障害者を初めて雇い入れる会社では、雇い入れた経験がないだけに、コスト面での不安も大きいと思います。
そのような会社のために、政府は助成金によって支援しています。
障害者を初めて雇い入れる会社は、障害者初回雇用コースを利用することができます。
また、特定就職困難者コースとの併給も可能であり、これによって大幅な負担軽減が可能となります。
本稿では、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースの併給について、注意点などを解説していきます。
特定求職者雇用開発助成金の併給とは?
政府が推進する働き方改革は、多様な働き方ができる社会を作ることを目的としています。
様々な人が働ける社会になれば、これまで様々な事情によって働けなかった人、そのために労働力としての活躍を見込まれてこなかった人でも働きやすくなり、経済的に大きなプラスになります。
このため、政府は高年齢者の雇用促進、障害者の雇用促進、両立支援の促進、女性の活躍促進など、様々な取り組みを実施しています。
これに伴って法律の改正も進められており、企業の負担も重くなってきています。

これらの負担に対応するためには、助成金の活用が欠かせないよ!
障害者を初め、就労が困難な人材を雇い入れる際には、「特定求職者雇用開発助成金」という助成金を利用することができます。
特定求職者雇用開発助成金では障害者雇用への支援が手厚く、特に初めて障害者雇用に取り組む会社に大きなメリットがあります。
2021年には、障害者の雇用義務が拡大される予定です。
これまでは障害者の雇用義務がなかった会社でも、障害者を雇用しなければならないケースが増えるでしょう。
そのような会社で、障害者雇用に初めて取り組むならば、特定求職者雇用開発助成金の障害者初回雇用コースを利用することで、助成金の受給が可能です。
また、障害者初回雇用コースは特定就職困難者コースと併給することもできるため、併給について詳しく知っておくのがおすすめです。

初回の雇い入れでは障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースの併給を、それ以降も特定就職困難者コースを必ず使おう!
それぞれのコースの概要
本稿のメインテーマは、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースの併給です。
したがって、それぞれのコースの詳細については他の記事を参考にしていただくとして、ここでは簡単に概要だけ触れておきましょう。
※障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースについて、詳しくはこちら
障害者初回雇用コース
障害者初回雇用コースは、初めて障害者雇用に取り組む会社が利用できる助成金です。
過去3年間で、どのような形にせよ障害者が自社で就労したことがあれば、障害者初回雇用コースは受給できません。
雇用義務が生じている会社は、この努力義務を果たさなかった場合、常用労働者100人超の会社では一人当たり月額5万円の納付金を徴収されます。
100人以下の会社では、納付金の徴収は受けないものの、障害者雇用の計画や実施を指導され、改善が見られなければ社名を公表されるなどのペナルティを受ける可能性があります。
そのようなペナルティを受けないためにも、雇用義務はしっかりと果たしましょう。
このとき、障害者初回雇用コースを利用して120万円を受給し、負担軽減を図りましょう。

ペナルティを受けても、会社にはなんのプラスにもならない。それより、努力義務を果たして助成金を受給したほうがいいね。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、障害者だけではなく、高年齢者や母子家庭の母など、就職が難しい人材を雇い入れた会社が受給できるものです。
ここでは障害者を雇い入れた場合のみ見ていきますが、支給額は以下の表のように設定されています。
対象労働者 | 支給額 | 助成対象期間 | 支給対象期ごとの支給額 | |
---|---|---|---|---|
短時間労働者以外の者 | 重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円 | 2年 | 30万円 × 4期 |
重度障害者等 | 240万円 | 3年 | 40万円 × 6期 | |
短時間労働者 | 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円 | 2年 | 20万円 × 4期 |
この表のように、
- 雇い入れる障害者が重度身体障害者等(重度身体障害者、重度知的障害者、45歳以上の障害者、精神障害者)であるかどうか
- 雇い入れる障害者が短時間労働者(週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者)であるかどうか
などにより、受給額が変動します。
なお、支給対象期とは1期ごとに助成金を支給する単位であり、6ヶ月を一単位としています。

短時間労働者でも80万円。こんな助成金はなかなかないね。
併給の考え方
上記のように、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースはそれぞれ多額の助成金を支給しています。
これを併給すれば、メリットはさらに高まります。
助成金は、できるだけ多くの会社に利用を促すために、同じ目的を持つ取り組みによって、複数の助成金を受給できないのが普通です(一部例外あり)。
障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースは、どちらも障害者雇用に取り組むことで助成金を受給できるものですから、併給はできないと思う人も多いと思いますが、この二つは併給が可能です。
一見すると同じ取り組みに見えますが、実際には異なる目的をもつ助成金であり、併給が認められているのです。
とはいえ、助成金制度の目的は異なるものの、企業としては同じ取り組みの中で異なる目的を達成しているのですから、併給することで特に負担が増大するわけでもありません。
そのため、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースはぜひ併給すべきものです。
注意点は二つ
ただし、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースを併給する際には、注意すべきことがあります。
それは、
- 障害者のカウントと受給額の関係
- 併給の流れ
の二点です。
それぞれの注意点について、以下で詳しく見ていきましょう。

注意点さえ理解していれば、しっかり併給してメリットは高まるぞ!

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障害者のカウントと受給額の関係
二つの注意点のうち、障害者のカウントと受給額の関係については、特に注意しなければなりません。
正しく併給するために、必ず知っておくべき知識があります。それは、法定雇用率におけるカウントルールです。
障害者初回雇用コースを受給するためには、法定雇用率を満たす必要があります。
この時、障害者雇用率の算定では、
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者→1人で0.5人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者かつ短時間労働者→1人で1人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者→1人で2人のカウント
というルールでカウントすることになっています。
単に障害者初回雇用コースのみ利用するならば、法定雇用率を満たすかどうかだけが判断基準となり、受給額は120万円から変動することはありません。
しかし、特定就職困難者コースでは、障害者の区分や短時間労働者であるかどうかによって受給額が変わります。
その結果、併給の際の受給額の合計も変わってくるのです。

カウントルールを理解していないと、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースとの併給がうまくいかなくなるよ。
受給額の変動の例
具体的な例を見てみると、このことがよくわかります。同じ会社を例に、複数のパターンを比較してみましょう。
常用労働者が91人の会社では、「91人×2.2%=2.002人」ですから、障害者を2人雇用する義務があります。
この時の雇い入れのパターンには、
- 重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者として4人雇用する
- 重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者として2人、重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者以外で1人雇用する
- 重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者として2人、重度身体障害者を短時間労働者として1人雇用する
- 重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者以外で2人雇用する
- 重度身体障害者以外の障害者を短時間労働者以外で1人、重度身体障害者を短時間労働者として1人雇用する
- 重度身体障害者を短時間労働者として2人雇用する
- 重度身体障害者を短時間労働者以外で1人雇用する
という7パターンが考えられます。
それぞれのパターンにおいて、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースの併給によって受給できる金額の合計は、以下の表の通りです。
パターン | 受給額(万円) | 合計額(万円) | |
障害者初回雇用コース | 特定就職困難者コース | ||
1 | 120 | 320 | 440 |
2 | 120 | 280 | 400 |
3 | 120 | 200 | 320 |
4 | 120 | 240 | 360 |
5 | 120 | 200 | 320 |
6 | 120 | 160 | 280 |
7 | 120 | 240 | 360 |
この表を見れば、組み合わせによって受給額が変動することが分かります。
受給額が最も少ないのはパターン6の280万円であるのに対し、受給額が最も多いのはパターン1の440万円です。
このように大きな差が生じる原因には、以下の2点が考えられます。
短時間労働者かどうかによる違い
同じ区分の障害者においては、短時間労働者以外と短時間労働者の方が多くの助成金をもらえる。
このため、カウント1人当たりの受給額は、短時間労働者のほうが約33%多い。
重度身体障害者であるかどうかによる違い
重度身体障害者の短時間労働者と、重度身体障害者以外の短時間労働者では、後者のほうが受給額は多くなる。
特定就職困難者コースでは、短時間労働者の区分において、「重度身体障害者の短時間労働者」という区分がなく、重度身体障害者であるかどうかに関わらず一律80万円の支給である。
このため、重度身体障害者の短時間労働者はカウント1人につき80万円の支給となるが、重度身体障害者以外の短時間労働者はカウント0.5人につき80万円の支給となり、カウント1人当たりの受給額では重度障害者以外の短時間労働者のほうが2倍多い。

法定雇用率を満たす点では同じだが、内訳によって受給が変わるんだ。
特定の要素だけで決めるのは禁物
以上の違いによって、法定雇用率を達成する際の組み合わせ次第で、助成金の受給額は変わってきます。
もちろん、受給額は多ければ多いほどいいのですが、安易に金額だけを求めてはいけません。
そのような方法では、色々な失敗を招く可能性があります。
失敗1
受給額を最大化するためには、全て重度身体障害者以外の短時間労働者を雇用することになります。
しかし、これは他のパターンに比べて、多くの障害者を雇い入れることでもあります。
障害者はそれぞれに特性が異なり、一人の特性を理解し、適切な職場づくりをしていくだけでも大変なことです。
短時間労働者に絞ったことで雇い入れる人数が増えれば、職場作りの難易度も高くなり、障害者が定着せず、結果的に受給額が減ってしまうことも考えられます。
また、週所定労働時間が20時間の短時間労働者を2人雇い入れるよりも、週所定労働時間を30時間として雇い入れたほうが、人件費は安くなります。
法定雇用率を短時間労働者だけでクリアした場合、受給金額は増えて短期的なメリットは大きくなります。
しかし、多くの障害者への配慮、人件費の増大など、トータルでのコスト負担は重くなる可能性が高いのです。
失敗2
金額だけではなく、雇い入れ人数を重視しすぎるのも問題です。
例えば、重度身体障害者を短時間労働者以外で雇用すれば、1人につき2人としてカウントされるため、雇い入れ人数は少なくなります。
また、受給額も多いです。
しかし、重度身体障害者はそれ以外の障害者よりも多くの配慮を必要とします。
職場の想定を上回る配慮が必要となり、対処しきれずに受給額が減ったり、コスト負担が重くなる可能性があります。

自社の負担を総合的に考えて取り組んでいくことが、メリットの最大化につながるんだ。
自社に合った取り組みを
それは、自社に合った取り組みをすべき、ということに尽きるでしょう。
まず、障害者初回雇用コースを利用しているのですから、自社には障害者雇用の経験がほとんどありません。
したがって、障害者を活用するための環境も整備されていないでしょうし、障害者への配慮がどうあるべきかもあまり分からないと思います。
障害者雇用によって何らかの問題が起こったとき、その対処も手さぐりになるはずです。

障害者への対応には、ひな形といえるものがあるわ。
その人が抱えている障害に応じた配慮について、一般的な知識を得ることは簡単です。
しかし、それはあくまでも基礎的な知識であり、必ず役立つとは限りません。
障害の類型ごとに適した配慮を心掛けるのは最低限のことで、実際にはそれ以外の様々な部分、例えば、
- 職場の障害者と健常者の関係がうまくいかない
- 自社の業種・業態の特殊な事情によって、障害者の配慮がうまくいかない
といった、一般的な知識では対処しきれない問題も起こるのです。
経験に乏しい会社では、障害者雇用にじっくり腰を据えて取り組んでいくことになります。
そのような失敗をしないためにも、「初めて取り組むのだから」と考えて、自社に合った取り組みを進めていくことが大切です。

障害者雇用に取り組んだものの、うまくいかなかった・・・では意味がない。できる範囲で、着実な取り組みを!

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併給の流れ
併給の際に注意すべきもう一つのポイントは、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースの併給の流れです。
ほとんどの助成金がそうであるように、障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースでも、助成要件を満たすための取り組みに期限が設けられており、支給申請期間も限られています。
併給する際には、それぞれ設定されている期間やタイミングが異なる助成金を同時に進めていくのですから、注意深く進めていかなければなりません。
もちろん、社労士と連携して取り組むならば、社労士が注意しながら進めてくれるため、タイミングの問題で受給できなくなる可能性は低くなります。
しかし、社労士と連携する会社側に知識や緊張感がなければ、社労士がスケジュールを気にしながら進めようとしても、会社と連携が取れずにタイミングを逃し、受給できなくなることもあるため、一通りの流れは知っておきたいものです。
併給の流れを具体例とともに
併給の流れをイメージするために、具体的な例で見ていきましょう。
なお、この会社の賃金締切日は毎月15日とし、障害者初回雇用コースの手続きは☆、特定就職困難者コースの手続きは★とします。
【1、一人目の雇い入れ☆】
4月1日、一人目の障害者を短時間労働者として雇い入れる。
【2、法定雇用率達成を目指す☆】
障害者初回雇用コースの受給要件により、一人目の雇い入れ日の翌日(4月2日)から起算して3ヶ月間(7月1日まで)で法定雇用率を満たす必要がある。
【3、一人目の第1期支給対象期の開始★】
特定就職困難者コースでは、一人目を雇い入れた日の直後の賃金締切日(4月15日)の翌日(4月16日)から起算して6ヶ月間(10月15日まで)を第1期として、雇用を継続する。
【4、二人目の雇い入れ☆】
二人目の障害者も短時間労働者として6月1日に雇い入れ、法定雇用率を達成した。
【5、二人目の第1期支給対象期の開始★】
二人目の雇い入れ日(6月1日)の直後の賃金締切日(6月15日)の翌日から起算して6ヶ月間(12月15日まで)を第1期として、雇用を継続する。
【5、法定雇用率の維持☆】
二人目の雇い入れ日(6月1日)の直後の賃金締切日(6月15日)の翌日から起算して、6ヶ月間(12月15日まで)を支給対象期とし、法定雇用率を維持する。

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【7、一人目の第2期支給対象期間開始、ならびに第1期の支給申請★】
一人目の第1期支給対象期間が終わった日(10月15日)の翌日(10月16日)から起算して6ヶ月間(翌年4月15日まで)を第2期として、雇用を継続する。
同時に、第1期支給対象期間が終わった日(10月15日)の翌日(10月16日)から起算して2ヶ月間(12月15日まで)で第1期の支給を申請する。
(特定就職困難者コースの助成金として、一人目第1期目の20万円が支給される)
【8、二人目の第2期支給対象期間開始、ならびに第1期の支給申請★】
二人目の第1期支給対象期間が終わった日(12月15日)の翌日(12月16日)から起算して6ヶ月間(翌年6月15日まで)を第2期として、雇用を継続する。
同時に、第1期支給対象期間が終わった日(12月15日)の翌日(12月16日)から起算して2ヶ月間(翌年2月15日まで)で第1期の支給を申請する。
(特定就職困難者コースの助成金として、二人目第1期目の20万円が支給される)
【8、支給申請☆】
6ヶ月間の支給対象期が満了した日(12月15日)の翌日(12月16日)から起算して2ヶ月間(翌年2月15日まで)が、障害者初回雇用コースの支給申請期間となる。
(障害者初回雇用コースの120万円が支給される)
【10、一人目の第3期支給対象期間開始、ならびに第2期の支給申請★】
一人目の第1期支給対象期間が終わった日(翌年4月15日)の翌日(翌年4月16日)から起算して6ヶ月間(翌年10月15日まで)を第2期として、雇用を継続する。
同時に、第1期支給対象期間が終わった日(翌年4月15日)の翌日(翌年4月16日)から起算して2ヶ月間(翌年6月15日まで)で第1期の支給を申請する。
(特定就職困難者コースの助成金として、一人目第1期目の20万円が支給される)
【11、二人目の第3期支給対象期間開始、ならびに第2期の支給申請★】
障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースを併給する流れは、以上の通りです。障害者初回雇用コースを受給するまで、対象となる期間や申請のタイミングの把握がやや煩雑となっています。
障害者初回雇用コースの受給以降は、特定就職困難者コースの受給できる期数分のくり返しとなりますが、雇い入れる障害者の数が増えていくと、支給対象期間や支給申請期間などの管理が複雑になってくるので、社労士とも協力しながら丁寧に取り組んでいくことが大切です。

専門家の力も借りて、しっかり受給していこう!

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まとめ
助成金は、できるだけ多くの会社が取り組むことを目指しており、一部の会社に集中しないように設計されています。
併給調整という仕組みによって、同じ目的の取り組みによって複数の助成金が受給できないようになっているのです。
しかし、一部で例外的に併給が認められたり、一見々に見える取り組みでも併給できたりするケースが珍しくありません。
障害者初回雇用コースと特定就職困難者コースもその一つですから、利用できる会社はぜひ併給を目指してみてください。
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