助成金の目的は、労働環境の整備や生産性の向上を通して、経済成長を促すことです。
これに関係のある取り組みであれば、一見すると関係なさそうな取り組みでも、助成金の対象となる場合があります。
例えば、キャリアアップ助成金の一つに「健康診断制度コース」があり、有期契約労働者に健康診断を受けさせることで助成金を受給することができます。
健康診断と経済成長はあまり関係がなさそうですが、健康的に働ける労働者が増えることは経済にとって大切なことであるため、助成金の支給対象となっているのです。
本稿では、健康診断制度コースについて詳しく解説していきます。
キャリアアップとは?
キャリアアップ助成金については、当サイトでも度々取り上げています。
これは、キャリアアップ助成金は受給額が大きく、受給要件のハードルもそれほど高くはなく、なんといっても中小企業の人材不足解消に活用しやすい制度だからです。
キャリアアップ助成金といえば、正社員化コースについては皆さんも良くご存知かと思います。
しかし、コースは全部で8つ設けられており、その中の一つには健康診断制度コースなどというものもあります。
そもそも、キャリアアップ助成金における「キャリアアップ」とは「処遇改善」のことであり、有期契約労働者の待遇を改善し、正規雇用労働者の待遇に近づけることを指しています。
有期契約から無期雇用や正規雇用に転換する、あるいは無期雇用から正規雇用に転換する正社員化コースは、まさしくキャリアアップのイメージそのものと言えるでしょう。
他にも、賃金制度や手当制度の改善、短時間労働の延長、健康保険の適用なども、有期契約労働者の待遇が正規雇用労働者に近づくため、これもキャリアアップといえます。
健康診断制度コースも同様です。
会社にとって、健康診断を受けさせる義務がない労働者に対して、健康診断を受けさせる制度を作ることにより、キャリアアップを図るのです。
健康診断制度コースについて、キャリアアップのイメージを抱きにくい人もいるかもしれませんが、これもキャリアアップの一種であり、助成の対象にもなっています。
健康診断を受けさせる意味
健康診断は、それを受けた従業員の健康維持に役立ちます。
しかし、従業員に個人的なメリットがあるだけではありません。
もし、従業員の個人的なメリットがあるだけならば、受けさせなくても良い従業員に健康診断を受けさせ、会社が費用を負担する必要もないでしょう。
また、政府も助成金によって奨励することはないはずです。
しかし、実際に政府は健康診断制度コースを設置して、健康診断を奨励しています。

労働者の健康が維持されれば、病気によるリタイアが減り、健康で働ける人が増え、生産年齢人口の維持につながります。
日本の人口減少に伴い、生産年齢人口も減少傾向にあるため、健康増進によって生産年齢人口の維持を図ろうとしているのです。
また、健康で働ける労働者は、不健康で働く労働者よりも生産性が高くなりますから、これも健康を増進するメリットとなります。
これによって、日本の経済成長を促すことができるため、政府はキャリアアップ助成金に健康診断制度コースを設けているのです。
同様に、会社にもメリットが期待できます。
従業員が健康を損なって離職した場合には、新たに雇用する必要があり、新規雇用者の教育も必要となります。
離職した人が有能であれば、その穴は簡単には埋められないでしょう。
健康診断の対象を広げ、従業員の健康を増進していけば、不健康を理由とした離職や生産性の低下を防ぐことができます。このように、健康診断は会社にとってもメリットがあるのです。

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キャリアアップ助成金(健康診断制度コース)について
以上のようなメリットを期待して実施されている助成金が、キャリアアップ助成金の健康診断制度コース(以下、健康診断制度コース)です。
健康診断制度コースは、有期契約労働者等を対象として、法定外の健康診断制度を新たに規定し、なおかつ4人以上に実施した場合に助成金を支給するものです。
このコースを理解するためには、「法定外の健康診断」について知る必要があります。
法定外の健康診断とは?
すべての会社では、法律で定められている従業員に対して、定期健康診断を行っています。
これを、「法定健康診断」といいます。
法定健康診断では、実施する従業員を
「常時使用する労働者(期間の定めのない労働契約により使用される労働者、あるいは週の労働時間が正社員の4分の3以上の労働者)」
としています。
これに該当しない有期契約労働者であれば、法定健康診断を受けさせる必要はありません。
つまり、対象外の有期契約労働者等に対して健康診断を実施する場合について、「法定外の健康診断」というのです。
会社の負担は大きい
法定健康診断で定められている診断項目は、
- 既往歴・喫煙歴・服薬歴・業務歴の調査
- 自覚症状および他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、視力、腹囲、および聴力の検査
- 胸部X線検査
- 血圧の測定
- 尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)
- 貧血検査(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ‐GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)
- 血糖検査(空腹時血糖)
- 心電図検査
となっています。
これらの診断に伴う費用は、1人当たり約1万円となっており、会社が全額負担する必要があります。
したがって、法定外の健康診断を実施する場合、対象となる労働者が多い会社ほど、大きな負担を強いられることになります。


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法定外の健康診断制度とは?
健康診断制度コースで助成金を受給するためには、「法定外の健康診断制度」を新設しなければなりません。
制度を新設するといえば小難しいですが、実施する法定外の健康診断を
「雇入時健康診断」
「定期健康診断」
「人間ドック」
から選び、労働協約や就業規則に、法定外の健康診断制度についての規定を定めるということです。
なお、選択肢となる3つの健康診断制度の定義は、以下のように定められています。
【雇入時健康診断】
労働安全衛生規則第43条により、常時使用する労働者を雇い入れる際に実施する健康診断。
【定期健康診断】
労働安全衛生規則第44条により、常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期に行う健康診断。
※雇入時健康診断と定期健康診断の診断項目は、労働安全衛生規則に詳しく書かれています。以下を参照してください。
【人間ドック】
基本健康診断に加えて
- 胃がん検診
- 子宮がん検診
- 肺がん検診
- 乳がん検診
- 大腸がん検診
- 歯周疾患検診
- 骨粗しょう症検診
のいずれかを行う健康診断。
記載例
労働協約や就業規則に規定するときの、実際の記載例は以下のようになります。
第○条(健康診断)
会社は、契約社員およびパートタイマーに対して、次の健康診断を行う。
(1)雇入時の健康診断
(2) 定期健康診断(毎年1回。ただし、有害業務従事者に対しては6か月に1回)
(3) 人間ドック
2 前項に係る健康診断の費用は、会社が負担する。
対象となる労働者
法定外の健康診断の対象となるのは、
「法定健康診断の対象にはならない有期契約労働者等」
です。
具体的には、以下の全てに該当する労働者が対象となります。
- 有期契約労働者であること。
※無期雇用労働者や、勤務時間が正社員の週所定労働時間の3/4以上の労働者は対象外
- 雇入時健康診断、定期健康診断、人間ドックのいずれかを受診する日に、雇用保険被保険者であること。
- 助成金の支給申請日に離職していないこと。
対象となる事業主
次に、対象となる事業主(会社)についてみていきましょう。
こちらの要件は、キャリアアップ助成金の全コースに共通の要件を満たし、さらに健康診断制度コースだけの要件も満たす必要があります。
【全コース共通の要件】
- 雇用保険適用事業主であること
- キャリアアップ管理者を置いていること
- キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長から認定を受けていること
- キャリアアップ計画の期間内に、キャリアアップに取り組んでいること
【健康診断制度コースの要件】
- キャリアアップ計画期間中に、法定外の健康診断制度について、労働協約または就業規則に規定していること
- キャリアアップ計画期間中に、法定外の健康診断制度を4人以上に実施していること
- 支給申請日に、法定外の健康診断制度を継続して運用していること
- 雇入時健康診断制度または定期健康診断制度を規定した場合、会社が費用を全額負担することを労働協約または就業規則に規定し、実際に費用の全額を直接負担していること
- 人間ドック制度を規定した場合には、人間ドック制度の費用の半額以上を会社が負担することを労働協約または就業規則に規定し、実際に費用の半額以上を直接負担していること
などとなっています。


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受給額
気になる受給額は、1事業所当たり38万円、生産性要件を満たしている場合には48万円の支給となります。
注意したいのは、あくまでもこれが上限であり、1つの事業所につき1回しか利用できないということです。
キャリアアップ助成金には、正社員化コースのように「1年につき○人まで」といった仕組みになっているものもあります。
このような仕組みであれば、毎年繰り返し利用できます。
健康診断制度コースについても、「1年の助成上限が38~48万円なのだ」と勘違いしている人もいるのですが、あくまでも「1事業所当たり1回のみ」であることに注意してください。
したがって、定期健診制度を導入して38~48万円の助成金を受給した会社では、1人当たり1回1万円の検診費用がかかると仮定すれば、助成金でカバーできるのは38~48人が上限になるということです。
それ以降は、助成金によって負担を軽減することもできません。
自社にとって法定外の健康診断制度を規定するメリットをよく考え、社労士などにも相談しながら進めていくのが良いでしょう。
受給までの流れ
健康診断制度コースの受給の流れは、以下の通りです。
1、キャリアアップ計画の作成・提出
健康診断制度を規定する日までに、キャリアアップ計画を作成・提出します。
2、労働協約または就業規則に、法定外の健康診断制度を規定
キャリアアップ計画の期間中に、法定外の健康診断制度を規定します。
規定を設けたら、改定後の労働協約または就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。
3、健康診断を4人以上に実施
新たに設けた規定に基づいて、法定外の健康診断を計4人以上に実施します。
4、支給申請
法定外の健康診断を4人以上に実施したならば、支給申請が可能となります。
支給申請の期限は、計4人以上に実施した日を含む月の賃金を支給した日の翌日から起算して、2ヶ月間となっています。
5、審査・支給決定
審査に問題がなければ、助成金が支給されます。
支給申請の期限について
上記の流れのうち、4の支給申請の期限が少し分かりにくいので、少し詳しく解説しておきます。
ある会社で健康診断制度コースに取り組み、キャリアアップ計画の認定を受け、労働協約または就業規則などの規定も設けた後、1人目、2人目、3人目と健康診断を実施していきます。
そして、4人目が健康診断を実施したのは、4月15日でした。
この会社の賃金制度が月末締め翌月25日払いであったとすれば、4人目の「健康診断を実施した日を含む月の賃金」が支払われるのは、5月25日となります。
ここで注意したいのは、健康診断を実施した日の給料も支払わなければならないことです。
「その日は健康診断を受けただけで、働いていないから無給」とすることはできず、この会社の場合には4月15日の賃金も支払う必要があります。
助成金の支給申請期間は、4月分の賃金が支払われた5月25日の翌日(5月26日)から起算して2ヶ月以内、つまりこの会社では7月25日が申請の期限となります。


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まとめ
法定外の健康診断制度により、有期契約労働者にも健康診断を実施すれば、従業員の健康維持、ひいては会社の生産性向上などにもつながる可能性があります。
また、法定外福利厚生サービスの中でも、法定外健康診断はかなり人気が高く、従業員の満足度の向上、離職率の低下などにつながることも期待できます。
このような効果に興味があるならば、社労士などとも相談しながら、健康診断制度コースの活用を検討してみてはいかがでしょうか。