政府が働き方改革を推進していることにより、最近では人材確保の方法も多様化してきました。
就職困難者の雇用、外国人労働者の受け入れ、中途採用、女性の活躍促進など、様々な方法によって人材を獲得することができ、これらの取り組みによって受給できる助成金も多いです。
しかし、人材確保のために新たな採用活動を模索するよりも、従来の人材のより良い活用を目指す、例えばパートスタッフを活用することによって、人材不足を解消できる場合もあります。
本稿では、パートスタッフを活用して人材不足を解消した会社の実例を紹介しつつ、取り組みのポイント、キャリアアップ助成金の受給などについて解説していきます。
人材不足にどう対応するか
人材不足に悩む中小企業が増えている昨今、人材確保は企業にとって重要な課題となっています。
政府も、人材不足の深刻化を受けて、働き方改革によって様々な取り組みを実施しています。
これに伴い、企業が活用できる助成金も充実しているため、しっかりと活用していきたいものです。
ただし、両立支援、高年齢者の雇用、障害者の雇用、外国人労働者の雇用など、人材確保に役立つ様々な取り組みがある中でも、企業は自社に合った方法で人材確保を図る必要があります。
人材不足に悩む会社では、
- 採用活動に多くのコストをかけられない→正社員が雇えず、パートスタッフを雇う
- 人件費負担の増大を避けたい→正社員を雇わず、パートスタッフを雇う
といったように、パートスタッフによって労働力を確保していることも多いでしょう。
この方法であれば、実際の雇用を通じて能力や適性を見極めている人材を活用するのですから、新しいタイプの人材を雇用したり、両立支援のための仕組みを作ったりするよりも軽い負担で、人材不足を解消していくことができます。
また、キャリアアップ助成金は受給要件を満たしやすく、助成金の活用も比較的容易です。

新しい雇用の形が生まれていく中で、あえて従来の雇用を深めていくことも大切なのだ。

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K社の取り組みに学ぶ
キャリアアップ助成金について、当サイトでも様々な解説をしてきました。
活用しやすい助成金であるだけに、ネット上にはキャリアアップ助成金に関する情報があふれています。
しかし、助成金制度としての概要を取り扱った記事が多く、具体的な活用のイメージが湧かないと感じている人も多いと思います。
具体的なイメージを得るためには、キャリアアップ助成金を活用しながら、パートスタッフによって人材確保に成功した会社の実例を見るのが良いでしょう。
本稿で例とするのは、保険代理店業を営むK社です。
K社も、多くの中小企業と同じように人材不足に悩んでいました。正社員が欲しいと思っていても、なかなか優秀な人材が集まらず、パートスタッフを雇用して労働力を確保していました。
K社のアプローチを知ることで、キャリアアップ助成金を活用する多くのアイデアが得られます。
パートスタッフで人材確保する問題点
雇用したパートスタッフの中から、優秀なパートスタッフを正社員に転換することで人材不足を解消する・・・という文章だけを見ると、いかにももっともで、簡単な取り組みのように思えるかもしれません。
しかし、実際にはパートスタッフの活用には多くの困難があります。
なぜならば、色々な事情がある中で、あえてパートスタッフという立場を選んでいる人が少なくないからです。
K社でも、パートスタッフの中に優秀な人材がいました。
しかし、当初はパートスタッフたちの事情を汲み取らずに転換を図ったため、人材不足解消にはほとんど役立っていません。
K社は保険代理店業ですが、それ以外の多くの業種でも、パートスタッフとして働く理由は共通しています。
まず、パートスタッフには女性が多いという事実からも分かる通り、パートスタッフは家庭との兼ね合いからパートタイムを選んでいることが多いです。
もちろん、転勤を伴う業種であれば、正社員になることで転勤を要請されることもあるため、勤務時間だけではなく勤務地の制約を受ける人もいます。
このような理由でパートタイムを選んでいる人の中には、正社員として働きたいと思っている人もいます。
正社員として雇用できる可能性は確実にあるのですが、状況がそれを許さないのです。

いくら優秀な人材でも、パートスタッフとして働くしかない。そんな人材をどう活用するかを考える必要があるね。
パートスタッフの意見を聞く
パートスタッフを正社員に転換したければ、以上のようなパートスタッフ一般の事情を理解したうえで、自社で働くパートスタッフの意見をしっかりと汲み取り、転換制度を調整していく必要があります。
毎回の議論を通して、パートスタッフが正社員としての勤務をどう思うかについて意見を集めたところ、
という意見がほとんどでした。
責任が増える、勤務時間が長くなる、転勤がある正社員よりも、今のままパートスタッフとして、変化のない環境で働きたいと考えていたのです。
当初のK社では、
としてフルタイム正社員への転換を推進していましたが、K社のパートスタッフは育児中の30~40代の主婦が多く、ほとんどが1年更新の有期契約で、週5日・1日あたり4時間で勤務してきたため、転換が進まないのも当然だったと言えます。

パートスタッフの事情を無視して転換を図っても、とても無理だとわかるね。
柔軟な転換制度を整備する
議論を通してK社が考えたのは、柔軟な転換制度を作ることです。
正社員になれば、確かにパートスタッフ以上の責任は求められます。しかし、パートスタッフたちが避けたいのは勤務時間の増加や転勤です。
責任の増加については、責任の範囲が明確であり、給与に反映されれば納得を得られます。
そこでK社は、パートスタッフでも正社員になれるように、ジョブ型正社員の導入に取り組みました。
勤務内容が限定されれば、なし崩し的に様々な業務をこなす必要はなく、パートスタッフが納得している職務に限って、正社員としての責任が生じます。
責任は大きくなりますが、その範囲は限定的です。
勤務時間が限定されれば、毎日決まった時間に仕事を終えることができ、家庭との両立も容易になります。
K社では、勤務時間は限定されていても、フルタイムでの勤務が難しいパートスタッフのために、短時間勤務を認める「短時間正社員制度」も取り入れました。
もちろん、勤務地も限定し、転勤しなくて良いことを条件としました。
※ジョブ型正社員について、詳しくはこちら
これにより、K社の転換制度は、
- フルタイム正社員
- 勤務内容・勤務時間・勤務地などを限定したジョブ型正社員
- ジョブ型正社員の中でも、短時間勤務に限定した短時間正社員
など、様々な形での正社員を認めるものになりました。
また、
- 短時間正社員として転換したパートスタッフは、本人の希望によってフルタイムに切り替えることができる
- 正社員転換を受け入れたパートスタッフは、育児・介護などの特別な事情がある場合に、再びパートスタッフに戻ることができる
といった条件を設けました。
本人の置かれている状況と希望に応じて、「パートスタッフ⇔ジョブ型正社員(短時間正社員を含む)⇔一般の正社員」というように区分を行き来できる仕組みを作ることで、正社員転換へのハードルを大きく引き下げたのです。

パートスタッフが正社員として働きやすいように、意見をしっかりと反映した転換制度を作っているな。

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人事考課制度も整備
もちろん、優秀なパートスタッフを正社員転換させるためには、本人の能力や成績、意欲などを評価したうえで、転換を検討する必要があります。
このため、K社は人事考課制度の見直しを実施し、大卒新規採用の正社員と同等の貢献が期待できるパートスタッフを、転換の候補としました。
人事考課では、業績評価・能力評価・態度評価の3つの評価について、まず自己評価を行い、面談を通して上司が一時考課・二次考課を経て評価を決定します。
これにより、単に正社員転換の候補を選ぶだけではなく、選ばれなかったパートスタッフも意欲的に取り組めるようになります。
なお、K社では年に2回の人事考課を実施していますが、このように定期的な実施が欠かせません。
定期的に実施していれば、転換の候補となるパートスタッフを取りこぼすことがなくなります。
また、転換候補であるものの、家庭や育児を優先して正社員になれないパートスタッフを継続的に候補としておき、育児などが一段落したタイミングで転換させることも可能となります。

ただ柔軟な転換制度を作るだけではなく、優秀な人材をしっかり選ぶ仕組みも作ろう。

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K社で得られた効果
以上のように、パートスタッフの意見を汲み取りながら転換制度を整備した結果、K社には以下のような大きな変化が起きました。
人材不足の解消
まず、正社員への転換希望者が増加したことで、人材不足を解消することができました。
この取り組みの前は、K社の正社員とパートスタッフの比率は1:3でしたが、パートスタッフの3分の2が転換を希望した結果、今では正社員とパートスタッフの比率が3:1へと逆転しています。
K社では、パートスタッフの勤務時間は4時間程度ですが、短時間正社員では6時間、フルタイムでは7時間45分となります。
この結果、K社では多くのパートスタッフの新規雇用によって人材不足に対応するのではなく、パートスタッフの正社員転換によって対応できるようになり、人材不足は大幅に解消されました。

転換を促進すれば、それだけで人材不足を解消できることも多いのだ。
定着率の向上
当然ながら、定着率も向上しています。
パートスタッフとして働いている人材は、それほど責任を負うこともなく、容易に離職してしまうものです。
K社も、取り組み以前の離職率は年平均で10%程度であり、採用活動にコストがかかっていました。
この結果、取り組み以降のK社では、離職率が5%以下に低下しました。
もちろん、正社員として働けなくなった場合にパートスタッフに戻れることも、定着率向上に役立っています。

正社員転換は定着率アップにすごく効果があるんだね。
生産性の向上
K社の取り組みは、生産性にも良い影響を与えています。
人事考課を見直し、面談やフィードバックにも力を入れたことにより、パートスタッフは正当な評価を受けていること、評価が処遇に反映されていることを知り、意欲的に働くようになりました。
働く姿勢だけではなく、評価を高めるために能力開発にも意欲的に取り組む人が増え、一人ひとりの能力アップにもつながりました。
また、以前は「パートの仕事はここまで、ここからは正社員の仕事」といった線引きする風潮がありましたが、正社員になったパートスタッフや、正社員転換を目指すパートスタッフが積極的に仕事に取り組むようになりました。
この結果、組織風土が大きく変化し、生産性の向上につながったのです。

生産性が高まれば、これも人材不足解消に大きな効果があるぞ!
取り組みは徐々に加速
人材不足が解消され、生産性も向上したことにより、K社では就業規則のさらなる改善・微調整に取り組むことができました。
継続してパートスタッフの意見を汲み取っていく中で、家事や育児を抱える主婦にとって15分、30分の差は大きく、この30分がネックとなってフルタイムの勤務ができない人もいることが分かりました。
そこで、労働時間の短縮に踏み切ったことにより、さらなる転換希望者の増加、定着率の向上、生産性向上につながっています。

労働時間を短縮すれば人材が不足する、生産性が低下すると考える会社は多い。しかし、労働時間の短縮がプラスになることもあるんだ。
助成金の受給
最後に、K社は正社員転換に取り組むにあたって、キャリアアップ助成金を十分に活用しています。
基本的な支給額 | 生産性が6%向上している場合 | |
有期契約から正規雇用へ転換 | 1人当たり57万円 | 1人当たり72万円 |
有期契約から無期雇用へ転換 | 1人当たり28.5万円 | 1人当たり36万円 |
無期雇用から正規雇用へ転換 | 1人当たり28.5万円 | 1人当たり36万円 |
(※すべての転換を合わせて、1年度1事業所当たり支給申請上限人数は20人まで)
K社では、有期契約のパートスタッフを正規雇用に転換しているため、この表の「有期契約から正規雇用へ転換」の区分となります。
正社員化コースでは、短時間正社員を含むジョブ型正社員に転換した場合にも、一般的な正社員に転換したものとみなすため、この表の通り受給することができます。
また、取り組みにあたって、K社では勤務内容・勤務時間・勤務地などを限定する正社員制度を新たに規定した上で転換に取り組んだことにより、
1事業所当たり9.5万円(生産性要件を満たしている場合には12万円)
の追加助成も受給しています。
正社員にかかる人件費は、パートスタッフよりも大きくなるものの、これによって人材不足を解消し、定着率は向上し、以前よりも大幅に採用コストが低減され、さらに生産性もアップしており、助成金も受給しているのですから、実質的な負担はむしろ軽減されたと言って良いでしょう。

転換するならキャリアアップ助成金の活用。これは助成金活用の基本だから、もれなく受給していこう!

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まとめ
K社が転換の促進を開始してから、上記の結果を得るまでに要した期間は5年間でした。たった5年間で、以前とは比べ物にならない組織へと変化することができたのです。
そのきっかけは全て、パートスタッフの活用に着目したことです。
現在、就職困難者の活用、外国人労働者の活用など、人材不足解消のために様々な方法が模索されています。
しかし、パートスタッフの活用だけでも、大きな効果をあげることは可能なのです。
ぜひ、キャリアアップ助成金を活用しながら、パートスタッフの活用を検討することをおすすめします。
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