銀行格付けは、銀行の融資判断に大きな影響を与えます。
良い格付けを獲得すれば、好条件での融資を引き出すことが可能であり、格付けが低ければ融資を受けることが困難になります。
銀行格付けを決めるにあたり、銀行は決算書の情報を重視します。
そこで本稿では、銀行格付けを意識した貸借対照表のポイントを解説していきます。
銀行格付けと貸借対照表
銀行が融資の可否を判断する際には、色々な要素から考えて判断していくことになります。
中でも「銀行格付け」というものが大きな影響を与えます。
金融の円滑化のために、銀行は金融庁の指導に基づき、融資先を債務者区分に振り分けています。
債務者区分は次の6種類に分けられます。
- 正常先
- 要注意先
- 要管理先
- 破綻懸念先
- 実質破綻先
- 破綻先
会社の状況に応じて区分することによって、融資判断に役立てることができます。
本稿のテーマとなる銀行格付けとは、債務者区分に加えて、銀行ごとの状況を考慮して融資先を格付けするものです。
債務者区分が融資判断に用いられるのですから、債務者区分を基準にして作られる銀行格付けも、融資判断に大きく影響することが分かるでしょう。
まず債務者区分を決め、さらに銀行格付けを決めていくという流れになるわけです。
債務者区分はその会社の
- 業績(黒字か赤字か)
- 財務状況(債務超過状態ではないか)
- 返済状況(返済は滞っていないか)
といった情報から、大まかに判断していくものです。
そこからさらに踏み込む銀行格付けでは、大まかな情報だけではなく、決算書に現れる細かな情報を取り入れて判断していくことになります。

例えば、黒字であり、債務超過ではなく、延滞もない会社は正常先に区分されます。
しかし、利益の多寡や伸び率、社内に留保されている現金の量や売掛金の回収状況、借入金の額や債務解消までの期間などを決算書から読み取ることで、次のように格付けられます。
- 優良な正常先
- 一般的な正常先
- 要注意先に近い正常先
このことから、経営において債務者区分を意識することは当然のこととして、さらに銀行格付けまで意識して取り組んだほうがよいことが分かります。
そうすれば、同じ正常先の中でも、より良い正常先に格付けられるように工夫し、好条件で融資を引き出すことができるようになります。
また、同じ要注意先でも、要管理先へのランクダウンが近い状態から、正常先へのランクアップが近い状態に持ち込むことができ、債務者区分改善に役立てることができます。
このように考えると、決算書が銀行格付けや債務者区分に与える影響の大きさが分かると思います。
新規に融資を受ける際には決算書を提出するものですし、既に融資を受けている銀行にも毎年の決算書を提出するものです。
そして、その決算書は銀行格付けに用いられます。
そのため、銀行格付けを意識して決算書を作っているかどうかによって、銀行の融資判断や今後の付き合いが変わってきます。
では、銀行格付けに良い影響を与える決算書とは、どのようなものなのでしょうか。
ここでは貸借対照表に焦点を当て、貸借対照表の各項目が銀行格付けにどのように用いられるか、また銀行格付けアップのための工夫などを見ていきましょう。

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資産科目
貸借対照表は、資産科目と負債科目に分けられています。
まずは資産科目から見ていきましょう。
現金・預金
現預金の項目では、現預金が多いか少ないかを見られます。
現預金は、月商の3ヶ月分あれば理想的であるとされます。
月商の3ヶ月分もあれば、売掛金の延滞や貸し倒れといった不測の事態に充分に対応することができるため、融資しても安全である可能性が高いと判断できます。
現預金を増やすことは、銀行格付けアップのためにも役立ちます。
しかし、多くの会社は月商の3ヶ月分を確保することが難しく、月商2ヶ月分でも難しいという場合が多いでしょう。

なお、現預金を格付けに反映する際には、1日当たりの平均残高と月末時点での残高をチェックします。
1日当たりの平均残高を増やすのは難しいため、月末時点での残高を増やすように工夫するのが良いでしょう。
売掛債権
売掛金や受取手形といった売掛債権も、厳しくチェックされます。
「売掛債権の額が大きいということは、売上が大きいということであり、銀行はプラスに評価してくれる」と考える人もいるでしょう。
しかし、売掛債権が大きいということは、貸し倒れリスクを伴う売上が大きいということでもありますから、必ずしも良いとは判断されません。
そこで、売掛債権の判断の際に銀行が見るのは、売掛債権回転期間です。

売掛債権回転期間=売掛債権÷年商÷12 で計算されます。
売掛債権回転期間が過去数期と比較して長くなってきている場合や、同業他社と比較して大幅に長い場合などには、
- 回収困難な売掛金が増えてきているのではないか
- 回収不能な売掛金まで計上しているのではないか
- 売上高に粉飾はないか
などの疑いをかれ、銀行格付けにも影響を与えます。
貸付金
貸付金とは、代表者や役員に対して会社が貸し付けを行った場合に計上される項目です。
貸付金が、きちんと返済されている実態があったり、確実に回収するための仕組みがあったりすれば、貸付金は資産として認められます。
しかし、返済の実態がなく、返済の見込みがないとすれば、貸付金はゼロとみなされます。
このため、返済の実態があれば問題ありませんが、返済の実態がない貸付金を計上していると、格付けが下がる可能性が出てきます。
不動産や有価証券など
資産科目には、不動産や有価証券、借地権といった資産も計上されています。
これらの資産は、様々な要因によって価値が増減するものです。
したがって、時価で評価したうえで計上することが大切です。
もし、価値が上がっているにもかかわらず、簿価で評価しているならば格付けアップの機会を損なうことになります。
また、価値が下がっているにもかかわらず簿価で評価している場合には、銀行は時価で修正査定を行い、減額修正を行います。
この場合には、格付けにマイナスの影響を与えることになります。

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未収入金・立替金・仮払金
これらの項目は、一時的に発生することがある項目です。
あくまでも一時的に発生するものですから、数期にまたがって計上されているような場合には、実質的には返還の見込みがないものとして、減額修正されることになります。
中には、「単に減額修正されるだけならば、とりあえず計上しておこう。もし修正されなければラッキーだし・・・」などと考える人もいると思います。
しかし、これらの項目は仮勘定項目と言われるものであり、その期のうちに清算していくべきものですから、清算されずに貸借対照表に計上されていると、それだけで銀行格付けにマイナスになります。
貸倒引当金
貸倒引当金とは、売掛金や貸付金といった債権が、万が一回収不能に陥ったときのために積み立てておくものです。
しかし、貸倒引当金は余裕資金の中から積むものですから、中小企業ではそれだけの余裕がなく、貸倒引当金を計上していない会社も多いです。
貸倒引当金を計上している会社については、その額が適正であるかどうかを判断し、必要に応じて修正査定を行います。
棚卸資産
棚卸資産も、厳しくチェックされる項目です。
あまりにも大きいと思われる額が計上されている場合、売れ残った在庫や不良在庫が計上されている可能性もあるからです。

棚卸資産回転期間を知るためには、棚卸資産回転期間=棚卸資産÷1ヶ月あたりの平均売上原価という数式を用います。
過剰な在庫を抱えたままにしておくのではなく、普段から適正値を保つように仕入れを工夫したり、過剰になっているものは現金に換えたりすることで、格付けアップに役立ちます。
減価償却
減価償却の限度額は、設備ごとの法定耐用年数によって計算します。
もし、減価償却費が過少に計上されている場合には、法定の額まで減価償却したものとして修正査定を行います。

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負債科目
次に、負債科目を見ていきましょう。
買掛債務
買掛金や支払手形などの買掛債務は、主に売掛債権とのバランスについて見られます。
買掛債務と売掛債権がほぼ同額であれば、バランスが取れていると言えます。
しかし、どちらかが多い場合には問題とされます。
売掛債権が多いということは、回収までに時間を要する資産が多いということであり、現金が不足するということです。
また、買掛債務が多いということは、現時点では現金に余裕ができたとしても、将来的に出て行く現金が大きいということになります。
したがって、買掛債務と売掛債権のバランスを改善することで、格付けアップに近づきます。
短期借入金、長期借入金、割引手形の合計
短期借入金・長期借入金・割引手形の合計を資本の合計で割り、30%を超えた場合には借りすぎの状態であると判断され、格付けにマイナスの影響を与えます。
預り金
会社が給料を支払う時には、住民税・所得税・社会保険料を天引きして支給しますが、この天引きしたものは「預り金」として計上されます。
これらの費用は毎月納付していくものであるため、従業員の数が一定であれば、預り金も一定で推移していくはずです。
そのため、従業員数が一定であるにもかかわらず、預り金が増加している場合には、未納なのではないかと疑われます。

固定長期比率
固定資産を購入する際には、自己資金や長期借入金によって購入し、長期間をかけて償却していきます。
しかし、会社によっては固定資産の購入資金の一部を、短期借入金などで賄っているケースがあります。
この場合、資金繰りに問題があるとみられ、格付けにマイナスになることがあります。
これを知るためには、固定長期比率という指標を用います。
固定長期比率は、固定長期比率(%)=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100によって計算します。
計算により、固定長期比率が100%未満となっていれば、固定資産の購入資金が全て自己資金と長期借入金によって賄われたということが分かります。
しかし、固定長期比率が100%以上になっていると、固定資金を短期借入金などで賄っていることが分かり、マイナス評価につながります。
自己資本比率
自己資本比率とは、総資産に対する資本金の割合のことです。
自己資本比率は、高ければ高いほど経営が安定しているとされ、貸し倒れリスクが低いと判断されます。
このため、銀行格付けに特に大きな影響を与える項目であり、銀行格付けアップのために優先的に取り組むべきだとされることも多いです。
自己資本比率は、自己資本比率(%)=(資本金+資本剰余金+利益剰余金)÷総資産×100によって計算します。
債務償還年数
債務償還年数とは、現時点で会社が抱えている有利子負債を何年で返済できるかを表す指標です。
この指標も、自己資本比率と同じく特に重要視されるもので、銀行格付けにも大きな影響を与えます。
債務償還年数は、債務償還年数=(長短期借入金-運転資金)÷(経常利益×50%+減価償却費)として計算します。

そのため、現時点で多額の有利子負債を抱えているならば、債務の圧縮に努める必要があるでしょう。
債務超過解消年数
債務超過解消年数とは、債務超過状態にある会社が、債務超過をどのくらいの期間で解消できるかを示す指標です。
この指標は、債務償還年数と同じくらい重視される項目であり、銀行格付けを考える上でも外せない要素です。
もちろん、債務超過状態にない会社は、そもそも債務超過を解消する必要がありませんから、債務超過解消年数を見られることもありません。
しかし、現時点で債務超過状態にある会社は、銀行格付けに大きくマイナスとなり、融資を受けることも困難になります。
そこで銀行は、融資先の会社を支援するか、しないかを判断すべく、債務超過状態をどのくらいで解消できるかを見て、銀行格付けに反映していきます。
債務超過解消年数は、債務超過解消年数=債務超過額÷税引き後利益で計算します。
債務超過状態にある会社は、できるだけ債務超過解消年数が短くなるようにすることで、銀行格付けの大幅な低下を防ぐ努力が求められます。

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まとめ
貸借対照表には、会社の返済力を表す項目が多く含まれています。
各項目に対する銀行員の視点を知り、好ましい状態に近づけていくことができれば、銀行格付けのアップや維持に役立ちます。
また、債務超過状態など、銀行格付けに大きくマイナスになり、融資が困難な状況にある会社でも、債務超過解消年数の短縮を意識した取り組みによって、銀行からの協力を取り付けられる場合もあります。
貸借対照表を作成する際には、ぜひ銀行格付けを意識して作成することをおすすめします。