人材不足に悩んでいる会社では、状況を改善するにあたって、新規雇用を中心に考えていることが多いと思います。
しかし、新規雇用が必ずしも人材不足の解消に役立つとは限りません。
従業員の流出を防げる仕組みがない会社では、いつまでも人材不足を解消できないのです。
このときに役立つのが「両立支援」です。
本稿では、助成金を受給しながら両立支援に取り組むメリットや導入の流れについて、具体的な事例を用いて紹介していきます。
両立支援に取り組む事は人材不足の解消にもなる
近年、政府が力を入れている取り組みの一つに、「両立支援」があります。
一口に「両立支援」と言っても、何と何の両立に取り組むのか、その対象は様々です。代表的な両立支援には、
- 出産と仕事の両立
- 育児と仕事の両立
- 介護と仕事の両立
- 治療と仕事の両立
などが挙げられます。
政府が両立支援に力を入れている理由は、経済成長を促すためです。
生産年齢人口の減少が続く日本では、様々な形で両立を支援しています。
様々な事情を抱えている人が働きやすい社会を作ることで「働きたくても働けない」人を減らし、労働力の確保、ひいては経済の維持・成長を目指しているのです。
これは、日本経済全体だけではなく、各企業にとっても重要なことです。
生産年齢人口の減少によって労働者の絶対数が減ったことにより、企業の人材確保はどんどん困難になってきています。
人材不足の解消のためには、
- 雇用によって人材を確保すること
- 雇用した人材を流出させないこと
という両面からの取り組みが重要です。
特に、人材の流出を防ぐ取り組みが不十分な会社は、それを解消しない限り人材不足を解消することはできません。

人材を確保しても、その人材を流出させてしまう会社では、いつまでも人材不足のままなのです。
水を溜めるためには、バケツの底を塞ぐ必要があります。
人材不足を解消するためには、人材の流出を防ぐことが不可欠です。
「両立支援」は、まさにバケツの底を塞ぐ取り組みです。
両立支援に取り組むことで、働きにくい事情を抱えた人材を流出することが少なくなり、人材不足の解消に役立ちます。

治療と仕事の両立が重要
両立支援には色々なパターンがあり、それぞれの企業の特性によって、効果的な取り組みも変わってきます。
例えば、女性従業員が多い会社では、出産や育児と仕事を両立できる体制を作っていくことで、人材不足の解消に大きな効果が期待できます。
また、最近の中小企業では、若い人材を確保することに苦労し、従業員の高齢化が進んでいる会社も多いです。
このような会社では、従業員が健康を損なうリスクも高く、ベテラン従業員が病気で退職・休職などに陥ると、経営に大きな打撃となる場合があります。
そこで、治療と仕事を両立できる体制を作っていくのが効果的と考えられます。
色々ある両立支援の中でも、「治療と仕事の両立」は他の両立よりも重要性・緊急性が高い取り組みです。
なぜならば、「治療と仕事の両立」は、両立していく労働者本人が大変な困難を抱えており、場合によっては命の危険さえあるからです。
労働者本人ではない子供を養育したり、親を介護したりすることも当然に困難ですが、
- 養育しながら健康体で働く
- 介護しながら健康体で働く
- 大きな病気を治療しながら働く
というように並べて見てみると、治療と仕事の両立が特に困難であることが分かります。
治療しながら働く労働者に家族がいることも多く、場合によっては養育や介護をしながら、大きな病気を治療しながら働かなければならない人もいます。
この意味において、「治療と仕事の両立」は他の両立と一線を画しています。
それだけに、治療と仕事の両立に努める会社は、従業員に大きな安心を与えられます。
困難を抱えた従業員を会社ぐるみでサポートする相互扶助の社風が生まれるなど、人材確保だけではない様々な効果が期待できるのです。


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治療と仕事の両立に取り組むには
では、治療と仕事の両立に取り組むにあたって、実際にどのように進めていくのか、例を用いて具体的に説明していきましょう。
治療と仕事の両立支援には、
- 両立の対象となる従業員がいないうちから、環境を整備していく
- 従業員が大病を患い、両立の必要が生じてから、環境整備・制度活用に取り組む
という二つの進め方があります。
「治療と仕事の両立支援」導入の具体例
一般的には、欠けては困る従業員が大病を患ったとき、はじめて両立支援の必要を感じて取り組むことが多いため、ここでは後者を例としてみていきます。
助成金については後述しますが、両立支援によって助成金を受給する際にも、両立支援制度を導入することが受給要件となります。
確実に助成金を受給するためにも、導入の流れを学んでおきましょう。
【1.従業員が大病を患う】
中小企業のA社は、慢性的な人材不足に陥っており、ギリギリ人材で経営を回しています。
近年では、新規の人材雇用もうまくいかず、一部のベテラン従業員によって事業が成り立っています。
ベテラン従業員の一人でも欠けてしまうと、経営に大きな支障をきたす状態です。
ある日、ベテラン従業員のBさんががん検診を受けたところ、肺がんが見つかりました。
医師によれば、幸いにも深刻な状況ではなく、手術と抗がん剤治療を行うことによって、治癒する確率は高いとのことです。
しかし、治癒する可能性は高いと言っても、しっかりと治療することが前提であり、一定期間にわたって通院する必要があります。
人材不足に陥っているA社は、従業員が休日出勤や残業をこなすことで、なんとか事業が回っている状態です。
もし、ベテラン従業員のBさんが、治療のために休職したり、出勤日数・勤務時間を制限したりすれば、会社には大きな負担となります。
治療の期間がどれくらいであるか、明確なことはわかっていません。
がんともなれば、治癒したと思った頃に転移が見つかることもあり、想像以上に長期の闘病を強いられることも珍しくありません。
そんな中で仕事を続けられるのだろうか。
しかし続けなければ家族を養えない、子供の教育費用もこれからもっと必要になる、医療費もかかるし、住宅ローンの完済もまだまだ先だ、ならばなおさら働かなければならない。
果たして、A社でそれが可能なのか、配置転換も難しそうだ、もういっそ辞めて治療に専念して、完治してから再就職しようか・・・
Bさんは頭を抱えました。

【2会社で両立支援を検討する】
Bさんは、退職することも考えながら、社長に相談することとしました。
いなくては困る人材が急に辞めると言い出したため、社長は焦りました。しかし、理由が理由です。
がんが見つかったのですから、その治療が最優先であることは社長にも分かります。
しかし、Bさんも仕事にやりがいを感じており、できれば仕事を続けていきたいと考えているため、会社もBさんも退職を避けたいのが本音です。
両立支援について、詳しいことをほとんど知らなかった社長は、退職を真剣に考えているBさんを一旦なだめ、両立支援について調べ始めました。
社長は、Bさんが大病を患って退職を考えたことによって、治療と仕事を両立できる体制でないことの重大さを、初めて自覚したのです。
現状のまま経営を続ければ、ベテラン社員たちは高齢化していき、病気のリスクも高まります。
それによって退職する従業員が増え、経営が成り立たなくなるかもしれません。
社長は、両立支援のために何をすべきかわからないものの、ともかくBさんへの対応を通して治療と仕事の両立に取り組もうと決意しました。


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【3.社長、産業保健総合支援センターへ】
両立支援について右も左もわからない社長は、とりあえず両立支援について相談するために、産業保健総合支援センターを訪問しました。
両立支援を導入するとはどういうことか、どのように導入していくものなのかといった、基礎的な部分から取り組むならば、産業保健総合支援センターに相談するのがベストです。
産業保健総合支援センターは、全国の各都道府県に1か所ずつ設けられています。
「両立支援促進員」というスタッフが常駐しており、治療と仕事の両立のために、様々なアドバイスや支援を行っています。
具体的には、
- 両立支援に関する相談
- 政府の両立支援ガイドラインを学ぶためのセミナー
- 両立支援に取り組む会社を訪問し、両立支援制度の導入をサポート
- 労使間の関係の調整
などによって、支援を実施しています。
両立支援などの労務に関することは、社労士などの専門家に相談することもできますが、その場合には有料となります。
しかし、産業保健総合支援センターでは無料でサポートを実施しているため、資金繰りが厳しい中小企業でも気軽に利用することができます。

【4.導入のポイントを学ぶ】
一口に「治療と仕事の両立」といっても、病気が違えば働き方も違います。
両立支援制度を長期的に運用していくためには、一人ひとりに合わせた柔軟な支援ができるように、制度を導入していかなければなりません。
社長は、Bさんの両立支援のために何をすべきか、長期的な従業員の福祉のために何をすべきか、両立支援促進員のアドバイスを受けました。
両立支援促進員のアドバイスをまとめると、ポイントは以下の4つでした。
基本方針とルールを作成する
まず、治療と仕事の両立支援を進めるための基本方針を作ります。
また、具体的な対応方法などのルールも定めていきます。
しかし、せっかく方針を固めてルールを作っても、従業員が支援制度の存在を知らなければ両立を促すことはできません。
そこで、基本方針やルールを従業員に周知することによって、「病気が見つかったとき相談すれば、会社が支援してくれる」という雰囲気を作ることが大切です。
社内での協力体制を築く
両立支援に欠かせないのは、社内での理解と協力です。
これがなければ、両立支援を必要とするBさんを会社ぐるみでサポートしていくことはできません。
他の従業員が消極的・否定的であれば、いくら制度を導入していてもうまくいきませんし、Bさんも周りに迷惑をかけることを嫌い、やはり退職を選ぶかもしれません。
それを避けるためにも、従業員への周知に加えて、管理職はもちろんできるだけ多くの従業員に研修などを行い、両立支援に協力できる意識づくりをしていきましょう。
相談窓口を明確化する
ここまで読んで、仕組みづくりで一貫しているのは、「両立支援を必要とする従業員が、支援を受けやすい環境をつくること」だと分かります。
そこで重要なのが、相談窓口を明確化することです。
たとえ制度を導入し、社内での理解・協力が得られる環境を作っても、相談窓口を明確化していなければ相談はしにくくなります。
上司Aに相談すれば「上司Bに相談してくれ」と言われ、上司Bに相談すれば「上司Cに相談してくれ」と言われ、スムーズに支援を受けることが難しくなってしまうこともあり得ます。
そうならないためにも、相談窓口を明確化しましょう。
制度を整備する
以上の取り組みによって、両立支援制度を整備していく環境を整えることができました。
ここからは、治療に配慮するための具体的な制度、例えば休暇制度や勤務制度などを検討・導入していきます。


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【5.社長が両立支援を宣言】
両立支援促進員のサポートにより、両立支援に必要な知識を得た社長は、上記のようなポイントに沿って取り組みを進めていきました。
A社は規模が小さい会社ですから、基本方針やルールについては両立支援促進員のアドバイスを受けながら社長が作り上げ、社内の意見や実施状況に応じて修正していくこととしました。
基本方針とルールを作ってすぐに、社長は全従業員の集まる朝礼で、治療と仕事の両立支援制度を導入することを宣言しました。
このとき、社長が従業員にしっかりと伝えたのは次の内容です。
- 小規模な会社だからこそ、従業員一人ひとりの働きが重要であり、一人の働きが結果的に全従業員のためになること
- 全従業員が両立支援制度を理解し、協力していくことにより、Bさんの治療と仕事の両立が実現すること
- Bさんの両立支援が成功すれば、それをモデルケースとして、今後も両立支援が必要になった従業員が働きやすくなること
このように伝えることによって、サポートに周る従業員も、巡り巡って自分のためになることを知り、社内では両立支援に賛成一色となりました。


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【6.制度の整備】
社内の雰囲気を作り上げた社長は、Bさんの置かれている状況や希望を詳しく把握することに努めました。
このためにBさんは、
- 主治医に対して業務内容などを記載した書面を提供して意見を求める
- 主治医の見立てにより、必要となる就業上の措置や治療への配慮などを意見書にまとめてもらう
- 意見書を社長に提出する
という流れで、必要な措置や希望を詳しく伝えました。
これは、本当に効果のある両立支援を実現するために、とても重要なことです。
それをもとに、社長は必要な支援制度を検討していきました。
社内からも広く意見を求めて制度整備の参考とした結果、
- 時間単位での有給休暇、傷病休暇、病気休暇の取得を促進する
- フレックス制度、短時間勤務、テレワーク、試し出勤などを導入する
などを中心として、制度を整備していきました。

【7.導入の効果】
両立支援制度の導入により、Bさんは短時間勤務制度を活用し、通院しながら仕事をこなせるようになりました。
社長は、短時間の勤務でBさんの能力を最大限に生かす方法を考えました。
Bさんがそれまでにこなしていた業務を他の従業員に振り分け、ベテランとしての経験と知識を後輩や新入社員に指導する仕事を与えました。
これにより、Bさんの指導を受けた従業員の生産性が高まり、Bさんの働きが少なくなったことによるマイナスをカバーすることができました。
Bさん自身も、治療と仕事を両立することが可能となり、仕事に対するやりがいを失うこともありませんでした。
この結果、会社は様々なメリットが得られました。それは、
- Bさんという貴重な人材を失わずに済んだ
- 今後、Bさんと同じような境遇の従業員が出たときに備えることができた
- 従業員同士がお互いに支え合う社風が育った
- チームワークが高まり、生産性の向上にもつながった
といったメリットです。
出発点は「一人の従業員の雇用を維持する」という、一見小さなものだったのですが、そこから派生して大きなメリットが得られたのです。
従業員が少ない中小企業だからこそ、両立支援を通して社内の結束を高めることが重要です。
それによって、これからの厳しい時代でも生き抜いていける、少数精鋭の会社に成長していけるかもしれません。

助成金も受給できる
上記のA社のように、治療と仕事の両立支援に取り組んだ会社では、助成金の受給も可能です。
この助成金は、「治療と仕事の両立支援助成金」というものです。
A社のように、従業員が大病を患ったことをきっかけに両立支援に取り組んでいく会社では、「治療と仕事の両立支援助成金」の「制度活用コース」を利用することができます。
制度活用コースは、従業員の中に「反復・継続して治療が必要となる傷病」を抱えている人がいる場合に利用できるコースです。
対象となる病気は、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎などです。
助成金を受給する流れは、以下の通りです。
- 両立支援制度を活用するために、両立支援制度活用計画を作成する。
- 両立支援制度を最初に導入する月の初日の6ヶ月前の日から1ヶ月前の日の前日までに、必要な書類を添えて、労働者健康安全機構本部へ認定を申請する。
- 認定をうけた後、認定された両立支援制度活用計画に基づき、両立支援コーディネーターを活用して両立支援制度を実施する。
- 両立支援制度活用計画期間終了後2ヶ月以内に、支給申請書に必要な書類を添えて、労働者健康安全機構本部に支給申請を行う。
- 助成金が支給される。
助成金額は20万円、支給は1回限りとなっています。
両立支援制度の導入・活用にあたり、会社には何らかの負担が生じているものです。
制度の運用を開始してから一定期間のうちは、試行錯誤しながら体制を作っていく必要があり、一時的な生産性の低下を招くこともあります。
しかし、助成金をしっかり受給しておくことで、そのようなネガティブな影響を緩和することができます。
せっかく両立支援制度を導入するならば、治療と仕事の両立支援助成金を活用して、負担の軽減に努めましょう。

※治療と仕事の両立支援助成金の環境整備コースと制度活用コースについて、詳しくはこちら

まとめ
本稿では、従業員Bさんを取り巻くA社の取り組みを例に、両立支援制度を導入する流れを見ていきました。
この例により、両立支援が会社にもたらすメリットが大きいこと、人材不足に陥りやすい中小企業だからこそ、両立支援の重要性が高いことが分かったと思います。
両立支援制度を導入すれば、助成金を受給することも可能です。
簡単に取り組めるものではありませんが、コスト負担は助成金によって軽減できるので、費用面では尻込みする必要はありません。
強い会社を目指し、ぜひ両立支援に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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