障害者雇用に取り組むとき、法定雇用率を満たすためにはどのように雇用するか、算定ルールを考えながら取り組んでいく必要があります。
雇用義務を満たす方法の一つとして、これまで短時間労働者として雇用してきた障害者の労働時間を延長することで、法定雇用率を満たすという方法も考えられます。
このとき、障害者雇用安定助成金を使うことで、労働時間の延長によって助成金を受給することも可能です。
本稿では、障害者雇用安定助成金と他の助成金の比較を通して、障害者の労働時間の延長について考えていきます。
障害者を短時間労働者として雇用する際の注意
現在、障害者雇用促進法による障害者の雇用義務は、法定雇用率2.2%と定められています。
これにより、常用労働者が46人以上の会社では、最低1人の障害者を雇用する義務があります。
障害者の雇用義務を帯びている会社では、できるだけ負担を軽減するために、短時間労働者(週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者)として雇用することを考えることもあるでしょう。
また、短時間労働者として雇用した場合にも、特定求職者雇用開発助成金などの助成金を受給することができます。
しかし、障害者を短時間労働者として雇用する場合には、注意すべきことがあります。
それは、短時間労働者として1人の障害者を雇用しても、必ず雇用義務を果たせるとは限らないということです。
これは、雇用する障害者の障害の区分や雇用形態によって、算定基準が異なるからです。
一口に障害者雇用と言っても、算定基準は以下のように定められています。
- 重度障害者以外の障害者を短時間労働者以外で雇用する→1人で1人のカウント
- 重度障害者以外を短時間労働者として雇用する→1人で0.5人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者を短時間労働者として雇用する→1人で1人のカウント
- 重度身体障害者または重度知的障害者を短時間労働者以外で雇用する→1人で2人のカウント
つまり、障害者を1人雇用する義務がある会社では、重度障害者以外を短時間労働者として1人雇用した場合には0.5人としてカウントされることから、法定雇用率を満たすことはできないのです。
短時間労働者として雇用したければ、重度障害者以外を短時間労働者として2人雇用するか、あるいは重度障害者を短時間労働者として1人雇用する必要があります。
カウントルールを活用する
このようなカウントルールは、面倒なものだと感じるかも知れませんが、制度は使いようです。
短時間労働者かどうかによってカウントルールが異なるのですから、短時間労働者として雇用した障害者が、仕事に慣れてきたタイミングで労働時間を延長し、カウントを増やすこともできるのです。
これによって、例えば業容拡大によって雇用義務が1人から2人に増えた会社では、
- 従来は短時間労働者として、重度障害者以外を2人雇用していた(合計で1人のカウント)
- この2人の労働時間を、週所定労働時間30時間以上へ延長する(合計で2人のカウント)
として、法定雇用率を満たすことも可能です。
このように対応すれば、短時間労働者として雇用し、配慮も組み立ててきた障害者を継続雇用しながら、新たな障害者を雇用することなく、法定雇用率をクリアできます。
障害者雇用では、新たな障害者の雇用に慎重になるべきです。
なぜならば、新たに雇用した場合、その障害者に合わせて新たな配慮が必要になることもあり、会社の負担が増大する懸念があるからです。
その負担を避けたい会社では、既に雇用してきた障害者、今後も継続雇用が可能とわかっている障害者の雇用区分を調整し、法定雇用率を満たす工夫をすべきです。

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助成金ももらえる
雇用している障害者の労働時間を延長することは、雇用義務の面だけではなく、助成金を受給できるというメリットがあります。
障害者雇用安定助成金の障害者職場定着支援コースでは、障害者の職場安定につながる様々な措置を講じた会社に対して、助成金を支給しています。
支給対象となる措置の一つには「短時間労働者の勤務時間延長」の措置も含まれており、労働時間の延長によっても助成金を受給できるのです。
助成の対象となる措置には、
- 週所定労働時間が20時間未満の労働者について、週所定労働時間を20時間以上30時間未満または30時間以上に延長すること
- 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者について、週所定労働時間を30時間以上に延長すること
の二通りがあります。
また、措置を適用する障害者の区分によっても、助成金の支給額は異なり、以下のように設定されています。
支給対象者 | 措置の内容 | 支給額 | 支給対象期間 | 支給対象期ごとの支給額 |
重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者 | 20時間未満から30時間以上へ延長 | 54万円 | 1年 | 27万円×2期 |
20時間未満から20時間以上30時間未満へ延長 | 27万円 | 1年 | 13.5万円×2期 | |
20時間以上30時間未満から30時間へ延長 | 27万円 | 1年 | 13.5万円×2期 | |
上記以外 | 20時間未満から30時間以上へ延長 | 40万円 | 1年 | 20万円×2期 |
20時間未満から20時間以上30時間未満へ延長 | 20万円 | 1年 | 10万円×2期 | |
20時間以上30時間未満から30時間へ延長 | 20万円 | 1年 | 10万円×2期 |
なお、この表の「支給対象期間」は、6ヶ月を1期と数え、助成金が支給される合計の期間です。

労働時間を延長すれば、雇用している障害者の賃金は増え、職場への定着につながるのだ。
キャリアアップ助成金との比較
短時間労働者の労働時間の延長によってもらえる助成金では、キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長コース(以下、短時間労働者労働時間延長コース)がよく知られています。
短時間労働者労働時間延長コースと比較してみると、障害者職場定着支援コースの手厚さがよくわかります。
短時間労働者労働時間延長コースでは、短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長した場合、
を受給することができます。
延長する週所定労働時間が5時間未満の場合には、規定の昇給率をクリアしつつ、延長する週所定労働時間に応じて以下の助成金を受給できます。
延長する週所定労働時間 | 基本的な支給額 | 生産性が6%向上している場合 | 昇給率 |
1時間以上2時間未満 | 1人当たり4.5万円 | 1人当たり5.7万円 | 13%以上昇給 |
2時間以上3時間未満 | 1人当たり9万円 | 1人当たり11.4万円 | 8%以上昇給 |
3時間以上4時間未満 | 1人当たり13.5万円 | 1人当たり17万円 | 3%以上昇給 |
4時間以上5時間未満 | 1人当たり18万円 | 1人当たり22.7万円 | 2%以上昇給 |
延長する時間にもよりますが、多くの場合で、障害者職場定着支援コースのほうが多く受給できることが分かります。
短時間労働者労働時間延長コースでは、生産性要件を満たすことによって追加助成を受けられますが、それを考えても障害者職場定着支援コースのほうが多く受給できる場合が多いです。
また、短時間労働者労働時間延長コースでは、延長する時間に応じて基本給を昇給する必要があり、これが負担になることがあります。
しかし、障害者職場定着支援コースではこのような昇給の定めがないため、会社は負担の増加を防ぎながら取り組むことができます。
昇給が受給要件になっていないことは大きな違いね。

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新たな雇用と労働時間の延長はどちらがいい?
次に、既に障害者を短時間労働者として雇用している会社で、雇用義務に対応するためには、
- 短時間労働者の労働時間を延長する
- 新たに雇用する
のどちらが良いかを、他の助成金と比較しながら考えてみましょう。
ここでは、一般の(重度障害者や精神障害者以外の)障害者を短時間労働者として2人雇用している会社で、新たに1人の雇用義務が生じた場合、
- 短時間労働者2人の労働時間を延長して法定雇用率を満たし、障害者職場定着支援コースを受給する
- 新たに雇用して法定雇用率を満たし、特定求職者雇用開発助成金の特定就職困難者コース(以下、特定就職困難者コース)を受給する
の二通りを比較してみます。
【障害者職場定着支援コースでの受給額】
すでに雇用している2人の短時間労働者を、週所定労働時間20時間以上30時間未満から、30時間以上に延長した場合、障害者職場定着支援コースによる助成金の支給額は、上記の表から2人で40万円となります。
【特定就職困難者コースでの受給額】
特定就職困難者コースの受給額は、以下のように設定されています。
対象労働者 | 支給額 | 助成対象期間 | 支給対象期ごとの支給額 | |
---|---|---|---|---|
短時間労働者以外の者 | 重度障害者等を除く身体・知的障害者 | 120万円 | 2年 | 30万円 × 4期 |
重度障害者等 | 240万円 | 3年 | 40万円 × 6期 | |
短時間労働者 | 重度障害者等を含む身体・知的・精神障害者 | 80万円 | 2年 | 20万円 × 4期 |
新たに雇用して法定雇用率を満たす場合には、
- 重度障害者以外の障害者を、短時間労働者として2人
- 重度障害者以外の障害者を、短時間労働者以外として1人
という雇用が考えられます。
特定就職困難者コースを利用すると、前者では160万円、後者では120万円の受給となります。

利用する助成金によって、受給額はかなり変わるんだね。
実質的な負担も考慮する
以上のように、障害者職場定着支援コースと特定就職困難者コースでは受給額に大きな違いがあります。
受給額だけで考えるならば、特定就職困難者コースを利用したほうが良いでしょう。
政府としては、労働時間の延長によって雇用義務に対応されるよりも、新たな雇用を促したほうが障害者福祉につながるため、このような差を設けているものと思います。
しかし、助成金額だけではなく、経営への実質的な負担も考慮しながら利用していくことが大切です。
障害者を新たに雇用すれば、新たな障害者に合わせて配慮を考える必要があります。
その余力が十分にある会社では、新たに雇用して特定就職困難者コースを利用し、受給額を伸ばすのが良いでしょう。
一方、負担の増大が厳しいならば、あえて受給額を無視して労働時間の延長に取り組み、負担軽減に努めるという選択もあり得ます。
特に、障害者職場定着支援コースを利用して新規の雇用を避ける場合、すでに合理的な配慮が十分にいきわたっており、適性も分かっている障害者の継続雇用を通して雇用義務を満たすことができます。
これは大きなメリットと言えるでしょう。

助成金の受給による負担軽減、そして受給要件を満たすことによる負担増加のトータルで考えることが大切だぞ。

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障害者トライアル雇用助成金との組み合わせも
障害者職場定着支援コースは、障害者トライアル雇用助成金との組み合わせでも効果を発揮します。
障害者トライアル雇用助成金には、障害者トライアルコースと障害者短時間トライアルコースの二つのコースがあります。
障害者短時間トライアルコースは、週所定労働時間を10時間以上20時間未満として雇う場合に利用できるコースです。
このような短時間での雇用は、法定雇用率の算定対象とはならないため、雇用義務の拡大に直接的に対応することにはつながりません。
しかし、障害者短時間トライアルコースを利用しながら短時間の雇用に取り組み、やがて週所定労働時間を20時間以上30時間未満に伸ばせば0.5人のカウント、さらに30時間以上に伸ばせば1人のカウントとなります。
このため、いずれ雇用義務の拡大を控えている会社で、ごく軽い負担で試験的に採用してみて、雇用義務の拡大に備えることも可能です。
障害者短時間トライアルコースでは、対象労働者の週所定労働時間を20時間以上に伸ばした場合に、月額4万円(最大12ヶ月)を受給することができます。
この時、障害者短時間トライアルコースで労働時間の延長に取り組むのですから、障害者職場定着支援コースの併給も可能となります。
障害者短時間トライアルコースを利用する際には、このような併給も考えておくことが大切です。

障害者雇用で使える助成金は多い。様々な組み合わせを検討して、ベストな答えを導き出していこうね!

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まとめ
一般の雇用でも、キャリアアップ助成金を使うことによって、短時間労働者の労働時間延長による助成金を受給することができます。
しかし、政府は障害者雇用に力を入れているため、障害者の労働時間を延長した際には、より手厚い助成金を受給できる仕組みになっています。
障害者の雇用に意欲的な会社や、十分な余力がある会社では、新規雇用に取り組んで助成金額を伸ばすのも良いでしょう。
しかし、労働時間の延長によってもそれなりに充実した助成金が設けられているため、雇用義務を考える上での一つの選択肢になることを知っておきましょう。
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