資金繰りには、意外なほどに勘違いが多いものです。
例えば、「資料の上ではきちんと利益が出ているのに資金繰りが厳しい」、「売上はきちんと伸びているのに資金繰りがラクにならない」といった疑問を抱いている人が多いのです。
そして、「利益計算で利益が出ていれば資金繰りがラクになる」、あるいは「売り上げが伸びていれば資金繰りがラクになる」といった勘違いをしているのです。
これは、発生主義のマジックにかかっていることが原因です。
そこで本稿では、このような間違いを正すために、発生主義のマジックを払しょくしていきましょう。
発生主義とは?
会社の利益を計算する際には、実際の資金繰り、つまり実際にお金がどう動いているかにかかわらず計算していきます。
売買契約を結び、相手に商品を納品し、数ヶ月後の支払いを約束していた場合、利益計算における売上は契約した時点で計上することができるのです。
極端なことを言えば、代金の支払いが半年後であろうと、一年後であろうと、売上を即時に計上するということです。
これを発生主義と言います。
発生主義などという方法をとらずに、実際にお金が支払われてから計上すればよさそうなものなのに、どうして敢えてこのような方法をとっているのでしょうか。
それは、支払い時期は契約によって異なるため、入金してから売上を計上するとなると、会社間での売上の比較ができなくなるからです。
これでは、業績を見るのに不便ということで、発生主義が採られているのです。
また、税務署などの立場から見ても、発生主義は好ましい方法です。
契約時点で売上を計上し、その売上に応じて法人税が変わってくるため、入金を故意に遅らせて税金を調整することができない発生主義は好ましいと言えます。

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発生主義のマジック
しかし、発生主義には、会社にとっては好ましくない問題があります。
それは、売上を計上した時期と代金を回収する時期が異なることから、「利益はあるのに資金が不足する」という事態を引き起こしてしまうことです。
入金された時点で計上する仕組みを現金主義と言いますが、資金繰りは現金主義によって行うものです。
資金繰りを見れば、お金の流れがそのまま資金繰りに反映されているわけですから、簡潔明瞭でわかりやすいものです。
しかし、利益計算は発生主義であり、お金の動きが分かりにくくなります。
発生主義によってお金の流れを把握できなくなり、お金の裏付けがない利益をあるものと考えてしまいます。
このように、正しい資金繰りができなくなることを発生主義のマジックと言います。
(「発生主義のマジック」という表現は一般的ではありませんが、そう表現する専門家もおり、分かりやすいのでここでもそう表現しています)

このマジックを取り払って、実際のお金の流れをもとにした資金繰りを中心に考えていく必要があります。
発生主義のマジックを取り払うためには、商品の流れとお金の流れをもう少し詳しく見ておいた方が良いでしょう。
商品を販売してお金が発生するまでには、以下のような流れがあります。
- 商品を仕入れる。
- 商品は一旦在庫として保管され、販売の機会を待つ。
- 仕入れた商品を販売し、売掛金が発生する。
このとき、利益計算では売上が計上される。 - 後日、支払期日に売掛金が入金される。
一方、商品を仕入れた時の支払いは、以下のような流れで行われます。
- 商品を仕入れる。
買掛金が発生する。 - 後日、支払期日に買掛金を支払う。
買掛金の支払いは、一般的に売掛金に先行します。
これは、買掛金は仕入れてすぐに発生するのに対し、売掛金は在庫期間を経たうえで販売が行われてから、初めて発生するものだからです。
以上のことから、
- 売上代金の入金は、売上の計上よりも遅れる
- 売上代金の入金は、仕入れ代金の支払いよりも遅れる
ということが分かります。
これによって、資金が不足した状態になってしまうのです。
発生主義のマジックの色々
売上計上の際だけではなく、発生主義のマジックは色々なところに見られます。
設備導入の場合
例えば、製造業ならば機械を導入することがあるでしょうし、その他の業種でも色々なオフィス機器などを導入することがあると思います。
これらの設備現金で購入した場合には、資金繰りの上では会社から実際にお金が出ていくことが明らかです。
しかし、発生主義では全額損に落とすのではなく、減価償却を行います。
つまり、設備を導入したならば、それらの設備の耐用年数を見積もり、耐用年数を設備の購入代金で割り、割ったものを年度ごとの経費に計上するのです。
機械などが特にそうですが、これらの設備は耐用年数に渡って利益をもたらすものです。
だからこそ、耐用年数の全期間にわたり、年ごとに減価償却していくのが発生主義の考え方です。
この結果、設備が耐用年数の全期間を終了した時には、現金主義でまとめて全額損に落とした場合と、発生主義で減価償却した場合の費用は一致することになります。

資金繰りの上では、現金は購入当初に確かに出て行っているにもかかわらず、利益計算では全額損とすることはないため、利益は出てもお金が足りないという状況が起こるのです。
設備投資資金を銀行などから借り入れている場合には、その返済をしていかなければなりません。
融資を受けた資金は設備購入で出て行き、しかし全額損とすることはなく、さらに銀行への返済もしていくことになりますから、資金不足に一層悩むことになります。
税金の場合
税金も、発生主義のマジックを語るうえで外せません。
税金を計算する場合には、発生主義によって計上された利益に税率を掛け合わせます。
これによって算出された納税額を、決算期末から2ヶ月以内に納付することになります。
上記の通り、発生主義のマジックにかかると、売上はあって利益も出ているのに資金が不足しているという状態に陥ります。
しかし、売上代金が入ってくるまで税金の支払いを猶予してもらうことはできません。
納税資金を銀行から借り入れたりすることになるのですが、そうなると返済による圧迫を受けることにもなり、資金不足が深刻化することがあります。
発生主義のマジックを払しょくする
以上のように、発生主義によって利益計算をしたものと、実際のお金の流れは異なるため、利益が出ていても資金繰りに困ることがあります。
経営者としては、利益が出ているからと安心することはできないことが分かります。
資金繰りに行き詰る経営者の多くは、利益計算と資金繰り計算の区別がはっきりしていないことが多いです。
一生懸命働いて、売上と利益を伸ばそうと努力し、実際に伸びているにもかかわらず資金は足りず、頭を抱えてしまうのです。
それもこれも、売上が資金化されて、会社に現金が入ってくるプロセスをよく理解していないことに原因があります。
苦労して経営を続けて来た経営者の中にも、資金繰りの重要性を理解していながら、発生主義のマジックにかかってしまっている人が少なくありません。
経営者は、資金繰りを担当している社員に任せきりになるのではなく、損益計算書や資金繰り表などに自ら眼を通し、お金の流れを詳しく把握しておくことが求められるでしょう。

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売上が伸びても資金繰りが楽にならない理由
上記において、売上と利益がきちんとあるのに、発生主義のマジックにかかっているためにお金の流れを掴みかね、資金繰りに困るケースを紹介しました。
これに類似する悩みとしてよく挙げられるのが、
売上が伸びているのに、資金繰りが全然ラクにならない!という悩みです。
このことについても解説しておきましょう。
発生主義のマジックにかかってしまうと、利益が出ていても資金が不足するという事態に陥ります。
ならば売上を伸ばして、資金が不足しないようにすればいいのではないかと考える人もいるのですが、そう甘くはありません。
確かに、売上が伸びれば会社に入ってくるお金も増え、資金繰りが楽になりそうに見えるのですが、そうならない場合も多々あるのです。
運転資金を理解しよう
この勘違いは、運転資金というものを理解していないことに原因があります。
運転資金とは、一時的な不足した資金を賄うための資金のことであり、基本的には「売掛債権(売掛金や受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金や支払手形)」によって算出可能です。
貸借対照表における運転資金の位置づけを知ると理解しやすいでしょう。
売掛債権 | 仕入債務 |
必要な運転資金 | |
棚卸資産 |
会社が営業活動を続ける限り、「商品を仕入れ、仕入債務が発生し、その商品は棚卸資産となって在庫期間を経て販売し、売上を計上し、仕入債務を支払い、売掛債権を回収する」という循環を繰り返しています。
ここでは簡単に、売掛金や受取手形をまとめて売掛債権、原材料や商品や製品をまとめて棚卸資産、買掛金や支払手形をまとめて仕入債務と表現しています。
このうち、売掛債権と棚卸資産は1年以内に現金化される資産として、流動資産に分類されています。
ただし、売掛債権や棚卸資産という姿であるうちは現金化される前の状態ですから、入金までは時間がかかり、入金されるまで経営を続けるだけの資金が別途必要となります。
一方、負債の部を見てみると、仕入債務の支払いが控えています。
これは流動負債に計上されており、支払いは先送りされているものの、いずれは現金で支払わなければならない債務です。
資金繰りの上から見れば、仕入債務はその段階ではまだ支払っておらず、支払いに充てる現金も用意する必要は必ずしもなく、仕入先に代金を立て替えてもらっている状態です。
これらをまとめると、現金を用意しなければならない部分と、現金を用意しなくても良い部分との差が生じ、これが運転資金に当ります。
「運転資金=売掛債権+棚卸資産-仕入債権」
という数式の根拠も、これで明らかになると思います。
運転資金はプラスになっているのが普通であり、これは多くの会社が運転資金を必要としていることを表しています。
会社は、これを銀行からの借入や自己資金、資産の売却などによってカバーしていきます。
ただし、現金売上多い商売では、売上即入金となりますから、仕入と支払いのずれの方が多いため、運転資金がマイナスとなります。
運転資金がマイナスということは、運転資金が不要であるということですから、資金繰りはかなりラクな状態と言ってよいでしょう。

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売上が伸びても資金繰りが楽にならない理由
売掛債権や棚卸資産の規模を量る時、月商の何倍に当たるかという見方をします。
例えば、売掛債権を月商で割った時に2という数値が得られれば、売掛債権は月間の売上の2倍に当たるということが分かります。
さらにこれは、売掛債権の滞留期間を示す数値でもあり、売掛債権が現金として入ってくるまでに2ヶ月かかるということでもあります。
仮に、売上を10とし、それぞれの滞留期間は、売掛債権が2.5ヶ月、棚卸資産が2ヶ月、仕入債務が3ヶ月であったとします。
それぞれを月商で割ったときに滞留期間が分かることから、それぞれを滞留期間算出前の数値に戻すと、売掛債権は25、棚卸資産は20、仕入債務は30となることが分かります。
これを図示すると、
売掛債権25(滞留期間2.5ヶ月) | 支払債務30(滞留期間3ヶ月) |
棚卸資産20(滞留期間2ヶ月) | |
必要運転資金15 |
となり、必要運転資金は、
運転資金=売掛債権+棚卸資産-仕入債権
=25+20-30=15
となることが分かります。
必要となる運転資金は15です。

この時、それぞれの滞留期間は、売掛債権が3.75ヶ月、棚卸資産が3ヶ月、仕入債務が5か月となります。
滞留期間算出前の数値は、売掛債権が56.25、棚卸資産が45、仕入債務が75となります。
これを図示すると、
売掛債権56.25(滞留期間3.75ヶ月) | 支払債務75(滞留期間5ヶ月) |
棚卸資産45(滞留期間3ヶ月) | |
必要運転資金26.25 |
となります。
売上が5伸びたことによって、必要となる運転資金は15から26.25へ、50%以上も増えたのです。
このように、必要となる運転資金は、売上が増加するにつれて膨らんで行くものです。
売上が大きくなったからと言って資金繰りが楽にならない実態が良くわかると思います。
新規取引に要注意
特に注意したいのが、新規取引先との取引条件によって、売り上げが伸びても、資金繰りがもっと厳しくなることもあるということです。
既存の取引先との取引を拡大するよりも、新規の取引先を獲得したほうが売上は伸びやすいです。

これは、売上債権の滞留期間が長くなってしまうということであり、上記の表における売掛債権の数値が多くなってしまうため、必要運転資金はより大きくなってしまいます。
また、売上を伸ばすための交換条件として、仕入に対する支払サイトを早めてしまった場合にも、同様の結果を招きます。
上記の表における支払債務の欄が小さくなり、必要運転資金の欄が大きくなるからです。
同時に、売上を伸ばすためには営業活動が必須であり、営業活動に伴う出費も増えていくため、これも資金繰りを圧迫することになり、資金繰りを厳しくします。
このように、売上が伸びたからといって、資金繰りがラクにはならないのです。
資金繰りがラクになるということは必要運転資金を小さくするということですから、そのことから考えるに、
- 売掛債権の回収期間を短くする
- 棚卸資産を現金化するスピードを速める
- 支払債務の支払い期日を長くする
といった取り組みこそが、売上を伸ばすよりも重要であることが分かります。

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まとめ
発生主義のマジックにかかってしまうと、利益計算上の売上や利益に惑わされてしまい、後日入ってくる“予定”に過ぎないお金を過信してしまうことになります。
現実のお金をもとにして資金繰りを正確に把握していくためには、発生主義のマジックを拭い去る必要があります。
発生主義のマジックを拭い去れば、現金を中心に据えた資金繰りを検討することができるようになります。
その考え方によって、現実に必要となっている資金はどれほどであり、その状況を改善するためにはどうすべきかを知ることができます。
売上を闇雲に伸ばすという間違いも正すことができると思います。