銀行が融資判断をする際に注目するポイントのひとつに、当期純利益が挙げられます。
銀行は、赤字に陥っている会社に対しては融資を渋るものです。
赤字を出すことなく、安定的に黒字を確保することは、中小企業にとって容易なことではありません。
しかし、利益をうまく調整することによって、継続して黒字を出していく方法があります。
本稿では、銀行融資における黒字の重要性と、安定して黒字を出すための利益調整について解説していきます。
決算書で銀行が注目する部分とは
銀行に融資を依頼する際には、様々な書類を求められます。中でも重要な書類は決算書です。
銀行員は、その会社が融資するに値する状態にあるかどうかを、決算書の数字から検討していきます。
したがって、決算書で見られる箇所を知っておけば、銀行から良い評価を受けるための対策も可能であり、融資交渉を有利に進められる可能性も高まります。
銀行が決算書を見る際には、その銀行が既存の取引銀行であるか、それとも新規に融資を依頼する銀行であるかによっても、見る箇所は異なります。

何といっても黒字であること
重要となる箇所はいくつかに分かれます。
経営者にとっても分かりやすく、なおかつ非常に重要となる箇所と言えば、損益計算書の当期純利益です。
これは、既存の取引銀行では、特に重要視される部分だと言えます。
当期純利益がプラスであれば、黒字すなわち利益が出ている、逆に当期純利益がマイナスであれば、赤字すなわち利益が出ていないことが分かります。
多くの場合、銀行員が最初に注目するのはこの点です。
銀行は、当期純利益が黒字になっているならば、とりあえず問題ないと判断されるのですが、赤字になっているならば融資は難しいと考えます。
これは、銀行は融資したお金がきちんと返済されるかどうかを基本として融資の可否を決定しており、利益を返済原資と考えるからです。
つまり、当期純利益が黒字になっている会社に対しては、返済に充てられる利益があると考え、当期純利益が赤字になっている会社に対しては、返済に充てられる利益が出ていないと考えます。
このため、当期純利益が赤字になっている会社に対しては、その時点で返済力がないと考え、融資を断られる可能性が非常に高くなります。

その赤字があくまでも一過性のものであることを証明でき、返済力そのものには大した影響がないと分かれば、融資の可能性は出てきます。
とはいえ、赤字の決算書を見た時、銀行が返済を危ぶむのは事実であり、好ましくないのは間違いないと言えます。
推移にもチェックが入る
なお、黒字であれば文句なしに融資されるかといえば、そうとも限りません。
銀行員が損益計算書を見る際には、当期純利益だけを見て判断するわけではなく、過去3期分くらいの決算書を比較し、売上高や利益の推移をチェックし、会社の収益力の変化を見ているからです。
これにより、当期純利益が黒字になっている会社でも、売上高や利益が減少していることが分かれば、収益力が低下しているとも考えられます。
これは、返済力が低下していることにもつながりますから、銀行としては無視できないのです。
したがって、売上高と利益の推移からみた収益力の変化は、稟議書にもきちんと反映され、融資の判断にも影響することとなります。
このように、黒字であることは最低限の条件ですが、黒字であれば必ず融資されるとは言えないのです。

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そのほかに注目されるもの
もちろん、決算書で見られるのは当期純利益だけではありません。
このほかにも、以下のようなポイントが重視されます。
純資産合計
既存の取引銀行でも見られ、特に初回取引の銀行が注目するのは純資産の合計額です。
純資産合計がプラスならばとりあえず問題はありませんが、この部分がマイナスになっている場合には債務超過状態であり、融資はほぼ拒否されます。
何しろ、債務超過状態とは、会社の全資産を換金しても債務を返済できない状態のことです。
そのような会社を返済力がないと見なし、銀行が融資を拒否するのは当然のことと言えます。
借入金
当期純利益と純資産合計が最重要ですが、この他に現金及び預金、借入金、科目内訳書も注目されます。
まず、現金と預金の額ですが、これは最低でも月商の1ヶ月分は必要とされます。
月商2ヶ月分あれば好ましく、3ヶ月分あれば優良と判断されますが、1ヶ月分が最低ラインです
もし、月商1ヶ月分の現預金がない場合、ちょっとしたトラブルによって資金繰りがショートする可能性があるため、融資が厳しくなります。
特に重視されるのが借入金の額であり、とりわけ会社の収益力に対する借入金の額が注目されます。
もし、借入金の額が年商の1/2を超えている場合には、その会社は借りすぎの状態にあると判断され、融資に厳しい判断がなされます。

その会社に粉飾の疑いがある場合などには、そのような見方をされることもあるでしょう。
そもそも中小企業の決算書は節税のために数字をうまく操作しているような場合も多く、銀行は決算書に絶対的な信頼を置いているわけでもありません。
そんな中でも、銀行が安心して融資するための情報として、黒字であるかどうか、債務超過ではないかどうか、現預金や借入金に大きな問題がないかどうかといった点を確認していくのです。
どれも欠けてはならない要素ですが、「利益を出す」という会社の根本的な目的に密接な関係があり、経営者としても関心が高く、調整もしやすい当期純利益は、特に重要な要素だと言えるでしょう。

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黒字を出し続けるためには?
中小企業は景気や競合他社の動向から影響を受けやすく、利益を安定して出し続けることは困難です。
それだけに、黒字を維持し続ける会社は、銀行から高い評価を受けることとなり、融資は受けやすく、融資条件も会社側に有利な条件を引き出しやすいです。
しかし、黒字を出し続けることが困難だからといって、「中小企業の経営とはそういうもの、銀行もわかっているはず」などと考えるのは間違いです。
中小企業経営の実際にかかわらず、赤字を出した会社に対して銀行は危機感を抱くものなのです。
もちろん、利益は増やそうと思って増やせるものでもありませんし、会社が利益を出すための仕組みを構築していたとしても、どうしても赤字になることもあるものです。
そこで、赤字に陥ってしまう環境の中で、決算書上の利益をいかに出していくかということが重要となります。
利益をうまく調整することによって、毎期平均的な利益を出すようにしたり、せめて2期連続赤字に陥らないようにすることを考えるのです。
毎期平均的な利益を出そう
しばしば赤字に陥っている会社の中には、「今期は大きく利益が出たが、来期は赤字になりそうだ」というように、各期の利益が凸凹になっていることがあるものです。
経営者の中には、「今期は1000万円も利益を出したのだ。来期は200万円の赤字になりそうだが、銀行は今期の成果を評価してくれるだろう」と考える人もいます。

銀行は黒字であること、赤字でないことを重視するため、ある期でたくさんの利益を出していても、ある期で赤字になっていれば、赤字に陥ったという事実を重視します。
赤字に陥った会社に対しては、「前期はたくさん利益を出しているし、今期は赤字でも来期は問題ないだろう」とは考えず、「今期は赤字だ。来期は黒字になるのか(黒字にならないかもしれない)」と考えるのです。
このため、それぞれの期で利益が凸凹になり、赤字の期を出すよりも、それぞれの期の利益が小さくなっても、平均的に黒字を維持していく方が、銀行から高い評価を得られます。

例えば、期の途中で黒字決算になるだけの利益を確保できたら、可能なものは来期の利益に回すのです。
来期の利益がどうなるか、予想が付かない場合でも、とりあえず可能な利益に回しておくことによって、来期も黒字を維持できる可能性が高まります。
例えば、今期の利益が1000万円であり、来期の利益が—200万円を見込んでいるとします。
この場合、単純に
今期:1000万円の黒字、来期:200万円の赤字
とするのではなく、今期の利益をできるだけ来期に回すことによって、
今期:400万円の黒字、来期:400万円の黒字(今期の利益600万円を来期に回した場合)
とするのです。
今期の利益を来期に回すためには、取引先と交渉することで、今期の期末に納品する商品を来期の期首に納品するという方法が挙げられます。
これにより、売上を来期に回すことができます。利益調整のためには、この方法を主体とするのが良いでしょう。
他にも、
- 来期首に想定していた出費を今期末に前倒しする
- 来期に支払う従業員への賞与を今期に前倒しする
などの方法によっても、利益の調整が可能です。
事業年度による利益調整のコツ
上記のことから分かる通り、利益をうまく調整していくためには、今期のできるだけ早い段階で利益を確保することが大切です。
そのためには、決算月を調節することによって、利益を大きく確保できる月ができるだけ早く来るように、事業年度を組むのがポイントです。
逆に、事業年度の終盤で大きな利益が出てしまうと、利益の調整ができないままに決算を迎えることとなります。

それは、少しでも利益の大きい月をできるだけ早いタイミングで迎え、事業年度の終盤では受注残として来期の利益に回すのです。
このような調整をすれば、来期の初めに利益を確保しやすい状況を作ることができます。

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経費処理による利益調整のコツ
このほか、特定の期に発生する経費によって、利益を調整することも可能です。
特定の期に発生する経費には、次のようなものが挙げられます。
- 退職金
- 新規出店費用
- 事務所移転費用
- 突発的な税金(不動産取得に伴う不動産取得税など)
これらの費用は、特別損失として計上されるものですが、特別損失としてではなく、製造原価や販管費として計上しているケースがしばしばみられます。

特別損失はあくまでも突発的なものであり、継続して発生するものではありませんから、よほど深刻なものでなければ銀行もそれほど注意することはありません。
しかし、製造原価や販管費として計上すれば、これを突発的な損失であるとみなすことができず、銀行はマイナスに見なすこともあるのです。
この場合、これをきちんと特別損失として計上することによって、それらの経費は経常利益には反映されません。
特別利益や特別損失は、経常利益ではなく税引後当期純利益に反映されるものだからです。
したがって、突発的な経費を特別損失に計上することで、経常利益を黒字にできることがよくあります。
このように、適正な処理によって経常利益や営業利益を、真っ当な方法で大きく見せることができるため、このような方法も黒字確保や利益調整のために積極的に取り入れるべきです。
2期連続赤字も避けられる
また、このような利益の平均化のアプローチは、2期連続赤字を防ぐためにも使えます。
赤字は黒字よりも圧倒的に不利になりますが、2期連続赤字はもっと深刻です。
2期連続赤字の会社は、銀行の債務者格付においても破綻懸念先(経営が破たんする懸念がある融資先)とみなされる可能性が高く、銀行は追加融資どころか回収に乗り出す可能性さえ考えられるのです。

そこで、今期も赤字になりそうで来期も赤字になりそうという、2期連続赤字に陥りそうな場合、今期の利益を来期に回し、2期連続赤字を避けることを考えましょう。
例えば、
今期:500万円の赤字、来期:500万円の赤字
となる場合には、今期の利益を可能な限り来期に回し、
今期:1100万円の赤字、来期:100万円の黒字
とすることによって、2期連続赤字を避けるのです。
このように、平均的に黒字を出すだけではなく、2期連続赤字を防ぐ方法としても、利益の平均化は重宝する方法です。
もちろん、このような利益の調整は、赤字が一過性であることが前提です。
赤字が慢性的になっているならば、本来2期連続赤字になるところを1期だけの赤字に食い止めることができますが、3期も4期も赤字の懸念があるような場合には、もはや2期以上の連続赤字に陥るのは時間の問題となります。
そのため、慢性的な赤字体質にある会社は、このような利益の調整ではなく、ビジネスモデルの根本的な見直しが必要となります。
プロパー融資を引き出すためには
上記のような方法で、平均的に黒字を出し続けている会社は、銀行から良い評価を受けることとなります。
安定して利益を出している会社は、銀行との交渉も可能となるのです。
赤字の会社は、赤字の状況下でもなんとか融資を引き出すように腐心することとなり、融資条件を良くするための交渉の余地はありません。
さらに言うならば、利益を出すにあたっては、経常利益よりも営業利益が大きくなるように利益を出すのがポイントです。
仮に経常利益がプラスでも、営業利益がマイナスであったとすれば、銀行はその会社に対し、事業そのものでの収益力が低いと判断するかもしれません。
そのような判断に至れば、プロパー融資を受けることは難しくなります。

2期連続赤字になりそうな場合の対処
では、どうしても2期連続赤字に陥る場合にはどうすればよいのでしょうか。
このような場合には、利益調整による対処は不可能なのですから、せめて2期目の赤字決算を出す前に、できるだけ早い段階で追加融資を受けることを考えましょう。
1期目の赤字に陥る以前に、安定して黒字を出していた会社ならば、連続黒字によって高い評価を得ているはずです。
このため、1期だけ赤字に陥っている段階であれば、その赤字が一過性のものであり、対策も構築していることをアピールすることで、融資を受けられる可能性があります。
もちろん、追加融資を受けられなければそれまでですが、座して2期連続赤字を待つよりも、追加融資を打診してみたほうが良いでしょう。
銀行の危機感が表面化する前に融資を引き出しておくことは、会社の生き残りのための鉄則でもあります。
これによって資金を確保することができれば、来期の状況が厳しい中でも、経営を立て直していくことができます。
最善は毎期平均的に黒字を出すこと、次善は2期連続赤字を防ぐこと、最悪の場合でも経営再建のための融資を確保した状態で2期連続赤字に突入することを考えるようにしてください。

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まとめ
中小企業では、黒字を出し続けることが容易ではありません。
しかし、利益を出す仕組みさえしっかりしているならば、利益を調整することによって、平均的・安定的に黒字を出していくことは実際に可能です。
また、同じアプローチによって、2期連続の赤字を食い止めることも可能なのです。
利益を調整していくことは、赤字に陥りやすい中小企業では、特に重要なテクニックだと言えます。
本稿が、その参考になれば幸いです。
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