新型コロナウイルスの影響が日に日に拡大している今、中小企業ができることは限られています。
平時の企業努力のうち、早期に効果が期待できない活動は控え、新型コロナウイルス収束後に事業を円滑に再開できるように、政府の支援をうまく活用しながら延命を図る必要があるのです。
本稿では、中小企業がすべき取り組みの中でも、特に重要となる「労務コストの削減」の5つの方法について解説していきます。
非常時の資金繰り
新型コロナウイルスの影響を受け、売上が急減し、資金繰りに深刻な影響が出ている企業が増えています。
通常、資金繰り対策として企業がやるべきことは、
- 入ってくるお金を増やすこと
- 出ていくお金を減らすこと
の二つです。
どちらか一方ではなく、両方に取り組むことが欠かせません。
ただし、現在のような非常時と平常時とでは、資金繰りの対策は異なります。
平常時の対策
平常時で資金繰り対策では、
- 入ってくるお金を増やすこと→金融機関からの融資、売上の回復
- 出ていくお金を減らすこと→経費の削減
と考えます。
中でも、売上を回復が特に重要です。
売上の減少を食い止め、回復に持ち込まなければ、資金繰りを根本的に改善することは難しいのです。
緊急時の対策
しかし、現在のような非常時のアプローチは大きく異なります。
というのも、売上の回復が困難だからです。
新型コロナウイルスによる売上の減少は、消費活動の停滞が原因であり、経営の内容とは関係ありません。

売上を回復させようとしても効果は期待できず、むしろ、そのためのコスト負担によって、資金繰りがさらに悪化する可能性が高いわ。
したがって、入ってくるお金を増やす唯一の方法は、金融機関からの融資となります。
そのために、信用保証協会の保証枠を拡大する「セーフティネット保証」や、政府系金融機関の融資を積極化する「セーフティネット貸付」など、政府が実施する支援策の活用が欠かせません。
※セーフティネット保証・セーフティネット貸付について、詳しくはこちら
また、売上回復の見込みがあれば、そのために労働力を割くことも考えられます。
しかし、企業活動は縮小せざるを得ない現在、むしろ労働力が余ってしまう状況です。
さらに、労働力が余っても人件費が減ることはありません。
そもそも労働法とは、基本的には労働者の働いた時間に応じて支払う仕組みです。
「10の内容の労働をしたから10の賃金を支払う」というものではなく、「10の内容の労働をしたから10の賃金を支払う」というものなのです。
売上とともに業務も急減したからといって、労務コストは変わらないのです。
つまり、現在の状況は、
という状況です。
もちろん、業務が減った分だけ、製造のための原料費・運搬のための車両費などは減ります。
この意味において、図らずして経費が減っている会社も多いでしょう。
しかし、会社の経費のうち、労務コストが占める割合は非常に大きいため、労務コストが減らなければ経費も減りにくいことは間違いありません。
したがって、現在の状況において企業ができる資金繰り対策は、
- 入ってくるお金を増やすこと→政府の支援策による融資や助成金の確保
- 出ていくお金を減らすこと→労務コストの削減
となります。
では、労務コストを削減するには、どうすればよいのでしょうか。
主な方法は5つ挙げられます。
労働時間を減らす方法が3つ、そして労働者を減らす方法が2つです。
それぞれの方法について、以下で具体的に見ていきましょう。

半年弱で50億円積み上げたOLTA、クラウドファクタリング「3兆円市場」目指してChatworkと連携するなど、この資金調達方法がすごい。

大手企業ともパートナー提携していて非常に安心よ♪
OLTAのサイトはこちらから→ https://www.olta.co.jp/
労働時間を減らす
上記の通り、労働法における賃金とは、労働者の労働時間に対して発生するものです。
したがって、労働時間を減らすことによって労務コストを削減することができます。
ここで注意したいのは、業務の効率化による労働時間の削減をあまり考えないことです。
近年、政府は働き方改革を推進してきたため、「業務効率化=労働時間の短縮=労働時間の削減」と考える人もいるかもしれません。
しかし、業務効率化のためには、環境や設備の整備を必要とすることから、多くのコストがかかります。
また、労働時間が目に見えて短縮されるといった効果が得られるまでに時間が要します。
現在の状況では、このようなコストと時間をかけることは得策ではありません。
労務コスト削減効果が早急に得られる方法を考えるべきです。
(後述の通り、テレワークは効果的です)
したがって、労務コスト削減のためにできることは、
- 休業
- パート化
- テレワーク
の3つとなります。
休業
最初に考えたいのが、休業です。
休業した会社では、従業員に休業手当を支給することが義務付けられています。
休業手当は、通常の給与の6割以上と定められているため、ただ休業するだけでは労務コストのうち最大4割しか削減できません。
しかし、政府は休業する会社に対し、雇用調整助成金を支給しています。
これを利用することで、中小企業では休業手当の3/4(解雇しない中小企業には9/10、日額最大8330円)が支給されるため、小さい負担で休業できます。
もっとも、一口に休業といっても、勤務時間の一部分に限って休む短時間休業と、勤務時間の全てを休む通常の休業があります。
どちらの休業も、労務コスト削減に大きな効果が期待できますが、企業ごとの状況によって使い分けることが大切です。
短時間休業
短時間休業は、勤務時間の一部分に限って休業するものです。
「午前中だけ」「午後だけ」といった休業が短時間休業にあたります。
もちろん、休業する時間は自由に調整することができ、1時間以上の休業から雇用調整助成金の受給が可能です。
売上が急減したからといって、完全に休業できない企業も多いと思います。
現在の状況でも、こなすべき最低限の業務を抱えているならば、短時間休業によって労働時間を短縮することを考えてみましょう。

具体的な活用シーンは、色々考えられるよ。
例えば、飲食店での活用です。
新型コロナウイルス感染拡大防止のために、政府は飲食店に対し、営業時間短縮を要請しています。
これに応じて、「夕方以降は営業せず、ランチタイムのみ営業する」といった形で営業するならば、短時間休業に伴い雇用調整助成金の受給が可能です。
なお、短時間休業の助成率や上限額は、通常の休業と変わりません。
ただし、通常の休業では一部の従業員に対して休業を実施し、雇用調整助成金を受給できるのに対し、短時間休業では従業員全員に対して一斉に実施する必要があります。
通常の休業
通常の休業では、従業員に対して丸一日の休業を実施します。短時間休業とは異なり、一部の従業員に実施した場合にも雇用調整助成金を受給できるのがポイントです。
例えば、週5日の勤務であったものを週3日勤務にした場合、週2日の休業が助成金の支給対象となります。
もちろん、まとまった期間にわたって完全に休業する場合にも支給対象となりますが、支給上限日数は、対象期間の初日から起算して3年間で150日間、1年間で100日間となります。
これを活用して、業務遂行のために最低限必要となる一部の従業員以外を完全に休業させたり、全ての従業員を完全に休業させたりすることで、労務コストを大幅に削減できます。
感染拡大の進行とともに、雇用調整助成金の特例措置が次々と打ち出されています。
これにより、平時では対象とならない労働者、例えば、
- 雇用保険被保険者として雇用されていない労働者
- 雇用保険被保険者として雇用された期間が6ヶ月未満の労働者
なども対象となっています。
したがって、戦力として活用しにくい新人の労働者や、アルバイト・パートなどの休業を検討するのがおすすめです。
特に、雇ったばかりの従業員には教育もしなければならないため、休業によって教育コストの削減にもつながります。
以上のように、雇用調整助成金を活用しながら休業することは、労務コスト削減に役立ちます。
雇用調整助成金では、今後さらなる特例措置が実施される可能性もあるため、要チェックです。
※現時点での雇用調整助成金について、詳しくはこちら
→雇用調整助成金の特別措置がさらに拡大。保護者の休暇取得も手厚く

もし今、資金繰りにお困りなら、こちらの窓口に相談されてみてはいかがでしょうか。
アクセルファクターについての関連記事はこちら
パート・短時間正社員への転換
次に、雇用契約の変更によって、正社員の従業員をパートに転換する、あるいは短時間正社員に転換する方法があります。
パートへの転換
様々な手当を除けば、正社員の給与は、あらかじめ決められた労働時間に応じて、毎月固定で支給するものです。
このため、正社員をパート化して固定給から時間給へと変更し、さらに労働時間を短くすることによって、労務コストの削減が可能です。
正社員をパート化する際には、労使間の話し合いがうまくいかないことも多いと思います。
しかし、解雇を迫られている状況であれば、新型コロナウイルス収束後に再び正社員に転換するなどの条件も提示することで、「解雇されるよりは良い」と考えて応じてくれる社員もいるはずです。
また、パート化に不満を抱く従業員の多くは、賃金が減ることに不満を抱いています。

このため、労使間の交渉にあたっては、ダブルワークや副業を推奨することもポイントだ。
特に、これまで副業を認めてこなかった会社では、これを積極的に認めることでパート化が円滑に進むかもしれません。
短時間正社員への転換
政府は、働き方改革に伴い、「多様な正社員」という雇用形態の普及に努めてきました。
多様な正社員とは、業務内容や勤務地、勤務時間などを限定した正社員のことであり、「ジョブ型正社員」ともいいます。
このうち、短時間正社員は、その名の通り通常の正社員よりも勤務時間が短い正社員のことです。
短時間正社員の賃金について、厚生労働省のリーフレットには、
短時間の限定正社員の月例賃金について
短時間の限定正社員に対する月例賃金の額は、短時間限定でなかった場合の通常の所定労働時間に対する限定後の所定労働時間の割合に応じた額を支給することを想定しています。
と明記されています。
したがって、通常の正社員から短時間正社員に転換することによって、労務コストを削減できる可能性があります。
もちろん、パートや短時間正社員への転換と同時に休業させ、雇用調整助成金を受給することでさらなる効果が期待できます。
短時間正社員への転換は例外
ただし、短時間正社員への転換は例外的なケースと考えるべきでしょう。
これまで短時間正社員への転換を行ったことがない会社では、転換ルールを整備する必要があります。
これに伴い、社労士に依頼するコストが発生します。
すでにルールが整備されている会社であれば、パート化よりも従業員側の抵抗が少なく、積極的に検討できる場合もありますが、多くの中小企業はそうではないでしょう。
ルール整備にかかるコストを負担しても、結果的に労務コストの削減効果のほうが大きいと判断すれば、短時間正社員への転換も視野に入れることができます。
しかし、早急な資金繰り対策が求められている今、まずはパート化を優先的に検討したほうが得策と考えられます。
テレワーク
上記において、今の状況で業務効率化に取り組む必要はないと書きましたが、唯一の例外があります。
それは、テレワークです。
テレワークは、業務効率化の手段であると同時に、労働時間の短縮・労務コストの削減にも役立ちます。
オフィスなどの勤務場所に必ずしも出向く必要がない業務であれば、テレワークによって在宅勤務が可能となります。
平時では必ず出社しなければならなかった会社でも、売上が減少し、業務の範囲も縮小している状況ですから、在宅勤務で対応できるかもしれません。
例えば、営業先へ訪問していた営業マンが、接触を避けるために全て電話やインターネットツールで営業するケースが増えていますが、このような場合には出社しなくても業務をこなせる場合も多いことでしょう。
出社する必要がない状況で出社させる、つまり必要のない負担を強いることは非効率です。この負担をテレワークによって省けば、業務の効率化につながり、勤務時間も短縮できる可能性があります。
テレワークを実施する場合、休業とはみなされないため、雇用調整助成金は受給できません。また、テレワークの導入には初期投資がかかります。
しかし、人手不足などによって休業が難しい会社では、テレワークの導入によって休業せずに労務コストの削減を図ることができますし、テレワーク導入に伴う助成金・補助金も支給されています。

自社の状況にあわせて、検討してみると良いだろう!
※テレワーク導入で受給できる助成金・補助金について、詳しくはこちら
→東京都の会社がテレワークを導入するなら、最大500万円助成の「テレワーク活用・働く女性応援助成金」を

もし貴社が、新型コロナウイルスで売上が低迷しているなら、この人達が救済してくれるゾ!
労働者を減らす
次に、労働時間を減らすのではなく、労働者そのものを減らす方法を見ていきます。
業務委託契約への変更
まずおすすめしたいのが、通常の雇用形態から業務委託契約に変更する方法です。
業務委託契約は、通常の雇用契約と大きく異なります。
通常の雇用では、労働日や労働時間について会社が管理するのに対し、業務委託では管理を受けることがありません。
このため、賃金を固定給や時間給で支給するのではなく、委託した業務に対して完全出来高制で支給するのが一般的です。
したがって、業務委託契約に変更し、必要な業務のみ発注することにより、労務コストを削減できます。
そこで、従業員に対し、
- これまでの雇用は難しいが、業務委託という形で付き合ってもらえないか
- 新型コロナウイルスが収束すれば、また正社員として戻ってきてほしい
といった交渉をしてみるのです。
これは、ある意味で会社に都合の良い交渉にも思えます。
また、外注できる業務がほとんどない会社では、業務委託という雇用契約が成り立たないことも考えられます。
しかし、フリーランスという働き方が広がっている現在、業務委託という働き方を望んでいる人も増えてきています。

そのような社員を選んで交渉すれば、業務委託契約への変更が可能かもしれないわ。
また、これを機に自社の業務を見直し、外注できる業務を洗い出したり、外注できる仕組みへと変更したり、工夫してみるのも良いでしょう。
なお、業務委託契約に変更する場合、解雇ではなく雇用契約の変更とみなされるため、解雇にはあたりません。
したがって、雇用調整助成金を利用する場合、解雇しない中小企業に対する助成率9/10の要件を損なうこともありません。
解雇
最後に、「解雇」です。
どうしても雇用契約の維持が難しい会社では、やむを得ず解雇を考えると思います。

しかし、労務コストを削減する方法のうち、解雇は最終手段だ。
新型コロナウイルスは永久に続くものではなく、いずれは収束すると考えられます。
つまり、いずれは従来の企業活動を行うこととなります。
もし、新型コロナウイルスで資金繰りが苦しいからといって、むやみに解雇してしまえば、新型コロナウイルス収束後の企業活動に支障をきたします。
新型コロナウイルスによる経済的な打撃は深刻であり、収束後もしばらく、国家の財政は厳しい状況が続くでしょう。
政府の支援は徐々に縮小していくはずです。
人材不足が深刻化している今、人材確保にかかるコストは大きいです。
支援の少ない状況で、人材確保に苦労することは避けたいものです。
多くの企業は、雇用調整助成金をはじめとする政府の様々な支援策を有効に活用することで、解雇を避けられるはずですが、解雇以外に方法がなくなることも考えられます。
例えば、新型コロナウイルスの影響が深刻化する直前に、事業拡大などを想定して大量に新規雇用しているような会社では、解雇に踏み切ったほうが良い場合もあります。
雇用調整助成金によって、労務コストを大幅に削減できますが、それでも休業手当の一部は会社負担となります。
これを負担して雇用を維持した場合と、解雇に踏み切った場合とを比較して、後者のほうが良いのであれば解雇という選択もあり得るでしょう。

業界最大手の資金調達プロなら、10社のうち9社で資金繰りが改善しています。
資金調達プロに関する関連記事はこちら
まとめ
本稿では、新型コロナウイルスが拡大している今、資金繰りのために中小企業がやるべきことを解説してきました。
選択肢のひとつとして解雇も挙げましたが、助成金や雇用形態の変更によって、解雇せずに済む会社も多いはずです。
新型コロナウイルス収束後を見据えるならば、様々な方法を検討して、雇用の維持に努めるべきです。
もし、自社だけで判断が難しければ、社労士などの専門家の協力を仰ぐことも大切です。

自社の状況をしっかりと踏まえて、最良の資金繰り対策を考えていこう!
コメント