若手が離職してしまう理由は様々ですが、その中には対処できないものと、対処できるものがあります。
一見、対処できないように見える理由でも、会社が仕組みを作っていくことで、離職を防げるものもあります。
本稿では、両立支援や訓練の実施によって、防げる離職をしっかり防ぎ、若手の離職率を下げる方法について解説していきます。
若手の離職を防ぐには「理由」を知ろう
近年、若手の人材不足にあえいでいる中小企業が増加しています。
若手の確保に力を入れても、苦戦を強いられている理由は複数考えられます。
まず、日本では大企業志向が根強いこと、若手の人材の絶対数が減少傾向にあることなどから、若手の採用そのものが難しくなってきています。
さらに、若手の人材は離職率が高い傾向があります。
入社3年以内に離職する若手は、大卒で3割、高卒で5割、中卒で7割とも言われており、せっかく採用した若手が早期に離職してしまうことが多いのです。
このため、若手の確保を図る中小企業では、採用活動に力を入れると同時に、若手の離職率を下げる努力が求められます。
離職率を下げるためには、若手が離職に至る原因を知り、原因ごとに一つずつ対処していく必要があります。
平成25年度の「厚生労働省調査 若年者雇用実態調査」では、若年者の離職の原因は以下のようになっています。
グループ | 初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで) | 割合(単位:%) | 合計(単位:%) |
A | 仕事が自分に合わない | 18.8 | 28.4 |
自分の技能・能力が活かせられなかった | 7.9 | ||
責任のある仕事を任されたかった | 1.7 | ||
B | 会社に将来性がない | 12.4 | 80.9 |
賃金の条件が良くなかった | 18.0 | ||
労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった | 22.2 | ||
不安定な雇用状態が嫌だった | 8.7 | ||
人間関係が良くなかった | 19.6 | ||
C | 健康上の理由 | 8.2 | 33.4 |
結婚・子育てのため | 9.5 | ||
介護・看護のため | 0.9 | ||
独立して事業を始めるため | 1.0 | ||
家業を継ぐまたは手伝うため | 1.1 | ||
倒産、整理解雇または希望退職に応じたため | 4.4 | ||
雇用期間の満了・雇い止め | 4.4 | ||
1つの会社に長く勤務する気がなかった | 3.9 | ||
D | その他 | 16.9 | 26.6 |
不明 | 9.7 |
この表では、離職の理由ごとに大まかなグループ分けをしています。それぞれのグループは、
- A・・・働き方に不満がある
- B・・・会社の雇用環境に不満がある
- C・・・離職せざるをえない特殊な理由を抱えている
- D・・・その他の理由
を意味しています。
最も離職につながりやすいのはBグループです。
労働条件に問題がある会社では、若手の離職率が高くなる傾向が強いです。
AグループやCグループへの対処は、Bグループへの対処より優先度が低いものの、離職率を下げるためにはしっかりと対処していきたいものです。
特に、本稿で取り上げるCグループは、積極的に対策していくべきです。
なぜならば、Cグループで挙げられている理由の中には、会社が制度を整備することによって、離職を防げるものも多いからです。

※Aグループ、Bグループへの対処について、詳しくはこちら

→雇用環境への不満から起こる離職を防ぎながら、助成金も受給しよう!
優先順位を考えて対処していこう
Cグループの離職理由は、上記の通り、離職せざるを得ない理由を抱えていることによって離職に至るものです。
Cグループの中には、対処しようがない理由もあります。
独立して事業を始める、家業を継ぐ、家業を手伝う、最初から長く勤める気がないといった理由で離職する若手に対しては、手の打ちようがありません。
しかし、このような理由によって離職する若手はごく一部にすぎません。
日本には独立のリスクを嫌う風潮があるため、独立して事業を始める若手は非常に少ないです。
また、若手ゆえに社会経験も浅いのですから、将来的に独立を志しているとしても、短期間で離職する人はあまりいません。
家業を継ぐ・手伝うために離職する若手もいますが、経営者を親に持つ若手が少数派であること、また親も働き盛りの年齢であることから、入社した若手が家業を理由に、早々に離職することは考えにくいです。
最初から長く勤める気がない若手は3.9%とやや多いですが、他の理由に比べると少ないです。
最初から長く勤める気がない理由が判然とせず、取り組みも複雑になるため、離職率低下のための優先順位は低いです。
このほか、倒産・整理解雇・希望退職による離職がやや高い数値となっています。
しかし、倒産や整理解雇に至っているのですから、離職率以前の問題です。
介護・看護を理由に離職する若手は極めて少ないため、これも後回しで問題ないでしょう。
Cグループで対処すべきは、健康上の理由による離職(8.2%)、結婚・子育てのための離職(9.5%)、雇用期間満了による離職(4.4%)です。
この3つの合計は22.1%であり、Cグループの3分の2を占めています。
したがって、この3つに対処することによって、若手の離職率低下が期待できます。
これら3つの対処には、助成金も活用できます。
助成金を活用しながら取り組み、Cグループの過半に対処できるのですから、優先順位を見極めて取り組むことが重要です。


健康上の理由による離職
健康や結婚・子育てを理由とする離職には、両立支援に取り組むことによって大きな効果が得られます。
まず、健康上の問題を抱えた従業員は、治療と仕事が両立できない場合に離職に至ります。
難病を抱えた従業員は、長期にわたって休業する必要があります。
また、治療後に職場に復帰した際、休業前と同じように働けないことも多いです。
このため、長期休業のための制度や、職場復帰を支援する制度を整えていない会社では、長期休業を受け入れることが難しく、従業員側も働きにくさを感じて離職してしまいます。
ただし、若手の離職に限って考える場合、一般的な両立支援とは考え方が異なります。
全ての従業員を対象とするならば、年齢とともに大病のリスクは高まっていくため、中高年の従業員ががん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎など、反復・継続して治療が必要となる大病を患うことも多いです。
しかし、若手はこのような大病のリスクが低いため、精神疾患を軸として考えるのが良いでしょう。
がんや糖尿病、脳卒中といった病気とは異なり、精神疾患は年齢に関係なく発症のリスクがあります。
特に、古い体質の会社では、若手の価値観が通用せず、ストレスが大きくなり、精神疾患を発症する可能性も高いです。
したがって、若手の離職率を下げるためには、
- メンタルヘルスの増進に取り組むことで精神疾患を防ぐこと
- 精神疾患を発症したときに備えて、制度を構築すること
が必要となります。

ストレスチェックに取り組もう
2015年に労働安全衛生法が改正されたことによって、従業員50人以上の事業場ではストレスチェックを義務付けられました。
2017年の改正では、従業員50人未満の事業場でもストレスチェックが義務付けられましたが、これは努力義務に過ぎないため、実施していない会社も多いです。
従業員のストレスを把握することは、容易ではありません。
問題ないように見えても、実際にはストレスを抱え込んでおり、急に限界を迎えて離職するケースも多いです。
特に若手は、相談できる上司や先輩もあまりいないため、問題が隠れてしまう傾向があります。
ストレスチェックは、そのような従業員のストレスを可視化するためのものです。
ストレスチェックを実施するのは、医師や保健師といった社外の専門家であるため、チェックは正確に行われます。
さらに、高ストレス者と判断された従業員には、医師の面接指導が実施されます。
医師は、従業員と事業者の双方に対して、就業上の配慮や措置などをアドバイスするため、会社も若手のストレスへの具体的な対応を知ることができます。
このように、ストレスチェックはメンタルヘルスの増進に役立ちます。
従業員50人未満の会社でも、努力義務だからといって軽視することなく、積極的に実施するのがおすすめです。
また、治療が必要となった若手を離職させないためにも、時間単位の年次有給休暇、傷病休暇・病気休暇、フレックスタイム制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、テレワークなどを導入し、治療と仕事を両立しやすい環境を作ることが大切です。

ストレスチェックは助成金を活用できる
ストレスチェックの実施や、両立のための制度づくりにあたって、様々な助成金を活用することができます。
まず、ストレスチェックの実施にあたって、従業員50人未満の会社では、ストレスチェック助成金を受給することができます。
受給のためには、
- 年1回のストレスチェックを実施する
- ストレスチェックの結果に応じて、産業医の資格を持った医師による従業員への面接指導を実施し、事業主は面接指導の結果に基づいてアドバイスを受ける
という取り組みを実施する必要があります。助成金支給額は、
- ストレスチェックの実施:従業員1人につき500円を上限として実費を支給
- 産業医による面接指導:1事業所あたり、1回の活動につき21500円を上限として実費を支給(3回まで)
となっています。
※ストレスチェック助成金について、詳しくはこちら
また、治療と仕事を両立するために、様々な制度を導入する際にも助成金を受給できる可能性があります。
例えば、TOKYO働き方改革宣言企業制度では、働き方・休み方の改善として、フレックスタイム制度や短時間勤務制度、時間単位での年次有給休暇制度などを導入した会社に助成金を支給しています。
これは東京限定の助成金制度ですが、他の地域でも独自の制度が実施されていることがあります。

また、精神疾患の治療と仕事を両立するためには、テレワークを導入し、自宅勤務によってストレスの軽減を図るのが効果的です。
政府は、テレワークの普及に力を入れているため、時間外労働等改善助成金のテレワークコースを利用することで、テレワーク導入に伴う経費の一部をカバーすることができます。
様々な制度を導入し、治療と仕事の両立を進める際にも助成金を受給できる機会は多いので、ぜひ検討していきましょう。

※治療と仕事の両立のための制度づくりで受給できる助成金について、詳しくはこちら
→東京都が実施する「TOKYO働き方改革宣言企業制度」ではどんな支援をしている?
→テレワークの導入で経営はどう変わる?使える助成金はある?

結婚・育児による離職
次に、結婚・育児による離職を考えます。
上記の表からも分かりますが、結婚・育児による離職は、Cグループの中で最も多い理由です。
男性であれば、結婚すればなおさら働く必要があるため、結婚・育児を理由に離職する若手は多くありません。
この理由で離職する若手の大部分は、女性と考えてよいでしょう。
労働人口が減少しており、女性の活躍が推進されている昨今、女性も貴重な労働力となっています。
しかし、会社の仕組みが整っていなければ、結婚・育児によって女性の離職を防ぐことは困難です。
結婚・育児による若手の離職を減らすためには、結婚・出産・育児による長期休業を認め、それらが一段落してから職場に復帰できるように、両立支援のための仕組みを作っていく必要があります。
両立支援の実施によって、若手の女性従業員は結婚・育児を期に離職する必要がなくなります。
また、結婚・育児と仕事を両立できることが魅力となり、若手の女性の採用が加速することも期待できます。

育児休業を与えて助成金の活用をしよう
結婚・育児と仕事の両立に取り組む会社は、両立支援助成金の「出生時両立支援コース」や「育児休業等支援コース」を活用することができます。
出生時両立支援コースは、男性従業員の育児休業を対象とするものです。
かつては、育児は女性の役目と考える風潮がありましたが、最近は男性が育児に携わることも増えています。
中小企業では、子供が生まれてから8週間以内に、男性従業員に連続5日以上の育児休業を取得させることで、57万円(生産性要件を満たしている場合には72万円)の助成金を受給できます。
休業の日数は短いため、取り組みへのハードルは低いものの、男性が育児休業を取得できるインパクトは強いため、フレキシブルな社風を作るのに役立ちます。
もっとも、結婚・育児による若手の離職率を下げるためには、女性従業員に長期の育児休業を取得させることが重要です。

育児休業等支援コースでは、結婚・出産・育児に伴って連続3ヶ月以上の育児休業を取得させた場合に、
- 育児休業の取得させる→1人につき28.5万円(生産性要件を満たしている場合には36万円)
- 育児休業を取得した従業員を職場に復帰させる→1人につき28.5万円(生産性要件を満たしている場合には36万円)
- 育児休業する従業員の代替要員を確保する→1人につき47.5万円(生産性要件を満たしている場合には60万円)
などの助成金を受給することができます。
3ヶ月以上にわたる休業は会社にとって負担が大きいものの、助成金を受給しながら取り組めば、ハードルを下げることができます。
若手の離職率を下げると同時に、女性の活躍推進にもつながるため、積極的に検討したい取り組みです。

自社で無理のない範囲で、少しずつ取り組んでいくのもいいだろう!
※結婚・育児と仕事の両立支援で受給できる助成金について、詳しくはこちら
→男性従業員の育児休業で助成金をもらえる出生時両立支援コースは、最低5日の取り組みでOK!
→育児休業の取得で助成金を受給できる育児休業等支援コースについて

雇用期間満了による離職
雇用期間満了による離職は、従業員本人の意思とはあまり関係がありません。
有期契約で雇用した従業員に対し、契約を更新しないことによって離職に至るわけですが、その理由の多くは適性や能力の問題です。
したがって、若手の離職率を下げるためには、適性・能力に問題がある若手を無理に雇用し続けるのではなく、そのような若手を雇用しないよう、採用時のミスマッチを防ぐことが重要です。
ミスマッチを防ぐためには、試験的に採用するのがスタンダードな方法です。
トライアル雇用助成金を使えば、トライアル期間を経て適性・能力を見極めることができます。
キャリアアップ助成金も、6ヶ月の有期契約雇用期間中に適性・能力を見極め、無期雇用や正規雇用への転換を検討することができます。
ただし、トライアル雇用助成金やキャリアアップ助成金を利用しても、適性・能力に問題があれば、トライアル期間や有期契約期間満了によって離職します。
このため、ミスマッチのリスクは回避できますが、若手の離職率が低下するわけではありません。

適性や能力に問題がある若手でも、しっかりと訓練を実施することによって、適性・能力の問題を解消できる可能性があります。
これにより、有期契約満了時に契約を更新する、あるいは正規雇用に転換することができ、雇用期間満了による離職を減らすことができます。
訓練の結果次第で継続雇用や正規雇用転換の可能性があれば、若手も目標をもって訓練や実務に取り組むため、これも若手の離職率低下につながります。

助成金を活用して正規雇用等をしよう
採用した若手に訓練を実施し、正規雇用を目指し、離職率低下を図る会社では、人材開発支援助成金の特別育成訓練コースを活用しましょう。
特別育成訓練コースは、新規に採用した非正規雇用労働者に3ヶ月以上6ヶ月以下の有期実習型訓練を実施した会社に、賃金助成と経費助成を支給するものです。
正規雇用転換を目指して訓練を実施するものの、転換できなかった場合にも助成金を受給できます。
正規雇用に転換できた場合には、経費助成の追加を受けられるほか、キャリアアップ助成金の正社員化コースでも助成金を受給できます。
雇用期間満了による離職を減らすためには、適性や能力をしっかりと高められる訓練計画を立てる必要があります。
最初のうちは、思うように効果が得られないこともあるかもしれませんが、徐々に訓練計画の質を高めていけば、若手の離職率低下に大きな効果が得られるでしょう。
特別育成訓練コースは、受給要件が細かく決められているため、当サイトの別の記事を参考にしてください。

※特別育成訓練コースについて、詳しくはこちら


まとめ
若手が離職する理由の中には、独立して事業を始める、家業を継ぐ、そもそも長く勤める気がないなど、対処できない理由もあります。
しかし、そのような理由による離職は非常に少ないものです。
しかし、一見すると離職しても仕方がないように思える理由でも、会社が両立支援に取り組んだり、訓練を実施したりすることによって、離職を防げることも多いです。
そのような取り組みによって助成金を受給できることも多いので、ぜひ助成金を活用しながら、若手の離職率低下に取り組んでいきましょう。