電子記録債権という言葉は、多くの人が聞いたことがあるでしょう。
しかし、電子記録債権を漠然としか理解していないことから、意味を取り違えている人も多いものです。
本稿では、電子記録債権の仕組みやメリット、安全性などについて解説していきます。
電子記録債権とは?
電子記録債権とは2013年2月に登場した新たな決済手段で、でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)が取り扱うものです。
「でんさい」というキーワードを聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは電子記録債権の愛称です。
電子記録債権制度自体は、2008年12月に創設されていました。
中小企業をはじめとする事業者の資金調達が円滑になることを目的としたものです。
- 事業者は支払い手段を一本化して資金効率をアップする
- 債権の保管や搬送のリスクをなくす
- 事務手続きを簡便にする
- 印紙税などの負担をなくす
電子記録債権を利用することによって、このように恩恵に浴することができるようになりました。
2013年度のデータを見てみると、企業が保有している手形の残高は約22兆円であり、売掛金は約198兆円にも上ります。
合計約220兆円もの売掛債権が効率的に利用されるようになれば、企業の資金繰りも大変よくなることから、将来的な可能性を大いに期待されています。

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電子記録債権の仕組み
電子記録債権の仕組みを簡単に説明しておきましょう。
電子記録債権は、電子記録債権法の元に流通しています。
従来からあった受取手形や売掛金といった売掛債権に代わり、電子的に記録することによって「債権の発生・消滅・譲渡」などが可能となった新しい債権の形です。


いわゆる登記所のような役割を果たしているぞ。
このことから、従来の手形のように紛失や盗難のリスクがなくなり、事業者はインターネットを介して売掛債権の売買や管理を行うことができるようになりました。
電子記録債権も割引や譲渡することができるため、支払期日前に資金化したり分割して譲渡するといったことも可能になりました。
このほかには、債務者が代金の支払いを完了すると、データは抹消される仕組みになっています。
このため、債権の二重譲渡などが起こるリスクもなくなり、安全性の確保にも一役を買っています。
このようなメリットについては、以下に詳述します。
電子記録債権の利用条件
電子記録債権を利用するためには、そのために利用条件や環境を満たす必要があります。
利用条件については「属性要件・経済的要件・利用資格要件」のすべてが満たすことが求められます。
属性要件とは
- ビジネスの利用であること(電子記録債権は法人、個人事業主、国・地上自治体を対象にしているため、個人での利用はできない)
- 国内居住者であること
- 適合性に問題がないこと(反社会的勢力に属しているなど)
ということです。
経済的要件とは
- でんさいネットに参加している金融機関に決済口座を開設していること(普通預金でも当座預金でもよい)
- 決済口座がある金融機関の審査を通過していること
ということです。
利用資格要件とは
- 事業者として成立していること(破産・廃業などをしていないこと。債務者として利用する場合には債務者利用停止措置中ではないこと)
ということです。
※ 債務者利用停止措置・・・電子記録債権の決済ができなかった場合には支払不能処分を科せられます。
1回目の支払不能から6ヶ月以内に2回目の支払不能となった場合、2年間の取引停止処分を科せられ、これを債務者利用停止措置といいます。

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電子記録債権の利用に必要な環境
次に、電子記録債権を利用するために必要となる環境について説明します。ここでいう環境を備えていなければ電子記録債権は利用できません。
電子記録債権は相手企業があって初めて取引されるものです。自社だけではなく相手企業もこの環境を備え、電子記録債権を利用している必要があります。

その上で取引している金融機関に利用申し込みを行い、取引先にも電子記録債権の利用申し込みをしてもらいます。
自社が支払企業であるときは、利用者番号と入金口座を自社のパソコンに登録します。自社が受取企業である場合には、取引先に利用者番号と入金口座を伝えます。
電子記録債権を利用するためには、取引金融機関に利用申込書を提出することになります。
その際には「印鑑証明書と決済口座の届印」は共通して必要です。
- 法人の場合:商業登記簿謄本あるいは現在事項全部証明書
- 個人事業主の場合:本人確認書類(運転免許証など)
これらが追加で必要となります。
電子記録債権のメリット
電子記録債権は新たな債権の形です。
よく、手形や売掛金を電子データ化したものであると思われています。これも大きく考えるならばそれほど間違いではないのです。

電子記録債権は、券面や書類によって発行されていた従来の売掛債権に対し、それらの売掛債権につきものだった問題点を克服するものとして誕生したのです。
電子記録債権がどのような点で優れているのかは、従来の売掛債権と比較してみるとよく分かります。
手形と電子記録債権の比較
手形 | 電子記録債権 | |
コスト | 作成・交付・保管にコストがかかる | 電子データの送受信によって管理するため コストが軽減される |
リスク | 紛失や盗難のリスクがある | 記録機関の記録原簿で管理されるため、 紛失や盗難のリスクがない |
利便性 | 分割できない | 分割できる |
売掛金と電子記録債権の比較
売掛金 | 電子記録債権 | |
リスク1 | 譲渡対象の売掛金の不存在 二十譲渡などのリスクがある |
電子記録によって債権の存在と帰属が可視化されるため、 不存在・二十譲渡のリスクがない |
リスク2 | 人的抗弁を対抗されるリスクがある | 原則的に人的抗弁は切断されており、リスクはない |
利便性 | 譲渡の際に債務者に対抗するため、 債務者に通知しなければならない |
電子記録によって債権の存在と帰属が明確であるため、 通知の必要がない |

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電子記録債権のデメリット
電子記録債権にもデメリットがあります。
もっとも、電子記録債権は従来の受取手形や売掛債権の問題点を解消するために生まれたものですから、大きなデメリットはありません。
取引先の協力が必要になる
電子記録債権を利用するためには、上記の通りの利用条件や利用環境を満たす必要があります。
取引をする両社がともに電子記録債権を利用して初めて取引可能となります。
そのためには金融機関への申し込みが必要であり、自社だけではなく取引先にも申し込んでもらう必要があります。
会計処理が変更になる
電子記録債権を初めて利用する会社は処理が煩雑になるこれまで利用していた通常の売掛債権とは異なる会計処理をしなければなりません。
これまでは受取手形や売掛金として処理していた勘定項目が、電子記録債権に変更されるためです。
そのため、一時的に処理が煩雑になる可能性があります。
普及率が高くない
電子記録債権はまだまだ生まれてから日が浅い決済手段であるため、従来の売掛債権と比較して一般的とは言えない状況です。
今後、利用拡大していくことが見込まれていますが、それまでには時間が必要でしょう。そのため、取引先の協力が得られない可能性があります。
安全性の問題
電子記録債権はインターネット上で管理されます。そのため、ハッキングなどの攻撃を受ける可能性があります。
もっとも電子記録債権の安全性は高いため、そのリスクはかなり低いといえます。
電子記録債権の安全性
電子記録債権のデメリットを読むと、安全性の問題が気になることでしょう。
電子記録債権はインターネット上で管理されるものですから、セキュリティは万全を期す必要があります。

- 機密性とは、情報のアクセスを許可された利用者のみ情報を使用・閲覧できるようにすること
- 完全性とは情報に正確性があること
- 可用性とは、情報へのアクセスを許可された利用者が必要な時にいつでも情報にアクセスできること
これらの要素に対する電子記録債権のセキュリティは、どのようになっているのでしょうか。
情報の機密性
電子記録債権では、アクセスにあたって間接アクセス方式を採っています。
利用者からの申し込みと記録請求などの手続きがあった場合には、すべて金融機関が窓口となって行うというものです。
これまでも解説したとおり、電子記録債権を利用するためには、その前提として債権者と債務者の双方が利用者登録されていなければならないのです。
そのためには金融機関による審査と取引時確認を行い、利用手契約を締結しなければなりません。

窓口となる金融機関は、でんさいネットが設けるルールの中で利用を受け付けており、これに反する通信は途絶される仕組みになっています。
参加している金融機関しかでんさいネットシステムにアクセスできないため「不正アクセスによる取引情報の漏洩や改竄・なりすまし」などが防止されています。
情報の完全性
電子記録債権による取引は、すべて記録原簿に記録されています。
そのため、不正取引があった場合には記録原簿をもとに追跡が可能となっています。
さらに、発生記録請求や譲渡記録請求などの取引の結果は、電子メールによって利用者に通知されます。

電子記録債権は原則的に、支払期日に口座間送金決済によって自動的に決済されます。
電子記録債権の発生と譲渡は支払期日の7営業日以前に限られているのです。
そのため、通常の振込とは異なり、処理をしたらすぐさま資金が移動するというものではありません。

情報の可用性
でんさいネットシステムは、利用者がいつでもアクセスできる体制を整えています。
仮に災害やテロなどで混乱に陥り、でんさいネットシステムが普段通りの業務を継続できなくなった場合があったとしましょう。その際にはバックアップセンターが業務を継続する仕組みになっているため、アクセスが可能となります。
このほか、でんさいネットでは金融情報センターの「金融機関等コンピューターシステムの安全対策基準」に準ずるセキュリティガイドラインを設けており、システム管理体制を整えています。

電子記録債権の安全性に関するリスクは完全なゼロというわけではありませんが、リスクは極めて小さいといってよいでしょう。

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電子記録債権の譲渡
従来の売掛債権は譲渡することが可能でした。
たとえば手形の場合には、手形に裏書をして譲渡することで取引先への決済に利用することができます。手形割引によって割引先に譲渡することで資金化できるのです。
また、売掛債権をファクタリングすることによって資金化をすることも可能です。

もちろん、紙の手形のように、裏書をして譲渡するということはできません。
その代りに、記録原簿に譲渡を記録することで、譲渡することが可能なのです。
このとき、上記のメリットで解説したとおり、分割して譲渡することができます。
従来の手形では一括でしか譲渡ができなかったことに比べると、資金効率はかなり良くなるといえるでしょう。
このほか、ファクタリングを提供しているファクタリング会社の多くが、電子記録債権の譲渡に対応しています。