労働安全衛生法の改正により、すべての会社では年に1回、すべての従業員に対するストレスチェックの実施と、産業医による面接指導が義務付けられるようになりました。
これに伴い、ストレスチェックに取り組む小規模事業者には、ストレスチェック助成金も支給されています。
しかし、義務を果たすためにストレスチェックを実施するものの、それだけで終わってしまう会社も多いものです。
ストレスチェックを実施したならば、職場環境の改善にも取り組むことで、大きな効果を期待することができます。
本稿では、ストレスチェック実施後の職場環境改善と、職場環境改善計画助成金について解説していきます。
ストレスチェックとは?
ストレスチェックとは、労働者のメンタルヘルス不調を予防するために、1年に1回、事業場内のすべての労働者に対して、ストレスの状態について簡易検査をすることです。
ストレスチェックは、2015年・2017年に労働安全衛生法が改正されたことによって、全ての会社が実施することを義務付けられました(労働者数が50人未満の事業場は努力義務)。
ストレスチェックを実施した結果、高ストレス者と判定された従業員は、産業医の面談指導を受けるなどして、就業上の問題の改善に取り組むことを求められます。
生産年齢人口の減少に伴う経済成長への悪影響を防ぐためには、労働者が健康を維持して、元気に働き続けることが重要です。

このように、政府がストレスチェックの実施を義務化した背景を考えると、いずれはストレスチェックを実施して当たり前、実施しない会社は厳しい罰則の対象になっていくかもしれません。
※ストレスチェックとストレスチェック助成金について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

ストレスチェック助成金とは?
ストレスチェックの実施が義務化されたことにより、ストレスチェックに取り組む会社が増えています。
労働者が50人未満の小規模事業者でも、努力義務をしっかりこなしていくことが大切です。
しかし、義務と言っても罰則規定のない努力義務であること、財務的に余裕がないことなどから、ストレスチェックの実施が困難な小規模事業者も少なくありません。
このため、政府は「ストレスチェック助成金」という助成金制度を設け、ストレスチェックの実施と、それに伴う産業医の活動にかかる費用の一部を助成しています。
措置と支給額
ストレスチェック助成金を受給するためには、
- 年1回のストレスチェックの実施
- ストレスチェックの結果に応じて、産業医の資格を持った医師による従業員への面接指導を実施し、事業主は面接指導の結果に基づいてアドバイスを受ける
という二つの措置を実施する必要があります。
(高ストレス者がおらず、産業医の面接指導が不要であれば、ストレスチェックの実施のみでもよい)
これらの措置を実施した会社には、
- ストレスチェックの実施:従業員1人につき500円を上限として実費を支給
- 産業医による面接指導:1事業場あたり、1回の活動につき21500円を上限として実費を支給(3回まで)
という助成金を受給することができます。
ストレスチェックの実施の費用は、実施の方法やチェック項目の数、従業員数、委託先などによって変化するものの、おおむね従業員1人当たり数百円、高くても1000円前後です。
また、産業医の指導にかかる費用もまちまちですが、これも1時間あたり数万円が相場です。
したがって、ストレスチェック助成金の受給によって、ストレスチェック実施に伴う費用の大部分をカバーすることができ、小規模事業者でも実施しやすくなります。

※ストレスチェック助成金について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
ストレスチェックだけではもったいない理由
さて、ストレスチェックを実施して努力義務を果たし、産業医の指導によって高ストレス者への待遇改善を図り、ストレスチェック助成金も受給して負担が軽減されました。
しかし、このような取り組みだけでは不十分です。
むしろ、そこから先の取り組みを実施しなければ、せっかくのチャンスを逃すことになります。
ストレスチェックを実施することで得られるチャンスとは、
- 職場環境を改善するチャンス
- さらに助成金を受給するチャンス
です。
職場環境を改善するチャンス
ストレスチェックの本来の目的を考えると、これが職場環境改善のチャンスであることが分かると思います。
ストレスチェックでは、質問票を使って従業員のストレスの状態を把握します。
質問票の項目には、
- 従業員が職場や仕事に満足しているか
- 不満ならばなにが不満か
- 最近の精神状態はどうか
- 職場での人間関係はどうか
といったことが分かるよう、様々な質問が設けられています。
これを従業員に回答してもらい、従業員のストレスの状態と、ストレスの要因の把握に努め、メンタルヘルスの不調の防止に役立てることが、ストレスチェックの目的です。
つまり、ストレスチェックを実施し、助成金を受給しただけで終わってしまえば、
- ストレスチェックの結果を分析し、職場環境の改善に努め、メンタルヘルスの不調の防止に役立てる
という取り組みができていないのです。
ストレスチェックを実施すれば、その会社で問題になっていることが分かるはずです。
ストレスチェックの結果を漫然と解釈して、余裕があるときに分析・改善していくのでは、最も効果的なタイミングを逃してしまいます。
大切なのは、ストレスチェックをきっかけとした職場環境の改善であって、ストレスチェックそのものではないことを意識しなければなりません。
まさに、ストレスチェックは「鉄は熱いうちに打て」の心持ちで役立てていくべきものです。
さらに助成金を受給するチャンス
さらに、ストレスチェックの実施結果に基づき、職場環境の改善に取り組んだ会社では、助成金を受給することができます。
ストレスチェックの結果を自社で分析したり、専門家に分析を依頼して改善内容を助言してもらったりすれば、職場環境を改善するために必要な取り組み、特に機器・設備の導入などが分かってくると思います。
これに伴う費用の全額、または一部について、
「職場環境改善計画助成金」
という助成金を受給することができるのです。


職場環境改善計画助成金とは?
職場環境改善計画助成金は、上記の通り、ストレスチェックの実施後、分析結果に基づく専門家の指導によって職場環境改善計画を策定・実施した会社に、助成金を支給するものです。
したがって、職場環境改善計画助成金を利用するためには、ストレスチェックを実施することが前提となり、ストレスチェックを実施せずに職場環境改善計画助成金を利用することはできません。
職場環境改善計画助成金は3コース
職場環境改善計画助成金には、
- 【Aコース】
- 【Bコース】
- 【建設現場コース】
の3コースがあり、それぞれの措置や手続きなどの違いを把握したうえで、適切に使い分けていく必要があります。
Aコース
職場環境改善計画助成金のAコースは、専門家の指導に基づいて職場環境改善計画を作成し、計画に沿って職場環境の改善を実施した場合に、助成金を受給できるコースです。
ここでいう「専門家」とは、
- 産業医等の医師
- 保健師
- 看護師
- 精神保健福祉士
- 産業カウンセラー
- 臨床心理士等の心理職
- 労働衛 生コンサルタント
- 社会保険労務士
が対象となります。
対象事業主
Aコースの対象事業主は、以下の要件を全て満たしている必要があります。
1、労働保険適用事業場であること。
2、ストレスチェック実施後の集団分析を実施していること。
3、専門家と職場環境改善指導に係る契約を締結していること。
4、ストレスチェック実施後の集団分析結果に加えて、
- 専門家から管理監督者による日常の職場管理で得られた情報
- 労働者からの意見聴取で得られた情報
- 産業保健スタッフによる職場巡視で得られた情報
なども考慮して職場環境の評価を受け、改善すべき事項について指導を受けていること。
5、専門家の指導に基づく職場環境改善計画を作成し、計画に沿って職場環境の改善の全部または一部を実施していること。
6、専門家から、職場環境改善計画に基づき職場環境の改善が実施されたことの確認を受けていること。
支給額
Aコースで助成対象となっているのは、専門家の指導費用、機器・設備の購入費用です。
1事業場につき、10万円を上限として実費が支給されます。
ただし、機器・設備購入費用の場合には、税込み単価5万円を上限とし、実費が支給されます。
この範囲内であれば、複数の機器・設備が助成対象となります。
受給までの流れ
Aコースの受給までの流れは、以下の通りです。
①ストレスチェックの実施
医師、保健師等によりストレスチェックを実施し、従業員へ結果を通知する。
②ストレスチェック実施後の集団分析
ストレスチェック結果を一定の規模の集団ごとに集計・分析する。
③職場環境改善計画の作成に係る指導契約の締結
専門家と、職場環境改善計画の作成に係る指導契約を締結する。
④職場環境改善計画の作成
専門家からの職場環境の評価、改善すべき事項を踏まえ、職場環境改善計画を作成する。
⑤職場環境の改善
作成された職場環境改善計画に基づき、労働時間や勤務体系、作業方法や職場組織、職場の物理化学的環境の改善、健康相談窓口の設置等を実施する。
⑥職場環境改善計画書助成金支給申請
必要な書類を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行う。
⑦助成金支給決定通知の受取、助成金受領
労働者健康安全機構から支給決定通知が届き、助成金が振り込まれる。

Bコース
職場環境改善計画助成金のBコースは、メンタルヘルス対策促進員の助言・支援を受け、職場環境改善計画を作成し、計画に基づいて職場環境の改善を実施した場合に、助成金を受給できるコースです。
Bコースと建設現場コースにおける「メンタルヘルス対策促進員」とは、メンタルヘルス対策に関する訪問支援を行っている専門家のことです。
産業保健総合支援センターが委嘱した専門家に限られます。
対象事業主
Bコースの対象事業主は、以下の要件を全て満たしている必要があります。
1、労働保険適用事業場であること。
2、ストレスチェック実施後の集団分析を実施していること。
3、メンタルヘルス対策促進員から、
- ストレスチェック実施後の集団分析結果の見方
- ストレスチェック実施後の集団分析結果を踏まえた職場環境改善手法
について助言・支援を受けていること。
4、メンタルヘルス対策促進員の指導に基づく職場環境改善計画を作成し、計画に沿って職場環境の改善の全部または一部を実施していること。
5、メンタルヘルス対策促進員から、職場環境改善計画に基づき職場環境の改善が実施されたことの確認を受けていること。
支給額
Bコースで助成対象となっているのは、機器・設備の購入費用です。
1事業場につき、税込み単価5万円を上限とし、実費が支給されます。
この範囲内であれば、複数の機器・設備が助成対象となります。
受給までの流れ
Bコースの受給までの流れは、以下の通りです。
①ストレスチェックの実施
医師、保健師等によりストレスチェックを実施し、従業員へ結果を通知する。
②ストレスチェック実施後の集団分析
ストレスチェック結果を一定の規模の集団ごとに集計・分析する。
③職場環境改善計画の作成に係る助言・支援
訪問したメンタルヘルス対策促進員からの助言・支援(事業場の訪問は3回まで)を受ける。
④職場環境改善計画の作成
メンタルヘルス対策促進員からの職場環境の評価、改善すべき事項を踏まえ、職場環境改善計画を作成する。
⑤職場環境の改善
作成された職場環境改善計画に基づき、労働時間や勤務体系、作業方法や職場組織、職場の物理化学的環境の改善、健康相談窓口の設置等を実施する。
⑥職場環境改善計画書助成金支給申請
必要な書類を添えて、労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行う。
⑦助成金支給決定通知の受取、助成金受領
労働者健康安全機構から支給決定通知が届き、助成金が振り込まれる。
建設現場コース
職場環境改善計画助成金の建設現場コースは、メンタルヘルス対策促進員の助言・支援を受けて職場環境改善計画を作成し、計画に基づいて職場環境の改善を実施した場合に、助成金を受給できるコースです。
対象事業主
建設現場コースの対象事業主は、以下の要件を全て満たしている必要があります。
1、労災保険の適用事業であること。
2、労働者数が常時50人以上の建設現場であること。
3、ストレスチェック実施後の集団分析を実施していること。
4、建設現場を訪問したメンタルヘルス対策促進員から、
- ストレスチェック実施後の集団分析結果の見方
- ストレスチェック実施後の集団分析結果を踏まえた職場環境改善手法
について助言・支援を受けていること。
5、メンタルヘルス対策促進員の助言・支援を受けて職場環境改善計画を作成し、計画に基づく職場環境の改善を実施していること。
6、メンタルヘルス対策促進員が、職場環境改善計画に基づき職場環境の改善が実施されていることを確認していること。
支給額
建設現場コースで助成対象となっているのは、機器・設備の購入費用です。
1事業場につき、税込み単価5万円を上限とし、実費が支給されます。
この範囲内であれば、複数の機器・設備が助成対象となります。
なお、建設現場コースでは、リースやレンタルの費用も助成対象となっています。
受給までの流れ
建設現場コースの受給までの流れは、以下の通りです。
①ストレスチェックの実施
建設工事従事者に対してストレスチェックを実施する。
②ストレスチェック実施後の集団分析
ストレスチェック結果を建設現場全体及び建設現場内の一定規模の集団(会社又はグループ)ごとに集計して、当該集団のストレスの特徴及び傾向を分析する。
③職場環境改善計画の作成に係る助言・支援
訪問したメンタルヘルス対策促進員からの助言・支援(建設現場訪問は3回まで)を受ける。
④職場環境改善計画の作成
メンタルヘルス対策促進員からの職場環境の評価、改善すべき事項を踏まえ、職場環境改善計画を作成する。
⑤職場環境の改善
作成された職場環境改善計画に基づき、リスク低減措置(職場組織や職場の物理化学的環境 の改善等)を実施する。実施後、メンタルヘルス対策促進員の確認を受ける。
⑥職場環境改善計画書助成金支給申請
必要な書類を添えて、建設現場の所在地と同じ都道府県にある産業保健総合支援センターへ 助成金の支給申請を提出する。
⑦助成金支給決定通知の受取、助成金受領
労働者健康安全機構から支給決定通知が届き、助成金が振込まれる。
それぞれのコース使い分け
【Aコース】、【Bコース】、【建設現場コース】という3つのコースがあります。
職場環境改善計画助成金は十分に活用していくためには、コースごとの違いを理解することが不可欠です。
特に、AコースとBコースの違いは微妙ですから、以下の表を参考にして、違いを認識しておきましょう。
コース | 助言を受ける専門家 | 専門家にかかる費用 | 助成対象 | 助成額 |
Aコース | 産業医等の医師、保健師、看護師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、臨床心理士等の心理職、労働衛生コンサルタント、社会保険労務士 | 有料 | ①専門家の指導費用②機器・設備購入費用(リース・レンタルを含まない) | 10万円を上限として実費を支給。このうち、機器・設備購入費用は税込み単価5万円を上限として実費を支給。 |
Bコース | メンタルヘルス対策促進員 | 無料 | 機器・設備購入費用(リース・レンタルを含まない) | 税込み単価5万円を上限として実費を支給。 |
建設現場コース | メンタルヘルス対策促進員 | 無料 | 機器・設備購入費用(リース・レンタルを含む) | 税込み単価5万円を上限として実費を支給。 |
この表によって、助言を受ける専門家や助成対象、助成額などの違いがわかると思います。
使い分け方としては、
- 労働者数が常時50人以上の建設現場であれば、建設現場コースを利用し、リース・レンタル費用の助成などにも役立てる。
(50人未満であれば、AコースあるいはBコースの利用を検討する) - 良い助言を受けられる専門家を知っているならば、Aコースを利用して専門家にかかる費用の助成も受ける
- 特に依頼すべき専門家がいない場合や、助成金の受給までに先行する費用負担が苦しい会社では、Bコースを利用してメンタルヘルス対策促進員から無料で支援を受け、助成金の受給を目指す
などの使い分けが考えられます。
なお、機器・設備購入費用に対する助成は、AコースとBコースを合わせて、将来にわたり1回限りとなります。


まとめ
本稿を読めば、ストレスチェックを実施するだけではもったいないことが分かったと思います。
ストレスチェックを実施すれば、その延長として職場環境の改善に取り組み、それに伴って助成金も受給できます。
このようなチャンスを逃す手はありません。
労働者が50人未満の事業場であれば、ストレスチェック助成金と職場環境改善計画助成金を同時に利用することもできるので、ぜひ利用を検討してみてください。