今年に入ってから、助成金の中には新設されたもの、助成内容が拡充されたもの、支給要件が緩和されたもの、名称が変わったものなどがあります。
その一つに、特定求職者雇用開発助成金の安定雇用実現コースがあります。
安定雇用実現コースは、以前は「長期不安定雇用者雇用開発コース」という名称でしたが、「長期不安定雇用者」という名称のネガティブなイメージを払拭するために名称を変更し、さらに支給要件が少し緩和されています。
本稿では、安定雇用実現コースに変化が加えられた背景や、助成内容について解説していきます。
中途採用拡大の理由
現在、政府は中途採用の拡大に取り組んでいます。
このことは、中途採用に関する助成金の条件が緩和されていることや、通年採用を推進していることなどからも、良く分かります。
政府が中途採用拡大に取り組んでいる理由は、複数考えられます。
最も大きな理由は、日本の人口が減少しており、なおかつ少子高齢化が進んでいることです。
もし、人口が減少しているだけで、生産人口と非生産人口の比率が変わらず、将来推計にも問題がなければ、中途採用の重要性はそれほど大きくありません。
支える人口と支えられる人口が変わらないのですから、中途採用を促進し、生産人口を増やすことに緊急性はないのです。
しかし、現在の日本は人口が減少しているうえに、少子高齢化が進んでいます。
少子化によって将来的に社会を支えていく人口が減っており、高齢化によって将来的に社会に支えられていく人口が増えているのです。
この傾向は今後も続くと予想されるため、政府は働ける年齢でありながら働いていない人の労働を促し、社会を支える人口を増やしたいと考えています。
つまり、中途採用の拡大によって、不安定な労働力を安定的な労働力に変えようとしているのです。

中途採用が拡大していけば、経済的にも良い効果が期待できるのね。

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就職氷河期世代の問題は大きい
中途採用の拡大に取り組む中で、政府が特に想定しているのは「就職氷河期世代」の採用を拡大することです。
就職氷河期世代とは?
この時期には、経済を大きく悪化させる出来事が、複数重なって起きています。
1990年代は世界的な景気後退期と言えますが、まず1990年代前半の日本では不動産バブルが崩壊しています。
1997年にはアジア通貨危機が起こり、山一証券の経営破綻、北海道拓殖銀行などの金融機関の連鎖破綻なども起きています。
さらに、2000年にはアメリカに端を発するITバブルの崩壊が起こり、さらに景気を悪化させています。
2000年代に入ってからも、サブプライムローン問題など様々な問題が起こっていますが、1990年代後半から2000年代前半にかけての時期が、最も深刻だったと言えます。
これらの時期に就職活動を行った世代は、非常に厳しい就職活動を強いられました。
当時の大卒の有効求人倍率をみると、就職氷河期直前の1991年には1.4倍であったものが、1993年には0.76倍まで下落しており、1999年には0.48倍にまで下落しています。
就職氷河期に就職活動をしていた人々は、時に1社の求人を2人で奪い合うような状況だったのです。

就職氷河期世代の大変さがよくわかるね。
就職氷河期世代の状況
2018年に総務省統計局が出した労働力調査基本集計によれば、1700万人とされる就職氷河期世代のうち、371万人が非正規雇用で働いていることがわかっています。
また、正規雇用を希望していながら、非正規雇用として働いている人は50~70万人です。
就職氷河期世代は、現在30代半ばから40代後半の年齢にあたります。これほど多くの人が非正規雇用の状態に甘んじているのは、
- 日本企業は新卒採用を好む傾向が強く、就職活動に失敗した人が中途採用されにくい
- 正規雇用を望んでも、経験不足や能力不足を理由に正規雇用されない
といった理由が大きいです。
もっとも、最近の企業は深刻な人材不足にさらされており、中途採用にも積極的になってきています。
就職活動に失敗した人を、中途採用してよいと考えている企業も多いです。
ただし、多くの場合「経験や能力を持っている人」という条件付きとなります。
就職活動に失敗し、長く非正規雇用として働いてきた人は、当然ながら正社員としてのキャリアがありません。
そのような人材を雇用したくないと考える企業は多いのです。
非正規雇用として働いており、さらに中途採用も難しい人の生活は安定しません。
生活が安定しなければ結婚も困難であり、これが少子化の大きな原因となっています。
さらに、就職氷河期世代には働いておらず、なおかつ家事も通学もしていない無職の人が40~55万人もいるとされています。
働ける年齢でありながら無職の人の問題は一層深刻です。働いておらず、家事も通学もしていない人は、いわば「ひきこもり」「ニート」などの部類に属します。
就職氷河期世代に限らず、40歳以上のひきこもりは61万人とする推計もありますが、この中には就職氷河期世代が多く含まれていることでしょう。
このような無職の人は、他者の支援によって生活している状態です。
親の収入によって生活しているケースが代表的ですが、そのような生活はいつまでも続けられるものではありません。
このままでは、いずれ生活困難に陥り、生活保護受給者が大量発生する可能性も高いです。
そのような事態を防ぐためにも、政府は求職者には職業訓練などの支援を行い、企業には助成金支給などの支援を行い、中途採用の拡大を目指しています。

事態の深刻さを考えると、就職氷河期世代の支援は今後も続くだろう。

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安定雇用実現コースの概要
人材不足に悩む会社では、中途採用を積極的に考えている会社も多いと思います。
しかしながら、中途採用特有の難しさもあるため、慎重に進めていくことが重要です。
慎重に進めていく一環として、助成金を活用することが欠かせません。
中途採用の実施によって受給できる助成金はいくつかありますが、その一つに特定求職者雇用開発助成金の安定雇用実現コース(以下、安定雇用実現コース)があります。
政府は、以前から就職氷河期世代の問題に取り組んできました。
特定求職者雇用開発助成金の「長期不安定雇用者雇用開発コース」による支援がその一つです。
しかし、長期不安定雇用者雇用開発コースではほとんど効果が見られなかったため、政府は今年4月1日より、名称を「安定雇用実現コース」へと変更し、支給要件も少しだけ緩和されています。
変更された点
長期不安定雇用者雇用開発コースから安定雇用実現コースへの変更によって、変わった点は以下の2点です。
名称が変わった
言うまでもなく、名称が変わっています。
厚生労働省の担当者は、名称を変更した理由について、
と説明しています。「長期不安定雇用者」とは「長期にわたって安定して就職できない人」であり、会社が敬遠する人材をイメージさせるため、名称を変えたということです。
支給要件が変わった
次に、支給要件が変わっています。
長期不安定雇用者雇用開発コースでは、対象労働者の要件の一つが、
「雇入れ日の前日から起算して過去10年間に5回以上離職または転職を繰り返している方」
となっており、離職・転職の回数を判断基準の一つとしていました。
しかし、これでは「正規雇用で働いた経験はたくさんあるが、離職・転職の回数も多い労働者」も対象となり、必ずしも正規雇用経験が乏しい求職者の支援とは言えません。
そこで、安定雇用実現コースでは、
という内容に変更したのです。
変更はほんの少し
もっとも、採用側にとって、これらの変更は大きなものとは言えないでしょう。
支給要件が変更されたことによって、いくらか活用しやすくなったものの、離職・転職を繰り返している人材も、過去に正規雇用で働いた経験が1年以下の人材も、どちらも採用が難しい人材です。
中途採用を拡大するならば、助成金額を増やすことによって企業の不安・負担を軽減すべきですが、そのような変更はなされていません。
支給要件で変更されたのは、あくまでもこの1点のみです。

内容的にはほとんど変わってないね。

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助成内容
しかしながら、安定雇用実現コースで助成金を受給しながら取り組むことで、中途採用の負担をいくらか軽減できることも事実ですから、ぜひ知っておきたい助成金です。
対象労働者
安定雇用実現コースを活用して中途採用するとき、助成金支給の対象となる労働者は以下の条件を全て満たす必要があります。
- 雇入れ日時点の満年齢が35歳以上60歳未満の人
- 正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下であり、雇入れ日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない人
- ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介の時点で失業状態にある人
- 正規雇用労働者として雇用されることを希望している人
50代の人も対象となっていることから、必ずしも就職氷河期世代の支援ではなく、中途採用を広く支援するものだと分かります。
しかし、対象年齢の大部分は就職氷河期世代の年齢に相当しており、なおかつ正規雇用の経験がほとんどない人を想定しているため、「就職氷河期世代、あるいはそれに類する特質を持っている人材」を支援するものであると言えます。
「正規雇用」の解釈に注意
安定雇用実現コースでは、正規雇用として雇い入れることが条件となっています。
正規雇用とは、期間の定めのない労働契約を交わしており、所定労働時間・賃金の算定方法や支給方法・休暇の定めなど、様々な条件が他の従業員と同じであることを指しています。
したがって、正規雇用したといっても、短時間正社員として雇用したために週所定労働時間が30時間未満である、といった場合には助成の対象外となるため、注意が必要です。
支給額
上記の条件を満たす労働者を正規雇用した会社には、
正規雇用した労働者1人当たり60万円
の助成金が支給されます。
ただし6ヶ月を1期として、1期当たり30万円を2期にわたって支給する仕組みとなっているため、第2期で対象労働者が離職していれば、第1期目の30万円のみの受給となります。
支給申請までの流れ
安定雇用実現コースの支給申請までの流れは、以下の通りです。
- ハローワーク等に求人を申し込み、紹介を受ける。
- 対象労働者を雇い入れる。
- 6ヶ月間の継続雇用の後、第1期の支給を申請する。
- 第1期の助成金を受給する。
- 再び6ヶ月の継続雇用の後、第2期の支給を申請する。
- 第2期の助成金を受給する。

取り組みの流れに複雑なところはないが、対象労働者の条件は厳しいわ。
活用は慎重かつ迅速に
人材不足が深刻化しつつある今、中途採用も検討していくことが大切です。
しかし、安定雇用実現コースを活用するならば、かなり慎重に進めていく必要があるでしょう。
対象労働者の条件を見てもわかる通り、安定雇用実現コースの支給対象となるのは、35歳以上60歳未満で、正規雇用経験が1年以下の人材に限られます。
つまり、22歳で大学を卒業した人材であれば、13年以上38年未満にわたって、ほとんど正規雇用の経験がない人材に限られます。
正社員としての経験がほとんどないのですから、即戦力としてはあまり期待できません。
即戦力になることを期待して雇用すれば、期待外れの結果になる可能性が高いです。
中途採用によって人材確保を図るならば、まずはこの点をしっかりと考えて、慎重に取り組んでいく必要があります。
もっとも、就職氷河期は「能力の有無に関係なく、就職できない人が大勢いた時代」です。
この特殊な要素を考慮すれば、正規雇用にふさわしい能力を潜在的に持っている人が、非正規雇用で働き続けていることもあり得るでしょう。
このため、安定雇用実現コースを活用しながら中途採用に取り組むことで、能力のある人材を正規雇用できる可能性もあります。
しかし、人材不足が深刻化している今、就職氷河期世代であろうとなかろうと、年齢に関係なく、能力や適性があれば正規雇用したいと考える会社が増えています。
今後、そのような流れが一層強くなっていくにつれて、能力のある人材はますます中途採用されやすくなり、能力のない人材はますます中途採用されにくくなり、二極化が進んでいくとも考えられます。
雇用しにくい人材が売れ残っていけば、中途採用による人材確保は難しくなっていくでしょう。
したがって、安定雇用実現コースを活用して人材を確保していくならば、慎重かつ迅速に取り組み、中途採用に適した人材を確保していくことが求められます。
場合によっては、中途採用にあたって安定雇用実現コースを活用するよりも、中途採用等支援助成金を活用したり、キャリアアップ助成金を活用したほうが良い場合もあるため、様々な角度から検討していくことをおすすめします。

中途採用の進め方は色々ある。
それによって活用できる助成金も変わってくるから、自社に適した方法を選んでいこう!
※安定雇用実現コース以外の方法について、詳しくはこちら
→特定求職者雇用開発助成金の「安定雇用実現コース」の活用は難しい。良い方法は他にある(準備中)

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まとめ
本稿では、主に就職氷河期世代の支援として「安定雇用実現コース」が設けられている背景と、助成金の概要についてみていきました。
政府の方針を考えると、今後も中途採用の拡大を目指す取り組みは続き、助成内容が充実していく可能性もあります。
しかし、人材確保は円滑な経営や事業拡大のために行うものであり、あくまでも中途採用は方法の一つにすぎません。
また方法の一つである中途採用にも、様々なアプローチがあります。

多様な方法の中から自社に適した方法を選ぶことを心掛け、必要に応じて安定雇用実現コースも活用していこう!
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