新型コロナウイルス対策として政府が打ち出す支援策の中でも、雇用調整助成金では特に拡充が続けられています。
これまでにも数回にわたって特例措置の実施が発表されてきましたが、4月25日にはさらなる追加措置の実施予定が発表されました。
この追加措置では、ある条件を満たす中小企業に対して、雇用調整助成金の助成率を10/10とするとしており、労務コスト削減に大きく役立つことが期待されます。
本稿では、雇用調整助成金の次なる追加措置について解説していきます。
中小企業の苦境を受けて
新型コロナウイルスの拡大によって、売上が急減し、資金繰りが苦しくなっている企業が急増しています。
中でも、感染拡大の懸念が強い地域では、飲食店などに休業要請・営業短縮要請が発令されており、経営環境は厳しさを増しています。
中小企業の経営も厳しいですが、そこで働く人々の生活にも大きな影響を与えています。
このような非常事態、すなわち売上が減少しており、なおかつ売上を早期に回復できる見込みもなく、入ってくるお金が減り続けている状況において、可能となる資金繰り対策は経費を削減することだけです。

このため、休業に踏み切る会社も少なくないわ。
現行の法律では、会社都合の休業の際には、会社は従業員に対して6割以上の休業手当を支払うことが義務付けられています。
雇用調整助成金を活用し、賃金助成を受給しながら休業させることによって、企業は労務コストを大幅に削減することができます。
とはいえ、収入が平常時の6割まで減ってしまうため、生活が苦しくなる人も増えています。
欧米諸国の対応を見てみると、8割以上の休業手当を補償できるように国が支援しているケースも見られます。
このため、有識者の中には、最低水準の6割ではなく、より多くの休業手当を支払えるよう、雇用調整助成金のさらなる拡充を求める声もあがっていました。
これを受け、政府は4月25日、雇用調整助成金のさらなる拡充を発表しました。
この追加措置は、令和2年5月上旬ごろを目途に実施される予定です。

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現時点での特例措置
次回の追加措置を理解するために、現在までの雇用調整助成金拡充の推移を簡単に見ておきましょう。
平常時の雇用調整助成金
平常時の雇用調整助成金では、
- 中小企業:休業手当の2/3
- 大企業:休業手当の1/2
の助成率で助成金を支給しています。
ただし、1人当たりの支給上限額は日額8330円です。
また、雇用調整助成金を受給するためには、最近3ヶ月間の月平均での生産性指標が、前年同期比で10%以上減少していることが要件となっています。
このほか、
- 雇用保険被保険者以外の労働者
- 雇用保険被保険者のうち、雇用された期間が6ヶ月未満の労働者
を休業させた場合には、助成金の支給対象とはなりません。
特例措置による変化
これまでに実施された特例措置によって、雇用調整助成金の支給要件は多くの点で緩和されました。
まず、助成率が、
- 中小企業:休業手当の4/5(解雇を行わない場合には9/10)
- 大企業:休業手当の2/3(解雇を行わない場合には3/4)
へと引き上げられています。

ただし、支給上限額は1人当たり日額8330円に据え置きとなっているよ。
次に、生産性指標の確認対象期間は3ヶ月から1ヶ月に短縮されており、減少率の要件も10%以上から5%以上へと緩和されています。
このほか、支給対象となる労働者の要件も大幅に緩和され、雇用保険被保険者以外の労働者および雇用された期間が6ヶ月未満の雇用保険被保険者も支給対象となっています。
※これまでに実施された雇用調整助成金の特例措置について、詳しくはこちら

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次回の追加措置は?
以上の特例措置によって、
- 助成率が引き上げられ、さらなる労務コスト削減につながること
- 生産性指標の要件が緩和され、受給しやすくなったこと
- 新規雇用の正規雇用の従業員、非正規雇用の従業員などにも休業手当を支払いやすくなったこと
などから、中小企業の資金繰り改善により役立つ仕組みとなりました。
しかし、従業員の生活にはそれほど関係のない仕組みと見ることもできます。
休業に際して企業に求められる義務は「賃金の6割以上の休業手当の支給」であり、企業がこの水準を自主的に引き上げない限り、従業員の収入は低いままになってしまうのです。
また、多くの中小企業は資金繰りが厳しいため、休業手当を自主手当に引き上げることも容易ではありません。
雇用調整助成金は、休業手当の4/5~9/10を受給できるものであり、休業手当の全額をカバーすることはできません。

このため、休業手当を引き上げると、労務コストは増加してしまうんだ。
この問題を解決するために、次回予定されている追加措置では、休業手当を6割以上支給している場合に、6割以上の部分に対して10/10の助成率を適用するとしています。
これによって、企業に休業手当の引き上げを促すことが狙いです。
追加措置による具体的な変化
この追加措置によって、中小企業が負担する休業手当は、どのように変化するのでしょうか。
具体的な変化を見てみましょう。
【現行の雇用調整助成金】
上記の通り、現行の仕組みでは、実際に支給される休業手当の割合に関係なく、中小企業に対して4/5~9/10の助成率を設定しています。
例えば、平常時の賃金が日額8000円の従業員に対して、労働基準法の基準である6割の休業手当を(=4800円)支給し、雇用調整助成金によって4/5の助成率が適用される場合、
4800円×4/5=3840円
が1日当たりの支給額となります。
もし、企業が休業手当を8割(=6400円)に引き上げた場合、助成率4/5での助成金の日額は、
6400円×4/5=5120円
となります。
それぞれの場合で企業が負担する労務コストは、
- 休業手当が6割の場合:4800円-3840円=960円(会社負担は20%)
- 休業手当が8割の場合:6400円-5120円=1280円(会社負担は20%)
となります。
会社負担率はどちらも変わりませんが、負担額では後者のほうが320円増えていることが分かります。

新型コロナウイルス収束の見通しは立っておらず、長期にわたって休業を強いられる可能性もあるわ。
完全に休業しているならば売上はゼロ、一部休業でも売上は大幅に減少している状況ですから、従業員ひとりひとりに対する休業手当が増えてしまえば、資金繰りが破綻するまでのリミットも短くなります。
これでは、休業手当の引き上げは簡単ではないでしょう。
【追加措置後の雇用調整助成金】
では、次回の追加措置によって、休業手当の6割以上の部分に対して10/10の助成率が適用された場合には、会社負担はどのように変化するのでしょうか。
この追加措置では、
- 休業手当6割の部分に対する助成率:4/5
- 休業手当の6割以上の部分に対する助成率:10/10
というように、休業手当の支給率によって助成率が変化します。
このため、日額賃金8000円の従業員に対し、8割(=6400円)の休業手当を支給する中小企業では、
- 休業手当6割の部分(=4800円)に対する助成金:4800円×4/5=3840円
- 休業手当の6割以上の部分(=1600円)に対する助成金:1600円×10/10=1600円
となり、合計5440円の受給が可能となります。
現行の仕組みでは、従業員に8割の休業手当を支給した場合の会社負担は1280円、負担率は20%でした。
これに対し、追加措置を適用して8割の休業手当を支給した場合には、会社負担は960円、負担率は15%に低下します。
追加措置後の負担は、現行の仕組みで6割支給した場合の負担と同じ960円です。
このような仕組みになれば、会社は同じ負担でより多くの休業手当を支給することが可能となり、休業手当の引き上げが容易になります。
従業員の生活を守るためにも、この追加措置はぜひ活用していくべきです。

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休業手当全体の助成率が10/10になる措置も
また、次回の追加措置では、一定の要件を満たした場合に、休業手当6割以上の部分に限らず、休業手当全体に対して10/10の助成率を適用するとしています。
対象となる要件
休業手当の全体に対して10/10の助成率を適用されるための要件は、
- 新型インフルエンザ等対策特別措置法等に基づき都道府県対策本部長が行う要請に、休業又は営業時間の短縮を求められた対象施設を運営するいずれかの事業主であって、これに協力して休業等を行っていること
- 以下のいずれかに該当する手当を支払っていること
①上限額(8330円)以上の休業手当を支払っていること(支払率60%以上である場合に限る)
②労働者の休業に対して100%の休業手当を支払らっていること
となっています。
利用できる企業は多い
休業や営業の縮小を要請は、各都道府県の判断によって行われます。
このため、要請される業種は地域によって異なり、1の要件の捉え方もさまざまです。
とはいえ、
- 休業要請:バー、ネットカフェ、スポーツクラブ、カラオケボックス、ホテルなど
- 営業時間の短縮要請:飲食店、喫茶店、居酒屋など
といったように、休業や営業時間短縮を要請される業種は多岐にわたるため、利用できる中小企業は多いはずです。

対象となる業種を運営している中小企業が、要請に協力した場合、第一の要件を満たすこととなるよ。
休業手当の支給率・支給額に注意
2の要件は、しっかりと理解しておく必要があります。
【すでに8330円以上の休業手当を支給している場合】
まず、現時点ですでに雇用調整助成金の上限額である8330円以上の休業手当を支払っている中小企業であれば、特に問題なく要件を満たせるでしょう。
この場合、休業手当の支給率も60%以上で良いため、支給率を引き上げることなく、受給額を増やせる可能性もあります。
例えば、日額賃金15000円の従業員に対し、6割(=9000円)の休業手当を支給している会社であれば、すでに雇用調整助成金の日額上限8330円以上を支給しています。
この場合、従来の助成率4/5を適用すると、助成金支給額は
15000円×0.6×4/5=7200円
となります。
日額上限8330円の受給とはならず、会社には1800円の負担が生じています。
このような中小企業では、休業手当全体の9000円に対して10/10の助成率が適用され、このうち日額上限の8330円の受給が可能となり、会社負担は670円に減少します。
会社の負担率で見ると、20%から約7.5%へと大幅に下がることが分かります。
【休業手当が8330円以下の会社が支給率を引き上げる場合】
次に、現時点で支払っている休業手当が8330円以下の会社で、休業手当の支給率を引き上げる場合を見てみましょう。
このとき、休業手当の支給率を10割に引き上げることが要件となることに注意しなければなりません。
たとえ支給率を引き上げたとしても、10割未満の引き上げは対象外となります。
しかし、休業手当を10割に引き上げることによって得られる効果は大きいです。
具体的に見てみましょう。
日額賃金8000円の従業員に対し、6割(=4800円)の休業手当を支給していた会社で、休業手当の支給率を8割(=6400円)に引き上げ、
- 休業手当6割の部分に4/5の助成
- 休業手当の6割以上の部分に10/10の助成
の追加措置の適用を受けた場合には、助成金受給額は5440円(会社負担額960円・会社負担率15%)となります。
一方、休業手当の支給率を10割(=8000円)に引き上げた場合には、休業手当全体に助成率10/10が適用されるため、助成金受給額は8000円(会社負担額0円・会社負担率0%)となります。
休業手当の支給率を8割に引き上げただけでは、負担率15%・960円の負担が発生するのに対し、支給率を10割に引き上げたことによって、負担がゼロになっていることが分かるでしょう。
これまでの雇用調整助成金では、主に会社の資金繰り支援の意味合いが強かったのですが、この追加措置によって、
- 従業員に平常時と同じ賃金を支給し、生活を守る
- 会社の負担がゼロになる
というダブルの効果を期待ができます。
会社の資金繰り対策としても、従業員の生活を守るためにも、この追加措置を活用しない手はありません。
もっとも、雇用調整助成金の日額上限が8330円で据え置かれている点には注意が必要です。
もし、休業手当の支給率を10割に引き上げた結果、休業手当の支給額が8330円以上となった場合、8330円以上の部分は会社の負担となります。
とはいえ、負担額・負担率を大幅に下げられる可能性が高いため、ぜひ活用を検討すべきです。

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まとめ
これまで、政府が新型コロナウイルス対策のために打ち出してきた支援策の多くは、主に企業を支援するものであり、労働者が恩恵を受けられないことも少なくありませんでした。
しかし、次回の追加措置では、休業手当の引き上げることによって、休業手当を据え置くよりも却って負担が軽減される可能性があります。
経費を削減しつつ、従業員の生活も守られるのですから、これを利用しない手はありません。
追加措置の実施は5月上旬に予定されています。

おそらく、本稿で解説した内容が大きく変わることはないでしょうから、今のうちから準備しておくことをおすすめするよ!
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