし、資金繰りの悪化に伴う増加運転資金が発生している場合には、ネガティブに捉えなければなりません。

- 売掛債権の中に不良債権が発生している
- 棚卸資産の中に売れ残りが発生している
- 信用力が低下したことによって支払先から早期の支払いを求められてる
増加運転資金の発生を検討するときは、検討のための資料として決算書を用いることになります。
しかし、現時点と決算期が離れている場合は、正しい資金需要を測るのが難しくなります。
そこで、直近の試算表を作成し、試算表と前期末の決算書を比較することによって、増加運転資金の需要を検証することが重要です。
つなぎ資金
代金の回収よりも支払いが先行するものの「売上代金の回収や資産の売却による資金調達・融資による資金調達」によって近い将来に資金が得られることが分かっていることがあるでしょう。


つなぎ資金を検討する場合には、つなぎ資金の発生原因はどこにあるのか、そして返済原資(つなぎ資金の返済に充てようとしている資金)の確実性をよく検証しなければなりません。


季節資金
季節資金とは、季節によって需要が異なることから生じる運転資金のことです。
たとえば、花粉の季節には花粉対策商品の需要が高まります。
ほかにも、夏には納涼関連商品の需要が高まりますし、冬には暖房関連商品の需要が高まります。

季節資金を検討するにあたっては、業界の特徴や商品の需要傾向を市場調査によって把握する必要があります。
賞与資金
賞与資金は、夏と冬、あるいは決算月などの賞与支払いによって発生するものです。
通常の給与ならば、毎月均等に支払うことができますが、賞与はそうはいきません。
年に数回支払いが膨らみ、特別に資金需要が生じることになります。

決算資金
決算資金には、役員の賞与支払いのための資金、納税のための資金、配当金支払いのための資金があります。
これらの検討には、決算数値の見込み額から検証していくことになります。
当サイトのいろいろな記事において、「運転資金」という言葉はたびたび登場しました。
一口に運転資金といっても、広く捉えればいろいろな性質の資金があるのです。

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貸し倒れは資金繰りを圧迫する
上記のとおり、運転資金とは事業の継続のために必要となる資金需要のことです。
運転資金が足りなくなる原因にはいろいろ考えられますが、多くの企業にとって身近な原因として、貸し倒れが挙げられます。
貸し倒れのことを、「焦げ付き」ということもあります。

一般的に、売掛債権の回収が困難になったと判断したならば、貸倒引当金として一定の金額を見積もって計上し、損失の確認を行います。
企業が倒産する原因には様々なものがありますが、その原因はどれも経営内容の悪化に伴うものです。


通常、取引先の選定にあたっては、貸し倒れのリスクを軽減するために信用調査を行います。
自社で行ったり、信用調査機関を利用して行ったりするのですが、信用調査の不足が貸し倒れの根本原因なのです。
なぜ信用調査が不足してしまうのでしょうか。その原因には、以下のようなものあります。
- 取引先が大企業の系列化にある、有名企業である、代表者が名士であるなどの理由から、それを過信して信用調査を怠ってしまう
- 取引先が大企業と取引をしていることから問題ないと過信し、信用調査を怠ってしまう(大企業は調査能力や危機管理能力が高いため、取引先の経営内容が悪化すれば早急に取引から撤退し、債権の保全を図ることができますが、大企業の取引に追随した企業はそれができずに貸し倒れとなってしまいます)
- 懇意にしている人物や付き合いの長い取引先から紹介された企業であることから、信用調査を怠ってしまう(紹介者の信用力と被紹介企業の信用力は別物です)
- 自社の担当者が信用調査以外の業務も請け負っていた場合、病欠や長期出張で不在となるなどして十分な信用調査が不可能となり、少ない情報で取引を始めてしまう
- 与信プロセスを十分に構築していなかったために、架空取引などに巻き込まれてしまう
- 売上目的達成、急な拡販、新規商品の売り込みなどのために、不十分な信用調査で営業部門が暴走してしまう
- 社内の決済プロセスに不備があり、各社員が規定を守らずに取引をしてしまう
以上のような理由から、信用調査の不足を招くことになり、貸し倒れを引き起こしてしまうことは、決して少なくありません。
それが、ひいては運転資金不足を引き起こすこともあるのです。
貸し倒れは、運転資金不足以外にもいろいろな弊害を引き起こします。
貸し倒れの影響
貸し倒れのリスクは、企業にとって非常に大きなものです。
それまでに企業努力で稼いできた利益を大きく損なうものなのです。
損失がどれくらい大きいものであるかということは、具体的な数字を挙げて考えるとよく分かります。
たとえば、あなたの会社が利益率10%の商品を販売していたとします。
ある取引先に対して1000万円の掛け売りを行い、支払期日には100万円の利益を見込んでいたとしましょう。
その取引で貸し倒れを起こしたならば、利益率が10%であることを考えると、1000万円の損失を取り戻すためには、1億円分の商品を販売しなければならないことが分かります。
1000万円の取引を10回繰り返さなければ取り返すことはできないため、いかに大きな負担になるかがわかると思います。


取引先の倒産によって貸し倒れになったならば、取引自体がなくなるため、販売機会の損失でもあり、長期的に見て売上と利益が減少することになります。
このように、貸し倒れは短期的・長期的に資金繰りを圧迫することになります。
多くの企業は、支払期日に資金を回収し、それを運転資金に充てることを考えているものです。

銀行融資や資産の売却などによる資金調達が困難であれば、ノンバンクの事業者ローンから、悪い条件での資金調達を余儀なくされることもあります。
高金利のノンバンクから融資を受ければ、金利負担が大きくなり、自社の資金繰りは確実に圧迫されて行くことになります。

本来ならば、社員の労力は前向きな活動に費やされるはずであったのに、自己処理に伴う回収や社内報告などの業務に費やされて行くことになります。
これは収益の機会を逃すばかりでなく、社員の士気を損なうことにもつながります。
社員の士気の低下は社内モラルの低下などにつながり、目に見えにくいところで徐々に企業の体力をむしばんでいきます。

貸し倒れを起こしたということは、自社の信用調査が不十分であったということを世間に知らしめることになります。
貸し倒れの影響によって資金繰りが圧迫された状態は、自社の経営内容の悪化にほかなりません。このように、管理面・財務面の実態が露呈すると、対外信用は低下していくことになります。



資金繰りの悪化から運転資金不足を引き起こした状態では、さまざまなリスクに耐えることができなくなります。
再び貸し倒れが起きるなどすれば、連鎖倒産に追い込まれることもあり得ます。

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運転資金の不足と融資
では、ここからは運転資金が不足した場合の対処法を見ていきましょう。
運転資金が不足すると、事業の継続が難しくなってしまいます。
そのため、何らかの方法によって資金調達をしなければなりません。
では、どのような方法によって資金を調達していけばよいのでしょうか。
まず、多くの経営者が考えるのが融資を受けることです。
銀行融資は、資金調達のために最も活用されている方法であるといえます。
この他、日本政策金融公庫などの公的機関から融資を受ける方法もあります。
銀行融資と公的融資のどちらからも融資を受けられなかった場合、それでも融資に固執するならばノンバンクからの融資が考えられます。
「いずれの機関から融資を受けるか」ということは、自社の経営状態などを考慮して「どの機関ならば融資してもらえるか」ということでもあります。
しかし、いくら経営状態が悪いといってもいきなりノンバンクに融資を申し込む経営者はいないように、自社の経営状態のいかんにかかわらず、金利の安さを重視して融資先を検討することになるでしょう。

金利は「銀行ならば年率1.0~4.0%・日本政策金融公庫ならば年率0.5~3.0%・ノンバンクならば年率8.0~18.0%」といったところです。
さすがに公的融資は国の政策で行われる融資というだけあって、金利は一番低くなっています。
銀行も金利が低いのですが、銀行といえどもやはり一つの会社ですから、公的融資と比較するとわずかに高くなっています。

闇金などを利用するくらいならばノンバンクを利用したほうがいいのは当たり前です。それでも18%もの金利で借りてしまうと、金利負担が大きいため、結局は運転資金不足の原因になることも多いです。
金利面を見れば、公的融資が最も優れています。
しかし、公的融資は資金使途目的が見られるのはもとより、融資対象条件が非常に細かく定められています。
そのため、融資の条件に該当しないことも多くなります。
条件に当てはまるならば、公的融資に申し込むのがよいでしょうが、当てはまらなければ融資を受けるのは難しいといえます。
だからこそ、銀行融資を検討する企業が非常に多いのです。
銀行融資の場合
銀行融資は、公的融資のように融資条件が細かく定められていません。
融資の際に重要となるのは、主に企業の事業成績や財務内容、担保の有無です。
事業成績や財務内容が良好であり、担保も差し出せる会社ならば、銀行融資を受けるのがよいでしょう。
そのような企業でも、偶発的な貸し倒れに見舞われて運転資金が不足し、どうしても銀行融資を受けなければならないことがあるものです。

しかしながら、中小企業の運転資金不足の背景には、事業成績の悪化、不健全な財務内容が潜んでいることも多いものです。
事業成績の悪化を防ぐために無理な営業をした結果、貸し倒れに見舞われ、それによって財務内容が非常に厳しいものとなっている企業もあるでしょう。
そのような場合でも、相当の担保があれば銀行融資を受けられることがありますが、中小企業は担保に乏しいのが普通です。
ノンバンクの場合
そんなとき、資金調達の方法をあまり知らず、「資金調達≒融資」という風に捉えているならば、残る借入先はノンバンクだけになります。
しかし、上記の通り、ノンバンクは非常に金利が高いというデメリットがあります。
なぜ公的融資や銀行は金利が安く、ノンバンクは金利が高いかといえば、それは融資の原資が異なるからです。


資金量でいえばノンバンクが圧倒的に少なく、一件ごとの融資で確実に利益を上げていかなければならないことから、高金利での融資を行っているのです。
確かに、ノンバンクの商工ローンは、公的融資や銀行融資に比べて審査が緩いというメリットがあります。
ノンバンクでは、公的機関や銀行の審査に通らなかった人の受け皿となっているのですから、審査基準が甘いのです。
その甘さにつられて利用する経営者も多いものですが、ノンバンクの利用はお勧めできません。
金利を元に返済状況を予測すれば、そのことがよく分かります。

借入金額が大きくなれば金利はやや低くなりますから、年率15%で借りたと仮定します。
運転資金が不足している企業ですから、返済による負担はできるだけ分散したほうがよいため、50回払いとしておきましょう。
すると、毎月元金として4万円を支払い、元金残高に応じて年率15%の金利がかかります。
最初に借りたお金は200万円ですから、これを50回払いで支払うと、完済時の支払総額は262万8743円となります。

同様に、銀行から200万円を年利3%で借り入れ、50回払いで返済したとするならば、完済時の支払総額は212万7500円です。
当然ながら、借入金額が大きくなればなるほど支払利息の差は大きくなっていきます。
このように、ノンバンクからの借入は支払利息が資金繰りを圧迫する可能性が高く、更なる運転資金不足の原因にもなりかねません。
だからこそ、できるだけ利用すべきではないのです。

そのような場合であれば、短期間での完済が可能であり、利息負担も小さくて済むため、ノンバンクから借りてもそれほど影響はないのです。

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売掛債権をお金に変える!
ここまでの内容から、貸し倒れを起こすと運転資金不足に陥る危険性があり、それがひいては倒産につながる可能性があることが分かりました。
また、そのような状況の中で公的機関や銀行からの融資を受けられないこともあります。
だからと言ってノンバンクのビジネスローンは高金利ですから、利用しない方が賢明であることも分かりました。
倒産の憂き目を見ないためには運転資金を常に不足しない状態に保っておき、そのためには売掛債権をしっかりと回収していくことが大切です。
しかし、売掛債権の回収がいつもうまくいくとは限らないのが実際のところです。
基本的には、信用調査を行い、信用不安がある会社とは取引を行わず、取引を行う会社ごとに適正な与信限度額を設けることによって、しっかりと売掛債権を回収していくことができるでしょう。
とはいえ、
- 信用調査が不十分である
- 取引相手を誤ってしまう
- 与信限度額が不適正である
- 売掛債権の回収マニュアルが不十分である
など、どこかに欠陥があれば貸し倒れリスクが発生するのですから、このリスクを完全にゼロにすることは非常に難しいことであるといえます。
ならば、貸し倒れによって運転資金不足に陥った場合には、どのように対応していくべきなのでしょうか。
銀行や公的機関から融資を受けられず、ノンバンクは利用したくないとなると、ほかに選択肢はないと思う人もいるかもしれません。

といっても、そもそも担保にできる土地や不動産がなくて融資を拒否されているのですから、それらを売却するということではありません。
どの企業でも持っている資産、つまり売掛債権を活用することによって、運転資金を調達することができるのです。
売掛債権を流動化すること
売掛債権をお金に変える方法はいくつかありますが、それらの方法を利用すれば、回収期日前に資金化し、運転資金の不足を解消することができます。
もちろん、信用調査を怠り、リスクの高い売掛債権を保有していたならば、資金化の効率も悪くなってしまうことはあります。
しかし、少なくとも貸し倒れによって代金を全く回収できなくなるということはなくなりますから、運転資金に与える影響も軽微になります。


このように、売掛債権を利用して資金調達をおこなうことを、売掛債権流動化と言います。
ご存じのとおり、売掛金や手形といった売掛債権は数ヶ月後の支払いを約束して発生するものですから、本来流動性が低いものです。
しかし、何らかの方法によって売掛債権の流動化を図れば、売掛債権の流動性を高め、運転資金不足も未然に防げるようになるのです。
売掛債権流動化の方法は、3種類あります。

このうち、売掛債権証券化とファクタリングでは、売掛債権を譲渡することで現金を得ることができます、
それに対し売掛債権担保融資は売掛債権という資産を担保とすることで銀行から借入をするものです。
本稿はタイトルの通り、売掛債権をお金に替える方法を紹介するものですから、厳密にいえば売掛債権担保融資はやや的外れかもしれませんが、売掛債権を利用して資金調達を行う方法には違いありませんから、紹介しておこうと思います。
売掛債権証券化とは
まず、売掛債権証券化とはどのようなものなのでしょうか。
これは、その名の通り売掛債権を証券化することによって、お金に替えてしまうものです。
そもそも、売掛債権は後日の支払いを約束して生じるものですから、基本的には額面相応の価値を持っているものです。
そこで、支払期日に払われる代金を裏付けとすることで証券を発行することも可能であり、これを売掛債権証券化と言います。
売掛債権証券化の流れ
具体的には、以下のような流れで資金化されます。
- 自社が取引先に掛け売りで販売し、売掛債権が発生する
- 支払期日より前の段階で、自社からSPV(後述)に売掛債権を譲渡し、資金を受け取る
- SPVは売掛債権を証券化し、投資家に販売することで利益を得る
- 後日、売掛債権の支払期日になると、SPVは売掛債権を回収して投資家に分配金を支払う


売掛債権証券化のメリット
売掛債権証券化には、たくさんのメリットがあります。
まず、資金調達が可能となることです。
運転資金が不足した状態では、どうにかして資金を調達して不足分を埋めなければなりませんが、売掛債権には支払期日がつきものですから、すぐに回収することはできません。

この他、売掛債権が証券化されることにもメリットがあります。
一口に売掛債権といっても、信用不安のある売掛債権もあれば、逆に回収がほぼ確実な売掛債権もあるでしょう。
SPVでは、売掛債権のリスクに応じて、それぞれ異なる金融商品として投資家に売却しています。

このほか、契約内容によっては、リスクの切り離しというメリットもあります。
本来ならば、売掛債権は売掛先が倒産した場合には回収が非常に難しいものですが、SPVに譲渡することによってSPVが回収することになります。
このことによって、売掛先が万が一倒産した場合にも、そのリスクをSPVに移転することができるのです。
ただし、証券化の方法によってリスク移転が限定的になることもあります。
売掛債権担保融資
売掛債権担保融資は、その名の通り、売掛債権を担保として融資を受けるものです。
売掛債権担保融資は、他の売掛債権流動化のように譲渡の対価として資金を調達するものではなく、あくまでも担保に入れることで融資を受けるものです。

もっとも、この返済は売掛債権の回収によって賄うことが可能であるため、売掛債権の有効活用につながります。
売掛債権担保融資では、万が一融資を受けて返済が不可能になった場合、信用保証協会が借入残高の90%を支払ってくれます。
信用保証協会に保証料を支払う必要がありますが、このシステムが売掛債権担保融資の利用を容易にしています。
売掛債権担保融資の流れ
- 自社が取引先に掛け売りで販売し、売掛債権が発生する
- 売掛債権の支払期日よりも前に、売掛債権担保融資を金融機関に申し込む
- 金融機関が審査を行う
- 金融機関が融資可能と判断すれば、金融機関から信用保証協会に保証を申し込む
- 信用保証協会が保証可能と判断すると、金融機関に信用保証書が発行される
- 自社と金融機関の間で融資関係契約書を結び、融資が行われる
一般的な銀行融資では、土地や不動産や預金が担保になるものであり、それがなければ融資を受けることはできません。
しかし、売掛債権も土地や不動産と同じく会社の資産です。
売掛債権担保融資という制度を利用すれば、売掛債権を担保として活用し、運転資金不足に対応することができるのです。

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一番のお勧めはファクタリング
三つめの方法は、ファクタリングです。
ファクタリングとは、売掛債権を譲渡することによって資金調達をすることであり、その点では売掛債権証券化と同じです。


流れを見れば、ファクタリングのほうがより簡単な流れで資金化を行っていることが分かります。
当サイトでは、いろいろある方法の中でも、特にファクタリングを最上の方法として紹介しています。
ファクタリングの流れ
ファクタリングの利用の流れは、以下の通りになります。
- 自社が取引先に掛け売りで販売し、売掛債権が生じる
- 売掛債権の支払期日よりも前に、ファクタリング会社とファクタリング契約を結び、売掛債権を譲渡し、資金を受け取る
- 後日、支払期日が来たならば、二社間ファクタリングの場合には自社で売掛先から回収し、代金をファクタリング会社に振り込む。三社間ファクタリングの場合には、ファクタリング会社が売掛先から回収を行う


日本では、もっぱら二社間ファクタリングが利用されています。
これは、ファクタリングサービスを利用する会社が増えてきているとはいえ、まだ日本ではそれほど一般的な方法ではないからです。
つまり、取引先によっては、ファクタリングの事実を知られることによって、自社の経営状態が悪いのではないかと疑われる可能性があります。
そうなれば信用を損ない、取引先が取引を縮小したり、取引から撤退する可能性があるのです。

このため、日本におけるファクタリングの多くは二社間ファクタリングとなっています。
これに対し、欧米ではファクタリングが企業の財務活動の一部ごく普通に利用されています。
そのため、ファクタリングの事実を取引先に知られただけで信用を損なう恐れはありません。
むしろ、三社間ファクタリングにすることによって、売掛債権の回収までファクタリング会社にアウトソーシングできるのですから、欧米では三社間ファクタリングが一般的です。
今後ファクタリングが定着していけば、日本においても三社間ファクタリングが一般化していくことでしょう(もちろん、二社間ファクタリングがより一般的というだけのことであって、日本のファクタリング会社も三社間ファクタリングを提供しています)。
ファクタリングの種類
ファクタリングは、上記の通り売掛債権を譲渡することで資金調達を行う方法です。
これによって、不足した運転資金を補うことができます。
一般的に「ファクタリング」というときには、このような売掛債権譲渡のことを指し、ファクタリング会社に売掛債権を買い取ってもらうことから「買取ファクタリング」ということもあります。
買取ファクタリングは、償還請求権の有無によって二種類に分けられるほか、売掛債権を譲渡せずに保証を受けるだけの「信用保証ファクタリング」もあります。
それぞれのファクタリングを説明すると、以下の通りです。
償還請求権留保・前払方式ファクタリング
これは、売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらうことによって資金化するとき、償還請求権を留保したままファクタリングすることです。
解説文などでは、「償還請求権ありのファクタリング」などと書かれていることが多いです。

ファクタリングを行った会社は、支払期日を待たずに前払いでファクタリング会社から代金を受け取っているのですが、譲渡した売掛債権を受け戻し、全額をファクタリング会社に返さなければなりません。
しかし実際には、運転資金不足などの理由かファクタリングを利用している企業が多いため、前払いで受けた資金はすでに使っていることが多く、弁済のしようがないこともよくあります。
償還請求権放棄・前払方式ファクタリング
これは、ファクタリングにあたって償還請求権を放棄する形でファクタリングするものです。
解説文などでは、「証券請求権なしのファクタリング」などと書かれていることが多いものです。


もっとも、
- 元々の商取引に欠陥があった
- 譲渡した手形に欠陥があった
- 偽造手形だった
- 公権力によって債務を免除された
などの理由から支払いを拒否された場合には、弁済しなければならないという特約になっています。
信用保証ファクタリング
信用保証ファクタリングは、保険としての機能を果たすものです。
買取ファクタリングのように、売掛債権を譲渡するものではありません。
売掛債権の価値から保証限度額を算定して契約し、万が一回収不能になった場合には、保証限度額を上限として補てんしてくれます。

信用保証ファクタリングは、譲渡によって支払期日前の資金調達を行うものではありません。
したがって、運転資金不足ですぐに資金調達をしたいならば、買取ファクタリングを利用する必要があります。
しかし、信用保証ファクタリングを活用して貸し倒れリスクを軽減することができれば、そもそも運転資金が不足する可能性も小さくすることができるのですから、信用保証ファクタリングにも相応の利用価値があります。
例えば、すぐに資金調達をする必要はないものの、万が一貸し倒れが起きた場合に備えて信用保証ファクタリングを利用しておけば、より健全に運転資金を確保していくことができるということです。
ファクタリングのメリット
ファクタリングのメリットはたくさんあります。
資金繰りがよくなる
これまでにも解説してきたとおり、売掛債権は数ヶ月先でなければ回収できないものです。
しかし、売掛債権の発生にあたっては商品の販売やサービスの提供をしており、そのためにはいろいろな支払いを行っているものです。
短期的な財務を見ると、回収までの間はマイナスの状態となっており、数ヶ月後に回収してから始めてプラスに転じ、利益も上がるのです。


そんなとき、ファクタリングによって売掛債権を運転資金に変えることができれば、資金繰りがよくなることは、言うまでもありません。
オフバランス化に役立つ
売掛債権は、貸借対照表の売掛債権の欄に記載されるものであり、その他の資産とは別途管理しなければならないものです。
管理のためにはコストもかかりますし、現金と売掛債権の比率がおかしい(現金が少なく、売掛債権が多い)状態であれば、他の企業の信用調査を受けるときや銀行融資を希望するときに悪印象になることもあります。


オフバランス化が進んでいる会社は、事業経営のために資産を有効活用できているということですから、対外的な評価が上がるのです。
リスクマネジメントに役立つ
これまでも述べてきたとおり、貸し倒れが企業に与える影響は決して軽いものではありません。
大きな額の売掛債権が貸し倒れとなれば、企業の体力は大きく損なわれてしまいます。
もともと企業体力に優れた大きな会社であれば、一度や二度の貸し倒れでは大して影響を受けないこともあるでしょう。


信用保証ファクタリングにしても、貸し倒れリスクを大きく軽減することができます。
ファクタリングによって、貸し倒れのリスクに平常から備えておけば、運転資金不足を防止し、健全な経営が可能となります。
様々な業務のアウトソーシング
ファクタリング会社にもよりますが、ファクタリング会社は売掛債権の買い取りや保証以外にも、売掛債権に関する様々な業務を請け負ってくれることがあります。
たとえば、信用調査サービスが代表的なものです。
ファクタリング会社は売掛債権を買い取るにあたり、買取率を決定して買取料を算出し、額面金額から差し引くことで利益を得ています。
信用保証ファクタリングの場合には、保証料がファクタリング会社の利益となります。
ファクタリング会社は、適正な買取料を算出する、あるいは適正な保証限度額を算出するにあたって、売掛先と売掛債権の評価を行います。

本来ならば、信用調査は自社で行って取引の可否や与信限度額の決定を行っていくものですが、ファクタリング会社に依頼すれば、プロの手で信用調査を行ってもらうことができるのです。
たとえば、取引先Aの売掛債権をファクタリングするならば、ファクタリング会社はA社に対して信用調査を行います。

この他にも、売掛帳簿の作成・記帳事務・売掛債権の期日管理などの事務処理を代行してくれたり、経営上の問題についてコンサルティングしてくれるファクタリング会社もあります。
以上のように、さまざまな業務を代行してくれるファクタリング会社もあり、それをうまく活用すれば、本来自社で行うべき業務を外部にアウトソーシングすることができます。
そうすれば、自社の経営資源を本業に集中させ、経営の効率化を図ることもできるのです。
まとめ
企業の円滑な経営のために、運転資金は常に不足させることないように供給しなければならないものです。
しかし、貸し倒れなどを起こすと運転資金が不足することがあり、資金調達に奔走することになります。
そんなとき、売掛債権を有効活用することによって、運転資金の調達が可能となります。
特に、ファクタリングを活用すれば、運転資金の調達以外にもさまざまなメリットがありますから、単に資金調達をするだけではなく、経営の効率化も図ることができるのです。
