一定の規模に達している会社では、障害者雇用に取り組む必要があります。
政府が規定する障害者の法定雇用率は、2021年に引き上げを予定されているため、今後はより多くの会社で取り組みが求められるようになります。
障害者と社会・会社の関わりにはデリケートな部分もあり、たとえ経営に必要な知識であっても、あまり知られていないことが多いものです。もちろん、障害者雇用に役立つ知識も同様です。
そこで本稿では、今後拡大するであろう障害者雇用を正しく理解していくために、障害者雇用の基礎知識と、助成金の活用について解説していきます。
障害者雇用の必要性
多様な働き方ができる社会の実現を目指し、政府は働き方改革に取り組んでいます。
多様な働き方ができれば、従来の社会では労働に従事することが難しかった人材でも働きやすくなり、社会全体で確保できる労働力が増え、経済成長にもつながるためです。
このため、政府は企業に環境の整備を求め、女性の活躍を推進したり、育児や介護と仕事の両立を支援したり、高齢者雇用を奨励したり、障害者雇用を促進したりすることを目指しています。
障害者雇用の重要性が高まる
本稿で取り上げるのは、障害者雇用の促進についてです。政府は、障害者雇用を促進するために、様々な取り組みを実施しています。
この背景には、障害者の増加があります。
近年、精神疾患者の増加、発達障害の理解の広がりなどもあって、国内の障害者の数は増加を続けています。
2018年のデータでは、全国の障害者の数は53万4770人(前年比3万8975人)となっており、2000年の25万2836人から倍増しています。
国内の総人口は減少を続けており、2000年の1億2692万6000人から、2018年の1億2670万6000人へと減少しています。
2000年代には、人口が増加した時期もあったため20万人ほどの減少に留まっています。
しかし、2000年以降、
- 総人口は微減、障害者人口は倍増
- 総人口は11年連続減少、障害者人口は16年連続増加
となっていることを見れば、事態の深刻さがよくわかると思います。
働くことができない障害者の生活は、社会で支えていく必要があります。このコストは税金で賄われています。
労働人口が減少し続けており、税収の減少も懸念されている今、障害者福祉のコスト負担が増大していけば、必ず大きな問題になるでしょう。
したがって、これまで障害者雇用を無縁だった中小企業でも、障害者雇用に取り組むケースが増えてくると思います。
また、経営者ならば誰しも、会社を成長させたいと考えるものです。
会社が成長すれば事業は大きくなり、従業員も増え、義務として雇用しなければならない障害者の人数も増えていきます。
この義務にしっかりと対応していくためにも、障害者雇用について正しい知識を身に着け、助成金の活用についても知っておくことが大切です。

障害者と会社の関係はデリケートな問題だ。なんとなく目をそらし、正しく対応できていない会社も多い。これからは、そのように無関心ではいられなくなるぞ。

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障害者雇用の義務とは
既に知っている人も多いと思いますが、企業には障害者を雇用する義務があります。
障害者雇用促進法では、雇用義務制度という制度が設けられています。
民間企業・国や地方公共団体・都道府県等の教育委員会等に対し、それぞれ一定の割合で法定雇用率を設定し、この雇用率の達成を目指すよう努力義務を課しているのです。
雇用義務制度の考え方
雇用義務制度によって、民間企業に課せられている法定雇用率は2.2%です。
現在の法定雇用率では、障害者を雇用しなくて済む従業員数は最大でも45人です。
従業員数が45人の会社では、法定雇用率2.2%で雇用すべき障害者の人数は0.99人となります。
1人未満の端数は切り捨てとなるため、雇用義務はありません。
しかし、現在従業員数が45人の会社も、会社が成長すれば新たに雇用が必要となります。
生産性向上によってカバーできる部分には限界があるため、いずれは新規に雇用することとなり、それに伴って障害者の雇用義務も発生することでしょう。
2021年には引き上げの予定
また、政府は2021年4月までに、法定雇用率を0.1%引き上げることを予定しています。
その場合、民間企業における法定雇用率は2.3%となり、障害者を雇用しなくてよい従業員数は最大で43人となります。
44人以上を雇用する会社では、最低1人の障害者を雇用する義務が生じます。
ごく少人数で事業を営んでいる会社であれば、まだまだ障害者雇用と無縁でいられると思います。
しかし、ギリギリのラインで雇用義務が生じていない会社では、今後雇用義務が生じる可能性が高いので注意が必要です。

今は雇用義務がない会社も、従業員を増やす際には障害者雇用を視野に入れ、しっかりと義務を果たしていこう。
雇用する障害者のカウント
なお、雇用義務を果たすための障害者のカウント方法は、やや複雑です。これは、雇用形態や障害の区分によってカウントが異なるからです。
まず、障害者雇用促進法の雇用義務制度は、全ての障害者を対象とするものではありません。
障害者の雇用義務が生じた会社において、障害者雇用率の算定の対象となるのは、以下の障害者です。
- 身体障害者手帳を持つ身体障害者
- 身体障害者手帳の1・2級を持つ重度身体障害者
- 療育手帳を持つ知的障害者、または知的障害者判定機関の判定書を持つ知的障害者
- 療育手帳を持つ重度知的障害者、または知的障害者判定機関の判定書を持つ重度知的障害者
- 精神障害者保健福祉手帳を持っており、症状が安定し、就労が可能な状態にある精神障害者(発達障害者を含む)
障害者雇用率の算定対象になる・ならないの簡単な考え方は、障害者手帳や療育手帳などの証明書を持っているかどうかで考えると、分かりやすいと思います。
雇用義務がある会社では、対象となる障害者を雇用するにあたり、人数を以下のようにカウントします。
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者→1人で0.5人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者かつ短時間労働者→1人で1人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者→1人で2人のカウント
このカウントルールに沿って雇用していない場合、例えば、週所定労働時間が20時間未満である場合などにはカウントされず、雇用義務を果たしたとはみなされません。
これは、雇用義務の負担を嫌う会社が、形だけの雇用をすることを防ぐためです。
障害者の雇用義務を満たすためには、雇用する障害者が「雇用保険法における被保険者」である必要があります。雇用保険法では、
- 1週間の所定労働時間が20時間未満の者
- 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
などを被保険者として認めないと定義しています。
したがって、雇用義務制度を果たすためには、最低でも20時間以上、継続して31日以上の雇用が条件となります。
もっとも、負担を嫌って週所定労働時間や継続雇用期間をギリギリのラインでクリアするのではなく、なるべく障害者本人の希望に沿って、意欲のある障害者は長い時間・期間で雇用すべきです。
しっかりと雇用してこそ、障害者雇用とまともに向き合うことができます。
それにより、障害者を事業に活用していくことを真剣に考え、環境作りも進めていくことができます。
障害者を適切に活用することで、健常者以上の貢献につながることもあるため、そのような結果を追求していきましょう。

義務を果たすためにルールを学ぼう。しかし、抜け道を探すのではなく、よりよい道を模索していこう!
※障害者雇用を成功させた会社の実例は、こちらの記事に紹介しています。

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障害者雇用に取り組む?取り組まない?
上記のように、障害者雇用促進法と雇用義務制度によって、会社の規模に応じた雇用義務が発生します。
ただし、この雇用義務は、障害者雇用促進法の第37条において、
すべて事業主は、対象障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、適当な雇用の場を与える共同の責務を有するものであって、進んで対象障害者の雇入れに努めなければならない。
と記載されている通り、努力義務です。
中小企業の経営基盤は一般的に弱いものですから、いくら努力義務があるとはいえ、負担に耐えられない会社もあります。
そのような会社に、無理に雇用義務を課して経営が立ち行かなくなれば、障害者の就労先も減りますし、経済的にもマイナスです。
したがって、雇用義務はあくまでも努力義務であって、全ての会社が必ず履行しなければならないものではありません。
とはいえ、努力義務とは「努力することを義務づける」もので、「努力義務だから取り組まなくてよい」ということではありません。
このため、障害者雇用促進法には「納付金制度」という制度が設けられています。
これは、努力義務を果たしている会社と、果たしていない会社の間で不公平感を解消するための制度で、以下のように定められています。
納付金制度
これを見ると、常用労働者が100人以下の会社は影響を受けないように思えるかもしれません。
確かに、制度的には納付金の徴収も受けませんし、調整金の支給も受けません。
しかし、そのような小規模事業者でも、障害者雇用を奨励するために、報奨金の支給対象となっています。
常用労働者が100人以下の会社で雇用率を達成している会社では、障害者を4%または6人のいずれか多い人数を超えて雇用する場合に、超過1人当たり月額2.1万円の報奨金を受けることができます。
もっとも、これは小規模事業者の努力を、優遇する制度とは言い難いでしょう。
例えば、従業員が91人の会社では、法定雇用率2.2%にあたる2.001人の雇用義務が生じます。
この会社は、従業員数100人以下であることから、障害者を2人雇用せずとも納付金の徴収を受けることはなく、報奨金を受け取るためには、
- 障害者雇用率4%(3.64人)での雇用
- 6人の障害者雇用
の多いほうが報奨金の対象となります。つまり、従業員91人に対して、6人を超える障害者雇用を実施する必要があります。
6人の障害者雇用は、法定雇用率2.2%で考えると、従業員数約273人という規模の会社と同じレベルで雇用していることになります。
障害者雇用に社会的意義を見出し、積極的に雇用に取り組む会社では、それによって報奨金を受給するのも良いでしょう。
しかし、よほど整備が整っている会社でなければ、負担が大きくなる危険性が高いので、無理は禁物です。

従業員数100人超の会社では、義務を果たさずに給付金を支払うよりも、雇用義務を果たす方法を考えたほうがよさそうだぞ。
障害者雇用と罰則
従業員数が100人以下の会社では、納付金の対象でもなく、報奨金をもらうには負担が大きいからと考えて、努力義務を怠る会社もあるかもしれません。
しかし、そのような会社は罰則の対象となる可能性があるため、最低でも法定雇用率2.2%の達成は目指すべきです。
ならば、法定雇用率を達成していないと報告すればいいのかといえば、それも間違いです。
法定雇用率を達成できておらず、なおかつ努力がみられない場合(雇用率があまりにも低い、長期にわたって改善されないなど)には、
- ハローワークに障害者の雇い入れ計画を提出しなければならない
- ハローワークから、雇い入れ計画の実施について指導を受けなければならない
- それでも改善されない場合には企業名が公表される
などのペナルティを受けることになります。
また、従業員数100人以下の会社でも、納付金によるコスト負担がないだけで、他の負担・リスクが生じます。
このような負担やリスクは、経営にとって完全なマイナスとなります。
長期的な発展のために、リターンに見合う負担やリスクを取るならばまだしも、何らリターンにつながらない、むしろマイナスにしかならない負担・リスクを負うことになるのです。

義務違反による負担・リスクを最小限に止め、できるだけプラスにつなげていこう。最低限の努力義務は果たしていきたいものだな。

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活用できる助成金は?
障害者雇用の努力義務を果たしていくにあたって、助成金の活用が欠かせません。
障害者雇用は会社にとって負担が大きいため、厚生労働省の助成金制度では手厚い助成金を支給しています。例えば、以下のような助成金が活用しやすいでしょう。
- トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース、障害者短時間トライアルコース)
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)(障害者初回雇用コース)
これらの助成金は、障害者を雇用する際に利用できる助成金です。
事業拡大に伴う従業員の増加、あるいは法定雇用率の引き上げなどにより、初めて障害者の雇用義務が生じた会社では、特に利用すべき助成金と言えるでしょう。
特に、障害者トライアル雇用助成金では助成内容が拡充されています。
助成内容が拡充されていることからも、障害者雇用に取り組む政府の姿勢が垣間見えます。
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いずれは環境整備も
また、障害者を雇用する際には、相応に環境を整備する必要があります。
そもそも、障害者雇用促進法には、障害者を雇用する会社に合理的な配慮を義務付けていますし、環境整備によって生産性や定着率の向上も期待できます。
業容が小さく、雇用する障害者もごく少人数であれば、配慮すべき内容も限定され、環境整備の負担も小さいでしょう。
しかし、雇用する障害者の人数が増えるにつれて、環境整備の必要性が高まります。
その際には、雇用環境の整備関係の助成金として、
- 障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)(障害者職場適応援助コース)
が利用できます。
このほかにも、施設を設置するなどの大がかりな取り組みに対する助成金もありますが、これは障害者雇用への意欲が特に強い会社を対象としているため、別の機会に触れることとします。

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まとめ
働き方改革が推進されていること、また障害者が増加していることなどによって、障害者雇用の重要性が高まっています。
今後も、労働人口は減少していくことでしょう。障害者が大幅に減少することも考えにくく、社会への負担は増大していくはずです。
これに対処するために、今後も政府は障害者雇用の拡大に取り組んでいくと思います。
経営への影響も高まっていくはずですから、障害者雇用の最新情報と助成金の活用について学び、経営に役立ててほしいと思います。
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