2013年4月1日に労働契約法が改正されたことによって、「無期転換ルール」というものが始まりました。
それから6年後にあたる2019年4月1日、いよいよこのルールの影響を受ける会社が出てきています。
本稿では、無期転換ルールの概要と、その影響を軽減するために活用できるキャリアアップ助成金について解説していきます。
無期転換ルールとは
労働契約法の改正によって、「無期転換ルール」が施行されたのは2013年4月1日のことでした。
「無期転換ルール」とは、正式には、「労働契約法第18条第1項(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)」というものです。
この法律について簡単に説明すると、
「有期契約労働者(契約期間が定められている労働者)と会社の間で、5年を超えて契約が反復更新されている場合、その労働者は会社に対して、無期労働契約への転換を申し込むことができる」
というものです。
なお、このルールにおける「5年を超えて契約が反復更新されている場合」のイメージは、以下のようなものです。
例えば、毎年4月1日から翌年3月31日まで、1年ごとに契約を更新している従業員ならば、
- 2013年4月1日~2014年3月31日
- 2014年4月1日~2015年3月31日
- 2015年4月1日~2016年3月31日
- 2016年4月1日~2017年3月31日
- 2017年4月1日~2018年3月31日
というように、2018年3月31日までに契約が5回にわたって反復更新されています。
このような従業員は、無期転換ルールの条件を満たすため、2018年4月1日~2019年3月31日までの間で、無期労働契約への転換を申し込むことができます。
無期労働契約への転換を申請された会社は、労働者側が要件を満たしている場合、原則的に拒否することができません。
よって、会社が就業規則に定めた転換日から、無期労働契約での雇用となります。

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会社は人件費のコントロールが困難となる
無期労働契約の従業員は正社員ではありませんから、給与や賞与、勤務日数や勤務時間、福利厚生などについては、有期労働契約と変わりません。

これまで、有期労働契約で契約社員・アルバイト・パートなどを雇用してきた会社は、会社の財務状況などに応じて、契約を更新しないことで人員を整理することもできました。
しかし、無期転換ルールができたことによって、有期労働契約から無期労働契約へと昇格する従業員が増えた場合、会社は人件費のコントロールが困難になります。
無期労働契約の従業員は、契約終了の期間が定められていません。
このため、会社の都合で契約を打ち切ることができなくなるのです。
キャリアアップ助成金を活用しよう
法律で定められている以上、無期労働契約に転換しなければならない会社も多いと思います。
このとき、法律だから仕方ないと考えて、受け身になって転換に応じる会社と、仕組みの中で負担の軽減に努める会社とでは、大きな差が出てきます。
特に、キャリアアップ助成金は積極的に活用すべき制度です。
この制度では、従業員の待遇を改善した場合に、様々な助成を受けることができます。

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キャリアアップ助成金の概要
キャリアアップ助成金では、有期契約労働者と無期雇用労働者の違いについて、以下のように定めています。
- 有期契約労働者:期間の定めがある労働契約を締結する労働者
- 無期雇用労働者:期間の定めがない労働契約を締結している労働者
このように、キャリアアップ助成金ではごく単純に、契約期間の定めがあるかどうかによって区別しています。
したがって、無期転換ルールによって、有期労働契約を無期労働契約に切り替えた会社では、助成金の支給対象となる可能性があります。
具体的には、キャリアアップ助成金の「正社員化コース」という制度が利用できます。
この制度では、
基本的な支給額 | 生産性が6%向上している場合 | |
有期契約から正規契約へ転換 | 1人当たり57万円 | 1人当たり72万円 |
有期契約から無期契約へ転換 | 1人当たり28万5000円 | 1人当たり36万円 |
無期契約から有期契約へ転換 | 1人当たり28万5000円 | 1人当たり36万円 |
と定められており、有期労働契約から無期労働契約へと転換した場合には、1人当たり28.5万円の助成金を受けることができるのです。
なお、無期労働契約へと転換する際に、直近の会計年度の生産性が3年度前の生産性に比べて6%以上アップしている場合には、助成金額は1人当たり36万円へとアップします。
実務上の注意点
ただし、この制度を正確に活用するためには、無期雇用労働者と正規雇用労働者の違いをしっかり把握しておく必要があります。
これを勘違いしてしまうと、雇用契約を転換するとき、有期から無期へ、有期から正規へ、無期から正規へといった色々な転換があることによって、混乱を招く恐れがあるからです。
キャリアアップ助成金では、無期雇用労働者と正規雇用労働者を、以下のように区別しています。
- 無期雇用労働者:期間の定めがない労働契約を締結している労働者であり、なおかつ正規雇用労働者、勤務地限定正社員、職務限定正社員および短時間正社員以外のもの
- 正規雇用労働者:期間の定めがない労働契約を締結している労働者であり、なおかつ正規雇用労働者、勤務地限定正社員、職務限定正社員および短時間正社員
このように、無期雇用労働者と正規雇用労働者は、どちらも期間の定めがない労働契約を締結していることは同じですが、従業員としてのカテゴリが違うのです。

例えば、次のように明らかな違いがあります。
- 賃金の算定方法や支給携帯
- 賞与や退職金の有無
- 定期的な昇給や昇格の有無
正規雇用労働者の場合、長期雇用を前提とした待遇になることから、賃金や賞与、昇給などで優遇されます。
しかし、期間の定めはないものの、長期雇用を前提としてないことから、無期雇用労働者はそのような優遇を受けられません。
つまり、無期転換ルールによって無期労働契約を締結した労働者は、あくまでも契約期間の定めがない契約へと変更されるだけなのです。
したがって、これまで就業規則を曖昧にしか設けてこなかった会社では、キャリアアップ助成金の活用をスムーズにするために、次のようにしっかりと区別された就業規則を作る必要があるでしょう。
- 有期契約労働者向けの就業規則
- 無期雇用労働者向けの就業規則
- 正規雇用労働者向けの就業規則
そうすることによって、次の対応が可能となり、助成金の利用でも間違いがなくなります。
- 無期転換ルールによって無期契約を交わす場合、契約期間以外の雇用条件は全て据え置き、無期雇用へ転換した場合の助成金を申請する
- 優秀な人材を正規雇用する場合には、無期転換の従業員と混同することなく、正規雇用へ転換した場合の助成金を申請する

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キャリアアップ助成金のポイント
さて、これから無期転換ルールを適用していくにあたり、キャリアアップ助成金を活用したいと思っている会社では、以下の要領で進めていくのが良いでしょう。
1.キャリアアップ計画書の作成
キャリアアップ助成金を利用するためには、キャリアアップ計画書を作成し、所轄の労働局の認定を受ける必要があります。
現時点で、有期契約労働者がいる会社では、無期転換ルールによって無期雇用労働者に転換する従業員が出てくるはずですから、早急にキャリアアップ計画書を作るべきです。
もちろん、有期契約労働者を抱えていない会社でも、いずれ契約社員やパート社員などを採用する可能性があるならば、キャリアアップ計画書は早めに作っておき、必要の際にはすぐに利用できる環境を整えておきましょう。

計画書の自体は、経営者自ら作成することも可能ですが、その後の手続きを含めた万般の実務を考えると、社労士に任せたほうが間違いありません。
また、経営者は経営者の仕事があるでしょうから、その意味でも社労士に任せたほうがベターです。
2.就業規則の整備
次に、就業規則の整備に取り組みます。
就業規則は、従業員が10人未満の会社では作成する必要がないため、就業規則を作っていない会社もあるでしょう。
また、就業規則が創業当初の古いままのものになっている、十分な改定がなされていないといった場合には、おそらくキャリアアップ助成金の活用には適さない内容になっているはずです。
しかし、キャリアアップ助成金を利用する会社では、従業員の人数に関わらず就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出ておくべきです。
キャリアアップ助成金の中には、就業規則を作成していることが要件になっている場合もあります。
また、雇用契約の転換に伴い、キャリアアップ助成金のうち正社員化コースを活用するならば、それに適した内容を就業規則に盛り込んでおく必要があります。
具体的には、就業規則の該当する箇所に、
「勤続6ヶ月以上の有期契約労働者で、本人が無期契約への転換を希望する場合には、無期契約雇用へと転換することがある。
転換時期は、毎年原則4月1日とする。
所属長の推薦のある者に対し、面接及び筆記試験を実施し、合格した場合について採用することとする。」
(有期契約から無期契約へ転換する場合の規定)
などとして、雇用契約の転換に関する規定を設けておくのです。

これからすぐに活用しない会社でも、早いうちにやっておいたほうが良いでしょう。

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まとめ
無期転換ルールによって、有期契約から無期契約へと転換し、資金繰りに従来とは異なる影響が出ている会社も多いことでしょう。
このような会社では、キャリアアップ助成金を受給することによって、影響を軽減することができます。
しかし、キャリアアップ助成金を活用するためには、キャリアアップ計画書の作成や就業規則の整備など、事前に準備しておかなければならないこともあります。
キャリアアップ助成金を利用できる状況にありながら、まだ準備が整っていない会社は、できるだけ早い取り組みが求められます。
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